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「タヌ子さんって、グルメだね」




 猪突猛進なタヌ子の勢いで、あれよあれよという間にオープンテラスのオシャレなレストランに連れ去られてしまった。


 このレストラン、僕は初めてだけど、よくテレビドラマやなんかで見かける大きな銀杏並木沿いに立つイタリアンレストランだ。


 前を通るたび、いつか彼女とデートで利用しようかなと思っていた店だけど…まさか初めて行く相手がこの大ダヌキとはっ!!!



「朝ね~、テレビ見ながらお掃除していたら、ここのお店の紹介してて…いいな~、オシャレだな~、美味しそうだな~、ヒロキと一緒に行きたいな~って思って…思い切って事務所にお誘いに来たの。」


 タヌ子はモジモジしながらそう言った。ケモノなりに頑張って勇気を出したのか、タヌ子の表情に恥ずかしさが滲み出ているを感じた。


「ヒロキ、仕事抜け出して大丈夫だった? タヌ子、迷惑かけてない?」

タヌ子はそう言って気遣いを見せながらも、用意周到、テレビを見た後に速攻で予約も入れていたようだ。


―初めっから何があっても行くつもりだったんでしょ?


 僕はそう思いながらも、嬉しそうにモジモジしているタヌキを見るとなんだか可愛くて怒る気にはなれなかった。



「シチリア風カジキのインヴォルチーニレモンと香草のソース”でございます。」

ウェイターが料理をテーブルの上に乗せると、タヌ子の丸くて大きな目がさらに大きくなり、スワロフスキーのクリスタルみたいにキラッキラに輝いた。


「いただきまーす!」

タヌ子は両手を合わせてそう言うと、美味しそうにパクパク食べた。


 一口食べるごとに、タヌ子は顔全体で幸せを噛みしめた。僕は頬杖をついてそんな幸せそうなタヌキを眺めていた。癒される…。何故か知らないけど癒されてしまう…。


―かわいいな…。


 ニコニコしながら美味しそうに食べているタヌキを眺めていたら、なんだかすごく心が和んだ。


―そんなに美味しいのか? もっと食べろ、タヌ子。俺のもあげようか? 


 なんだか愛するペットにエサをやっている気分になってきた。


 並木道沿いのオシャレなオープンテラスのレストランで、信楽焼き風の大ダヌキと向かい合ってランチを取る。


 考えてみたら異様な光景だが…悪くない。いや、むしろ心地良いとさえ感じてしまう。タヌ子は僕にしかタヌキには見えていないようだし、もし仮に本当にタヌキだったとしても、この心地良さで回りの目なんかどうでもいいような気がしてきた。



「ヒロキお腹すいてないの? 美味しいよ。食べて! 食べて!」

タヌ子がニコニコしながら話しかけた。


―ニコニコタヌキ、可愛いなぁ…。


僕はニコニコタヌキをニコニコ笑顔で眺め続けた。


「ここは、タヌ子がお支払いしますよ。誘ったのタヌ子だし、今日はお給料も入ったしね。」

ふとタヌ子が意外な事を言った。


―ん? お給料? タヌ子仕事してるの? タヌキなのに仕事出来るの? 何の仕事なの? 


 ノンキにテラスで食事なんかしているけど、そもそも俺はタヌ子の事をほとんど知らない。


 一応とりあえず一緒に住んでいるんだから、お互いの事はある程度知っておかなきゃな…。


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