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「ネイル検定」
これはまぎれもない真実の愛だ!(内田)
こんにちは、内田真斗です。真斗と書いてマナトです。今日は僕が体験した、ある感動秘話を紹介させていただきたいと思います。
少し長くなるかもしれませんが、最後まで読んでいただけたら幸いです。それではお話させていただこうと思います。
「内田~ チョット 頼ミガ アルンヤケド。」
彼女のエマが僕を呼んでいる。彼女は何故かいつも僕を苗字で呼び捨てにする。
彼女の名前はエマ。
エマはドイツ人で、小学生の頃、父親の仕事の関係で何年か日本に住んでいた。
その時に住んでいたのが福岡だったので、今でもたまに方言が出る。
しかし何故か、いかにも外人がしゃべってます風の福岡弁で話すのだ。ほんとは日本人並みにぺらぺらのくせに。
近所にドイツ人学校もインターナショナルスクールも無かったので、彼女は公立の小学校に通っていた。
その頃の楽しかった思い出が忘れられなくて、ドイツに帰った後も、いつかまた日本に来ようと思っていたそうだ。
日本に来て、超が付く程の漫画やアニメ、そして武術のオタクになった。
子供の頃は大きくなったら日本のアニメで見た、悪に立ち向かうヒーローになるつもりだったそうだ。
いつか日本に舞い戻る日を夢見て、日夜武術の研鑽に励み、テレビを破壊してしまうほどアニメを見まくっていたらしい。
そして念願叶って大学の時に日本に留学し、そのまま日本で就職して現在に至っている。
ちなみにエマはアニメの制作事務所で働いている。
悪に立ち向かうヒーローの夢は叶わなかったが、大好きなアニメの制作に関わる仕事が出来て、彼女は水を得た魚のようにイキイキと働いている。
エマとの出会いは…そう…あれは一年ちょっと前の冬の寒い時期だった。
僕は吐く息が白く見えるくらい寒い日に、オープンテラスのカフェに座って暖かい飲み物を飲むのが好きだ。
もちろんそこにはストーブとひざ掛け用のショールを用意しておいてくれないと困るわけだが。
その日は本当に寒い、僕にとっての最高のカフェ日和だったわけで、僕は読みかけの本を持ってカフェへ行った。
ウェイターは常連の僕を見るや、いつものストーブの横の席へ案内してくれ、柔らかなショールを持ってきてくれた。
完璧だ。行きつけのカフェってのはこうでなければいけない。
そして持って来ていた本を取り出し、眼鏡をかけて読書を始めた。
カッコいい僕が読む本は、きっとビジネス書とか、ミステリー小説だと思うのだろうね…。
フッ、否…。
ここだけの話、読書と言っても実は漫画で、しかも悪役令嬢の転生物だ…。
ずっと待ち続けてようやく新刊が出たんだ!
すぐにでも読みたいのが人の常だろう!
大丈夫だ!
ブックカバーはこの日の為にルイヴィトンで買ってきた!
何人たりともこの僕が悪役令嬢の転生漫画を読んでいるなんて思いも及ばないであろう!
安心しろ真斗!
ごらん! 横の席の彼女! ウットリしながらこの美しく気品溢れる僕の事を見ているじゃないか!
向かいの席の女性グループだってそうだ!
僕は前髪をゆっくりかき上げた。一斉に女性たちの溜息が漏れる。
いいよ、いいよ。見るだけならタダだ。ゆっくりご覧あそばせ!
「オイ、キサマ!」
いきなり横で声がした。
声がしたものの、いまだかつて僕の事をキサマ呼ばわりする人間など会ったことが無かったので、まさか僕に対してかけられた言葉だとは思いもしなかった。僕は読書を続けた。
「オイ、シカト シテンジャ ネーゼ!」
顔を覗き込みながら言われた。
見ると外人さんが眉間に皺を寄せて僕を睨んでいる。
―誰? この人? 僕、何も悪い事なんかしてないよね?
もしかして人違いをしているのではないか? そう考えるのが常識だ。
この外人さん、怖い表情をしているけど、かなりの美人だ。こんな美人を怒らせるとは、その僕に似ているらしきヤツは罪な男だ…。
―えぇ~~~!
その美人な外人さんは、僕の許可なくテーブルの真向かいに座った。そして両手で思いっきりテーブルを叩いた。
ドンっという大きな音で、カフェの中にいた人々が一斉に僕の方を見た。
―なんなのよぉ~この人…。あなた人違いなさってるんですってばぁ~。
読みかけの漫画は気になったが、変な外人さんに構っている暇はない。僕はカフェを出ようと席を立ちあがった。
するとその外人さんは僕の手を掴んで思いっきり引っ張った。
―な、何っ?
「キサマ、ソノ本好キナノカ?」
―この本好きかだって? まさかこの僕が悪役伯爵令嬢転生物の漫画を読んでいる事を見透かしているとでも言うのか?
 




