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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第八章 再会

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潜入1

 アッシュたちが潜入に行く時間から、少し時を戻して例の屋敷。


 ある男はアッシュたちが去った後、屋敷内はずっとピリピリとしていた。屋敷の主である男がガシャンッと音を立て、物を壊しながら腹を立てているからだ。



「くそっ!! 何故やつがこの街にいるんだ⁈ せっかくやつから殺される前にこの街に逃げてきたというのに……っ おい!! 貴様!!」

「はい、旦那様」



 呼ばれたメイドは男の前に現れ、一礼をする。メイドを呼び出した男は唾を飛ばし、怒鳴りながら言う。



「あのガキを呼んで来い!! それと鞭も持ってくるんだ!!」

「っ! お、お待ちください。あの子は何も悪いことはーー」

「うるさい!! 黙れ!! 奴隷の分際でワシに口答えする気か⁈ さっさと呼んで来い!! ワシは先に地下に行っている!!」



 ずかずかと男はさっさと去っていく。残されたメイドは主に頭を下げ、辛そうな表情を浮かべながら中庭に向かう。道中、別の者に鞭のことを伝え、自身は外には中庭へ、草むしりをしている小さな子供の後ろから声をかける。



「アティちゃん、ちょっといいかしら?」



 呼ばれた子供はフードを外しながら、メイドの方を振り向く。両手には泥だらけで草を握っていた。裸足でこの寒い夜草むしりをさせられていた。



「あ、ミカさん、どう、されましたか?」



 虚ろな目でミカと呼ばれたメイドの元に歩いていく。近づいてきたアティと同じ視線になるようにしゃがむと、冷たく冷え切った土だらけの手を握る。



「あのね、旦那様が地下に来いと……」

「え……? わ、私、何か、悪いこと、しましたか……?」

「うぅん、アティちゃんはいつも頑張ってる。また、旦那様の八つ当たりだと思うわ……」



 目に見えてガタガタと震える目の前の子供にミカは優しく抱きしめる。旦那様は何故かアティちゃんに対して、いつも酷く当たる。こんな子供が何をしたというのだろうか。こんなに怯えてる子供に……。



「わ、わかり、ました……。今から、行きます……。知らせて、くださって、ありがと、ございました」



 アティはミカに頭を下げて地下へと向かう。


 足取りがすごく重い。


 地下は、すごく怖いの。


 時々閉じ込められる地下室。寒くて、冷たい。そして、食事も水も全くもらえないまま三日間閉じ込められたり、殴られたり……。痛い思いをする場所。躾と言われて鞭で何度も叩かれる、恐怖の場所。


 怖い……。


 言われた通り、地下にたどり着く。そこにはご主人様と、その手には何度も叩いてしまうと分かる鞭が握られていた。


 恐怖で身体が震える。



「クソガキ、そこに背を向けて座れ」

「は、はい……」



 言われた通りに背を向けて座る。その際は着ていた服も脱いで長く伸びきった髪をどかし、背中を差し出す。



「おい、貴様、まさか助けなんて、呼んでないだろうな?」

「よ、呼んでません……。なんのこと、でしょうか?」

「嘘をつくんじゃない!!」



 そう言いながらバシンッと鞭が振るわれる。”ひぃっ!!”と小さな悲鳴を上げながら、耐える。



「う、うそは、ついて、ません……!」

「だったらなんでやつがいるんだ!! 貴様が呼んだんだろうが!!」



 叫びながら何度も何度も鞭を振るわれる。


 背中が、熱い。痛い。痛いよ……っ


 涙を滲ませながら、違うと何度も否定するがそれでも鞭を振るうのをやめない。



「あいつがこの街にいる間は出てくるんじゃない!! それまでは飯も水も抜きだ!!」

「……っ…………は、い……」

「……最悪、やつが来たら貴様の顔を潰せばいい。火で炙ってしまえば誰かわからないだろうからな!! いいか!! 妙な動きをしたら今度はその目をくり抜いて犬どもの餌にするからな!!」

「…………っ」



 そう言い捨てた主は地下室を出ていき、鍵を閉められた。


 寒い……。


 痛い……。


 震える手で服を掴み、寒さに耐えるように身体を縮こませながら震える足を抱える。


 いつになったら、こんな地獄、抜け出せるんだろう……。



「さむ、い……」



 あの暖かい家に帰りたいと思ったのはこれで何度目だろうか。目を瞑れば、何度も思い出す。


 あの日の夜のこと。


 母と私はお父さんのお見送りをしていた。2.3日は帰られないと言ってムスくれる父。そんな父に母は笑いながら私の頭を撫でてくれた。



 ”待ってますよ。アティとずっと、あなたの帰りを待っています。だから、早く帰ってきてくださいね。大事な日なんですがら、約束ですよ?”



 そういう母の言葉に父も笑って答えてくれていた。



 ”もちろん! 絶対早く帰ってくるよ。だって、アティの誕生日も近いからね!”



 それが私が聞いた最後の父の言葉。



「……絶対、早く帰るって、言ったのに……」



 母が、目の前で殺されてしまった日は、悔しくも、私の、誕生日だった。


 また胸が苦しくなる。


 我慢していた涙が溢れて止まらない。それを必死に拭っても拭っても、止まらない涙。


 ……どうせ、誰も助けてくれないんだ……。


 痛い思いしても、苦しい思いしても、助けて欲しいと叫んでも、誰も、助けてくれないのだから……。


 誰も、私を、助けてはくれないのだから……。



 暗闇の中、少女は自身の腕から血が滲むほど強く握る。


 誰もいない、真っ暗な空間に、ただ、泣きながら目を閉じるしかなかった。



 ―――――――――――――



 そして、深夜0時。アッシュとエドワード、グレンは屋根から屋根へと移りながら目的の屋敷へと向かっていく。


 まだ明かりの着いている屋敷の少し手前の建物に止まって、遠くから覗き込む。

 一番最後尾にいたエドワードが、少し息を切らせながら口を開く。



「お前らが話していた屋敷はここか?」

「うん、そうだよ。さて、中に入ろうか」



 そう言いながら先に入ろうとしてるアッシュの腕を掴む。



「待て待て、何があるか分からないんだぞ。慎重に行かないのか?」

「え、普通に何かあるか分かるよ。ね? グレン」

「あぁ、わかりやすい。お粗末な警備体制だな」

「……え。」



 この二人には分かっていることに、エドワードは間抜けな声を出してしまった。


 いや、何があるなんてここから見てわかるものなのか?


 そう思いながらエドワードも屋敷を見たが、池があって、屋敷が、こう、あるというか、そういうのしか分からない。



「待ってくれ、私はわからん……」

「あー、えっとね。あそこにまず池があるんだけどそこの池はぐるっと屋敷を囲むようにあるでしょ? ただ、その池にはワニがいるみたい。あとは手前の庭の方には番犬のつもりなんだろうけど、犬がいて、あとは池を超えた先の壁は電流が流れてるみたいだから触れるのは危ないよ」

「お、おぉ……」



 指をさしながら教えてくれたが、視界で分かるのは犬くらいで、ワニも電流も流れるなんてどこで分かるんだ……。


 グレンも特に言わない所を見るとそうなんだろう。



「ま、せっかくだから全部無効化しちゃおう。脱出する時に残ってたら邪魔だろうし」

「それもそうだな」

「よし、じゃあエドワードも行けるかな?」

「……任せる……。私は着いてきてはいるけどお前に任せるしかないと思っている……」



 着いて来てるのはいいが行かない方が良かったかとたまに思う。とりあえず着いてくと言ったからにはどうにか自分のできる範囲をするしかないな。


 三人は人の気配が少ないところから侵入していく。


 庭に足を踏み入れると、犬たちが唸りを上げながらこちらにつけて歩いてきていた。


 不機嫌そうにグレンが前に出る。



「……チッ、失せろ」



 そう言いながらグレンが犬たちを睨む。睨まれた犬は”キャインッ?!”と怯えながら伏せる。完全に服従してる状態になった犬たちにグレンは歩み寄ると、殺気を放ちながら、”ハウス”と一言、言い放つと、犬たちは走って何処かへと行ってしまった。



「あはは、さすがはグレン。獣の扱いが上手いじゃないか」

「お前、それ褒めてるのか?」

「もちろん。お陰様でフードにいるクロも君にビビってるよ」




 彼が被っているフードの後ろ、ちょうどアッシュの首の後ろでずっと居たクロはチラリと顔を出してきて、グレンと目が合うとそのまま引っ込んで行った。


 そんなクロにグレンは少しムスッとしながらそっぽを向く。



「ここの犬どもが臆病なだけだろ。番犬とは言い難いな」

「よく言うな……」



 エドワードはため息を吐きながら、次は池の方を見ると、確かにワニが顔を出していた。この屋敷に行くには池を渡る必要があるが、正直飛び越えてしまえば行ける距離、だと思う。



「これはどうしよっかね。結構池が広いじゃん」

「……私がすると池が蒸発しかねないからな。エドワード、お前、雷魔法使えただろ?」

「あぁ、使える。……え、待て、お前の雷魔法で池が蒸発するのか?」

「加減が苦手でな」

「雷魔法で蒸発するなんて聞いたことないぞ……」



 とは言うがグレンのことだからやりかねない。ため息を吐きながら池の前まで行くが、目の前のワニと目が合う。思わずビクッとしているが、後ろの二人は、一人はニコニコしてるし、もう一人は腕を組んで早くしろと言わんばかりだ。


 腕を捲って、池に手を入れる。


 入れている時にワニがこちらに来ようとしていたのだろうが、後ろからエドワードも感じるほどの殺気がくる。そのワニはその殺気に怯えて止まった。


 その間に詠唱する。



「”雷鳴”!」



 唱えると池全体に雷が走っていき、感電したワニが浮かび上がってくる。それも10匹とかではなく結構数が浮いてきた。


 浮いているワニを足場にしてアッシュがそれに乗る。



「よし、これで渡れそうだね。ありがとう、エドワード」

「私は雷を撃っただけだがな」



 池の水で濡れた腕を服で拭きながら、エドワードも続いてワニの上に乗る。こんな池の渡り方をしたのは初めてかもしれない。


 三人は池を渡って、屋敷の前まで着くと、二階の空いている窓を発見して、そこから屋敷の中へと入っていった。

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