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 妹二人は学校に通っていたが、キヨは通わせてもらえず、家で仕事ばかりさせられた。


 小さな弟の面倒は全てキヨがみていた。


 憎らしいと思いながらも毎日弟の世話をしていると次第に愛情が湧いてきた。


 そして弟も「姉ちゃん」といって慕ってくれた。


 キヨにとっては、そんな弟だけが心の支えだった。


 弟は生まれつき体が弱く色白で痩せていた。声もか細かったせいで聞き取りにくく、そのせいでよく勘違いされ同級生から虐められていた。


 キヨはそんな弟をいつも助けに行って、いじめっ子たちを追い払った。


 キヨはその度、殴られることも多かった。体中打撲や傷だらけになることも多かった。


 だけどキヨは命がけでこの弟だけは守ろうと思っていた。


 唯一慕ってくれていた弟だったが、成長するにつれ、自分の置かれている環境や家族の力関係が分かってきた。


 それ故、弟は次第にキヨから距離を置きたがるようになっていった。


 キヨといえば、弟のそんな態度にも関わらず、変わらぬ愛情を注いでいた。


 そして事は起こった。




 ある日、キヨが畑仕事を終えて家へ戻ると家族は大騒ぎをしていた。


 すぐ下の妹の婚礼為に用意していたお金が無くなっていると言うのだ。


 両親たちは血の繋がらない妹たちだけに良縁を探していて、ついこの間その妹の嫁ぎ先を見つけてきたところだった。


 家族は真っ先にキヨを疑った。妹に対する腹いせでやったのだろうと口々に言った。しかし本当は弟がその金を盗んだのだった。


 いつも弟を虐めていた同級生たちが弟にその金を持ってこさせたのだ。


 奴らは姉の婚礼があることを知っていたので、分かった上での犯行だった。弟は怖さのあまりその金を盗み出した。


 キヨは弟の様子から、弟が犯人だと気づいていた。誰もいない時を見計らって弟に聞いてみた。すると弟は、


「姉ちゃんなんかに何が分かるってんだ! 金を渡さなかったら俺は殺されちまってたよ!」

そう言って泣き叫んだ。


 キヨはそんな弟をギュっと抱きしめ、そして無言でその場を去った。


 向かった先は弟から金をむしり取った弟の同級生の元だった。


 同級生たちは金を見せびらかしあって騒いでいた。そこにキヨは怒鳴り込んでいった。


 当然同級生たちは相手にせずその場を去ろうとした。


 しかしキヨは逃がさなかった。前に回り込んでその手から金を取り返そうとした。


 同級生はキヨを突き飛ばした。そのうちの一人はキヨの顔を思いっきり殴った。もう一人は倒れたキヨの体を蹴り上げた。


 キヨはうめき声をあげて苦しんだ。男たちはそれを見て高笑いした。


 そしてその場を去ろうとした時、その一人の足をキヨが掴んだ。


「何だ、コイツ!」


 男は絡みつくキヨの手を振り払おうと、また思いっきりキヨを蹴とばした。


 キヨはまたうめき声をあげた。しかしキヨは絶対に手を放そうとしなかった。男たちはさらにキヨを打ちのめした。


「返せ…返せ…私の大事な弟から盗んだ金を…返せ!」

キヨはかすれるような声で叫んだ。


 そして決してあきらめる事なく男の足を離さなかった。キヨは男の足を掴んだまま、力を振り絞って立ち上がった。


 そして男の脇腹に思いっきり噛みついた。肉が避けるほどに噛みついた。


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!」

男の叫び声が辺り一面に響いた。


 男は痛みのあまり金の入った袋を落とした。


 キヨはすぐさまそれを拾い上げた。そしてフラフラになりながらもその場に立って歓喜の笑みを浮かべた。


 その姿は恐ろしかった。


 髪は乱れ着物ははだけ、青あざと傷だらけの体は全身泥にまみれ、口からはさっき噛みついた男の血が垂れている。


 そんな怪談に出てくる幽霊のような姿でキヨの目はギラギラと光り、不気味に微笑んでいる。


 弟の同級生たちはキヨが恐ろしくなって一目散に逃げて行った。


―勝った! 私はあいつらに勝ったんだ! あの子の為に金を取り返した!


 弟はさぞかし喜んでくれるだろう。


 また昔みたいに「姉ちゃん、姉ちゃん」って、したってくれるかもしれない。


 そんな期待に胸を弾ませ、痛むからだを引きずりながらキヨは家に帰った。



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