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「オイ、キサマ! 好キカッテ聞イテルンダゼ!」
―僕は細心の注意を払って読んでいたはず! ブックカバーだってルイヴィトンだぞ! バレる訳が無い!
―そうか! きっとこんなイケメンは何を読んでいるのだろうかって気になっているんだな! なるほど、合点がいった! そりゃそうだろう。こんなお洒落なカフェで、冬の寒さをもろともせず、こんな僕のようなイケメンが読書しているんだからなっ!
―わかったよ。君の期待通り、ミステリー小説…とだけでも言っておこうか…。
「好きですよ、ミステリーは。小説って、読者を別世界に連れてってくれますよね…そこが何と言うか…たまりませんよね…フッ…。」
―決まった! 完璧だ! 完璧な回答をしたぞ、僕は! きっとこの外人さんも満足してこの場を立ち去ってくれるだろう…。
と思っていたが、ふと外人さんを見ると、目の奥を真っ暗にして、背中にバチバチと炎が燃え盛っているのが見えるほど…その…怒っているようだった…。
―な、何で?
「コノ薄ッペラノ クソメガネ! キサマ ノ 読ンデイル本ハ ミステリー小説ナンカジャアネェ! “伯爵令嬢ブリュンヒルデの異世界転生物語 パート5”ダロウガァ~~~!」
外人さんはそう言って僕を怒鳴り上げた。店中、いや、通りにまで響き渡る大声で!
―やめてくれぇ~! 僕のイメージぶち壊しじゃないかぁ~!
見るとさっきまで僕に熱い視線を送っていた女性客たちは、僕を憐みの目で見ている。
―違うんだ~! これはミステリー小説なんですよぉ~! ミステリーなんだってばぁぁぁ~!
泣きそうな僕を外人さんはさらに睨みつけた。
―何で分かったんだ…。どの角度からも僕が呼んでいる漫画が見えないように細心の注意を払っていたはずなのに! 僕は完璧にそれをやり遂げたはずだ! なのにこの女は題名はおろか、この本がパート5であることまで言い当てた…。ただ者じゃない…。霊能者か? エスパーなのか?
恐れをなしている僕の前で、外人さんは予想だにしなかったことを言った。
「ソノ漫画、今度私ノ会社デ アニメ制作スルンダ。」
―えっ?
「オモシロイダロ~! 私ソレ、モウ100回クライ読ンダゼ! ホラ!」
外人さんは持っていた大きなバッグから“伯爵令嬢ブリュンヒルデの異世界転生物語 パート5”を取り出した。
唖然として開いた口が塞がらない僕を外人さんはお構いなしといった様子で、バッグから次々に漫画本を取り出した。
「キサマ、コレ読ンダ事アルカ? “お止め下さい、領主様! ツンデレイケメン領主にいきなり愛され散らかされて困っております”」
―無い…。何それ! もう題名見ただけで面白いって分かるじゃん!
僕は首をぶんぶん振った。
「ジャ、コレハ? “東大看護科卒ナースがタイムリープ! わたくし、明国の民を救ってまいります!“」
―無い無い無い無いぃ~! めっちゃ面白そうじゃん! お願い貸して~!
完全に制圧されてしまった。僕はその外人さんにひれ伏すしかなかった…。
「…あなた様のお名前は?」
僕は息も絶え絶えにかすれるような声で聞いた。
「エマ=ガブリエラ=リヒター・ハルトマン」
仁王立ちした彼女の後ろから後光が射していた…。




