第107話 有り難いイチゴパック
勘違いは晴れた。
「そうでしたか、娘の風船を取ってくださろうとしたのですね。いや~~これはとんだ早とちりを、すみませんでしたね~~」
「謝るのはこちらの方です。せっかくの風船も割れてしまいました。面目次第もございません」
「いや~~いいんですよ。風船なら明日のお祭りでも貰えますし、なっ、イジェ、それまで我慢できるよな?」
「うん、モグモグ」
お詫びの印にバナナを差し与えてやると、少女は黙り込んで食事に集中していた。
「明日もお祭りがあるんですか?」
「ああ、年に一度のフルーツ祭典、各里から選ばれた料理人たちが参加するのです。明日がそのコンテストの日」
「コンテストか、それは一般市民でも見えるものなのですか?」
「それはどうでしょうチケットがないと入場すらできませんから、今からではコンテストのチケットは売り切れているのではないでしょうか」
「それは残念です。ぜひ見たかったのに……」
「お父さん食べ終わった」
「ああ、それじゃあもう少し散歩してから村に戻ろうか……」
「うん」
「あれ、お散歩中だったのですか? てっきり道に迷っているのかと」
「心配しなくても村はもう目と鼻の先ですから……それでは私たちはこれで、行くぞイジェ」
「抱っこ抱っこ」
「こ~~ら、もうお姉さんなんだからいつまでも甘えないの。代わりに手を繋いであげるから」
「は~~い」
(随分育ちのいい娘さんだ)
「それでは私たちはこれで……」
「バイバイ、お兄ちゃん」
手を繋いでいない方の手で、手を振る少女は父親と共にこの場から去って行った。
「バイバイ」
ロードも手を振り返していた。二人の姿が森の中へと消えていくまで手を振っていた。
(さてオレも行くとしよう。せめて祭りの雰囲気に飲まれてみたいものだ)
(コンパスの指し示すのは北だが、ここから北西に行けばフルケット山のフルケット村か)
後ろからカサカサと音がしていた。茂みの中に誰かがいるようだった。
「誰だ!? 姿を表せ!」
「は、はいぃ~~、ごめんなス、ごめんなス。途中で道がわからなくなってしもうただけでス」
毛深いコートに身を包んだ人だった。しかも声からして女性らしい。
「何者だ?」
「いえいえあんの~~、目的地がわからなくてやんス。だからあんさんと同じ方角について行こうかと思っていたんス」
慌てふためく女性はロードと同じくらいの年齢に見えた。すなわち19歳。
「キミもフルケット村に用があるのか? それなら肩を並べて一緒に行こうじゃないか……」
「ふんえ~~ナンパされたでやんス。これが村の熱気ってことなんスか。どう断ればばばばば」
「ナンパじゃないから、ただ目的地が一緒なら肩を並べて行かないかって提案しているだけだぞ」
「ふんえ~~勘違いおばだたんか~~!」
実にあわただしい女性で髪もボサボサの赤色をしていた。
「オレはロード、キミの名前は?」
「ああ、申し送ればずんだ。私、スベリと申します。よろしゅうお願い申し上げまス」
「さぁ、フルケット村まで近い。行こうじゃないかフキ」
▼ ▼ ▼
フルケット山・坂道。
「えっキミ、コンテストの参加者なのか?」
「はんい~~、私の作るフルーツ料理で勝負しに来たんス。ロードさんもその手に持った山のようなフルーツを使って勝負場に出るんスか~~」
「いや、オレは出ないよ」
「ならば、その大荷物は物々交換でもするために持ち込むのでおば?」
「いいや、これは道中で貰ったものだよ。とても突き返せる感じじゃなかったからね」
「ああ、でんすんなら、私も道案内のお礼をせんとしなば……」
おもむろに背負っていたリュックサックからイチゴのパックを取り出し差し出してきた。イチゴは合計20はあると見た。
「何のつもりだ?」
「いいや~~、道案内のお礼の前払いでス」
「コンテストに参加するんだろう貰えないって……」
「心配ご無用でス。リュックの中身を見てくださいイチゴしかありませんよ」
彼女の言う通りリュックサックの中には複数の調理器具と後はイチゴしかなかった。
「このイチゴ、合計いくつあるんだ?」
「1パック20個入りと考えて、、、15パック入って、その合計は、300個のイチゴがあるんス」
(計算速いな……)
「じゃあこのイチゴパック有り難く貰っておくよ」
「喜んでくれたのならばうれし~~んス」
そうスベリと話している内に森の前方が明るくなっていった。どうやらフルケット村は近いようだ。