第116話 人ごみをかき分けてチラシを拾った
スワンから貰った水は本当においしくておいしくて、ロードはある提案を持ちかけた。
「このおいしい水、村へ行って売り出そう」
「………………もう試した」
「売れただろう?」
「いいえ、誰にも買ってもらえなかった……買ってもらえてたら、わたしがあなたに紅茶カフェでフルーツを支払わせたと思う」
「どういうことだ?」
「フルーツがここの通貨だって知らなかったってこと、お金でいいのならあなたにおごってもらう必要はなかった」
「う~~~~ん」
「さぁわたしのことは放っておいて旅でも何でも好きに続ければ……」
「スワンはどうするつもりだ……?」
「わたしのことは放っておいてって言ったでしょ」
「いつまでこの世界にいるつもりだ」
「偶然拾ったフルーツ祭典のチケットがあるからフルーツ祭典を見たら出発するつもり」
「出発?」
「異世界転移するってこと……」
「そうか……じゃあここには明日までいるってことか? ってチケットがあるってことはフルーツの祭典を見られるってことか? 羨ましいなぁ」
「そういうことになるけど……あなた、ひょっとして見たかったりするの?」
「見たい」
「残念チケットは一枚しかないし、売る気もないから……」
「だったら夜、また来てもいいか? 旅の話とか色々聞いてみたいし、、、」
「いいけど……来るなら夕方ぐらいにして」
「何でだ?」
「うっ」
スワンはそこで言葉を詰まらせた。
「何でだ?」
「夜ごはんにフルーツ分けて欲しいから……」
「何? 声が小さくてよく聞こえなかった」
「フルーツ分けてって言ったの!」
スワンが自分の情けなさを勢いでごまかした。
「わ、わかった……荷物ここに置いておいていいか?」
「いいけど、勝手に食べるかもしれない……」
「食べたらおいしい水をまた貰う」
「わかった。それじゃあ、また夕方にここで……」
「うん、約束」
そこでロードはスワンとは別行動することになる。
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フルケット村・大通り
相変わらずの人、人、人。人ごみをかき分けるのがやっとだった。
見える物と言えば人の顔や出店のテント、立てかけられた看板くらいだ。ついでに言うと青空か。
(スワンのように足元でも見ていれば、フルーツの祭典のチケット拾ったりできないだろうか……)
(そんな都合のいい話はないか、ははは……)
そんな時、人ごみの中、人々に踏まれた一枚の紙を見つける。そして慎重に拾い上げた。
(何度ろうこれ)
(リンゴの絵が描いてある)
(文字は相変わらず読めないけど……)
(読める人に訊いてみようかな)
(スワン……いやいや、夕方に会う約束をしたんだ。もっと近場の人に訊いてみよう)
人ごみをかき分けて、縞々のフルーツの絵が描かれた看板の出店の前まで着いた。
(ここの店の人に訊いてみよう)
「あの~~すみません」
「へいいらっしゃってなんだ? フルーツなしのもんか。帰れ帰れ、客じゃないんなら……オレは忙しいんだ」
「いや、明らかに暇そうにしていたでしょう……」
「何だって? 兄ちゃんうちの商売にケチ付けるつもりか?」
「気にっ触ったのなら謝ります。ごめんなさい」
「お、おう。まぁわかりゃいいんだ……で、フルーツ一個も持っていない兄ちゃんがうちに何の用だい?」
「この紙に書かれた文字を読んでほしいんだけど」
店の主人に先ほど拾ったリンゴの絵が描かれた紙を見せる
「兄ちゃん字が読めないのか?」
「ああ、恥ずかしながら……」
「わかった貸して見な。えっとなになに……これフルーツ祭典のチラシじゃないか……! 読むまでもないぜ」
「何が書いてあるんだ?」
「フルーツ祭典の村、フルケット村へようこそ、、、やって来ました今年もフルケット村の主催、フルーツ祭り何と賞品はゴールデンアップル10個分皆さまふるってご参加をお待ちしております。だとさ……」
「ゴールデンアップルってなんだ?」
「知らないのかい兄ちゃん、食べれば長寿に、食べれば疲労回復に、食べれば力百倍に、一年は腐らないと言われている幻の果物だぜ」
「そうか……参加は誰でも自由なのか?」
「ああ、飛び入り参加も有りだ。ただし参加者は他の村や街の代表としてただ一人の名前と村名を出すこと、あとはどんな料理を出すか、記入しておくことだぜ」
「飛び入り参加も有りか? ならオレでも出られるのか?」
「まぁフルーツがあればなぁ」
「そうかわかったありがとう。これはほんのお礼だ」
そう言って懐に忍ばせたトローのイチゴを渡してあげた。
「このイチゴ、、、トローの、兄ちゃんは一体、、、ってアレいねぇ」
ロードは走っていた。まだ夕方ではないがある人物に出会うために、、、
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フルケット村・近隣。
「一つくらい食べてもバレないでしょうね……一応食べたら水も上げるって約束だし、、、ってダメダメ欲にまけちゃいけない。これでも一応先輩なんだから」
スワンがロードの荷物、正確には果物に手をつけようとしていた。
「スワーーーーン!!」
「わっ!? びっくりした!? 何!? 何なのロード!?」
「村へ戻ってお店を開こう!」
ロードが無謀な挑戦を仕掛けようとしていた。