第112話 食事中の魔王談議
「魔王にあって来たというのか!? 一体どんな魔王だったんだ」
フルーツタルトに手をつけようとした矢先の質問だった。
「まぁ、あなた魔王を知っているの?」
フルーツタルトを飲み込んで、意外そうな顔で見てきた。
「魔王を知っているも何も、さっき話した故郷に魔王が現れたんだよ」
「えっなに、どういうこと……って言うか私の質問の番だけど。まぁいいか……一体どんな魔王にあって来たの?」
「魔王アグロ―ニってヤツだ」
「魔王あぐろーに? 聞いたことのない魔王名ね」
「そっちも魔王を見たんだろ、いったいどんな奴だった誰か倒して来たのか?」
「ちょっと落ち着いて、食べながら話しましょう。どうやら話を整理しないと前に進まなそうだから……」
「わ、わかった」
落ち着くためにマミズの実の飲料を口に含んだ。
(何だこれ、ただの水か?)
「何その反応、知らなかったの? マミズの実は絞り出すと水分をすべて吐き出して、真水と同じ味がするの……まぁ別名、水汲みの実とも言うけどね~~雨や雪なんかを吸収して実っていくわけ」
「だったら、水でよくないか? こんな村でも井戸水ぐらいあるだろう」
「それがあったら水を頼んでいるから……無いから頼んだわけ、お分かり?」
「まぁいいや魔王の話をしよう」
「その前に一つ質問していいかな?」
「なんだ?」
「あなたのその腰に提げてる剣は一体何? ただの剣には見えないし、ただお飾りの為のモノではないと思うんだけど……」
「これは……」
「これは?」
(赤い竜が封じ込められている竜封じの剣と言うと、また話が長くなるしここは必要最低限の情報で……)
「本物の剣だ。これで魔王を倒したことだってある……」
カランと手に持っていたフォークを皿の上に落とすスワン。
「嘘でしょ……あの魔王を倒すって……」
「嘘じゃない。オレの育ち故郷は魔王に襲われて、一時は国まで奪われていたんだ」
「国を取られたって、どうやって取り返したの? いえ、どうやって倒したの?」
「秘宝玉って知っているか?」
「それは魔王が皆持っているモノじゃない。知らないわけがない」
「魔王が皆持っている?」
ロードは話が食い違っていることに気が付いた。
「あなた、秘宝玉を持っている魔王にどうやって勝ったの?」
「皆で協力して魔王を撃ち滅ぼした」
「人と動物が共存し合う田舎世界で?」
「一応言っておくけど国にはちゃんと衛兵だっているんだぞ……戦力がなかったわけじゃない」
「……で、あなたはどうやって魔王を倒したの?」
「これさ」
ロードはフォークを置いて、右手をスワンの方に水平に上げた。
そして願う。
「いでよ秘宝――――っ!?」
秘宝玉を出す寸前、手元をナフキンで覆い隠された。
「あなた正気!? 今秘宝玉出そうとしたでしょう! 素人にもほどがあるでしょう!」
「何か不味かったか?」
その時ウエイトレスさんが近寄ってきて、
「あの~~何か、大きな声で話しているようですが他のお客様の迷惑にもなりますので少し会話のトーンを下げて頂きたいのですが……」
「あっ、はい、すみません今後は気をつけます」
そう言ってロードの手に被せていたナフキンを元の位置に戻していく。
二人はさっきより小さな声で語り合っていく。
「さっきの話からすると魔王と言うのは皆秘宝玉を持っているみたいな言い方だが」
「そう、魔王なら皆持っている。むしろ持っていなければ魔王とは呼ばれない」
「……そいえばさっき、前にいた世界で魔王にあったって言っていたけど……その世界はどうなったんだ? ちゃんと魔王はやっつけられたのか?」
「やっつけてはいない……けどもうあの世界には居ないと思う。何故ならアイツの狙いは……」
そこから先は黙り込むスワンだった。
「異世界を自由に行き来できる異能でも持っているのか?」
「ははは、近いかもしれない」
スワンは肩をすくませていた。どこか怯えにも似た表情を宿している。
「その世界に人や動物はいたのか?」
「いいえ、いなかったはず」
「ならば心配することはないな……」
「へ~~変わった人って良く言われるでしょう」
「スワン先輩で二人目だ」
「そうなの……随分な田舎世界から来たものね」
「田舎世界でもみんな頑張って打倒魔王したんだ、田舎世界にも強さがあるんだぞ」
「ふ~~~~ん、じゃあ、これなら知っているかな?」
「何だい?」
フォークで半分となったフルーツタルトを食べながら訊いていた。
「――最魔の元凶」
ロードは眉を寄せ上げた。スワンの顔から先ほどの怯えも、微塵の笑顔も消えていた。