100%の男
俺は100%の男。
俺の考えたことは、すべて100%の確率で実現する。
たとえば、散歩していてアスファルトの穴に気付いた時。
危ないなと思ったら、絶対に躓いて、転ぶ。
たとえば、レトルトカレーの袋を開ける時。
カレーが飛ぶかもと思ったら、絶対に飛んで、白いTシャツに黄色いシミがつく。
もともと、運が悪いと自負していた。
皿を洗おうとスポンジに手を伸ばせば、握った瞬間に汚い汁がこちらに飛んでくる。
行列に並んで限定品をゲットしようと張り切れば、目の前の客で売り切れる。
たくさんあるりんごの中からうまそうなのをひとつ選んで買えば、中身が腐っている。
さんざんためし書きをしたペンを横に追いやって使ってないものを買ってみれば不良品だし、スタンプはインクが乾いている。
珍しく五百円玉を落とせばちょうどいい位置にグレーチングがあって吸い込まれるし、両替で出てくる千円札はぼろぼろだ。
軒下に蜂が一匹飛んでるなあと思えば、買い物帰りに袖の中に入って刺されるし、食べかけのグミを放置すればアリが集る。
ションベンがしてえなあと思って駅のトイレに駆け込めば足元がびちょびちょだし、あいてる個室に駆け込めばうんこが流してない。
良いことは起きずに、悪いことばかり引き当てる。
良いことは起きないのに、悪いことばかり起きてしまう。
良いことはどれほど思い浮かべても実現しないのに、悪いことばかり簡単に実現してしまうのだ。
どうにもこうにも・・・引きが強いのだ。
どうしたことか・・・予感が当たるのだ。
悪いことばかり実現するのが、実に厄介なのだ。
良いことは実現するはずがないと、おそらく…あきらめているからなのだろう。
悪いことはどうせ実現するのだと、おそらく…受け入れているからなのだろう。
何かをしようとした時、ほんの少し、こうなったらやだなと、思い浮かべると、必ずその通りに実現してしまうのだ。
アスファルトの穴に躓いて転びたくないなあと思ったら最後、絶対に躓く。
レトルトカレーの汁が飛んだらTシャツ汚れるなあと思ったら最後、絶対に白いTシャツは汚れる。
汚いスポンジの汁飛んできたらやだなあと思ったら最後、絶対に顔に飛んでくる。
行列に並んで買えないとかサイテーだよなと思ったら最後、絶対に自分は買えなくなる。
こんなにたくさんあるりんごの中から食えないやつ引いちゃったりしてと思ったら最後、絶対に食えないやつをひく羽目になる。
ためし書きしたペンはインクの量が減ってるだろうし一回も使ってないやつ買おう、こんなにたくさんあるしまさか選んだのが不良品ってことはないだろと思ったら最後、絶対に使えないやつを買うことになる。
ジュースを買おうと財布を出した時にグレーチングを見かけてここに金落としたら拾えねえなあと思ったら最後、絶対に500円玉を失うことになる。
きれいなピン札がほしいなあ、でもどうせセロハンテープで修復したのしか出ねえんだろと思えば絶対にその通りになる。
蜂が近くを飛んでて怖いなあと思えば近くどころか直接肌の上にのっかってくるし、アリが集るかもとちらりと思っただけでおぞましい黒のうごめきを見るはめになる。
トイレはキレイにしておいて欲しいのにどこもかしこも結局汚れてるんだろうなとヤサグレれば、その期待は絶対に裏切られることなく必ず汚れたトイレに遭遇するのだ。
やることなすこと、すべて自分の望まない展開になってしまい、非常にストレスがたまる。
こんなことなら早いとこ人生を終えて、チートでも引っさげて転生したい、そんなことを考えてしまったんだな。
やけに明るい空の色を見て、俺はこの世の滅亡を予感した。
ようやくこれで、つまんねえ人生も終わりだと、ホッとしたのも、つかの間。
いつものくせで、しょうもないことを考えてしまったのだ。
―――たった一人、無傷で生き残ったりして
―――たった一人、不老不死になったりして
―――たった一人、途方にくれることになったりして
アスファルトの穴に躓いて、転び。
白いTシャツに赤いシミをつけ。
干からびたりんごをかじりながら。
溶けたペンを握っても色が出ずにイラついて。
使い道のなくなった五百円玉を投げつけながら、死んだ虫を踏んで足の裏を負傷し。
人の成れの果てが積み重なっている灰色の大地に排泄物を撒き散らし。
なにをしても、なにも変わらない。
なにをしても、なにもおきない。
なにをしても、なにも思い浮かばない。
こうなったら嫌だなと思うことが、なくなった。
こうなったら嫌だなと思えないくらい、嫌なことしか目の前にない。
……どうせ、ずっと、このままさ。
誰もいなくなった地球で、俺はただ一人…、やさぐれている。
……どうせ、ずっと、変わらないんだ。
誰もいなくなった地球で、俺はただ一人…、不幸だった日々を思い出している。
誰もいなくなった地球で、俺はただ一人…、幸せだった日々を思い出している。