一話
ぱちっ。起床!
今日はアタシ、芝崎明里のモーニングルーティーンを紹介します。
ぐちゃぐちゃになったタオルケットをどかして、パジャマを脱ぐ。
眼は半開きで頭の中はグルグルしたまま、制服に着替えて朝ご飯を食べるために一階に降ります。
朝はいつも何処で買ってきたのか分からないバカでかい袋のコーンフレークを食べてます。お母さんはいつも手を抜きがち。
朝ご飯を食べたら歯を磨いて、髪をセットして、バッグを持って高校まで歩く。
それがずっと!
……サイアク。
いつもいつも繰り返し同じ行動をするだけ。何の変化も驚きもない。
起きた時に天井にゴキブリがペタッと張り付いてるくらいのイベントがあった方が楽しいと思う。
いや、ほんとにいたらイヤなんだけどさ……
別に学校に行ったってそれは同じ。
毎日同じ席に座って授業を受ける。お昼ご飯を食べて授業を受けて、放課後は家に帰る……
変わるコトと言えば時間割と食堂のメニューくらい?
「はぁぁぁづまんない~~~」
「おい! 今授業の文句言ったやつ誰だ!」
「……アタシです」
「あーあ。今日も何もイベントが起きなかったな~」
帰宅部の私は放課後いつも一人で帰っている。
クラスでもフツーってカンジ。気軽に話せる子はいっぱいいるけど高校のコと遊びに行ったことはない。
こんな時、風花がいたらなぁ~って思う。
小森風花。アタシと幼稚園からの幼馴染で、背の小さいちょー可愛い女の子。
中学までは放課後は毎日のように遊んでいて、妹みたいに愛おしかった。
高校は絶対同じとこに行こうって決めてたけど、そこそこの進学のウチの高校は倍率も高くてアタシだけが受かってしまった。
模試でも定期テストでもアタシよりいい成績だった風花が落ちたことが、今でも不思議に思える。
それから風花は隣町の私立に入学し、『自立したいから』という理由で引っ越してしまった。
風花は未だにアタシに住んでいる場所を教えてくれないし、高校入学を機に連絡も途絶えている。
『自立したいから』という理由も多分嘘だと思う。
風花の家はアタシの家から歩いて10秒くらいの所にある。
「明里ちゃんと朝に顔を合わせるのが嫌で引っ越したんじゃない?」 と風花のママも言ってた。
帰り道にハンバーガーとか食べたり、駅前のショップに服を買いに行ったり、一緒にテスト勉強したり……
風花となら、そんな毎日でも最高だった。
スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
『小森風花』のトーク画面をタップし、『元気にしてる? 暑いから夏バテ気を付けてね』と打ち込む。
フキダシがふっと浮かび上がる。上にはアタシが送った『高校変わっちゃったけど週末は遊びに行こうね!』が未読のまま放置されている。
今日も完成されたモーニングルーティーンを終え、いつも通り朝のホームルームが始まった。
「じゃあ出席取るぞー! っとその前に……」
いつも元気な担任の黒田先生が、神妙な表情に変わった。
「最近、隣町の方で高校生の失踪事件が二件起きている。どっちも水仙高校の生徒だ」
水仙高校……? 風花の通っている高校だ。
「水仙高校の付近では上下グレーのスウェットを着た男が不審者として目撃されているらしい。お前らも放課後は寄り道しないように真っ直ぐ家に帰ること! 以上!」
ざわざわと騒ぎ出す教室内。アタシは眼を閉じて風花の顔を思い浮かべた。
「アタシが風花を守らなきゃ……!」