悪役令嬢は隣国の王子に攫われる~ 悪役令嬢に転生したら、プレゼン力高すぎな王子に捕まりました3~
婚約破棄の翌日に第一王子のパトリックと婚約したイライザ。
押しの強いパトリックにやられっぱなしの毎日で…。
学園に登校するため邸の玄関を出ると、王家の紋章を掲げた馬車が待機していた。
「イライザ嬢、おはよう」
馬車の前には、麗しい笑みを浮かべたパトリック第一王子。ああ、背景に薔薇が見える気がする…。
私は、朝からがっくりと肩を落とした。
「第一王子って、そんなに暇なんですか?」
ここは、乙女ゲーム『ラブソニック~愛は魔法とともに~』通称ラブソニの世界。
私イライザ・リー・ウォーノックは、つい最近このラブソニの世界に異世界転生ってやつを果たした、元社畜OL大城菜々香だ。
そして何を隠そう、目の前で微笑むカンパニュラ王国第一王子パトリックも、その中の人は私と一緒に転生してきた元鬼上司、沢渡部長。私たちが乗ったエレベーターの転落事故が原因で、その時私がアプリを開いていたラブソニに、同時に転生してきた。
なんと、私たちは現在、婚約者というやつになっている。というか、昨日なったばかりだ。
「イライザ嬢を迎えに来るために、早起きしてちゃんと仕事を片付けてきたんだよ」
朝からこの上なく顔面が強い。これは確信犯だ。このきらっきらした笑顔を向けられたら、私が強く出られないことをわかっていてやってる。
なぜなら、パトリックは前世の私が課金しまくっていた最推しキャラだったからだ。そして、沢渡部長はそれを知る唯一の人物。
「それはどうも。お迎えを頼んだ覚えはございませんが」
「朝からちゃんと一緒に登校して、君が僕の婚約者ってこと、皆にアピールしとかないとね?」
「アンジーじゃないんだから、そんな心配はいりませんよ…」
アンジーというのは、ラブソニのヒロインのことだ。彼女はすでに、私の元婚約者であるリアムのルートに入っている。転生初日にそれを知った私は、その日のうちにリアムからの婚約破棄の申し出を受け入れ、サクッと断罪ルートを回避した。
「君のこと、まだアランも狙ってるし、他にもちらほらそんな生徒がいることが耳に入ってるからね。ちゃんと牽制しとかないと」
パトリックはにっこりと笑って、馬車へと私をエスコートする。
なんでこの人も私と同じように数日前に転生してきたばかりなのに、こんな流れるようなエスコートができるんだろ…。王子擬態も完璧だな…。ハイスぺ怖い。
「…ありがとうございます」
私は不本意ながらもお礼を言って馬車に乗り込んだ。するり、と当然のようにパトリックが私の隣に座ってドアを閉める。御者さんが仕事をとられて、慌てている顔がドアの隙間からちらっと見えた。お気の毒に…。
「ちょっと!そっちに座ったらいいじゃないですか!王家の馬車広いのに!」
私は向かい側の席を指さすが、パトリックはしれっと言い放つ。
「広いから、近づけるように隣に座るんだろ」
二人になった途端、沢渡部長の口調になった。
さすが、オンオフの切り替えも完璧。ダメだ。かなう気がしない。私はむすっとした顔でため息をついた。
昨日の朝、王城からの書状でパトリックに求婚されたと思ったら、なんとその日のうちにパトリックは私の邸を訪れ、お父様からも許しを得た。もちろんそれはすぐに国王に報告され、私たちは正式に婚約者となったのだった。
私は、その前日にリアムと婚約破棄になったばかりだったというのに、だ。
いや、どんだけ仕事が早いんだ!って話よ。元エリートビジネスマンの沢渡部長の手腕を、目の前でまざまざと見せつけられてますよ。
――まあ、それだけ私を真剣に思ってくれてるってこと?なのかな?そうなの?
「そうだよ。お前逃がさないために必死なの、俺。アンジーがリアムルートに入ったからだか知らないけど、いろんな奴湧いてくるし」
ぐるぐる考えを巡らせていた私の胸中をすべて察しているかのように、不敵な笑みを浮かべてパトリックが言った。怖っ!そんなに私、考えてること顔に出てる!?
てゆーか、こういう時は、パトリックの顔してるのに本当に沢渡部長にしか見えないんだよな…。
思わずその顔をじっと見つめていると、
「俺も余裕ないんだよ。可愛いもんだろ?」
いきなりちゅっとキスされた。ゆ、油断も隙もない!全然可愛くないよ!このために隣に座ったな、この人。
真っ赤になって睨みつけたものの、もはやそれも逆効果のようだ。
「そういう顔も可愛い」
もっと濃厚なキスをお見舞いされる。ち、ちょっと、もう、朝からやめてー!
「わ…かりましたから!もう!私はこういうの免疫ないんですから、やめてください!」
「免疫ないから、今こうやって免疫つけてんだろ」
「いらないから!そんな免疫!」
大胆になっていくにもほどがある。耳まで真っ赤になっている私を、パトリックは満足気な笑顔で見つめた。それからふっと目を細めて私の頭を優しく撫でながら、瞳を覗き込む。
「大城だった頃からずっとこうしたかったのを我慢してたんだから、このくらいいいだろ」
だからそういうとこだよ!フリーズドライかってくらいにカッサカサだった元社畜OLに、緩急つけたえげつない技使うのやめていただきたい。心臓がもたないから!
「よくありません!私たち、まだ付き合って数日ですよ?それに、ここでは18歳なんです!アラサーの色気垂れ流すのやめてください」
またすぐキスされそうな位置にある顔を、ぐぐっと押し返す。この距離はダメだ。顔が熱くて爆発しそう。
「お前だって中身は20代OLのくせに」
顔を押し返され、不満気な表情をする沢渡部長。
「百戦錬磨の沢渡部長と一緒にしないでくださいよ。私は仕事ばっかで、恋愛からは何年も遠ざかってたって、知ってますよね?」
「俺だって百戦錬磨なんかじゃないっつーの!そんなだったら、お前の恋愛嗜好探ろうとして乙女ゲーなんてプレイしたりしねーよ」
拗ねたように私の頭をわしゃわしゃする。せっかくメイドさんが綺麗にセットしてくれたのに!
「ちょっと!イライザはいつも隙なく綺麗にしてる公爵令嬢なんだから!やめてくださいよ!」
ぷんすかしながら手櫛で髪を整えていると、ちょっとだけしゅんとした顔をして沢渡部長も髪を一緒に直してくれた。
「だってさ、俺だけ浮かれてんの、悔しいだろ?やっと大城が俺のものになったんだぞ。そりゃ、はしゃぎたくもなるだろ」
しゅんとするな!可愛いかよ!どこまでキャラ崩壊するの沢渡部長!なんか、私が悪いみたいじゃん…。なんだかちょっと後ろめたい気持ちにさせられる。
「私も、付き合うとか学生の時以来で…。だから、ええと…。もうちょっと手加減していただけると…。できるだけ善処しますから…」
「善処するんだな?よし」
するっと私の指に自分の指を絡めると、沢渡部長がパトリックの顔でにやっと笑う。ちょっと冷たくし過ぎたかと反省しちゃったのに、嵌められた!?
「これから、登下校は毎日一緒な。学園でも、できる限り一緒にいること。一人になるなよ?」
「えぇ!?無理でしょそんなの!それに、もう婚約者になったんだから、そんな心配いらないと思いますよ」
沢渡部長が、絡めた指にぎゅっと力を籠める。少しだけ真剣な表情になった。どんだけ心配性なのよ!と言ってやりたかったけど、その表情を見て私は言葉を引っ込める。
「いや、マジで一人になるのはやめてくれ。俺が一緒じゃない時は、せめてメリッサといろよ。――特に、アランには油断すんな」
――沢渡部長?
「わかりました。ちゃんと気をつけますから」
少しだけ以前の沢渡部長に戻ったような真剣な声色とその様子に、私はなんだかただならぬ気配を感じて、素直に頷いた。
「うん。よろしくな」
沢渡部長は、そう言ってパトリックの美麗な顔に優しい笑みを浮かべ、私の頭をポンポンと撫でた。
だから、これずるいやつだって…。
その手の感覚が心地良くて、ちょっと悔しいけれどしばらくされるがままになっていた。
馬車が学園に到着し、御者さんからドアを開けていいかを確認する声がした。もう、毎回聞くのがデフォルトなのね…。
パトリックにエスコートされながら馬車を降りると、周りの生徒たちから歓声が上がる。
「おはようございます!パトリック様、イライザ様!」
「ご婚約、おめでとうございます!」
噂の広がる速度って恐ろしい。普通に皆知ってるって、どういうこと?いくら公衆の面前で求婚を受けることになったとはいえ、それまだ昨日のことなんですけど…。
「皆、ありがとう」
隣で華麗にパトリックが微笑む。ええい、頑張れ公爵令嬢イライザ。
「皆様、ありがとうございます」
負けじとできうる限り美しい笑顔で応えると、パトリックがちらり、とこちらを見て、満足そうに目を細める。私にだって、ちゃんとできるんですからね。
「やっぱ、お前はできる奴だ」
パトリックは私のことは何でもお見通しとばかりに、耳元に顔を寄せ、沢渡部長の口調で囁いた。
すれ違う人すれ違う人に祝福の言葉を掛けられながら教室に入ると、メリッサが待ち構えていた。
「イライザ様、おはようございます!今日こそは色々、聞かせていただきますわよ」
わあ、めっちゃ目輝いてるじゃん…。
だよね、そうなるよね。だけど、話せることは限られちゃうんだけど…。
まさか、異世界転生しまして、なんて話せるはずもない。どうやって説明しようか悩んでいると、横からパトリックが助け舟を出してくれた。
「メリッサ嬢、おはよう。実は、ずっと僕がイライザ嬢に片思いをしていたんだ。イライザ嬢にはリアムという婚約者がいたし、この思いは胸の奥に秘めておかなくては、と思っていたんだけれどね。だけど、二人が話し合って円満に婚約を破棄したと聞いて、居ても立っても居られなくて、すぐに求婚してしまったんだ。晴れてイライザの婚約者になれて、とっても光栄だよ」
メリッサは例の「きゃー!」の顔で、頬に手を当てている。悪役令嬢キャラは見る影もない。まあ、悪役落ちしてないけど。
「そうだったのですね!パトリック様がずっとイライザ様を…!素敵ですわ!」
うん…。確かに間違ってはいない?のかな?転生前の話も考慮すると。
「イライザ様、本当に良かったですわね!パトリック様は素晴らしいお方ですもの」
そうね。私の最推しだしね。顔面も強ければスペックも鬼強だしね。今は中身がちょっと黒いけど。
「ええ、私もこの上なく光栄ですわ。――まさかこんなに早く、また婚約をすることになるとは思っていませんでしたけど」
ちょっと本音が滲んでしまった。だけどメリッサはそんなのお構いなしだ。
「善は急げですもの!慶事は早いに越したことがございませんわ!婚約披露はいつなさるのですか?」
――婚約披露!全然考えてなかった!そうだよね、第一王子の婚約だもん。何もしないはずないよね。そういえばゲームでも、どのキャラのルートに入っても婚約したら盛大に婚約披露してたわ!スチル満載のビッグイベントじゃん!
「婚約披露は一月後には行う予定だよ。メリッサ嬢の言う通り、早いに越したことはないからね」
当然のようにパトリックが言う。まさか、もうそこまで根回しを…?
驚いてパトリックを見上げると、当然、というように頷かれる。さすが元エリート、抜け目ない…。
この期に及んで逃げようとは思ってなかったけど、すでに周到に逃げ道は塞がれているようだ。
「ああ、楽しみですわね!イライザ様!」
自分事のようにはしゃぐメリッサを尻目に、私はおほほ、と乾いた笑いしか出てこなかった。
すべての授業が終わると、前の席に座っていたパトリックが振り返った。
「今日の生徒会の会議、申し訳ないけれど出席できなくなってしまったんだ。皆に伝えてくれるかな?」
そういえば、昼休みに王城の従者の人がパトリックのところに来てたな。何かあったんだろうか?
「ええ、承知いたしました。お伝えいたしますわ」
頷くと、パトリックが心配そうに言った。
「帰りも一緒にと思っていたけど、急いで王城に戻らなければならなくなってね。君の家にも迎えを頼んであるから、くれぐれも気をつけて帰ってほしい」
かなり真剣に心配している様子のパトリックに、私もちょっと表情を引き締めて頷いた。
「わかりました。パトリック様も、お気をつけて」
「ああ、ありがとう。また明日ね。――本当に、気をつけて」
慌ただしく教室を後にする背中を見送る。あんなに心配するってことは、絶対何か起きてるんだろう。私はパトリックの言いつけ通り、メリッサと一緒に教室を出た。
生徒会室の前でメリッサと別れて一人部屋に入ると、もうすでにアランがいた。
「お疲れ、イライザ。昨日の今日で、俺の周りもパトリックとイライザの話題でもちきりだぞー」
わ…いきなりアランと二人だけになっちゃったけど…。これは仕方ないよね?もうすぐ皆来るはずだし。
「ごきげんよう、アラン様。お騒がせしてしまって申し訳ございません」
「第一王子の婚約者なんて、すごいじゃん。パトリックがあんなにイライザのこと好きだったなんて、今まで気づかなかったわ」
そりゃあね…。こうなったのは私たちが転生してきたからでしょうしね。
「せっかくリアムと婚約破棄したっていうから、本気で落としにいこうと思ったのになー」
「またそういうご冗談を」
アランはゲームの中でもよくこんな軽口を叩いていた。いつものやつだな、とあしらおうとすると、不意にアランに腕を掴まれて引き寄せられる。
「冗談じゃないって言ったら、どうする?」
――いつものアランの雰囲気じゃない。その鋭い視線に身体が強張る。危険だって、頭の中で警鐘が鳴ってる。
「わ、私はパトリック様の婚約者ですよ」
慌てて離れようとするが、腕の力が強くてびくともしない。どうして?アランってこんなキャラじゃなかったはず。それに、他の皆はなんで来ないの?
どくどくと心臓の音が高鳴っていく。
入口のドアに送った私の視線に気づいたらしく、アランが言った。
「他の皆なら、来ないよ。今日はパトリックが出席できないから、会議は中止って伝えてあるから」
「どう…して?」
「色々事情が変わってさ。ごめんね、イライザ」
アランはそう言うなり、さっと私に何かの小瓶を嗅がせた。
「!!」
咄嗟に顔を背けようとしたけど、間に合わなかった。
くらっと視界が歪み、意識が遠のく。
ああ、沢渡部長、ごめんなさい。一人になるなって、アランに気をつけろって、あんなに言われたのに…。
襲い来る眩暈に抗いようもなく、私は意識を手放した。
気がつくと、私は後ろ手に縛られて、ビロードの張られた座席に転がされていた。
身体を揺らす振動と音。どうやら、馬車で移動させられているようだ。ご丁寧に足も縛られ、猿轡まで嚙まされている。
身を捩って顔を上げると、アランと目が合った。
「あ、イライザ、起きた?悪いな、途中で目を覚まされて大声出されると面倒だったからさー」
にこっと笑って、アランが私の身体を起こし猿轡を外す。いつものように軽いノリの笑顔だけど、目が笑ってない。なんだか背筋にうすら寒いものを感じた。
「ここは?これは一体どういうこと?」
ぎろっと睨みつけると、アランが苦笑する。
「まあ、そう怒るなよ。って、そりゃ怒るかぁ。もうすぐ俺の国ネメシアに入るから、そうしたら手足の拘束も解いてやるよ」
ちらりと窓に目をやると、カーテンの隙間から茜色の空が覗いた。どうやら、気を失ってからだいぶ時間が経っているようだ。国境が近いのも嘘ではなさそう。
「アラン様の国に?なぜ私を攫ったの?目的は?」
強い口調で問い詰めると、さっきまでヘラヘラしていたアランの顔から、急に表情が消えた。
「クーデター」
「クーデター?」
「俺の父上、つまりネメシア国王が、昨夜叔父に殺された。今、ネメシアは叔父に支配されてる」
「――!」
背中に冷たいものが流れる。これ、もしかして…。
アランルートのバッドエンド!
ラブソニのアランルート。
バッドエンドはアランの国ネメシア王国でアランの叔父によるクーデターが起きて、アランは白魔法が使えるアンジーを攫って母国に戻る。そこで魔法の力を使って叔父を倒そうとするけど、寝返った国王の臣下たちに囚われ、処刑されてしまう。
その後アンジーは人質として、カンパニュラ王国とネメシア王国との取引材料にされてしまうのだ。
だけど、それはアンジーが貴重な白魔法の使い手だったから起きたこと。私は白魔法なんて使えないのに、どうしてアランは私を連れてきたの?そもそも、アンジーはアランルートには入らなかったのに、何故このバッドエンドが?次々と疑問が頭を過る。
「私を連れて行ったところで、どうにもならないはずよ?白魔法も使えないし、何の役にも立ちはしないわ」
「そんなことないさ。イライザは公爵令嬢で、今や第一王子の婚約者だ。隣国カンパニュラの第一王子の婚約者を連れてきたとなれば、叔父たちも迂闊に手出しはできないはず。それに、カンパニュラの貴族の中でも最上位の公爵の令嬢を嫁にできれば、ネメシアでもハクがつく。今カンパニュラの王族には、残念ながら適齢期の女性がいないからな。――だけど、そんな御託より何より、俺がイライザを欲しいんだ」
アランが真剣な目で近づいてくる。頬に触れられ、びくっと身体が震えた。どうして?アランがそんなに悪役令嬢ポジだったイライザに執着する理由がわからない。ゲームの中ではもちろん、そんな描写はなかった。
「なぜ、私なの?」
聞かずにはいられない。こんなに訳がわからない状態じゃどうにもならない。
「アラン様は私のことなんて、何とも思っていなかったはずでしょう?」
「一夫多妻制のネメシアでは、弱い女はまず生き残れない。イライザみたいに、魔法も人並み以上に使えて、いつも胸を張って、まっすぐ自分の意見を言える女じゃなきゃ。そう思ってずっと見てた。アンジーの白魔法も魅力的だったけど、俺はイライザのような気が強い女が好みなんだ。前は、嫁にするならこんな女がいいなってくらいだったのに、ここ数日のお前は以前に増して格段に魅力的になった。気が強いだけじゃない、何か別の魅力が感じられるんだよ。まるで人が変わったみたいだ。パトリックがお前を変えたのか?とにかくよくわからないが、こんないい女、諦められるかよ。俺にはお前が必要だ。俺は必ず王座を奪還する。お前は俺の隣で王妃になるんだ」
実際に中身が変わっているんだから、アランが違和感を覚えてもおかしくはない。私の行動の何かが、アランの琴線に触れてしまったということなんだろうか。
だけど、何勝手なこと言ってんの!?いくら大変な状況だからって、こんな人攫いみたいなこと、許されるはずない。わけがわからなくて怯えていた気持ちが、だんだん怒りに変わってくる。
「クーデターでお父様を亡くされたことは、お悔やみ申し上げるわ。だけど、私はあなたとは行けない。私はパトリック様の婚約者よ。パトリック様だってきっと、あなたを許さない」
睨みつける私の視線をしれっと交わしながら、アランが不敵な笑みを浮かべた。
「だろうな。でも、もうすぐ国境を越える。ネメシアに入ってしまえば、パトリックだって簡単にはお前を取り戻しに来れないぜ」
「だけど!あなただってネメシアに帰ったら、叔父上様に命を狙われるのでしょう!?あなたのお父様の臣下の人たちだって、叔父上様に寝返っているかもしれないのよ!?」
そうだ、アランだって、バッドエンドなら囚われ処刑されてしまう。いくら追い詰められてこんなことしてしまったんだとしても、そんなのは嫌だ。絶対に回避したい。
とにかく今は、アランをネメシアに帰しちゃダメだ。
「確かに、父上の臣下たちはもうダメだろうな。だけど、まだ俺についてくる奴らはちゃんといる」
「本当にその人たちは信用できるの?勝算はあるの?私はあなたを死なせたくない」
「こんな状況なのに俺の心配?やっぱり、俺の嫁はイライザしかいないな」
そんなこと言ってる場合じゃないっつーの!キスされそうになって思い切り顔を背ける。手が自由ならぶん殴ってるとこだ!ゲームの中ではアランも楽しく攻略させてもらったけど、現実ではパトリック以外の人なんて考えられない。想像しただけでぞっとする。
「絶対に今帰るべきじゃないわ!もっとちゃんと策を練らないと!これじゃ、やられに行くみたいなものよ!」
私が叫んだ瞬間、馬車が急停車した。
手足を縛られたままの私の身体が、宙に投げ出される。アランが自身もバランスを崩しながらも、なんとか私を抱きとめた。抱えられたまま、ドカッと馬車の壁に叩きつけられる鈍い感覚。
「ってぇー!どうした!?何があった!?」
強かにぶつけた頭をさすりながら、アランが叫ぶ。と同時に、馬車のドアが勢いよく開け放たれた。
「イライザ!!」
夕闇に浮かぶ、最推しのシルエット。
「パトリック様!」
アランの腕から奪い返すように、パトリックが私を抱き寄せる。
「よかった!間に合った!」
いつものパトリックの香りに包まれて、緊張の糸が切れる。全身の力が抜けていく。
途端に、身体が震えてきた。私、やっぱりすごく、怖かったんだ。
「――っふっ」
安心したら涙が込み上げてきた。どうしよう、止まらないよ…。私はパトリックの胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。
私が泣き止むまで、パトリックは黙ってぎゅっと強く抱きしめ、私の髪を撫でていてくれた。
「もう大丈夫だから」
何度も、そうやって優しく声を掛けながら。
「よく、追いついたな」
パトリックの護衛騎士たちにぐるりと取り囲まれた馬車から降りてきたアランが、ぼそっと言った。
拘束を解かれた私の、赤くなった手首を撫でながら、パトリックがアランに怒りの籠った視線を送る。
「今日の昼には、ネメシア王国でクーデターがあったことは聞いていたからな。その前から、ネメシアで不穏な動きがあるという話は耳に入っていたし。だからきっとアランはネメシアに向かうはずだとは思った。まさか、学園内でイライザを攫うとは思ってなかったけどな」
確かにそうだ。ゲームではアランが母国に向かうのは夜だったはずだ。
「公爵邸の警備は厳重だからな。イライザを連れ出すなら、学園しかないと思ったんだ。パトリックが王城に戻ると聞いて、あのタイミングしかないってな」
ゲームでは貴族じゃないアンジーを攫ったから、夜だったってことか。警備がないなら、夜の方が人目につかない。
「まさか、他の生徒会のメンバーを全員帰すとはな。帰り道が狙われると思って警備を固めさせたのに、裏をかかれた」
パトリックが悔しそうに眉間に皺を寄せる。
「それだけ、俺も本気でイライザが欲しかったってことだよ」
自嘲するような口調で、アランが言った。それから、バツが悪そうな顔で私を見る。
「悪かったな、イライザ。怖かったよな。――俺、だいぶ周りが見えなくなってた」
父であるネメシア国王が殺されたんだ。冷静でいられなくなっても無理はない。でも。
「自暴自棄になるのは、もうやめてくださいね」
本当に怖かったんだから。あのままネメシアに入って、バッドエンド通りになっちゃったら、どうしようって。
「ああ、一度落ち着いて、策を練る」
よかった。アラン、いつもの表情に戻ってきた。
その表情の変化を確認するように、じっとアランの顔を見ていたパトリックが言った。
「その件だが、アラン。このままうちの王城に来るんだ。お前がネメシアを取り戻せるよう、手を打ってきた」
え?どういうこと?放課後急いで王城に帰って、もうその算段をつけてきたってこと?
驚きを隠せない私の隣で、アランもぽかんと口を開けている。
「は?パトリックが?俺がネメシアを取り戻せるように?どうやって?」
「それは、王城で説明する。まずはここを離れるぞ。アランは自分の馬車に乗れ。イライザはこっち」
パトリックが私をさっと抱き上げる。ちょっ、ちょっと!お姫様抱っことか聞いてないから!驚いてバランスを崩しそうになった私を、パトリックがさらにぎゅっと強く抱きしめる。
「イライザ、ちゃんと掴まってて。危ないから」
じゃあ降ろして、と言いたかったけど、パトリックの真剣な顔を見たら言えなかった。本当に、ものすごく心配して、必死で助けに来てくれたんだって、伝わったから。
私は躊躇いながらも、大人しくパトリックの首に腕を回す。そんな私を見下ろして、パトリックがふっと優しく笑った。
そんな私たちの姿を見ていたアランが、ぽつりと呟く。
「なんかパトリック、口調とキャラ変わってない?」
パトリックは聞こえないふりをして、さっさと私を抱えて自分の馬車に向かった。
馬車に乗り込むなり、パトリックにぎゅっと抱きしめられた。
「よかった、間に合って。本当によかった」
抱きしめる手が、微かに震えている。パトリックも…沢渡部長も、怖かったんだって気づいて、私もそっとその背中に手を回した。
「私…ごめんなさい。アランに気をつけるように言われてたのに、生徒会室で二人になっちゃって…。助けに来てくれて、本当にありがとうございます」
自然と素直に言葉が出た。こんなに必死な姿を見せられたら、いつもの可愛くないセリフなんて引っ込んでしまう。
「お前がネメシアに入ってしまったらと、生きた心地がしなかった。悪い。俺が後手に回ったばっかりに、お前に怖い思いをさせた」
前世でも、こんなに余裕のない沢渡部長の姿は見たことがなかった。いつも無表情のまま、無理難題を事もなげに片づけていたのに。
「後手になんて…。ちゃんと私が攫われたことに気づいて、助けに来てくれたじゃないですか。しかも、ネメシアをどうするかの算段までしっかりつけて」
「いや。絶対にお前を一人にしちゃいけなかった。ゲームの展開と違っていることも、アランがお前を相当気に入っていることもわかってたのに、夜までは大丈夫なはずだって油断した。絶対に油断が許されない場面でだ。俺が悪い」
微かな声の震えを感じ取り、パトリックの顔を見上げる。白く美しい陶器のような肌が青ざめていた。私はパトリックの背中に回した手に力を籠める。今こそ、ちゃんと伝えなくちゃ。
「大丈夫ですよ。すごく怖かったけど、私、ちゃんとパトリック…沢渡部長が来てくれるって信じてたんです。だって、いつだって沢渡部長は私のこと助けてくれたから。――初めて任された大きな案件のプレッシャーに負けそうになってた時も、頑張ってもなかなか結果が出せなくて落ち込んでた時も、いつも突然現れて何かアドバイスしてくれたり、ヒントをくれたりして、さらっと助けてくれてたじゃないですか。それって、私のこと本当にちゃんと見ていてくれたんだなって、気づいたんです。だから、絶対に沢渡部長なら来てくれるって思ってました」
沢渡部長が、後悔や恐怖が綯交ぜになった顔で私を見つめた。
大丈夫。もう怖くないから、そんな顔しないで。
「沢渡部長、ありがとうございます。いつもいつも、私のこと見守っていてくれて」
伝わったかな?私の思い。お願い、伝わって。
思いを込めて見つめていると、苦し気に強張っていた沢渡部長の表情が、少しだけ和らいだ。
「大城…。悪い、情けないとこ見せたな。お前を失ってしまったらって考えたら、冷静じゃいられなくなった。もう、二度とこんな思いはさせないからな」
うん、きっと伝わった。私も微笑んで、もう一度沢渡部長をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、大城」
沢渡部長はそう言って、強く私を抱きしめ返してくれた。
王城までの間、私たちはなんとなく離れがたくて、指先を絡め二人寄り添ったまま馬車に揺られた。なんだか、色々な気持ちが通じ合ったような、不思議な感覚。今までになく沢渡部長の存在を、心を、とても近くに感じた。
王城に着くと、私とアランはパトリックの執務室に通された。
「アラン、これを見てくれ。ネメシア王国の有力貴族何人かと、取り引きした」
執務室に設えられた応接テーブルに着くなり、パトリックがアランの前にバサッと書類の束を置く。
沢渡部長はすっかりパトリックモードに切り替わっている。馬車の中で見せた少し弱った姿も、最初から夢だったかのように、自信に満ちた表情だ。うん、いつものきらきらで完璧なパトリック。
すぐにアランが書類を手に取り、目を通す。
読み進むうち、次第に目を見開き、驚きの表情に変わっていった。
「パトリック…これ、よくこんな短時間でこれだけの大物たちを取り込んだな…」
「それぞれが抱える問題に対して、改善策を提案し協力を申し出た。もちろん、資金援助も含めて。それから、アランにつけばどれだけのメリットがあるかも、もちろんプレゼンした。ここのところ、ネメシアがきな臭いっていう話は耳に入っていたから、万が一を考えて数日前から動いていたんだ」
私はごくりと唾を飲み込みながら、二人の様子を見守っていた。
転生してからの数日間で、そんなことまで?ネメシアの動向からバッドエンドの展開を読んで動いたんだろうけど、一体どんだけ先手打ってたのよ…。
前世でも取引相手に的確な提案をして成果を上げまくっていた沢渡部長を思い出す。絶対に敵に回しちゃいけない人だな…。
ネメシア王国の貴族たちが抱える問題は何か、それに対してパトリックからどんな提案がなされ、貴族たちがどんな条件を飲んでどう動くのか――。アランが書類を読み耽っている間に、私はパトリックの耳元でこそっと呟いた。
「よく、この短期間で手が打てましたね…。さすが沢渡部長ですけど…」
同じように小声でパトリックが答える。
「ゲームでこのバッドエンドをプレイした時、俺ならどう解決するかなって考えてたからな。どの攻略対象のバッドエンドでも、俺なりにそのシチュエーションを脱するプランを考えてた。この世界に来てからすぐ、色々情報も収集してたしな。ここでお前を守りながら生きてかなくちゃいけないって思ってたから」
――は?乙女ゲーでバッドエンド解決のプランを練ってたの?そんなプレイの仕方する人いる?全ルートコンプ済みってのは聞いてたけど、まさかバッドエンドも自分ならどうするか考察済みで全コンプしてあったとは…。しかも、いきなり転生したのにすぐに情報収集って、どんだけハイスぺのエリート脳なんだ、この人は。それに、私を守りながら生きてくためって…。転生してすぐ、そんなことまで考えていてくれたなんて。私なんて、自分のことだけでいっぱいいっぱいだったのに…。
私は思わずぽかんと口を開いてパトリックの顔をまじまじと眺めてしまった。
「イライザ、顔が公爵令嬢じゃなくなってるぞ」
笑いを嚙み殺すように口元に手をやり、眉間に皺を寄せたパトリックに小声で注意される。しまった、油断した。
ちらりとアランに目をやると、まだ熱心に書類を読んでいる。こちらの様子には気づいてなかったみたい。よかったー。
私はしゃんと姿勢を正し、顔を整える。ちょうどアランが書類から顔を上げた。
「パトリック、恩に着る。この案と後ろ盾、ありがたく使わせてもらうぞ」
「もちろんだ。そのために手を打ったんだから」
パトリックが優美な笑顔を浮かべて、アランに手を差し出す。アランもその手を握り返した。
「ありがとう。俺がネメシアを取り戻したら、カンパニュラ王国に対して相応…いや、それ以上の対価は支払う。――それと、イライザのこと、本当に悪かった…」
「イライザの件に関しては、金輪際手出しはしないと約束してもらうぞ」
アランの謝罪に、間髪入れずにパトリックが答える。
完璧なのに裏側にメラメラと怒気が見える笑顔に変わったパトリックを見て、アランは苦笑いしながら私にも申し訳なさそうな視線を送ってくる。私は頷いて微笑んだ。うん、アランももう大丈夫そう。
「これだけ手を回してもらって、そのうえ婚約者にまで手は出せねぇよ。しかし、リアムとの婚約破棄の翌日に婚約とか、本当に周到だよな。先を読んでこんな完璧な策を打ってくる手腕もだし、絶対に敵に回したくねぇ」
だよね。私もさっきそう思った。パトリックはにっこりと笑って言った。
「これからも両国で協力して、友好的かつ有意義な関係を築いていこう、アラン」
この人を敵に回そうとする奴は、相当の命知らずだと思う。
早速ネメシア王国の奪還作戦が始まり、パトリックもアランも慌ただしく動き始めた。
私がこれ以上は邪魔になりそう、と帰り支度をしていると、廊下に騒がしい靴音が響き、ノックの音と同時にドアが開いてお父様が現れた。
「イライザ!無事でよかった!怪我はないか!?怖かったな」
体当たりかってくらいの勢いでハグされ、思わずよろける。いや、力の加減。心配はわかるけれども。
「お、お父様。ご心配をおかけして申し訳ありません。私は大丈夫ですわ。パトリック様が助けに来てくださいましたから」
パトリックの名前に反応して、お父様が顔を輝かせた。さっとパトリックに向き直り、流れるように跪く。そうだ、お父様はパトリックの熱烈な信望者だった。
「ああ、パトリック王子殿下、何とお礼を申し上げたらいいか…。この御恩は一生忘れません!この命尽きるまで、殿下についていきます!」
パトリックが華麗な笑顔をお父様に向ける。この熱量に対しても動揺しないのはさすがだわ。
「いいえ、ウォーノック公爵。お礼を言われるようなことは何も。むしろ今回はイライザ嬢を危険に晒してしまい、申し訳なかった。もう二度と、イライザ嬢をこんな目には合わせません。さあ、立ってください」
パトリックに手を差し伸べられ、お父様が頬を上気させる。いや、乙女か。せっかくのイケオジが台無しだぞ。
「身に余る光栄…!!パトリック王子殿下、親子ともども末永くよろしくお願いいたします!」
お父様は両手でパトリックの手を取り、力強く握りしめた。ただでさえお父様パトリック信者なのに、これでさらに盤石になったな…。
パトリックは美麗な笑みを絶やすことなく、お父様に握られた手にもう一方の手を重ねる。
「ウォーノック公爵は私の義父となる方です。こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします。またあらためて、婚約披露に関するご相談をさせてください。――ところで、本来でしたら僕がイライザ嬢をウォーノック邸までお送りしたかったのですが、まだ色々と立て込んでおりまして…。ウォーノック公爵と一緒であれば安心だと思い、お呼び立てしてしまったのです。イライザ嬢をお願いできますでしょうか?」
そっか、私を一人で帰さないように、お父様を呼んでくれたのね。アランが正気に戻ったから、もう大丈夫そうではあるけど、そこはもう、少しも油断したくないんだろうな。
「もちろんですとも!婚姻までの間は、娘は私がしっかりと守ります!さあ、イライザ、お父様と帰ろう」
お父様だって、私が攫われたって聞いて、きっと生きた心地がしないくらい心配してくれたんだろう。さっきのハグからも伝わってきた。
私はパトリックとお父様に心からの感謝を込めてお辞儀をした。
「はい。お二人とも、本当にありがとうございます」
「イライザ、気をつけて帰るんだよ」
帰り際、パトリックが優しく微笑みながら私の頭をポンポンと撫でてくれた。沢渡部長の時からのこれ、癖なのかもな。すっごく恥ずかしいけど、嫌いじゃない…。
「パトリック様も、ご無理はなさらないでくださいね」
「ありがとう。問題が片付いたら会いに行くよ」
明日、明後日は週末で学園は休みだ。きっと休み明けまでにはアランの国の一大事すら華麗に解決して、何事もなかったように迎えに来るんだろう。
私とお父様は、丁寧にお辞儀をして部屋を出た。
翌朝、さすがに少し前日の疲れが残っていた私は、少し寝坊をさせてもらって、お父様と一緒に遅めの朝食を取っていた。
朝食を終えてお茶を飲んでいると、玄関の方で馬車が止まる音。少しして、いつもは冷静な執事が、少し慌てたようにダイニングにやってくる。
――ん?この展開は、いい予感がしないんだけど…。
「旦那様、お嬢様、パトリック第一王子殿下がいらっしゃいました」
ほら、やっぱりー、って、昨夜の今朝で、もう問題が片付いたってこと!?
お父様と一緒に慌てて応接室に入ると、窓の外に見える庭園の花を背負って、スチルのごとく秀麗な笑みを浮かべたパトリックがいた。
はぁ、やっぱかっこいい…。本当に花背負ってるよ…鼻血出そう。見慣れてきたはずなのに、この破壊力…。心臓にクる。
最推しからの凄まじい先制攻撃をくらい、思わず心臓を押さえて声を失っている私に、パトリックが近づいてきた。なんだかあらためてドキドキする。
「おはよう、イライザ嬢。よく眠れた?」
「お…はようございます、パトリック様。おかげさまで、ゆっくり寝かせていただきました…。パトリック様こそ、もうネメシア王国の問題は大丈夫なのですか?」
明らかに私より睡眠時間が短いはずなのに、隈一つない美しいお顔。
「もともとほとんどの手筈は整っていたからね。後は魔法で各所に連絡して、裏切れないように契約魔法もかけて、指示した通りに動いてもらっただけ。アランの叔父や臣下たちも捕らえられたし、アランが王座に就くように進んでる。アランも今朝ネメシアに帰ったよ。まあ、今回のは一時帰国で、諸々片付いたらまたこっちに一旦帰ってくるらしいけど。学園はちゃんと卒業するつもりらしい」
わあ、パトリック本当に隙がない。魔法も使いこなしていらっしゃる。
「それはよかった!安心いたしました!さすが殿下!見事なお手際です。しかし、殿下もお疲れでしょうに…」
お父様の言葉に、パトリックがすっと私の手を取り微笑みながら答えた。
「身体は大丈夫です。でも、少し心に癒しが欲しくて、イライザ嬢の顔を見に来てしまいました」
言うなり私の手の指先にキスをする。
なっ、何を言ってるんだこの人!どうしてこんな気障なことを臆面もなくできるわけ!?いくら婚約したからって、こんなに明け透けでいいの!?
焦って真っ赤になっている私を尻目に、お父様も満面の笑みで応える。
「そうでしたか!イライザはいるだけで心の癒やしになりますからな!イライザ、お前の部屋に殿下をお通しして。ゆっくり休んでもらいなさい」
は!?私の部屋!?ちょっと待ってよ何それどういうこと?そんなのアリなの?どんでもない親バカ発言するくらい溺愛してる娘なのに、パトリックとなら部屋に二人にしていいの!?どんだけパトリック信用されてんのよ!
動揺しかない私に気づかないふりを決め込み、パトリックが爽やかに言い放つ。
「ウォーノック公爵、お気遣い感謝いたします。じゃあイライザ、部屋に案内してくれるかな?」
「え、ええ、承知いたしました。こちらへどうぞ…」
これ以上動揺を見せて、変に意識してると思われるのも癪だ。にこにこ顔の二人に私も精一杯の笑みを返し、部屋へと向かった。
「ああ、さすがにちょっと疲れた…。少し横にならせて」
部屋に入るなり、パトリックが私のベッドにごろんと横になった。
「この部屋、ゲームの中のイライザの背景であのドレッサーの辺りちょっと見た程度だったけど、実際はこうなってたんだな。いかにもイライザの部屋って感じだよなー」
パトリックが転がったまま部屋を見回す。外見には表れていなくても、疲れているのは確かなんだろう。声にいつもより張りがない気がする。
「そんなにお疲れなら、王城でちゃんと寝たらよかったのに…」
「だって、まだ何か心配で。一刻も早くお前の顔見て安心したかった。だから、はい、ここ」
パトリックがポンポン、と横になる自分の隣を叩く。
え?隣に横になれと?いやいやいや、ちょっと待って。私には難易度が高すぎる。
「早く」
甘えたようなパトリックの視線と声に、耳まで熱くなる。どうしよう。そんなの無理だよ!
「頼む。安心させて」
弱々しい笑顔。こんな表情見せられたら…。
恥ずかしすぎるけど抗えなくて、おずおずとパトリックの隣に横になった。
横になるなり、すぐにパトリックに抱きしめられる。鼓動が速すぎて心臓が壊れそう。
「よかった。ちゃんとイライザがいて。ただでさえ、転生してからどうしても現実感が薄くて、ずっと夢の中にいるような感覚が抜けなかったのに…。イライザが攫われて大城の存在を遠く感じてしまった時、やっぱり俺だけが冷めない悪夢の中にいるんじゃないかって、本当に怖くなった。でも、イライザの中には大城がいて、俺はパトリックで。この世界で生きてるんだよな?これが現実なんだよな?」
私も、前世の夢を見て起きた時、どっちが現実なのかわからなくなった。沢渡部長だって一緒だったんだ。前世では弱みなんて見せたことのなかった沢渡部長。いつも完璧で厳しくて、その裏に隠れた人間性のことなんて考えたこともなかった。いくらハイスぺで何でもできちゃったって、こんなことが起こって不安にならない人なんているはずないのに。
私はそっとパトリックの顔を見上げた。綺麗なアッシュの瞳が揺らいでいる。近すぎて緊張するけど、そんなこと言ってる場合じゃない。今、沢渡部長の心を支えられるのは、私しかいないんだから。
「私にとっても、沢渡部長のパトリックといる、この世界が今の現実です。――転生なんて信じられないことが起こって…なのにすぐに私を守ることを考えてくれて、本当にありがとうございます。私、自分のことだけでいっぱいいっぱいになっちゃってて、沢渡部長のこと全然考えられてませんでした…。本当にごめんなさい…」
沢渡部長が転生してすぐに私を捕まえようとしたのも、必要以上に構うのも、これが現実だって実感するためだったのかもしれない。
「私…恥ずかしくて沢渡部長に冷たいことばっかり言っちゃって…。部長だって不安になったりしてたのに…。安心したかったんですよね?ごめんなさい」
私を抱きしめていた沢渡部長の腕に力が籠り、さらにぐっと引き寄せられる。すぐそこにパトリックの顔が迫った。恥ずかしいけど、目を逸らしたらダメだ。ここで逸らしたら、また不安にさせちゃうかもしれない。
必死の思いでパトリックを見つめ返していると、ふっとパトリックの表情が緩んだ。
「ふ。なんて顔してんだよ。本当お前、免疫ないんだな」
「そ、そうですよ。何度もそう言ってるじゃないですか。ずっと恋愛から遠ざかってたって」
「うん。それなのに、俺のために頑張ってくれてるんだ?」
嬉しそうに細められた瞳から色香が漂う。ダメ、もう限界。
恥ずかしさで顔を逸らしかけた私の、頬にかかった髪をパトリックが優しくかき上げる。私の唇が、パトリックの唇で塞がれた。
ゆっくりと優しく啄むようなキスから、どんどん深いキスに変わる。舌を吸われ、濃密に絡みつく舌に上顎をなぞられる。
身も心もとろとろに溶かされるような甘いキスが続き、全身の力が抜けていく。頭がぼうっとしてきて、何も考えられない。ただ、この快楽に身を委ねてしまいたい。
パトリックの唇が首筋を下りていきかけて、不意に離れた。
ゆっくりと目を開けると、天を仰ぎ額に手を当てたパトリック。
「――やばい。止まらなくなるとこだった…。大城のイライザ可愛すぎ。この世界じゃ、婚姻前の男女が一線を越えるのは、ご法度なんだよな…。ウォーノック公爵の信頼を裏切るわけにもいかないし…。くそ…」
くしゃくしゃと髪を掻きむしり、悶絶している。
沢渡部長のキス、気持ちよすぎて完全に流されるとこだった…。前世だったら、絶対止まれなかった。ちゃんと止まった沢渡部長、すごいな…。
余韻に浸りながら、ぼんやり考える。――って、何考えてんの私!?
今更ながら、顔が一気に熱くなる。私ったら、私ったら、私ったらー!!流されてもよかったかも、なんて考えてしまった…!
理性を取り戻そうと円周率らしきものをぶつぶつと唱え始めたパトリックの横で、私も顔を覆い、覚えたての魔法の呪文を反芻していた。
「イライザ、ごめん。ちょっと抑えがきかなかった。もう何もしないから、もう少しだけこうしてて」
ひとしきり円周率を唱えてだいぶ頭が冷えたのか、パトリックが咳払いをしてから言った。
「はい…」
私も天井を見つめたまま返事をする。
「手だけ、いい?」
遠慮がちにパトリックの手が私の手に触れる。私が頷くと、指がそっと絡められた。
そのまま、二人無言で天井を見上げる。窓の外から鳥のさえずりが聞こえた。
事故に遭って、何故か二人してラブソニの世界に転生して。信じられないけど、これが今の私たちの現実。冷めない夢の中に閉じ込められているようで不安で怖くても、私たちは一人じゃない。
私は指先にきゅっと力を込める。パトリックも、同じように握り返してくれる。横を向いたら、パトリックも同じように横を向いて、優しく微笑んでくれた。私も微笑み返す。
よかった。沢渡部長と一緒で。これからも一緒にいられて。
パトリックの形のいいおでこが、私のおでこにこつん、と当てられる。沢渡部長も同じ気持ちでいてくれてるんだって、何故だか確信できた。
――コンコンコン。
ドアの音にはっと目を開ける。目の前に美しいパトリックの寝顔。まつ毛なっが…。
どうやら、私たちはあのまま眠ってしまっていたようだ。窓から差し込む太陽の光も、朝のそれとは違い、太陽がだいぶ高い位置にあることを知らせている。
コンコンコン。
もう一度ノックが聞こえて、私は慌てて身体を起こし、返事をした。
「はい」
「お嬢様、昼食はいかがいたしましょうか」
いつものメイドさんの声。どうしようかと隣に目をやると、ちょうどパトリックも目を覚ました。
「昼食、どうしますか?もう王城に帰らないとまずいですか?」
私が聞くと、寝起きのぼんやりした瞳で見つめ返してくる。――まどろんだ無防備な姿、可愛すぎる…!
本日2度目の破壊力満点な姿に、再び心臓を押さえる。
「昼食か…。軽くいただこうかな。今日は執務は休ませてもらうってしっかり言ってきたから、夕方までに帰れば大丈夫だし」
ゆっくりと身体を起こしながらパトリックが言った。
私がその旨をメイドさんに伝えると、
「承知いたしました。ご準備が整いましたら、またお声掛けいたします」
と下がっていった。
「ああ、本当に疲れがとれた気がする」
ぐいっと伸びをしながらパトリックが言う。たぶん、眠っていたのは2時間弱くらいなものだろうけど、仮眠を取ってすっきりできたならよかった。私もなんだか、朝より身体が軽い気がする。安心して眠れたからかな。
ベッドから降りたパトリックが、窓の外を見ながら言った。
「昼食の後、ちょっと街に出てみないか?」
街…。あ、パトリックルートのデートシーン!可愛いお店もいっぱいあって、パトリックがとにかくカッコよくて、あのシーンは私の中の名シーンベスト3にもランクインしている。
私の顔がぱあっと輝いたのを見て、満足気にパトリックが頷く。
「そう。あのシーン。初デートしよう」
「はい!」
素直に嬉しくて、私は満面の笑みで頷いた。
軽く昼食を取った私たちは、メイドさんたちいわく”平民カップルの街歩きデート”風の衣装に身を包み、街に出た。
服装だけではすぐに第一王子とわかってしまいそうなパトリックは、目立たないように魔法で髪色をダークブラウンに変えている。軽装も文句なしのカッコよさ。さすが私の最推し。眼福だよー。
私も、イライザの見事なブロンドでは目立ちすぎるため、同じようにブラウンに髪色を変えた。カラーリングいらないなんて、魔法ってなんて便利なんだ。
メイドさんがささっと、公爵令嬢が絶対にしないようなポニーテールにしてくれた。メイクもいつもよりナチュラルに。イライザもさすがのポテンシャル。こういうのもめっちゃ似合うじゃん!
ゲームの中で見た可愛いお店たちが実際に目の前に並ぶ光景は、興奮以外の何ものでもなかった。
「パトリック様、私、あの小物屋さんに行ってみたかったんです!あ、あのお店のスイーツも気になってました!あのアクセサリーのお店もある…!どうしよう、全部行きたい…」
大興奮の私を見て、パトリックが苦笑いする。それから優しく目を細めて、私の手を取った。
「そんなテンションのお前見るの初めてだな。いいじゃん、片っ端から行きたい店行こうぜ。回り切れなきゃ、また来ればいい」
私、はしゃぎすぎだ…。元社畜OLの分際で、浮かれてすみません…。でも、この光景を見てはしゃぐなって方が無理がある。ラブソニの世界観そのままのキュートな街並みは、大好きなテーマパークだって霞んでしまう。だって、これが全部現実なんだもん。
「よし、じゃあまず、ここから行こう」
パトリックが私の手を引いて、私が最初に指さした小物屋に入った。
ひとしきりお店を巡り歩き疲れた私たちは、市井で人気だとゲームでうたわれていたカフェで休憩した。
一番奥の窓際の席も、ゲームでアンジーとパトリックが座っていた席だ。ヒロインどころか悪役令嬢だったイライザが、ここにパトリックと座ることになるなんて、誰が予想できただろう?
「これ、ゲームの中でアンジーが飲んでたやつ…!」
鮮やかなブルーの飲み物に色とりどりのゼリーが入った、いかにも映えそうな飲み物を注文する。前世ではSNSなんてやってる暇もない社畜だったから、映えなんて気にしたこともなかったけど、綺麗な飲み物だなって思ってたんだよね。
「聖地巡礼、最高…」
私はあらためて街並みを見回しながら、うっとり呟いた。
「楽しんでくれてるようで、何よりだ」
アイスコーヒーを飲みながら、パトリックが笑う。そうだ、夢中すぎて私の行きたいとこばっか回っちゃったよ!パトリック連れ回しちゃった。
「たくさん付き合わせて、すみません…。わたしばっかり楽しんじゃって…」
「イライザの楽しそうな顔たくさん見れたから、俺も満足」
パトリックはゲームさながらのキラキラな笑顔で、いつもの頭ポンポンをしてくれた。
頭ポンポンをされながら、沢渡部長の時は彼女の買い物に連れまわされるような印象はなかったけど、実際はどうだったのかな、なんて考えて、ちょっと胸がちくりとした。
あれだけハイスぺでそのうえイケメンだったんだから、元カノの一人や二人や3人や4人…いなかったはずないよな。
その人たちも、こうやって頭ポンポンされてたのかな…。
ん?今の気持ちって…。
「イライザ?疲れたのか?」
パトリックが私の顔を覗き込む。
「いえいえ、大丈夫です!パトリック様こそ、お疲れでは?」
「俺はお前と一緒なら疲れを感じない」
ま、またそういうことを臆面もなく…。さらっとこんなセリフが出てくるなんて、やっぱ慣れてるってことなのかな。
また胸がチリっとした。
「何か、言いたいことがありそうだな?」
私の複雑な表情を読み取ったのか、パトリックがずいっと顔を近づけてきた。なんで気づいちゃうかな…。本当、この人に隠しごとはできないな。
「いえ、別に何も…」
「なんだよ。ちゃんと話せ。何か言いにくいことなのか?俺が何かしたか?」
「パトリック様は何もしてません!ただちょっと…。過去のこととか?考えちゃっただけで…」
「過去?まさか、大城の元カレのことでも思い出してたのか?」
パトリックの顔が険しくなる。
「ちっ、違いますよ!元カレのことなんて、全然!正直今の今まで忘れてました!むしろ、沢渡部長の元カノのことを…って、何でもないです!」
「俺の元カノ?なんで今?」
「いや…。沢渡部長モテてたし、お付き合いとか慣れてそうだし、きっと元カノもいっぱいいて、その方々にも優しくしてたんだろうな…なんて、考えてしまいまして…」
うわ、私めんどくさい奴じゃん!言ってて恥ずかしくなってきた!何なの私!学生時代の元カレにだって、こんな感情抱いたことなかったのに!
「――それは…、嫉妬してるってことか?俺の元カノに」
じっと瞳を覗き込まれて、私は俯く。ああ、もうやだ。なんでこんなこと言っちゃったんだろう。絶対ウザいと思われてる!
「あの、ごめんなさい…」
俯いたまま謝ると、盛大なため息が聞こえた。あ、呆れられた…?どうしよう。
「お前は、俺の理性を崩壊させようとしてんのか?そういうのは、二人だけのところで言えよ。ここじゃ何もできないだろ…」
ん?ちらっとパトリックを見上げると、天を仰ぎ額に手を当てたパトリックの姿。あれ、これ、今朝も見たな。
「嫉妬とか、可愛いことするなら、二人だけの時にしろって言ってんの!」
ぐいっと他の席に背を向けるように抱き寄せられ、ちゅっと手早くキスされる。
ちょっと、お客さんいっぱいいるのに!一気に耳まで熱くなる。
「ここじゃこれが限界だろうが!生殺しか?俺を試してんのか?」
「そんなわけないじゃないですか!こんなとこでいきなり何するんですか!」
「お前が可愛いこと言うからいけないんだ。大城に嫉妬される日が来るなんて…」
「し、嫉妬って!だって、気になっちゃったんだからしょうがないじゃないですか!」
「だからそれって、俺の過去が気になるほど、俺のことが好きになってるってことだろ?」
――えっと…そういうこと?わわわ、そういうことか!もはや顔から火が出てるんじゃないかと思うくらい熱い。死にたい!恥ずかしすぎる!
恥ずか死寸前の私の頭を、パトリックがわしゃわしゃする。
「確かに、元カノはいたけど、お前のこと好きになる前までだから、ここ3年くらいはいなかった。それに、俺から好きになって付き合ったのはお前が初めてだから。これまでは向こうから付き合ってって言われて付き合って、俺の態度に勝手に冷めて離れてくって感じの付き合いしかしてこなかった。だから、こんな風に好きなことに付き合って喜ぶ顔が見たいと思ったのも、どろどろに甘やかしたくなるのも、全部お前だけだ」
そっと顔を上げると、顔を背けて窓の外を見ているパトリックの耳も赤い。沢渡部長も照れてる?あの部長が?
「本当に…?頭ポンポンも、元カノさんたちにはしてないんですか…?」
「頭ポンポン…?あ、あれか。当たり前だろ。そんなことしたいと思ったのも、お前が初めてだっつーの」
パトリックがわしわしと自分の頭を掻いた。あ、この癖、沢渡部長もよくやってた…。二人の姿が重なって見える。
「私、めんどくさくないですか…?」
「あれだけ恋愛に無関心だった大城が、俺のこと好きになってこんなこと言ってんだぞ。めんどくさいわけあるか」
どうやら本当に、鬱陶しくは思われてなさそうだ。私は安堵のため息を漏らした。
「よかった…。私も、嫉妬なんてしたことなくて…。自分にこんな感情があるなんて思いませんでした…」
「お前…。だからそういう可愛いことを…。帰りの馬車の中、覚えとけよ…」
パトリックが、さっきわしゃわしゃにした私の髪を、耳を赤くしたままのぶすっとした表情で整えてくれた。ぶすっとしててもイケメンなんて、ずるいな。
できる限りの遠回りをしろとパトリックが御者さんに命じた帰りの馬車の中。
「俺がどんだけ我慢してたか、教えてやる」
その我慢のほどが嫌と言うほど伝わるキスが繰り返されたのは、言うまでもない。私の邸に着く頃にはすっかりどろどろにされて、もう頭が回らなかった。ねぇ、加減ってあるでしょうよ…。
「明日は、王城で婚約披露の打ち合わせをしよう。ウォーノック公爵にも予定を空けてもらったから」
私が魂を抜かれたようになっている間に、さっさとお父様との約束を取り付けたパトリックが、爽やかにキラキラを振りまいて馬車に乗り込む。見送る私の手を取り、指先にキスをした。
明日も、長い一日になりそうだ。
お読みくださり、ありがとうございます!
溺愛要素てんこ盛りな3作目となりました…。
まだまだ2人には色々なことが起こる予定。また続編でお会いできたらと思っております。
「黄泉がえり陽炎姫は最恐魔王に溺愛される〜黄泉落ちしかけて婚約破棄された私を助けたのは、一途すぎる魔王でした〜」
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もよろしくお願いいたします!