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「そういえば、ウッチー! タヌ子の顔、知ってるんだよね! ちょっと似顔絵描いてくれない!」
―我ながらいいアイデアだ! 美大卒のウッチーだったらタヌ子そっくりの絵を描いてくれるに違いない!
「わかりました!」
ウッチーはドヤ顔でそう言った。
しばらくして彼は出来上がったタヌ子の似顔絵を持って来た。
「…何だ…これは…」
僕は唖然とした。
「ドヒャヒャヒャヒャ」
エマはその絵を見て腹を抱えて笑い転げた。
ウッチーは画伯だった…。
いくらタヌ子の本当の顔を知らない僕が見ても、ウッチーの描いたタヌ子は、本人とはかけ離れた物だとすぐ分かる。
ピカソの抽象画のようだった。デザインは素晴らしくても、似顔絵の才能は皆無のようだ。
―いや…芸術という観点から見ると、ものすごい才能を持っているのかもしれないけど…。でもそういうのは今必要ない! それじゃタヌ子は探せない!
「エマ! 君、アニメ制作してるんだよね! 絵が上手いんじゃない? タヌ子の顔、描いてくれないか?」
僕は最後の望みをエマに賭けた。
「良カロウ…」
エマはそう言うと、奥のテーブルで似顔絵を描き始めた。
―神様、お願いします! 今度こそ…今度こそタヌ子の顔を!
「ホラ! 我ナガラ素晴ラシイ出来ダ!」
エマは似顔絵を持って来た。
―ウッチー以上に画伯だった…。タヌ子…どころか、その絵はもはや人間の顔を表してすらいなかった…。
僕はガックリと肩を落とした。
そして気持ちはドン深闇に落ちていった。
もう無理なんじゃないかと思えてきた。
―もしかすると…このまま一生会えないんじゃないか…
焦りが日々増してくる。
―タヌ子に会いたい! タヌ子のフカフカのお腹に顔をうずめたい。タヌ子…どこにいるんだ…。
仕事が手に着かない。僕はデスクの上で頭を抱えた。
その時、窓辺で信楽焼のタヌキにハンディモップをかけていたウッチーが慌てふためいて僕を呼んだ。
「ヒ、ヒロキさん!」
ウッチーは窓の外を指差している。
その指は震えて、目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「外にめっちゃキレイな人がこっち見て立ってるんスけどー。」
彼はポロポロと涙を流しながら、いつかと同じ言葉を呟いた。
僕は外に飛び出した。
―そのまま! 今向かうから! 俺が行くまでそこで待ってて!




