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第104話 太った男の荷車事件

 森の中。


 片手で果物の入った紙袋を持ち、背中には少々の荷物を背負い、腰には赤い竜封じの剣を提げている。

 紙袋から果物を一つ取り除き、口へと運びかじりつく。

 その果実はモロコの実という。一本の芯に複数の赤いツブツブの実が出来ているモノだ。味はと言うと甘辛いものだ。


(この世界でも言葉が通じるようでよかった)

(けれど、おサルさんの方に話が通じなかったのはどうしてだろう)

(まだまだ冒険の旅は始まったばかりだが、その辺についてはアカに聞けばわかるだろうか)


 森の中を歩んでいくが、足場の落差が激しいこの場所では体力が減らされていく。


(まぁ、果物があるから体力消費は問題ないけどさ。少し喉が渇いたな~~水飲みたいなぁ)

(いや、水あるじゃん。旅立つ前に持って来ておいたんだった)

(今飲もうかな、いやこの先何があるかわからない。後にしておこう)


コンパスで北西を目指しているのだが、デコボコの道では歩きづらい。なのでまともな道はないのかとロードは探していた。すると、


(おっ、デコボコではない坂道に出たなぁ)


 段々と森の中を進み行くと少し緩やかな坂道に出た。これならばロードも楽に移動できる。

 そんな中、


「ハァ……ハァ……ダメだ~~ビクともしない~~どうすっかなぁ」


 目の前には荷車があった。二頭の馬を引き連れて、汗まみれの太った男が荷車を背に座り込んでいた。


(何だろう。困りごとかなぁ……一応話しかけてみるか)

「すみませーんどうしたんですか~~?」


「おっ、いいところにお兄さんがやって来てくれた」


「ん? 困りごとですか?」


「ああ、ちょっと荷車の車輪が溝にはまってしまってね。身動き取れずにいたんだ」


 荷車の様子をよく見る。やはり男の言う通り荷車の車輪が、ズッポリと溝にはまり込んでいた。これでは馬で牽いて行こうにも移動できない。この荷車を人の力で持ち上げるしか手はなさそうだった。そして荷車に積まれているのはシート越しでも確認できる色とりどりの山のように積まれた果物だった。


「なぁ兄さん手伝ってくれないか? お礼ははずむからさぁ、なんとしても今日中にフルケット山に届けなくちゃいけないんだよ」


「いいですよ。ちょっとではどいてください」


「えっ? いやぁ一人では無理だよ。俺も手伝うからさぁ」


「大丈夫ですって、これでもしっかり鍛えている方なので……」


 ロードが言うと荷物を全て下に置き、荷車へと歩み寄って行く。そして手を掛けて持ち上げる態勢に入った。

 

「まぁいないよりいた方がいいだろう。一緒に協力するよ」


 太った男も再びのチャレンジ。荷車に手をひっかける。


「それじゃあ、いっせのーーで、で持ち上げましょう」


「わかった」


「さんはい、いっせのーーで!」


 その重さは450キロぐらいあるとロードは見越した。


「ひ~~重い!」


「うおっ! すっげぇや動いた動いた!」


「溝から出ましたよ! 横、横の地面に移動させましょう」


「おし、分かった!」


 ズドンと持ち上げていた荷車を下に降ろす。


「はぁ~~何とか持ち上がった~~」


 ロードはその場に座り込んだ。荷馬車の主は荷物の確認をしているのかガサゴソと敷き詰められた果物を物色している。


「いや~~、こんな坂道だから荷物を地面に置いてからの荷車の移動が難しくてね~~ふもとまで降りようにも動かないんじゃどうしようもなくて困っていたんだよ」


「は、はぁ~~」


「よっこらせっと、それにしてもお兄さん。案外力持ち何だね。はいよ約束の報酬っと」


 荷物を物色し終わって差し出されたのは、大きな種みたいな果物だった。


「ナニコレ……」


「おや、お兄さん。ヤシの実見るの初めてかい?」


「ヤシの実?」


「ちょっと貸してみな……こいつをスパイクでちょっと穴を開ければ……」


 懐からスパイクとハンマーを取り出した太った男。そしてヤシの実の一部に穴を開ける。


「はいよ、ここから中身のエキスを吸い出してみなよ。水分補給には丁度いい飲み物さ」


「は、はぁ~~では……」


 ゴクゴクゴクゴクと飲み干していく。


「く~~~~生ぬるい味、冷えていたら多少マシだったのに~~」


「ははは、口に合わなかったかい。じゃあちょっと待っていなよ」


 太った男がもう一度荷物を物色する。


「ああ、お礼とかいいんで……」


「そういう訳にはいかないよ。手伝ってくれたのならそれなりの対価を払わなくっちゃ俺の気が済まない。ほら持って行っておくれ」


 紙袋いっぱいの色とりどりの果物を頂いた。


「では、お言葉に甘えていただきます」


 大男に貰った紙袋を左肩に掛けて、今しがた貰った紙袋を左手に持ち、荷物を背負ってまた歩き出した。


「ありがとよ~~! 力持ちのお兄さ~~ん!」


 ロードは太った男の挨拶を背にまた歩みだす。


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