表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/72

35


 改めてタヌキを見てみても、それはどこにでもあるような信楽焼のタヌキの置物でしかない。


 あれは幻覚だったのか…。頬を二、三回叩いてみた。僕は気を取り直して店の中に入った。


 店内では、大将とウッチーがまだ話していた。しかし会話の内容は、もはや仕事の話でもサトシさんに対する愚痴でも無く、他の話題に変わっていた。


「まさかあんないい子が刺されるなんてよ。この辺りには似合わないようなべっぴんさんだったんだぜ。」

大将は涙を浮かべて言った。


「この町も物騒になったもんですね。」

ウッチーが同情するように言った。


「何? 何かあったの?」

僕が聞いた。


「兄ちゃん、あの事件の事知らなかったのかい? そりゃあもう、ひでぇ騒ぎだったんぜ!」

大将は事のあらましを説明してくれた。




 三ヶ月前のある晩、その日は月がとてもキレイな夜だったそうだ。


 大将の店、この「居酒屋ぽんぽこ」の前で女性が男に刺された。


 店は営業時間を過ぎ、後片付けをしていた大将は、女の悲鳴に気付いて外に飛び出した。


 すると信楽焼のタヌキの前に、女性が血だらけになって倒れていた。


 通りの遥か向こうに走り去る男が見えたが、女性の救助を優先し、大将はすぐに救急車を呼んだ。


 幸い急所は外れていたらしいが、その後も女性は意識不明の重体らしい。




「あの子をあんな目に遭わせやがって、まだそいつは捕まってないんだ。おりゃ許せなくてよ。」

大将は涙を浮かべて酒をぐいっと飲んだ。



 信楽焼の大タヌキ


 血だらけの女


 半分になった魂


 月夜の殺傷事件…




「自分、あのタヌキを処分するのが…なんだか忍びないんですよね。長年人々から大事にされてきた物って、付喪神になるっていうじゃないですか…。あのタヌキ…きっとそうですよ! 何か、ただならぬパワー感じるし…。」

帰り道、ウッチーが言った。


 ウッチーもあの信楽焼のタヌキには、何かを感じるみたいだ。


 僕はモヤモヤしながら物思いにふけった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ