第六話 ヒヒジジイVSジジイヒヒ
戦士系ばかりでは寄って来ないので、採集に来た振りをするためにも囮役が必要なのですが、陽だまり水瓜が欲しい薬学科の女性陣が名乗り出てくれました。
幸い斑狼の革があるので、鎧を作れます。砦の衛士の人達が羨ましそう。
鎧が出来上がったら出撃です。老師様の手勢にも女性はいるのですが、単に女性の戦士です。
薬学科の集団はちゃんと装甲が張り付いてるのに、なぜかエロマンガ的です。
素人が肌の見える鎧着けているとコスプレっぽいんですね。わたしもこう見えるんでしょう。
錬成科長と助教授二人は作務衣風作業着のままです。近衛将校は着たらだめらしいです。
気にしてもしょうがないので、西に向かいます。思ったより早く空き地に到着しました。戦いになると潰れてしまうので、真っ先に高級水瓜を採集してしまいます。
ついでに廻りにある珍しい植物も採集し始めました。わたしには判らないのですが、ずっときゃあきゃあ騒いでいます。
錬成科二人もなにか拾っていますね。奥とは別の物があるんでしょうか。ここに来て専門知識がまったくないのに気付かされます。
短期間でフラッシュも出来るようになったから、充填役しか出来ないわけじゃないけど。今のわたしは攻撃霊法師なんですよね。強ければいいんです。
「雌猿来おったわ」
老師様が指差す方を見ると、猿鬼女がいます。
「れえざあで撃っておくれ。儂の力を見せたくないで。まだ儂の索敵にも引っ掛からんが、見とるじゃろ」
「はい」
顔が見えている時にはレーザーで撃つ練習もしています。「ぶお」くらいの威力で撃ちましたが、左目あたりが破裂して落ちました。
脳まで損傷しているでしょう。それで木から落ちればだめなはず。
植物を漁っていた薬学科助教授が走って行きます。老師様は手勢三人に護衛させました。
「嬢ちゃん、奴がおるぞ、三時方向じゃ。まだ見るな」
「はい。溜めはどうしましょう」
「保てるなら溜めておくれ。当たらんでも良いからいきなりぶっぱなしとくれ」
「はい」
薬学科助教授が猿鬼女の死体を収納して戻ると、老師様は全員に立たないように指示しました。
「見とるだけで動かんな。三時方向の木、高さ三十腕じゃ。撃て!」
横を向くと同時に言われた辺りを撃ちます。大木の幹が破裂しました。木から飛び離れた何かに老師様が走り寄ります。
流石に瞬間移動には見えない距離だったのですが、一旦地面に落ちて別の木に飛び移ろうとした大猿らしき物の脛を、穂先から伸びた気が刺しました。
バランスを崩されて、太い幹の中途半端な位置にしがみ付きました。
「嬢ちゃん、もう一発じゃ!」
答える代わりに猿の肩を撃ちます。毛が飛び散った程度ですが、また落ちました。着地を狙って老師様が膝に闘気弾を撃ち込みました。
肩も膝も左ですね。走る事も両手で跳べもしないでしょう。
逃げられないと覚悟したのか、片足で跳んで老師様に右腕を振り上げましたが、躱しざまに喉を斬り上げられてしまいました。
突かれた首の反対側の毛が飛び散って、三メートルくらいありそうな猿がうつ伏せになりました。
「見えりゃ届くつうのは恐ろしいのう」
わたしが撃った肩口の損傷を確認している老師様に、山羊を走らせた薬学科助教授が寄って行きました。
「よろしいでしょうか」
「おう、好きにせい」
「はい、ありがとう御座います」
で、老師様がわたしに寄って来られます。
「嬢ちゃん、ここでの修行はもうええじゃろ。海行かんか」
やだって言いたい。
「どうでしょう、錬成科としては、いかがでしょうか」
他人に判断を押し付けます。
「どうじゃ、若賢者殿」
「思っていた以上に射撃の腕が良いです。基礎能力の上昇も予定以上です。むしろ、古老狒々の始末がなければもう少し早くとも良かったと思います」
この世界でわたしの味方はロンタノだけですね。
帰ってみんなで高級水瓜を食べましたよ。マンゴーみたいな匂いの夕張メロンでした。
他人が採って来たのなら食べたいけど、もう一度自分で採りに行くきはありません。