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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第八章 再会
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娘の行方2

 正面から歩いてくる者に気づかずにぶつかってしまい、その者はぶつかった拍子で後ろに倒れてしまう。

 慌ててみるとそれは子供のようで、ボロボロな服装に顔を隠すような深いフードを被っていた。


 エドワードはその子供に手を差し出す。



「す、すまん。よそ見していた。大丈夫か?」

「あ……、いえ、だい、じょうぶ、です……」



 少し顔を上げたが、その子の首にも隷属の首輪がついている。もしかしたらこの子かもしれないと顔を覗き込もうと同じ視線になるようにしゃがもうとしたら後ろから怒鳴り声が響いてきて、その子もエドワードもビクっとする。



「おい!! たらたらとしているんじゃねぞ!! さっさと来い!! この役立たずが!!」



 響く怒声に目の前の子はガタガタと震えながら立ち上がって走っていく。怒鳴っていた中年ほどの男の元に行くと、蹴られてしまい、また倒れる。倒れたところを何度も何度も蹴りを入れて、さすがに見ていられなくなり、エドワードはそいつを止めるために間に入っていく。



「おい! いくら何でも子供相手にやり過ぎだ!」

「あ”ぁ⁈ なんだお前!! そいつはワシの奴隷だ!! ワシがどう扱おうが関係ないだろ!! すっこんでいろ!!」

「奴隷だとしても、そんなに蹴る必要はないだろ!」

「躾だ!! こんな出来の悪い奴隷には痛みの躾が一番効くんだ!! よその者の分際で口出しするな!!」



 そう言って中年の男はエドワードに向けて拳を振り上げる。咄嗟にエドワードは後ろの子供を守るようにすると、横からマカオが自前の大きなお腹を中年の男に向けてぶつかっていく。ぶつかっていった男はマカオの腹からバウンドするように吹っ飛んで行った。



「あらやだ~ん♡ ごめんあそばせ♡」

「ま、マカオ?!」

「エドちゃんダメよ~ん。郷に入っては郷に従えって言うんだから」

「だ、だがーーっうわ⁈」



 マカオはエドワードを抱きかかえてアリスたちの方へと走っていった。マカオに放すように言うがマカオは無視して走っていく。


 走り去る前に先程の子を見る。


 庇う際に見えたフードの奥から見えたあの子の目が、翡翠の瞳が助けを求めていたのに、その場に置いて行ってしまった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その頃の時間がたって夕暮れに差し掛かるころ、アッシュはずっとひたすら聞き込みをしていた。ノアもユキもそれぞれ探すが手掛かりになるような情報は得られなく、時間だけが過ぎていく。アッシュは全く休まずにずっと動いていた。


 特に聞き込みは聞いてくれる人がほとんどいない。周りは目を合わせるどころか避けるようにしてくるためギルドに向かっても人は少ないし、街の人ではないため、大した内容は聞けなかった。焦るように探すアッシュにノアは一度止めようと彼の服を掴む。



「落ち着けって、アッシュ。焦ってもきついだけだぜ?」

「……分かってる。わかっているよ……」



 拳を握りしめてギリッと歯軋りが聞こえる。相当、切羽詰まってるアッシュにノアは心配そうにしていると、向こうからグレンの姿が見えた。

 アッシュの服を引っ張ってグレンたちの方を指さすと、彼もそちらを向く。



「あ、グレン……」

「酷い顔だな。大丈夫か?」

「うん……。大丈夫……」



 俯いたまま、アッシュは再度、聞き込みを始めてしまう。隣にいたノアにグレンはため息をしながらそちらを見る。



「ずっとあんな感じか?」

「そうなんだよ。結構断られても少しでも聞けないかってかかっていくし、マジで余裕ないって感じだな」

「そうか……」



 グレンはアッシュの様子を見ていると恐らくこのやり方ではいつまでも手掛かりなんて掴めない。ため息を吐きながら再度、周囲を見る。奴隷が多い。道で草を毟っている奴隷の所へ歩いていく。

 普通の奴隷なら暗く生気を感じないがここの奴隷はそういうのはあまりない。



「すまないが聞きたいことがある。答えられるか?」

「え、あ、はい。自分ですか? 構いませんが何が聞きたいです?」



 受け答えも問題なさそうだ。しばらくこいつに色々と聞いてみよう。


 グレンはグレンで聞き込みしてるところでルスはアッシュのところへ行き、後ろから突っつく。



「……やぁ、ルス」

「ホントこの前会った時とは違って死んだ顔してるわね。せっかくいい顔なんだからもったいないわよ」



 ルスは、わしゃわしゃとアッシュの髪を撫でる。前髪がぐしゃぐしゃになったところでルスは持っているカバンを上にあげる。



「よかったら、今から貴族の人に服の依頼頼まれていたからそれ持っていくんだけど、ついでに聞いてみる? 面識あった方が聞いてくれるかもよ」

「っ! あはは、ルス、ありがと」

「いいわよ。あなた、ちゃんとアリスもエドワードも守ってくれてんだもん。これくらいなら手を貸すわ」



 ルスが持っているカバンをくるくると回しながら先に進んでいく。


 恐らく彼女なりに手を貸してくれているんだろう。すごくありがたい。彼女の後ろからついて行こうとするとノアとユキはこのあたりで先に探してくれるそうだ。アッシュはルスの後に続いていくと、グレンも早歩きでこっちに来て”一緒に行く”と言ってついてくる。



「さっき少し奴隷の者からある程度は聞けたぞ」

「え、そうなの?」

「基本、街の者は交流は少ないのだろう。表立って出るのは彼らのようだ」



 そう言われてアッシュは再度周りを見る。確かに仕事も何か誰かに話をしてお願いしてるのも奴隷の人たちがしている。主人の姿はあまり見られない。


 だから街の人ではなく……。



「なるほど。それで彼らからね……。あはは、焦るあまりちゃんと見てなかったや」

「仕方ない。この街の住人が特殊なんだろうな」

「そう、かもね」



 焦ってしまうのもらしくない。まずは落ち着こう。深呼吸をして焦る気持ちを落ち着かせる。視野を広げないと見つかるものも見つからない。それにグレンたちもいるんだ。心配しすぎなくても大丈夫だ。


 そう自分で言い聞かせてルスの後をついて行く。


 そこは街の奥の方にある大きな屋敷。かなり大きいのでこの街の中で一番でかいんじゃないかと思うくらいの大きさだった。

 ルスは大きな門についているベルを鳴らして声を上げる。



「ごめんくださ~い! 依頼品のお届けに参りました~!」



 後ろからついてきていたアッシュは一度立ち止まる。その後周りを見渡すようにキョロキョロとしているが首を傾げて何か考え込む。

 隣にいたグレンはアッシュの行動に”どうした?”と声をかける。



「え、あ、いや、それがーー」



 アッシュが何か言おうとしたら門が開く。その中から小さな奴隷の子供が出てきて、ボソリとルスに呟いた。



「はい、どちら様、でしょうか?」

「旅商人のルスが来たって主人に伝えてくれるかな? そしたら分かると思うから」

「……。かしこまりました。少々お待ちください……」



 そう言って扉を閉められる。待ってる間ルスが衣装ケースから服を取り出しつつ、”さっきの子も奴隷みたいだけど”と言って振り返るとアッシュとグレンが驚いたように目を見開いていた。


 二人とも同じ反応していたのでルスが”お?”と首を傾げる。



「あら、どうしたの?」

「……ねぇ、グレン。さっきの子」

「間違いないな。あの声ーーっうわ⁈」

「アティだ! アティだったよね⁈」

「そ、そうだな。あぁ、そうだったな」



 グレンの肩を掴んでアッシュは泣きながら喜んでいた。


 ようやく、ようやく見つけた。 アティを見つけられた……っ


 ルスも”え、あの子⁈”と驚きながらも彼女はアッシュを門の前まで引っ張っていく。



「扉また開くから! あなた、確かめなさいよ!」

「うぇ⁈ ちょ、ルスーーっ痛⁈」



 アッシュを門の前まで押していると目の前の門も開いてゴンッと鈍い音が響く。どうやら扉に頭をぶつけたようだ。

 その開けたメイド服を着た奴隷の人は驚く。



「きゃあっ⁈ す、すいません!! だ、大丈夫ですか⁈」

「だ、大丈夫です……」



 痛む頭を押さえながら、メイドにそう答える。だが、まだ痛そうにしていたからか、メイドは何度も謝罪してくるので、困ったように笑うと、あわあわとしながらようやく向こうも落ち着いたようで話を再開できた。



「え、えっと、大変失礼いたしました。ルス様、旦那様からーーきゃあっ⁈」



 話をしてる最中にメイドは引っ張り込まれ、代わりに中年の男が現れる。その男は急に引っ張られてこけたメイドに向かって怒鳴りつける。



「邪魔だ!! ちんたらとしてないでさっさと動け!! このでくの坊!!」

「も、申し訳ございません!」



 メイドはいそいそと屋敷の奥に行き、アッシュの隣で服を持っていたルスからバシッと奪うとるように依頼された物を奪い取る。急に奪い取られて驚くルスだったが慣れているのか、ため息をしながら服を見ている男を見る。



「一応言われた通りしてるわ。もし修正があればーー」

「ふん! やかましいわ! 腕がいいと聞いて貴様に依頼したんだぞ。もし出来が悪いなら金なんぞーーっ⁈」



 文句を垂れていた男の言葉が止まる。男は何か恐ろしいものを見ているかのような目で何かを見ていた。何を見ているかと視線を追うと、扉にぶつけたアッシュがまだ痛そうにしているところをナギが爆笑しながら指をさされている、そんな少し間抜けな光景だが、この男にはそうは見えてないようだ。



「ふ、服は届いたんだ!! さっさと帰れ!!」

「え、でも確認しなくていいの?」

「余計なお世話だ!! 帰れ!!」



 そう言って硬貨の入った袋を彼女に投げつけて乱暴に扉を閉める。さすがのルスもカチンっと来たのか男が閉めた扉を蹴りながら怒鳴る。



「何よ⁈ せっかく届けたのになんなの⁈」

「…………」



 先程の男の様子にグレンは目を細めながら見る。


 ルスに対して横暴な態度が、アッシュたちを見て逃げるように去っていったことに気になった。どう見てもあれは、恐怖した視線をあいつに対して向けていた。


 グレンは考えながらも一度、全員で宿に戻ることを提案する。じゃないとアッシュが先に暴走して乗り込むなんて言いかねない。情報整理の為にもアリスたちと合流することにし、ルスにはノアたちも呼び戻してもらった。


 宿屋に戻ると全員集まって情報共有をした。と言っても有力な情報があったのはアッシュたちの方だった。それぞれ起こったこともふまえて全員で話をした。


 ベッドの上で座っていたアリスが足を組みながら首を傾げる。



「アッシュ、その男と知り合いなの? あんた、元貴族なんでしょ」

「んー、僕、あの頃、人の顔を覚えるのめんどくさくて、貴族たちの名前はレイチェルの義母さんにしこたま叩き込まれたから、名前が解れば思い出すんだけどな……」

「あぁ、あの婆さんか」

「そ」



 グレンも覚えがあるようで、アッシュの返事に”あの婆さん、私にも貴族の礼儀作法教えてこようとしてたからな”とため息をしながら呟く。アッシュと並んでそれを教え込まれていたのは懐かしく思える。


 情報交換が終えて、さすがに夜が遅いこともあり、明日、救出のため動こうという話になった。



 そんなみんなが寝静まった頃、音もなく、誰かが出ようとしたところを、エドワードがその人を掴む。



「おい、何処に行く気だ、アッシュ」

「あれ、起こしちゃった?」

「起きていた。お前のことだから一人で行こうとするなんて目に見えている」

「それもそうだな」

「うわっ⁈ グレンもいたの⁈」

「いたぞ」



 ベランダの上からひょっこりとグレンが出てきた。そのままスタッと降り立ち、ジッとアッシュを見る。完全に暗闇に紛れていくためにいつもの黒いパーカーにフードを被って自身の金髪を隠している。


 止めてきた彼らにアッシュはため息を吐きながら自分の腰に手をかける。



「君たちなんで起きてるのさ……」

「……お前のことだから先に屋敷にいくつもりだったんだろ」

「いやだなぁ、エドワード、ちょっと様子見いくだけだよ。少し見たらすぐ戻るからさ」

「……だったら私たちも一緒に行くぞ。今のお前を一人にして何しでかすかわからんからな」

「そんな、しでかさないって」

「しでかすから言ってるんだぞ」



 エドワードの返しにぐうの音も出ないアッシュは少し黙ってしまう。


 アッシュは焦っている。情報共有の際に話していてあの男の特徴とアッシュたちがあったやつと同じで、私も話したがかなり横暴で危険な男だと直感でわかる。私が見た、あの蹴られていた子供、あれは恐らくアティだ。その話を聞いてからアッシュの様子がおかしかったから、その日の夜に出るんじゃないかと思っていた。


 だから、起きて待っていた。


 同じように聞いていたグレンも何も言わないが言いたいことはエドワードが言ってくれたと言わんばかりに一言も喋らない。喋らない代わりにすごい睨んでいた。


 観念したかのようにアッシュは両手を上げる。



「わかったよ。ごめんって。でも、本当に待っていられないんだ。だからーー」

「一緒に行くと言っただろ。誰もお前が行くのを止めるなんて言ってない」

「え?」



 エドワードの予想外の返事に驚く。


 だって止められると思っていた。今回は完全に僕の自己判断の行動。基本そう言うのはエドワードは嫌う。勝手な行動をしていると怒るのも知っていたから。


 ずっと黙っていたグレンが口を開く。



「このことは私とエド、アリスで話していた。お前のことだからそうなるということも予想していたからな」

「アリスも?」

「そんなアリスからの伝言だ。”私は隠密は苦手だから一緒に行けないけど、行くならしっかり助けてきなさい!” だと言っていたぞ」

「……アリス」



 なんだか三人には敵わない気がする。僕がしようとしてること見透かされていたし、止めるのではなく、一緒に行くと言ってくれる。


 感傷に浸っているとエドワードがアッシュの腕を引っ張る。



「さ、行くのだろ?」

「うん!もちろんだよ!」



 そう返事をして、グレンとエドワードと共にアッシュは屋敷へと向かった。


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