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「タヌ子とデート」
いや、タヌキの散歩か?
今日は休日。タヌ子は朝から鏡の前で毛繕いをしている。もとい、ヘアーセットをしているのだそうだ。
いつも家事をしてくれたり、仕事を手伝ってくれたりするお礼に、タヌ子の欲しいものを買いに行こうと誘ったのだ。
今朝はいい天気だ。雲ひとつない。梅雨の合間の貴重な晴れ間。天気がいいと気分も晴れ渡る。
つい先日まであれ程落ち込んでいたのが嘘みたいだ。
ーまぁそれはタヌ子が僕の話をじっくり聞いてくれたから気持ちが落ち着けたのもあるんだけどね…。
「どうかな?」
タヌ子は僕の前に立ってクルックルッと回りながらそう聞いてきた。
ーどうかなって…う~ん…毛並みが二割増しフサフサになっているようだ。
でもタヌ子に「君、毛並みがいつもより二割増しだね!」なんて言う訳にもいかない。
きっと「なんなのよ~それ! 全然誉め言葉になってない! ってことはアレですか? このコーデ、イケてないって事? ってか…私が可愛くないって事~?」そう言いだすに違いない…。
タヌ子にご機嫌斜めになられちゃ、出かける前からせっかくの楽しいデートが台無しだ。あまり違いがわからないにしても、こういう時はとりあえず誉めておくものだ。
「いいね。可愛いじゃん。」
僕がそう言うと、タヌ子の顔はポッとピンク色に染まり、ウキウキしながらスキップを始めた。
僕らは自宅を後にして街へ繰り出した。繁華街の並木道を歩いている。
店のショーウィンドーのガラスに僕とタヌキが仲良く腕組して歩いている姿が映っている。
初めはそれを見るたびに心臓発作を起こしそうになっていたけど、最近では、この姿も慣れてきた。いや、むしろ当たり前になってきているくらいだ。
「タヌ子、一番欲しい物って、何?」
「金塊。」
―即答かよ!
「この世の中…何があるか分かんねぇッスからねぇ…。」
タヌ子は呟いた。
冗談だと思いつつもタヌ子をチラ見すると、目の奥がギラギラ輝いて悪い笑みを浮かべている。
―これは冗談ではなく本気だ…。
「ま、金塊は今度にして…なんかもっと普通な物ない?」
「じゃあ、さすまた! あと木刀も欲しい。防弾ベスト、盗聴盗撮器探知機、防犯カメラ、…それとぉ…モーニングスター…まではいらないか。」
―どこが普通なんだよ!
タヌ子は般若のような形相で、次々に防犯グッズや武器を挙げた。
―防犯グッズマニアか? それとも…。
「タヌ子君…俺のことからかってる?」
タヌ子はぶんぶん首を振った。
「じゃ、それは今度俺が買っとくから…。今日は普通に洋服とか靴とか見よっか?」
「守りは鉄壁にしてよ! じゃ、今日はお言葉に甘えてお洋服を見せてもらおうかな~。」
タヌ子は妙に防犯が気になるらしい。最初は冗談で言っているのかと思ったけど、その表情から本気なんだと伝わってきた。
―昔怖い目に遭ったことでもあるのかな…。だけど、いくらタヌキにしか見えないからと言って、女の子なんだし初めてのプレゼントに防犯グッズはちょっと…。
戸惑いはしたけどブティックに行くことになってもタヌ子は嬉しそうにしているのでホっとした。
 




