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「ヒロキのモトカノ」
タヌ子、フルボッコにされる?(タヌ子)
―最近ヒロキ疲れてるな。仕事忙しいのかな? 今日の晩ごはんは、何かスタミナがつく料理にしよっと!
ヒロキが元気になれるようなご飯を作ろうと、昼過ぎに駅前のスーパーに買い物に出かけた。
通りを歩いていると、何かちょっと焦げるような甘い良い匂いがした。
その匂いに釣られて行くと、新規オープンしたらしきクロワッサンのお店に辿り着いた。
そのお店にはプレーンはもちろん、チョコや抹茶や、サツマイモなど、いろんな種類があった。一口サイズなので、パクパクいけそうだ。
ーふ~ん、こんなお店が出来てたんだ…。知らなかったな。あ! 奥はテーブル席になってる!
イートイン出来る事がわかったので、店内でプレーンとチョコのクロワッサンとカフェオレを注文した。
―まずはプレーンからいただきます! パクッ。おいしぃ~。次はチョコ。パクッ。あまぁ~い。カフェオレも美味しい。ふぅぅ~、落ち着くなぁ~。
ホッと一息したところで私は閃いた。
―そうだ! これ、ヒロキとウッチーにも買って持って行ってあげよう! うんうん! きっと喜んでくれそう!
そう思った所で本来の目的を思い出した。
―ハッ!!! スーパーに買い物行くんだった! またやっちゃった。なんでこう私は食べ物の誘惑に勝てないんだろう…。
クロワッサンの差入れは今度にすることにして、私は店を出た後まっすぐスーパーに向かった。
少し早い時間だったので、スーパーはまだ空いていた。とはいえ、駅前のスーパーなのでそこそこの数のお客さんたちが買い物をしていた。
お肉を選んでいる時、私の横に同い年くらいのカップルが仲良さそうに買い物をしていた。女性の方は大きなお腹をしていた。新婚さんのようだ。上等のお肉を買い物かごに入れている。今日は記念日なのかなぁ…。そんな幸せそうな二人を見て、ふと思った。
―ヒロキにとって私は何なんだろう? ヒロキは私にすごく優しくしてくれるし、プレゼントもしてくれる。可愛いっていつも言ってくれる。でも…でも…ヒロキの家に住むようになってからずっと一緒に寝てるけど、いつも「おやすみ、タヌ子」って頭をなでなでしてくれて、そのままヒロキはイビキかいて朝まで寝てる。これは、私が女として魅力がないということですか? それとも彼女として認められてないということですか? 単なる同居人ということですか?
考え込みながら歩いていたら、いつの間にかヒロキのマンションに着いていた。ドアの鍵をさして開けようとしたら、何故か鍵はかかっていなかった。
―あれ、かけ忘れちゃったかな? まさか泥棒に入られてないかな? それとも…もしかして、ヒロキ帰ってんのかな?
なんて考えながら靴を脱いでいると、ふいに声をかけられた。
「あんた誰? 部屋間違えてない?」
見上げると、凄くキレイな、でもちょっとキツそうな感じの女の人が眉間に皴を寄せて私を見下ろしていた。
「す、すいません! 間違えたみたいです!」
急いでドアを開けて外に出た。驚いて動悸が激しくなった。少し深呼吸して、もう一度ルームナンバーを見てみた。
「302…、あれ?」
―ヒロキの部屋は302号室だ。やっぱり私は間違えてない! でも、あの女の人…?
勇気を振り絞って、恐る恐るもう一度ドアを開けた。
「あのぉ~。」
さっきの女の人が怪訝な顔をしてまた出てきた。
「何? うちに何か用?」




