第102話 勘違いから歓迎へ
足場の落差が激しい森の中を進み歩いていると、柵が歩みの邪魔をした。そして柵の内側には多くのどしっりとした木や変に曲がりくねった木が目に入る。どれもこれもおいしそうな実を宿していた。その奥には一軒の家があった。
(誰か住んでいるのだろうか……この世界のことを聞いても問題ないだろうか……?)
アカとの二人旅ではあったが、その相棒は今、世渡りの力を使ったことで弱り、眠りについていた。
(こんな所で足を止めていても仕方がない。とにかく訊いてみるか)
(柵沿いに行けば屋敷への入り口も見つかるだろう)
ロードがそう決断して歩みを進めたとたん、何かが足に引っ掛かった。
(ん? ワイヤーか?)
カランカランという木片と木片が掠れる音が響き渡り、屋敷の主と思われるオーバーオールに内側にシャツを着こんだ大男が出てくる。
「コラーーーー!! うちに実ったフルーツ泥棒め、今日こそ捕まえてやる!!」
(ちょ、誰か出て来たんだけど!? フルーツ泥棒じゃないし……)
(面倒事は避けるべきか? それとも正直に何もしていないと言うべきか?)
大男が門を開けて柵の外側、こちらに向かってやってくる。
(ここは正直に話してみよう。いざとなったらジョギングで鍛えた足腰で逃げるとするか……?)
「お前だな! 最近うちで実らせているフルーツを盗んでいく奴は――」
「違う何か誤解をしてないか? オレはロード別に怪しいものではない」
「嘘をつけ! こんな柵の近くまでやって来ておいて、今更オレは何もしていないだと? ふざけるな! フルーツ狙いの盗人め!」
「いやいや、オレはここを通りかかっただけだ。そちらの家のフルーツを狙いにやって来たわけではない」
「だったらその荷物の中身を見せてもらおうか! どうせ他の屋敷からもたんまりフルーツを盗んでいやがったんだろう! 嘘じゃないなら見せて見ろ!」
(貴重品の金貨はポケットの内側、まぁ荷物を見せて疑いが晴れるならそれに越したことはないだろう)
「わかりました。調べてください」
ロードは旅に必要なモノが入った荷物袋を大男に渡して、中身を確認させてやる。
「何だこれは……」
大男が尋ねて来た。
「それは火起こし石、そっちはサバイバル道具ツール、そっちは圧縮寝袋。まぁ大体そんな物かなぁ」
「くっ、こんなものでオレが騙されるものか! その胃袋に既にフルーツを詰め込んだ後であろう!」
その時、カランカランと音がした。また何かが大男の仕掛けた罠に引っ掛かったのだ。その正体が俺たちの前に現れる。
(えっ、おサルさん?)
木の上から飛び降りて来たのはフルーツをかじるおサルさんだった。
「コラーーーー!! フルーツ泥棒はお前だな! 返せこの猿めが!!」
ウキキィーーーーと言いながら逃げていくサル。それを追いかけていく大男であった。
数十分後、大男が戻ってくる。
「はぁ、はぁ……おやおやお兄さんまだいたのかい? てっきりこの場を離れたものかと思っていたのだが……」
「誤解されたまま、立ち去りたくなかったんですよ。フルーツ泥棒はさっきのおサルさんだったみたいですね」
この様子だとさっきのフルーツ泥棒には逃げられたのだろう。
「いや~~疑って済まなかった。お詫びに朝ごはんを食べていってくれないか? まだ朝餉がまだだったらの話だが……」
「えっ、いいんですか? じゃあお言葉に甘えようかな」
「どうぞどうぞ、ささこちらへ」
大男に連れられて屋敷の中へとお邪魔することにした。
(そういえば朝ごはんと言っていたな……この世界ではまだこの時間帯は朝なんだな……オレがいた異世界より少し時間の流れが遅いのだろうか……いや、それよりアカは何も食べなくても平気なんだろうか……?)
「ささ、玄関で靴を脱いで……」
「? 靴を脱ぐ?」
「そりゃ常識ではそうでしょ……うちの床を土まみれにする気ですか? ささ玄関で靴をお脱ぎなさい」
言われるがままに靴を脱いでみるロード。それは動物たちと暮らしていた時には考えられない常識だった。
(常識ねぇ……)
ロードたちは屋敷の廊下を進みゆく、そして大広間に出て長机の上には山のように積まれたフルーツが輝いていた。
「ささ、朝ごはんにしましょう、えっと確か……名前は?」
「ロードですよ」
こうしてロードは異世界に来て初めての朝ごはんを大男と共にするのだった。