原因不明の奇病
熱い。
私は、もう熱くて死にそうだった。
何十時間も汗をかき続けている。
健康には人一倍、気をつけていたのに。
買い置きしていたスポーツドリンクとマルチサプリが無かったら、本当に死んでいたかもしれない。
私は、これ以上我慢は出来ないと思い、救急車を呼んだ。
だが。
入院した後も、熱は下がらなかった。
7日程たったある日。
突然、熱が平熱に戻ったのだ。
こんな不思議な事があるものなのかと、医者達も首を傾げていた。
だが、誰よりも驚いたのは私だった。
退院しようと思っていたら、腹部に大きな口が出来ていたのだ。
しかも、その口は、
「おい馬鹿面、何か食える物を持ってこい」
と、喋った。
あまりの出来事に、私はしばらく惚けていた。
すると、もっと大声で罵声を浴びせられたのである。
大慌てで担当医に相談した。
「これは、ウチでは直せませんね。紹介状を書きますので、そちらに行って下さい」
私が紹介されたのは、古いお寺だった。
現れた住職に腹の口を見てもらうと、渋い顔で聞かれた。
「貴方、普段は何を食べています?」
私は、無農薬の野菜と無菌の肉だと、答えた。
「なるほど。では、今から指定された物を一週間ほど召し上がって下さい。それで直りますから」
そんな事だけで、この腹にある口は直るのだろうか。
口は、今も飯を食べさせろと、喚いている。
だが、半信半疑ではあったが、他に頼る当てもなかったので、私は指示に従った。
すると、みるみる口が弱っていき、すっかり黙り込んだのだ。
あの住職が言っていた事は本当だった。
私はお寺に向かい、腹にある口は何なのか尋ねた。
「名を、応声虫と言います。寄生虫の一種で、健康そうな宿主を見つけると取り憑くんですよ。それで飯を食わせないと何時までも叫び続けるという、厄介な虫ですね。これは江戸時代の閑田随筆にも記されています」
聞いた事がなかった。
私は、うへぇ、という相づちとも返事とも取れない言葉を返した。
「まあ、最近じゃあ、見掛けるのも珍しい病ですからね」
私は、そうなんですか、と尋ねた。
「ええ、応声虫には苦手な物があるんですよ。昔も、それを飲ませて退治させていたらしいです」
苦手な物とは、何なのだろう。
覚えがなかった。
私が訝しんでいるのを察してくれたのか、住職が教えてくれた。
「それは、毒ですよ」
だが、それこそ私は食べた記憶はない。
私が口にしたのは、住職に指示されたとおりだ。
ポテトチップやジュース、コンビニのお弁当、ハンバーガーなどのジャンクフードだ。
「ええ、それが毒でしょう」
と、住職は言った。
それを聞いて、私は唖然とした。
私達は日頃、虫が毒だと思う物を食べているというのだろうか。
帰宅後。
トイレで用を済ませた便器の中に、見慣れないモノが浮かんでいた。
それは、一本の角が生えた白くて長い、応声虫。
キューと弱々しく泣いているが、私は大便と一緒に流したのだった。