第110話 隣に座る異世界人
店の名前わからず。
隣に座っていたのは美女。今しがたウェイトレスさんに声を掛けていた。
「あっ、はい何でございましょうか、お客様」
「えっとですね注文なんですけど、このフルーツタルトとマミズの実の果汁をください」
「かしこまりました」
(これはチャンス、メニュー表の文字が読めないならこの手しかない)
「あっ、オレも注文いいですか?」
「どうぞ」
「この人と同じものをください」
「か、かしこまりました。えっとフルーツタルトとマミズの実をご注文とさせていただきますがよろしいですね?」
「はい……それでいいです」
「かしこまりました少々お待ちください」
(何とか危機回避が出来た……)
(いくらかかるのかわからないけど……)
(王様たちが用意してくれた金貨は100枚)
(多少高くても何とかなるだろう)
じ~~~~と視線を送ってくる人にロードは気が付いた。視線は隣の美女からだった。
ロードが目配せをし、視線を送り返そうとしたが、そっぽを向かれてしまった。
(何だろうこの人は……他の人と違う気がする)
それは今まで様々な人との出会いがあったロードの直感だった。
そして彼の好奇心は誰にも止められない。
「あの~~何か、用ですか?」
ロードは美女を前にして訊いてみた。
すると、美女はこう問うて来たのだ。
「あなた、ひょっとして異世界人」
「えっ……?」
「メニュー表の文字、読めないのですか?」
「いや読めなくはないですが、異世界人って何のこと……」
「何とぼけているんです? わたしが注文した時、あなたメニュー表を見てわたしの好みと同じものを頼みましたよね? これをただの偶然で片付けるつもり? 文字が読めないから同じメニューを頼んだ。そして私の真似をした。そうですよね? 異世界人さん」
(何だこの人は……なんでオレのことを異世界人何て呼ぶんだ)
(まぁ確かに異世界人だけど……この世界の人にも通用する呼び名なのか?)
(いや待て、可能性はもう一つある。一応聞いてみるか)
「ああ、オレは異世界人だよ」
「やっぱり……」
「そう言うキミも異世界人なんだろう?」
「えっ……」
「違うとは言わせない。この世界に来てまだ時間は浅いが色んな人と話をしてきた。そのオレの直感が告げているんだ。キミは異世界人だと……」
「だから何? 異世界人だったらわたしをどうするわけ? どこかに売りさばきにでも行くの? 盗賊のように」
(とうぞく……?)
「どうするつもりもないけど……」
「あなた、異世界漂流は初心者みたいなこと言うのね……わたしの正体がわからないの?」
「正体?」
「わからないならわからないでいい。それで、どこの田舎世界から来たの? この世界の文字すら読めないなんてとんだ田舎ものみたいだけど……」
「さっきから田舎田舎ってバカにしているのか?」
「別に……ただ暇つぶしに訊いてみただけ、気に障ったのなら謝るけど……」
(悪い人ではなさそうだな)
「で、どんな世界から来たのか教えてくれないの?」
「ああ、オレの育ち故郷の世界だよ。人と動物の暮らす異世界。そいえばこっちではあまり動物を見かけないなぁ」
「人と動物の暮らす世界、それが故郷。それじゃあ、あなた始めて異世界漂流を味わったってこと?」
「そうさ」
「へ~~おかしな世界から来たんだ。ふーーーーん」
「次はこっちが質問する番だけどいいか?」
「はいはい、どうぞ」
「とうぞくってなんだ?」
「……盗賊を知らないの? 随分甘ちゃん世界から来たってこと?」
「答えになっていないぞ。盗賊ってのは何なんだ?」
「他者から強引な手を使って盗みを働く集団のこと」
「盗み? そんなの絵本でしか見たことないぞ」
「ふーーーーん、随分変わった世界出身なのね。あなたは……」
「次はこっちの質問に答えてくれる?」
「その前に自己紹介しないか? いい加減何者と話しているのか知りたい」
「自己紹介か……そうね」
彼女がこちらに身体全体を向ける。その際、水色の綺麗な左だけ長髪な前髪を払い退け、自己紹介として胸に手を当て言葉を発した。
「それじゃあ、新米の旅人さんにお手本となれるような自己紹介を――私はスワン。特別な世界からやって来た。こう見えても一商人である飲料店のオーナー。スワン・ブルースカイです。よろしくお願いします」
彼女の潤った瞳がロードの緑色の瞳を見据える。
それがまさしく奇跡のような出会いになるとは、彼女もロードもまだわかっていなかった。