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 久しぶりに地元の駅に降り立って、家の方角に向かって大通りを歩いていると、街並みが微妙に違っていることに気付いた。


 昔よく家族で通ったレストランが美容院になっていたり、ビルが壊されて駐車場になっているかと思えば、昔駐車場だったところに新しいビルがたっていたり。


 盆や正月に帰って来る時は気付かなかったけど、いざ住むと決めて歩くといろんな変化がわかる。


 そんな変化を発見するにつけ、どうしようもない淋しさを感じる。


 それは久しぶりに会う両親が年を取ったと感じるのに似ているのかもしれない。 


 ずっと変わらない物なんて無いのだ。


 街の変遷に、僕が生まれ育った思い出すらも無くなっていくように感じてしまって…やりきれない気持ちになる。


 出来ることなら変わって欲しくないけど…それも仕方がない事なのだろうな…。




 駅からすぐの通りを歩いている時、何気なく見上げたら、目の前にあったビルの2階に感じのいいオフィスを見かけた。


 道沿いの窓は壁一面ガラス張りのようになっていて、黒いサッシが大きなガラスに這うデザインのように見えた。


 そのオフィスの中には観葉植物がたくさん茂っている。中の壁は真っ白でデスクはアンティークのテーブルが置いてあるのが見えた。


ー好きかも…。


 しばらく眺めていたら、窓の方にいかにも人の良さそうな、少しマヌケそうな男が背伸びしながらやってきた。


 そして、ウンベラータの葉に頬をスリスリしたかと思ったら、不思議な踊りを始めた。


 踊りと思ったらストレッチ運動だったようだ。


 男は股を開いてしゃがみこみ、両手を胸の前で合わす、ヨガの花輪のポーズを決めた。


 何故、僕がそのヨガのポーズの名前を知っているかというと、僕の姉がヨガのインストラクターで、頼みもしないのに僕に教えてくるからだ。


 姉がシンガポールに移住してやっと恐怖のスパルタヨガレッスンから解放されたと喜んでいたのに、ズームで教えてやるから毎週パソコンの前で準備して待っていろ! だって…。


 ったくうちの姉には困ってしまう。


 話が逸れたが、その男はあまり慣れていないのだろう。うまくバランスがとれていなくて体がと小刻みに震えている。


 とても見てられない。うちの姉が見たら、その男の尻に思いっきり蹴りを入れているところだ! 


 しかし男は気合が入っているのか鼻の穴を全開にしてドヤ顔だ。


 もしかして、こんな出来損ないのポーズを見せびらかしたいのか? 


 そもそもここは何かの事務所だろ? 


 仕事しなくていいの? 


 平日の午前中だよ! 


 一番集中する時間帯でしょ! 


 する仕事すらあまり無いって事? 


 よっぽど暇なんだな…。


 男に対して言いたい事が後を絶たない…。


 しかし…見れば見るほどうだつの上がらない顔をしているな…。そんな事を思っていたら、その男と目が合った!


 こんな時、どうしたらいいんだろう。会釈くらいするべきなのか? だけど全然知らない人だしな…。


 相手の男も驚いたような顔で僕を見つめていた。よっぽど恥ずかしかったのか、男の顔は真っ赤になっている。


 向こうも気まずそうだけど、こっちだって同じくらい気まずい。目線を逸らせばいいだけの話なのに、何故か僕とその男は見つめあったまま、目を逸らすタイミングを逃してしまっていた。


 どうしよう…どうしよう…。焦る僕…。冷や汗を垂らしながら見つめてくる男…。二人の間に緊張が走る!


…って、見つめ合っててもしょうがないので、軽く会釈をしてその場を去った。


男も花輪のポーズのまま会釈をした。何てことは無かった。何なんだ…この茶番は…。



「HR DESIGN OFFICE  デザイナー急募 経験者優遇」

立ち去ろうとした時、そのビルの張り紙がチラっと目に入った。


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