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第三話 ロンタノ

 兵員輸送車のような大きな車の、老師様の隣に乗せられました。助教授の人とユリアナちゃん、第二錬成科長先生とセルビアーナさんが組みなので仕方ありません。


「やあ、生きとってよかったわい。指令職を譲ってから退屈でな、まだ二、三十年生きるのかと思うとうんざりだったんじゃ。嬢ちゃんと一緒なら、河蛇竜が獲れる」


 何を言っているんでしょう、この方は。河蛇竜って、ナーガですよ。水棲のワームタイプのドラゴンです。


「いきなり竜は無理でしょう。妖女鳥からです。明るい内に何匹か落としておけば、夕暮れに砦を襲ってくるでしょうから、それを落とせば肝も手に入るでしょう」


 錬成科長先生も、止める振りして結構な無茶を言ってくれます。砦って、魔獣の棲む森の近くの採集基地の事ですよね。そこがスタートってその後なにさせる気ですか。

 妖女鳥は人間の女の背中に羽根が生えた四足獣です。尻尾も体毛もなく、頭髪の代わりに細い羽毛が生えていて、四肢の手首足首の先は猛禽類の足の、かなり危険な魔物です。ハーピーの倍危ない感じ。

 

「それは仕方ないか。あそこでは儂の働きはいらんで、お弟子よ、六属性の嬢ちゃんはどのくらい強うなった」

「鴎が一人で落とせます」

「おう、なら、れえざあの嬢ちゃんと組めば、カマス頭が呼べるか」

「いけると思います」

「では、儂は海に行く用意しておくで」

「お願いします」


 わたしの人生が勝手に決められて行きます。封建主義国家です。

 何だか判らない内に、中央広場に付属している触れ合い広場に付きました。子供の頃は、ここで動物達と遊ぶのが楽しみでした。


「ロンタノ」


 錬成科長先生が呼ばれると、もこもこの子牛がやって来ます。藪牛と言う毛の長い牛なのですが、子牛はふわっとしていてぬいぐるみみたいなんです。地球にもそんな感じのがいたはず。ハイランドキャトルでしたっけ。

 遠くにいる時には子牛に見えたのですが、近くに来ると普通の大人の牛の大きさです。地球のホルスタインよりちょっと小さいようですが。


「薬学科長のガラデニアの乗騎の子なのだ。性格も大人しくて良い子なのだが、この見た目なので衛士は乗騎に選ばないのだ」


 錬成科長先生はこの子と知り合いだったようです。

 たしかに、子牛と言うより巨大ぬいぐるみなので、戦士系の人は乗らないでしょうね。わたしならいいんじゃなか、とおっしゃりたいのですね。

 見てる分には、とても可愛いのですけど。この子に乗っていると、働く歳なのに子牛と遊んでいるように見えますね。


「姉さま、ロンタノは乗騎のお仕事したいのです」


 ユリアナちゃんにお願いされてしまいました。

 乗騎になる牛や山羊は人間の十歳以上の知能があって、言葉は全部判ります。家畜ではなく雇うのです。


「ロンタノ、わたしを乗せてくれる?」

「むうううう!」


 思いっ切り嬉しそう。そうよね、他人からどう見えるかなんて気にする必要ないのよ。


「なんだかとても危ないお仕事になりそうなんだけど、ロンタノ、一緒に行ってね」

「むう、うう、うう」


 もこもこのおでこを軽く押し付けて来ます。可愛いいい。

 鞍を付けて貰います。地球の乗馬用の硬いのじゃなくて、この世界にはクルーザーバイクのシートみたいな柔らか目のがあります。

 乗って広場から出ようとしたら、子供達にちょっと抵抗されました。人気者だったのですよ。

 わたしと遠征するようなお仕事のない時は、触れ合い広場に来て子供達と遊ぶ約束をさせられました。わたしじゃなくて、ロンタノが。


 ロンタノはお母さんと一緒に学院の乗騎舎に住んでいるので、そちらに帰ります。自宅で世話するのは無理ですよ。

 わたしは両親と妹のいる、王都の最初の外壁だった公務員宿舎に帰ります。今ではこの壁の外に中流階級用の街があります。

 家族にいきなり出世して準備が整ったら妖女鳥を撃ちに行かないとけないのを話したのですが、大喜びされただけでした。


 後衛なので危険は少ないのかもしれませんが、もうちょっと心配して欲しかった。

 光属性でなかったら特級ならもっと早くに出世して、攻撃法術師だと射程がだいぶ短い訳で、それよりはマシなので、親的には一番上手くいった感じなのでしょう。

 妹はロンタノを独り占め出来ると勘違いして喜んでいます。ユリアナちゃんと比べるとしょうもない子供です。あの子が苦労しすぎなんだけど。


 翌日正式に近衛特務少尉に昇進か決まって、防具の将校用革鎧一式と十桶入り収納の腕輪が下賜されました。

 四次元収納あるんですよ。収納量の千分の一の重さがあります。

 一桶は十枡で雰囲気十リットルです。一腕一メートル、一指十センチと見るとメートル法がそのまま当てはまります。

 ちなみに一日は三十二時間です。誰なんでしょう地球で四の次を三で割った人は。


 名誉近衛将校なので、あまりへりくだってもいけないらしく、学院の関係者は先生を付けずに役職で呼ぶようになりました。

 魔獣革を錬成した鎧も着てみました。素肌に張り付くんですよ。魔法的な装備なので。人間の技は霊法と言って魔法じゃありませんが。

 明るいお色気の女戦士みたいになりました。全身のオーラバリアが強化されるので、部分鎧でかまわないのです。

 この世界には下着がありません。今までは緩いワンピースみたいなのだったので、そんなに気にもならなかったのですが。

 誰も気にしないので、何が見えても恥ずかしくない。鞍には当て布をします。


 三日後に軍のお迎えが来ました。特務少尉殿と呼ばれました。

 砦までは兵員輸送車で行って、向こうでロンタノに乗る練習をする予定です。で、その兵員輸送車に凄く偉い方が乗っていますよ。

 と言うかこの車がその方の私物なのです。


「海の準備はよろしいのですか」

「そんなもんは、儂がやれと言えば誰かがやるから、ええんじゃ。クソ鳥がおらんなら森の少し奥に行けるで。嬢ちゃんは一月くらい帰って来んからな。一緒に行った方が退屈せんで済む」


 退屈凌ぎに付いて来られても困るんですが。付いて来るんじゃなくて、こちらが連れて行かれているのですけど。

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