第100話 ほくそ笑む魔王
不気味にほくそ笑む者がいた。
「この程度で俺っちから逃げたつもりかよ。水色髪の女ぁ……」
そこは異世界と異世界の狭間である。辺りが黒色と緑色と青色と赤色が混ざり合った歪な世界。上下がどっちなのかも左右の判別もままならないまま空間がねじ曲がっているのである。
「ケヒヒ、俺っちとお前の尻尾は繋がっている。この繋がった尻尾さえ辿って行けば、どんな異世界へ旅立とうが所詮、俺っちの手のひらの上って寸法よ」
ズルズルと両手で長い長い猫のような尻尾を掴み辿りながら、異世界を渡っていく存在が確かにあった。
キツネ顔の頭に詫び錆びのある衣服を身に纏った魔物である。その胸元には加工不可能の秘宝玉が吊るされていた。
「ケヒヒ、俺っちをただの魔物と思っちゃいけねなぁ……こんななりでも一応、魔王なんだからよ」
魔王と名乗るにはあまりに不格好な状態での独り言だった。
「ケヒヒ、こんな荒波が何だって言うんだ? 俺っちの追跡から逃げ延びた者は未だ一人としていないぜ」
自分のと思わしき尻尾を掴み、どんどん前に伸びていく道を進んで行く。
「ケヒヒ、舐めれば蜜の味。食えば生クリーム味。どうすっかなぁ捕まえたら……献上何て勿体ないかもしれないなぁ」
また右手で自分の尻尾を掴み前へ進む、次に左手で自分の尻尾を掴み前へ進む。その行動を何度も繰り返していた。
その時、赤い流れ星のようなものが、魔王と名乗るその者の横を素通りしていった。
「ケッ、なんだなんだ? すげー勢いで飛んでいきやがったが、、、まさかアレが噂に聞く竜の世渡りってやつか?」
もの凄い速さで通過していったソレを唖然とした表情で見送る魔王。
「おっと、こうしちゃいられねぇ……俺っちも早いとこアイツに追いつかないとまた別の異世界に逃げられちまう」
魔王の一連の動きがいっそう早くなり、両手にも力が増していく。ズカズカと尻尾を掴み進んで行く。
「あの竜、俺っちと同じ異世界に行かなければいいんだが……しかしあのスピードは羨ましいぜ」
尻尾はどこまでもどこまでも続いている。しかしそれは確実に何かを捉えて目標まで導こうとしている。
「今日中に終わるといいんだがな。向こうの空魚も疲れ果てて休んでいる頃合いだろうし、今がチャンス、狙い時、そうそう異世界を行き来できる力なんて聞いたことないからな。今が狙い目っつーーわけよ」
どこまでも終わりの見えない一直線に伸びる尻尾。それをひたすら掴み進みゆく魔王。
「俺っちが行くまで待ってなよ。水色髪の女ちゃ~~ん。この魔王フォッテイルが行くまでの間になぁ!」
狭間の波にのまれることなく自分の尻尾を一握り一握り進んで行く、自らを魔王フォッテイルと称した存在が進み行く。