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第九話 サピエンティア隊集結 ムーたんその他登場

 漁港では、中途半端な革鎧を装着した、いかにもファンタジーな漁師の集団が出迎えてくれました。

 真ん中は、革鎧の面積がわたしの半分くらいのアマゾネスです。


「親父、来たか」

「おう。獲物はカマス頭じゃ。気合入れて付いて来い」

「ふん、この浜にゃ、腑抜けた奴はいねえ。親父こそなんだ、ガキがいるじゃねえか。身内か?」

「この二人はな。こっちの嬢ちゃんは侮るでないぞ。お前等に口で云うても判るまい。見て驚け。バーチェス達はどこじゃ」

「いつ来るか判らねえから、小船の護衛しながら大筏で待ってるぜ。飯は向こうだ」


 この人も老師様の娘の一人のようですね。紹介は大筏にいる人達と合流してからになりました。

 大筏はかなり大きな双胴船でした。前世で船をあまり見たことが無いらしく、良い例えが浮かばないのですが、古代人ならフィリピンからハワイまで行けそうです。

 そうですよね、亜竜獲るんですからこのくらいの大きさと安定性は必要です。


 待っていたのは、宮廷楽士頭をされている第二王子殿下(女性です。王の子は男も女も王子)の一人息子バーチェス公子、学院長の末子ラメール殿、名門フロウムアルビス家の令嬢ミューザレイヌ殿、そして六属性の嬢ちゃんことセネアチータ殿でした。全員十七歳で、少尉補。

 普通は卒業生で少尉補、優秀者が少尉なので、それだけ能力が高いのです。

 この四人は普通の部隊に入れると浮いてしまうらしくて、士官学校から別メニューの修行をさせられているのでした。


 バーチェス公子は武人ですが闘気弾が撃てない代わりに武器から伸びる気が長く、霊障壁も硬い特異体質。地属性が一級で火と風が二級。

 貴公子を絵に描いて実写化したみたいな人です。身長は老師様よりちょっと低くて、体付きもジュニアヘビー級。


 ラメール殿はそれ自体が珍しい雷属性一級で風属性二級。

 元々学究志望だったのですが、上位の雷属性だったため、運命だと感じて攻撃法術師になったのでした。

 雷撃は属性弾にはならないので飛びません。スタンガンと同じで、直接武器を敵に触れさせる必要があるので、ラメール殿は風属性の属性弾も撃てますが接近戦型です。

 昔は優男だったそうですが、今はアイドル兼ミドル級格闘家に見えます。それでも武人と並ぶと明らかに攻撃法術師なのですが。


 ミューザレイヌ殿は風属性一級火属性二級で特に衝撃波が強力。力の制御が上手くなくて、常に全力ブッパ。

  この世界の基本は個人の実力主義ですが、高能力者を産み出し続けている名門や名家と呼ばれている家柄はあるのです。

 セネアチータ殿は地水火風光心の六属性が全部二級のデラックス器用貧乏でした。

 ご両親とも財務局にお勤めで、中尉だそうです。

 十歳時の属性は三種類三級一つ四級二つが普通なのですが、二種類でも二級が一つあれば使い手が良く、当りと言われています。

 

 この面子に単属性の光属性特級の嬢ちゃんと紹介されました。バーチェス公子に貴女が隊長ですねと言われました。違いますよ。

 バーチェス公子は老師様の直弟子で同じ高速移動が出来るので、乗騎がいません。あとの三人は山羊です。

 ラメール殿の子は薄茶と焦げ茶の斑のムーリア。山羊にしては丸顔で、羊っぽくて優しく見えます。

 触れ合い広場で子供達からムーたんと呼ばれていて、そっちが自分の名前だと思っているらしく、ラメール殿もムーたんと呼んでいます。

 

 ミューザレイヌ殿の子は小麦色の毛にドリルみたいな大きな角のオリビル。名門令嬢の髪型が普通だと思ったら乗騎がドリルでした。

 セネアチータ殿の子は白いフレシュナイト。普通です。この中に入るとなんでここにみたいな感じになってしまいます。

 ワイサイト助教授がロンタノを隊長機と言ったので、殴ってやろうかと思いました。風属性二級なので当たらないからしませんけど。追い回してもからかわれるだけですし。


 まったく揺れない船の上でお昼ご飯です。


「港荒らしが棲み付きやがってよ、小船じゃちっと浜から離れた漁が出来ねえんで困ってたんだ。カマス頭が獲れりゃ、小魚が増えるし浜の仕事も増える。助かるぜ」


 アマゾネスの人ムスターナさんが言います。やはり先代の元締めの娘の娘です。今はお母様が元締め。一家の名前は昔からのベンスリオ。


「お弟子よ、港荒らしを何とか出来る道具はないんか」

「襲って来たところを爆音雷で倒すしかないですよね」

「それって魚の卵まで死んじゃうからやっちゃだめなんじゃ」

「そうだよ。爆音雷漁は禁止されてる。でも、襲われたらそんなこと言ってられないから」

「来年不漁になるのを覚悟で、小船で出て爆音雷撒き散らすしかねえか」


 ムスターナさんが腕を組んで溜息を吐きます。

 それがどんな生き物なのか、わたしだけ知らないんですよね。


「そもそも、どんな生き物なんですか。生態によってはもっと被害が少なく倒せるんじゃないかしら」


 ワイサイト助教授が教えてくれました。


「海棲のカエルなんだ。見た目はかなり人間に近くて少し大きい。脚が長いので立つと二腕半くらい。トカゲ類より霊気が薄くてもいいから港にも棲み付ける。でも普段は深みに隠れてるんだけど、船が近付くのがかなり遠くから判るらしくて、居そうなところに爆音雷投げても逃げた後」

「超音波ソナーで索敵しているなら、一斉に超音波流せば逃げて行くか、上手くすれば追い込み漁が出来ませんか。衝撃波を水中に使うより被害は無いはず。アクティブソナーって意図的な索敵だから魔獣化の恐れがあるんでしょうか」

「超音波出すだけならいいかもしれないけど、ソナーは危ないかな」

「親父がこのお人を侮るなと言ったのはこれか」

「いや、異界の知恵は嬢ちゃんの副業じゃ。本業はれえざあじゃ。今どのあたりに潜んどるか判るか」

「あの、出鼻の先の手前辺りに丁度いい深みがあるが」


 ムスターナさんがちょっと霞んで見えるくらいの向こうにある出鼻を指します。



「嬢ちゃん、思い切り一発撃ち込んでくれんか。一発だけなら、手当たり次第に爆音雷投げ込むよりましじゃ」


 やっていいのか確認のためにムスターナさんを見ます。


「撃ってもいいんでしょうか」

「こっから何か出来るってのか?」

「まあ、見とれ」

 

 特に反対されなかったので、暴発寸前まで溜め込んで撃ちました。海底火山が爆発したんじゃないのって感じになって、水蒸気が風で流されると、魚より大きいものが浮いているのが見えます。


「船出せ! 船!」

「生きてたら殺さないで!」


 ムスターナさんの命令に薬学科長が被せます。


「あいさあ!」


 どっちに返事したか判りませんが、スターリングエンジンのモーターボートが走って行きました。手漕ぎの小船も何艘か後を追います。

 モーターボートは水死体モドキを回収すると戻ってきて、手漕ぎの小船は漁を始めました。


「畜生め、まだ生きてやがら」


 網に入れてそれを持って来た漁師が笑いながら言います。よっぽど嫌ってるんですね。襲われたら死人も出ますから。

 かなり人間よりの半漁人です。手首足首の先が大きくて水掻きと鉤爪があって、髪の毛が無くて口が大きくて尖った歯が何層にもなっていて、背中は深緑でお腹が薄い緑色、くらいの違いです。

 皮膚はつるっとしているので、仰向けに浮いていたら人間の水死体に見えますよ。そう見せて近付いてきた人を襲ったりもするようで、浮いている死体には近付くなと子供の頃から教えられるそうです。


 大きな獲物を吊るす二本の柱に渡した横木に逆さ吊りにされて、生き血を抜かれます。腑分け大好きさんもスタンバっていますよ。

 太い針を頚動脈に刺して、ビニールパックみたいな柔らかいガラスの袋に血がたまって行きます。つい見てしまった。


 みんな上機嫌です。ムスターナさんにがっちり肩を掴まれました。斑狼の肩当がなかったら握り潰されていたでしょう。


「すっげや中尉さん、あれ喰らやあカマス頭でも痛えぜ」

「あれで、痛いだけですか」

「ま、竜に近い魔物だで。それは心配せんでええよ。戦うのは儂じゃから。危なかったらロンタノに乗って逃げりゃええわ。乗騎は皆、人乗せて泳げるでな」


 車の中で苛めたのの仕返しですよね。本当にロンタノに乗って逃げるような事には、ならないはず。老師様が強いのだけは信じていますよ。

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