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アイズシャット  作者: 海老アボカド
2/5

二話

「明里---! 昼休み終わるよ―――起きて―――!」


 机の上で畳んだ肘から頭を持ち上げる。 爆睡してたせいか机に涎があることに気づき、シャツの袖で隠して振り向くと、クラスメートの優子と紫帆が立っていた。


「なに?」


「さっき廊下で聞いたんだけどさ、ウチの高校でも失踪した生徒出たらしいよ? 先生たちは言わないけど結構騒ぎになってるっぽい」


「マジ⁈ てか昨日ワタシの家の近くにグレーのスウェット男いたよ⁈」


「ちょー怖いんだけど! 明里もウチらと一緒に帰ろうよ」


「うん。いいけど……」


 今日、アタシは風花を守ると決めた。何ができるのか分からないけど、とにかく風花に悪いことをする奴をボコボコにしたい。


 ただ風花はアタシに会うのを多分嫌がっている。だけど……


「ちょっと駅前の方寄ってかない?」


 アタシは決めたんだ。




「ねーなんで寄り道するのー?」


「先生にダメって言われてたじゃ―ん」


「く、クレープ食べたくて! 最近新しいお店出たって聞いたから」


 風花のお母さんから駅の近くにアパートを借りているという話は聞いていた。


 だから多分、駅の近くで待っていれば風花が来るハズ。




「これメチャクチャ美味いんだけど!」


「マジ⁈ ウチのもめっっちゃ美味いから食べてみ!」


「……」


 アタシは女刑事のごとく、クレープを頬張りながら駅から出てくる人たちを見張る。


「ねーあかりはなんで駅の方ばっか見てんの?」


「ウチのクレープ食べて機嫌直せってさ~」


「別に機嫌悪いわけじゃないけど……」


 ぱくっ


「あっうんまっ……」


「でしょでしょ!」


「ってこんな事してる場合じゃなくて!」


 ハッとなって駅の方を振り帰ると、水仙高校の制服を着た4,5人のグループがぞろぞろと現れた。


 その中に一際小さい女の子が見える。


「ごめん! やっぱりアタシ一人で帰るから! 今日はありがとう! また明日ね!」


 クレープを口の中に放り込むと、一目散に走った。


「……アイツほんとどうしたの?」


「カレシじゃない?」




「ふーかっ!ふーかっ!」


 アタシが駆け寄ると、水仙高校のグループは風花の方に振り向いた。


 風花はアタシと目を合わせたあと、申し訳なさそうに小さい声で呟いた。


「わたし今日はこの人と帰るので……みんな先に帰ってください」


 二人っきりになったあと、数秒間の沈黙が続き、それから風花が口を開いた。


「お茶でも飲む?」




「ここよく来るんだ。雰囲気が好きで」


 アタシと風花は駅から少し離れた喫茶店に行った。


「確かにいいお店だね……」


 ストローを指でつまみながらアイスコーヒーを飲む風花。いつからそんな苦い飲み物飲めるようになったんだろう。


「急にどうしたの?」


「急にって、ずっーと連絡くれなかった()()が悪いんだよ⁈」


「確かにそうだね……でもわたしなりの理由があったの」


「理由?」


「わたし今までずっーと明里ちゃんに頼ってばっかだったから。高校落ちた時に決心したの。『もう一人でなんでも出来るようになるぞ』って」


「だからメールも無視しちゃったの。明里ちゃんに弱音ばっか吐いちゃいそうで」


「今は学校でも友達が出来て、楽しく過ごせてるよ。わたし、明里ちゃんがいるとダメ人間になっちゃうの」


 風花はニコッと微笑んだ。それはアタシが見てきた風花の表情とは微妙に違ってみえた。


 手元のミルクティーをガバッと飲むと例の失踪事件の話を思い出した。


「てか水仙高校で失踪事件起きたじゃん! 風花大丈夫なの?」


「あー。あれね。本当に怖い……」


「アタシはそれが心配で来たの! 風花を守ろうと思って……」


「守る?」


「今日から風花を家まで送り迎えしようと思って! 風花の家の場所知らないし……」


「そんな事しなくていいよ……わたしの家汚いから、片付くまで明里ちゃんに来てもらいたくないの」


「で、でもっ心配だし、アタシは風花が事件に巻き込まれないか本気で心配してるんだよ?」


「明里ちゃん」


 冷たく、落ち着ききった風花の声が耳に響く。


「わたし達同い年だよ? それなのになんで『守る』とか言ってくるの?」


「わたしは明里ちゃんの妹じゃないよ」


 風花は少しため息をつくと、財布から千円札を出して椅子から立ち上がった。


「これで払っといて。じゃあね」


 声を出そうとしたが口が開かず、引き留めようと思ったが体が動かなかった。




 スマホの時計は六時二十分を指し、陽は徐々に沈みかけていた。


『わたしは明里ちゃんの妹じゃない』


 喫茶店を出てからも、この言葉がグルグルと頭を回っていた。


 風花は今までずっとあんな事を考えていたのだろうか。アタシは風花にとって邪魔な存在だったのだろうか。


 自然と涙がポロポロとこぼれていた。


 でも同時に、「風花にアタシの良いトコを見せたい」という感情が湧いた。


 風花が怖がっている失踪事件の原因を突き止めれば、風花はアタシを認めてくれて仲直りしてくれるはず。


 頬に伝う涙を手のひらで拭い、決意を固める。


 アタシは家の帰り道に護身用具専門店へ立ち寄った。


 スタンガンを手に取ると自然と笑顔が込み上げてきた。


 そっか。これがアタシが求めていた″イベント"なんだ。


 アタシのルーティーンが変わる、そう考えると体が震えているのが分かった。


 意気揚々とスタンガンをレジに持っていく。


「お会計が八千五百円になりまーす」


 ……値段には目をつぶろう。

 


 




 

 







  

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