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 そんな出会い方をした僕らだったが、相性はなかなかいいらしく、僕にしては長く交際が続いている。


 もちろん初めの頃はエマの口の悪さにカチンとくることが多々あったが、慣れてしまえば可愛いもんだ。


 そんなエマがある日、僕にこんな話を持ち掛けてきた。…いや、持ち掛けるというか…半ば強制だ。


「私、ネイル検定受ケルカラ、内田モデルニナレ!」


―ネイル? モデル?


 突然の申し出に戸惑っていると、エマは面倒くさそうに説明した。


「ネイル検定受ケルノニ モデルガ イルンヨ。練習ニモ付き合ッテ モラワナ イケンシ、試験ノ時モ一緒ニ来テモラワナ イケンケ、ソンナニ長時間タダデ拘束デキルヤツ内田シカ オランヤロ! オマエ暇ヤロ!」


―内田しかおらんやろって…どうせ言うなら「あなたしかいないの!」とか、可愛く言えないもんかね、まったく…。


 とにかくマニキュアなぞ塗られるなんてまっぴらごめんと、全身で拒絶の態度を見せた。しかしエマは普段の三倍くらいの大きさを感じるくらい威圧感を出し、仁王立ちで言い放った。


「嫌トハ 言ワセンバイ。」


目の中が真っ黒だ…この状態のエマは非常に危険だ…。


「ま、俺でよかったら♪」


理解のある彼氏を装いスマートに言ったのだが、エマにはそんなことはどうでもいいようで、吐き捨てるように言われた。

「初メカラ ソウ言エ!」


―やれやれ。




 エマはネイル検定3級とやらを受けるらしい。基本をきちんと押えておけば大丈夫だろうと言われているレベルだが、練習に付き合っていると結構難しいし、かなりのテクニックがいるだろうというのが素人の僕からしても分かる。


 工程もたくさんあって、うっかりそれを飛び抜かしてしまうこともある。受験までに同じモデルで何回も練習がいるというのも頷ける。


 正直、大丈夫かなと思っていた。エマの仕事は深夜に及ぶことも多いし、もしかすると他の受験生より練習時間が全然足りて無いんじゃないか…そんな不安もあった。


 しかし彼女は不屈の精神で練習に励んだ。…って、協力している僕もそれに付き合わされている訳なんだけど…。


 モデルの役もけっこう過酷で、最初の頃は、爪の甘皮の処理で血だらけになることも多かった。


「内田、痛カッタラ言エ!」

とエマは言うのだが、いざそう言ってもその手が止まることは無い。もう言うのは諦めた。


 しかしエマは器用なのですぐにコツを覚え、素早く、そして痛がらせることもなく、上手に出来るようになった。


 受験の実技課題は、まず爪を真っ赤に塗って行って、それをキレイに落としてから、爪の手入れをし、そしてさらに真っ赤に塗り直し、最後に右の中指に花のアートを描くという物だった。


 こう言うと簡単に思うかもしれないが、これがなかなか大変。時間が決められているので、普段はちゃんと出来ていても本番であがってしまって出来なくなる人も多いのだ。


 今日も僕らは仲良く(?)実技の練習に励んでいた。エマは、僕の爪をキレイに整えて、丁寧に真っ赤なマニキュアを塗っていった。


―うん、いんじゃない? 素人目にもすごく上手だと思う。


 普段なかなか見られないエマの女子ぶりに、僕はなんだかちょっと嬉しくなった。さて、花のアートは何かなぁ~…。


―!!! こ…これは…マ…マンドラゴラ~???


根っこには不気味な小人みたいな物も描かれている。


―小人、悲鳴をあげてるしぃ~!


エマの描写力ハンパ無かった。さすがアニメ制作事務所に勤めているだけある! 小人の叫ぶ顔なんか、楳図〇ずお先生の絵みたいだ!


―エマ、大丈夫かぁ~?



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