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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第一章 神子と守護者
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夢と昔の話


 ◇


 エドワードは夢を視る。

 その夢はいずれ来る災厄か幸福になるか。視たものはどうしても抗うことが出来ない。不明確で確かに訪れてくる、夢だ。


 薄暗い、そして、すこし寒い……。

 その夢の中に、誰かがいる。お前は誰だ?



「……に……くい……」



 今、のは……?


 声がする方へ見ると黒い靄がそこにいた。けどその靄はじわじわと人の形へと変わっていく。

 だが、肝心の誰かが、分からない。



「信じて……いたのに…どう…て……」



 聞き取りにくい……。だが、この声は……。



「ころ…、殺して……、お前を、……てやる……!!」



 震えてる


 泣いている


 苦しんでいる


 なんで、お前はそこまで苦しそうにしている?



「裏切った……、お前を、消してやる!!」



 その声の主は、私の首に手を――。



 ◇



 少々困った。


 普段、エドワードは誰よりも先に起きていた。

 そんな彼はまだ寝ており、隣で、アッシュは少し起こすべきなのかと悩む。



「疲れてるのかな? んー、でも朝だし……」



 腕を組みながら首を傾げる。先にユキとノアは起きていて、代わりに朝食作りをお願いをしていた。

 アリスにも起こすことは止めている。彼女の起こし方はどうも心臓に悪い起こし方をするし。


 懐中時計を見れば既に9時を回ってしまっている。


 起こそうか悩んでいると、エドワードの様子が少し苦しそうな表情に変わった。



「……う…っ……」

「エド?」



 エドワードが苦しそうに呻く。掛け布団を握り、額には汗が滲む。涙が零れていた。


 悪い夢をみてるのだろうか。


 悪夢を見ているなら、さすがにこのままにしておくにはいかない。エドワードを起こそうと手を伸ばした瞬間――。



「やめろ!! だっ?!」

「いだぁっ?!」



 勢いよく起き上がったエドワードとその目の前にいたアッシュと頭をぶつけ、鈍い音がした。

 寝起きの頭突きには頭に響いたのか頭がクラクラとしてしまう。



「痛……っ」

「くぅ……、急に起き上がったら危ないよ。エドワード」

「す、すまん……」



 エドワードは痛む頭を抑えながら周りを見渡した。いつも見るテントだ。


 先程の恐ろしい夢はなんだったんだろうか。息苦しさと、首に残る感覚が嫌に鮮明だった。


 夢と自覚して、ホッとして、胸を撫で下ろす。そんなエドワードに心配そうな顔で覗き込む。



(うな)されていたみたいだけど、大丈夫かい?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。それで何か用か?」

「何かって……、はぁ、君、今何時だと思ってるの?」

「え」



 持っていた懐中時計をエドワードの前に出す。

 目をぱちぱちさせながら、間が空く。その後、だんだん顔色が悪くなる。

 そして時計を持ったアッシュの腕を掴む。



「な、なんだと……?!」

「朝です」



 普段、朝早起きしていて、誰よりも準備してる人だからこそかなりショックなのだろう。

 急いで寝袋から飛び起きて、バタバタと準備を始めていく。寝起きなのに動きが早い。



「す、すすすすす、すぐ準備する!!!!」

「あ、大丈夫だよ、ノアとユキにお願いしてるから――って行っちゃった」



 バタバタとテントから出るエドワードはアッシュの声は耳に入っておらず、テントから出たらそこには準備をしてくれていたユキがそこにはいた。

 慌てたせいか荒い息をしていて、ユキもノアも驚いた顔をしており、何故かユキは少し疲れてる顔しながら挨拶をしてくれる。



「あ、おはようございます……」

「え、なんでお前疲れた顔してるんだ?」

「いや、色々と昨晩ありまして……」



 視線を逸らしながら持っていたサラダをノアに渡して、エドワードの後に出てきたアッシュと目が合うと、彼はニッコリと笑いながら口元に人差し指を添えて、”黙ってるように”と言わんばかりの仕草をされる。

 何か冷たいものが背筋を走り、ユキは思わず目を逸らすと、エドワードの顔を見て気づく。



「そんなことより、早く顔を洗ってきたらどうでしょうか? 目のところ、泣いた跡がついてますよ」

「え?」



 自分の目元に触れると、水が手についた。

 もしかしてあの夢が原因なのか……?


 そんな困惑してるエドワードに対して、ノアがヘッとバカにしたように笑いながら、フォークを取り出す。



「だっせ、怖ぇ夢でも見たのか? ガキじゃあるまいし、だらっしねぇ」

「……ユキ、鉈ないのか?」

「え、あ、いや、持ってないですけど、例え持ってても危ないですからダメですよ!」

「……はぁ、私は顔を洗ってくる。アッシュ、すまんが水場教えてくれ……」

「ん、いいよ」



 項垂れるエドワードは一応準備してくれてることに安心したのか、先程の焦りは少し無くなっていた。


 テントから少し離れたところに川があった。

 屈みながら、顔を洗う。

 その隣にいたアッシュの顔をチラッと見るが、不意に目が合った。



「どうしたの?」

「え、あ、いや……。なんでもない」



 あの声は、恐らくアッシュだと思う。けど、これを詮索するのは嫌がるだろうから。



「はい、タオル」

「ありがとう」

「どういたしまして」



 ニコリと笑う。そんなアッシュを見ているとあれはただの夢だったのだろうを結論つけることにした。

 あまり考えないようにしよう。

 テントのあるところまで戻ると、丸太に座っていたアリスがムスッとした様子で出してるテーブルに突っ伏していた。



「おっそいわよ! エドワード! アッシュ!」

「すまんな、寝坊してしまった」

「何よ、なんかあったの?」

「いや、何も。すまん」



 首を横に振ると、その隣にいたリリィが珍しくぽつりと呟く。



「珍しい、なにかの前兆か?」

「私が寝坊するとそこまでのことじゃないだろ……」



 呆れながら、席につく。

 そういえば、普段は私が準備をする事が多い。こうして準備してもらったのは久々だ。


 昔、1度だけアッシュにお願いしたことがあったな。



  ◇ ◇ ◇



 確か、二年くらい前だ。その時、熱で身体が動かなく、当時はアッシュも入ったばかりで、今みたいに話すことは無かったし、笑うこともなかった。初めはアリス達がどうにかしようとしていたが、どうも上手くいかなかったし、二人は料理が得意な方では無い。そこで、アッシュに頼んだのだ。



「僕が……? 君たちの?」

「あぁ……、すまん。私が熱で、作れなくて……」

「……僕は……、僕が作っても、大丈夫なのかな……」



 結構な高熱なうえ、風邪をアリス達にうつすわけにはいけないため、最初は一人でいたが、心配してくれたのだろう。アッシュは暗い顔をしてはいたが、私の看病をしてくれていた。

 熱を冷やすためのタオルや水分補給用の水も準備して、数時間おきに冷やし直してもらう。


 食事を頼んだが、どうも本人は乗り気ではない。というか、触れるのが怖いと言った方が正しいだろう。



「お前が作ったら、ダメなことはないだろ……。それとも、作るのは、苦手なのか……?」

「うぅん……、作れる……。簡単なものなら……」

「じゃあ、すまないが、アリス達の食事を、頼む……」

「…………」



 返事はなく、俯きながら、テントを出た。

 あいつ、凄い暗い顔で出ていってしまったが熱で頭が回らない。


 ――しばらく時間が経った。


 ……何時だろう。苦しい。息が詰まる。


 ふと隣に気配がした。目線を向けると、俯きながら何か持っていたアッシュがそこにいる。

 目が覚めたと気づいた。心配そうな様子で覗き込む。



「こ、これ……」

「……?」



 震える手で何かを持っている。どうにか起き上がったら、アッシュの両手にはビニールの袋を付けたまま、お粥を持っていた。



「…………なんでビニール?」

「え、い、いや……、僕、その、き、汚いから……。あ! ちゃ、ちゃんとアリス達のご飯も触れてない! 君に作ったものにも触れてないよ……」

「……」



 まるで叱られそうになってる子供のようだった。同じくらいの歳のはずなのに何な怯えてるかはその当時はアリスからはあまり事情は話さず、ただ、一緒に着いた来てる状態だった。

 戦闘の際もこちらに知らせず、気付いたらいなくなって、気付いたら戻ってくることも多かった。


 少し呆れたような顔をしながら、お粥を受け取る。



「……お前、別に汚くないだろ……。お粥、ありがと」

「……うぅん、薬もあるから、飲んで……」



 薬も渡されて、未だにビニールを付けたままのアッシュの方を見る。まだ俯いてるまま。

 ……食べながらもちょっとムッとしながらアッシュに着いていたビニール袋をひっぺがす。



「あっ! ちょ……!」

「お前はアリスが連れてきた……。そしてお前が着いてくることは私も、リリィも承諾してる……。お前が言う、汚いというのは……よく、わからん。」

「だって……僕は……、僕は……!」



 泣きそうな顔をする顔に、持ってこられたコップの中の水をベシャッとかけると、アッシュはかけられてキョトンとされる。

 少々やりすぎたと思ったが、どうもこいつは一度冷静になる為には必要だと思った。



「ならこれで、水に流す……。汚くない。お前は私の大事な仲間だ……。だから、気にするな」

「…………っ」

「え、ちょ、待て、水かけられてそんなに泣くとは……」



 内心焦っているエドワードに対して、何かスッキリしたような顔をしたアッシュは、瑠璃色の瞳から大粒の涙を零しながら、ボソリと何故か、”ありがと”と言われた。



  ◇ ◇ ◇



 目の前に並ぶ料理を見ながらふと思い出した。

 アッシュを見るとニコニコした様子で食卓につく。

 こう見るとあの時に比べるとよく笑う。



「おい、アッシュ」

「何?」

「また寝込んだら粥を作ってくれ」

「もちろん、いいよ。いつでも寝込んだとしても、そうじゃなくても、君が望むならいつでも作るよ」

「そうか、楽しみにしてよう」



 あんな夢を見たからか、こいつの初めの頃を思い出してしまった。

 だから、もし、あれが予知夢でも……。



「ちょっとー! エドワード、明日は寝坊しないでよね?  ユキのご飯食べれたのはいいけど、ご飯遅くて腹ぺこで死んじゃうかと思ったんだから!」

「常習犯のお前にだけは言われたくない」



 野菜を齧りながら、席に着くユキがクスリと笑う。



「じゃあこうしませんか? せっかく人数がいるんです、食事を当番制にしたらエドワードの負担も減ると思うんですよ」

「確かになぁ、アリスは相変わらず下手くそなのかよ?」

「ノア、あんた、沈めるわよ」

「お〜、こっわ!」



 テーブルの下からアリスがノアの足を蹴り飛ばそうとするがあっさりと避ける。ガタガタいわせてるとエドワードに注意され、蹴るのはやめたが睨むのは変わらない。


 当番制か……。あんま考えたこと無かったなぁ。



「じゃあ二人一組でやる?そしたら片方が体調崩しても、もう片方が作ることができるからさ」

「それもそうねぇ……。じゃあ私とリリィ、エドワードとアッシュ、ノアとユキってのはどう?」

「お前らは料理に参加するな」

「なんでよ、もぉ! 薬の調薬出来るようになったんだから、料理もこの前ちゃんと作れたわよ!」

「あれは料理じゃない」



 ピシャリと言い捨てられるが、なんの事だか分からないノアとユキは互いに顔を見合せ、首を傾げる。



「まぁ、当番制はありかもな。私一人ではこの人数になると少しキツイ」

「では次回からそうしましょう。明日も僕とノアがします。せっかくですし、エドワードは朝、ゆっくりしてください」

「献立は変わらず私が考えておく。作るものがわかってる方がやりやすいだろ?」

「ありがとうございます」



 ユキとノアが準備してくれた食事を食べ終え、片付ける。

 この朝食は、少し、いつもよりも楽しかった。


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