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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第七章 神竜の住みし谷へ

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料理と行方1

 誘拐事件の後、助けた神子はギルドの人に任せてアッシュたちは宿に戻った。報酬に関しては相手の規模もギルド側の想定を超えおり、攫われた人たちを無傷で助けたことでかなり多めにもらうことができた。


 金貨100枚とはギルドの人もかなりの大盤振る舞いな気がする。これならしばらく路銀の問題ないだろう。


 それに事件も無事に終えたということもあり、早速アリスからふわふわパンケーキをお願いされたため、厨房へとアッシュは借りたエプロンを付けて立っていた。



「ところでマカオもなんで厨房にいるの?」

「あたし、今日まで働いてるから♡ あとアッちゃんが作るなんてなかなか見れないからその見学よん♡」

「ふーん。君も食べる? 今回、手伝ってくれたし、貴重な魔法石も使ってくれたって聞いたよ」

「あら~ん、いいの? じゃ、頂いちゃう♡」

「ん、おっけー」



 そう言って材料を並べ、アッシュはアリスの希望のパンケーキをイメージしながら考える。


 ふわっふわなパンケーキかぁ。普通にしてもしっとりとしたパンケーキになるし、せっかくだから白味を泡立ててメレンゲにて生地に混ぜたらそれっぽくなるかな?


 チラッと厨房からアリスを見ると両手にナイフとフォークを持ってワクワクしてる様子が見える。そんな彼女に思わず笑みが零れてしまう。手元のフライパンを見ながら、”よし”っと意気込む。


 とりあえず何事にも挑戦だ。やってみてダメなら次を考えよう。



 そして20分後。アッシュが厨房から出てきた。香ばしい匂いが食堂に広がる。その匂いに食堂にいた人たちは匂いのする方へ自然と引き寄せられるように見ていた。


 そんなことお構いなしにアッシュはアリスの前に香ばしく放つ料理を目の前に置く。



「お待たせ、アリス」

「できたのーーってなにこれぇ!」



 アリスが持ってこられたパンケーキに目を輝かせる。


 ふるふるとしてなんとも柔らかそうなそれはパンケーキと呼べないほどの分厚さ。そのパンケーキは5段ほどつ積み上げられており、周りには色とりどりのフルーツ。そしてふわふわパンケーキ似合いそうな雲のような生クリームが乗っている。


 幸せそうに見惚れているアリスにアッシュが小さな小瓶のようなものを取り出す。



「はちみつやチョコソースとかはどうする?」

「あとでかける! このままの味も食べたいから!」

「そっかぁ」

「いっただきまーす!」



 嬉しそうに手を合わせながらまずはパンケーキをフォークで突く。ぷるんぷるんとパンケーキのタワーが揺れており、それだけでも相当柔らかいことがわかる。

 そのパンケーキを一口大にカットして、雲のように滑らかそうな生クリームを乗せて、口の中に頬張る。

 口の中に入れた瞬間、ふわっとしてしゅわっとした食感。信じられないくらい柔らかく、口の中で溶ける。甘さの控えめな生クリームと相まってほっぺが落ちるんではないかと思うくらいとても美味しい。



「どう? 結構柔らかくできたかなぁって思うけど、君の思うふわふわパンケーキできてるかな?」

「~~~~~っ! すんっっっっごい美味しい!! 思ったよりもふわふわしすぎでほっぺ落ちそうだわぁ~。いくらでも食べれちゃう!」

「あはは、それはよかったよ」



 喜んでいるアリスにアッシュも思わず口元が緩む。


 大事そうに、愛おしそうに食べる彼女が見れただけでよしとしよう。


 そう思ってると気づけば周りにかなりの人がいる。なんだろうこの人たちと思っていたらアリスが食べているパンケーキに指をさす。



「こ、これってここの人に頼んだら出るのか⁈」

「え、パンケーキ?」

「あぁ! すごい美味しそうな匂いだし、お嬢さんもすごい美味しそうに食べるからさ! なぁ!ここの店の人に頼んだらいいのか⁈」

「え、え~っと」



 戸惑ってると厨房からマカオが出てくる。先に彼には作ったパンケーキの一段のタイプのものを渡していたためそれを食べながらこちらに来た。



「うふふ~ん、作り方見てたから、今日限定だけどあたしが作れるわよん!」

「おぉ! 本当か⁈ ぜひ作ってくれ!」



 マカオのおかげで人だかりから解放される。厨房に入る際にマカオがこちらにウィンクしてくれた。恐らく気を遣ってくれたのだろう。作り方をずっと横で見ていたけどまさか作り方までもう覚えてるなんて驚きだ。さすがは元料理長といったところだろうか。


 驚いた様子のアリスだったが再びパンケーキの方に夢中になる。


 食べているアリスを眺めていると、アッシュの隣に誰かが座ってきた。隣を見るとどうやらグレンのようだ。



「やぁグレン。里以来だね」

「まぁな。例の件で来たんだが……、さっき人だかりが凄かったが大丈夫か?」

「うん、マカオが代わりに引き受けてくれたから大丈夫」

「マカオが? あいつここに来てるんだな」



 グレンはマカオのいる厨房に目をやるとかなり注文が殺到してるのか忙しそうにパンケーキをひたすら作っている。その後、アリス食べているパンケーキを見る。



「なるほど。これが原因か」

「グレンも食べてみる? すんごい美味しいわよ!」

「え、いや、私はーーむぐっ⁈」



 問答無用でアリスは生クリームの付いたパンケーキをグレンの口に押し込む。何とも言えないような顔していたが一口、二口と噛んでいるとグレンの表情が変わる。



「…………」

「美味しいでしょ? アッシュが作ってくれたのよ!」

「…………これお前が作ったのか? マカオじゃなくて?」

「そうだよ」

「……………………あれの行列なくなってからでいいから私も同じものを食べたい」



 思わずアッシュは”え”と声を出してしまい、グレンもその解答で来るとは思わなかったのか同じように”え”っと返される。


 アッシュは目をぱちぱちとさせながら驚く。



「……君、こういうの好きなの?」

「え。………………あ、い、いや、思ったよりも、その、あれだ、あー……」



 グレンはいつも巻いている赤いマフラーで口元を隠しながらそっぽを向く。


 予想外の彼の反応にアッシュは思わず噴き出す。



「あっははは!」

「な、なんだ?」

「ははは……ッ いや、別に……っ い、いいよ。あとで作ってあげるよ。いつもお世話になってるしね」

「あ! 作るならおかわりしたい!」

「うんうん、わかったよ」



 夕方になるとようやく落ち着いたのでアッシュたちは厨房へ行くと、まだまだ疲れていない様子のマカオがいる。何やら宿屋の人と話をしていた。

 こちらに気づくとマカオが”あ! アッちゃん、アッちゃん!”と呼ばれる。



「どうしたの?」

「女将ちゃんがパンケーキのレシピ聞きたいっていうんだけど教えちゃっていいのかしらん?」

「別にいいと思うよ」

「あら、いいの?」

「うん」



 ”アッちゃんがいいならいいわん”と言って再度、宿屋の人と話を始める。

 別に秘密ってわけでもないし、その代わり厨房は好きに使っていいと許可も追加でもらった。


 いざ、再度作ろうと思っているとアリスも何故かエブロンを着てくる。



「君も何か作るの?」

「うん! 私もアッシュに何か作りたい!」

「あはは、じゃあ楽しみにしてるよ」

「まっかせてー! 何食べたい?」

「んー、そうだなぁ。あったかいスープかな」

「わかったわ!」



 そう言ってアリスは鍋を片手に意気込む。隣ではグレンはアッシュがパンケーキを作るところをじっと見ている。


 どう作るか気になってるのもわかるけどちょっと恥ずかしいな……。



「グレン、どれくらい食べる? 3段?5段にする?」

「……5」

「あはは、了解」



 作った時と同じように作っていく。一回目よりも慣れたからか、二人分のパンケーキを思ったよりも早く作れたので先に席に戻る。


 グレンに待たせておくのも、と思い先に食べてもらう。ふわふわパンケーキが気に入ったのか普段あまり見ないような幸せそうな表情で食べている。嬉しそうにしてくれて何よりだ。


 少し待つとアリスもできたのか笑顔でお皿に入ったスープをもってこっちに来た。



「おっまたせー!」

「おかえり、アリス」

「結構いい感じにできたわよ!」

「へぇ、どんな感じ……っ⁈」



 アッシュは思わずビクッとしてしまう。なんだろうとグレンもアリスの料理を見てから、何も見てないと言わんばかりに視線を逸らす。


 理由は簡単だ。目の前にあるアリスの料理はスープ、のはずなんだけども、何故か緑と紫を混ぜたような黒くてボコボコしている液体?液体なのかな、これ。


 なんだろう。本当に失礼かもだけどダークマターを錬成したんじゃないかと思ってしまった……。


 アッシュはなるべく顔に出さないように笑顔のままアリスの方を見る。



「アリス、これはなんていうスープ?」

「これね、魚と貝の海の幸スープよ!」

「海の幸のスープ」



 これのどこで海の幸になるのだろうか。黒いのは墨? だからといってこんなボゴボゴと音を鳴らすようなスープは初めて見たんだけど。



「あ、イカは入ってないわ。苦手ってちゃんと覚えてるからね!」

「あはは……。ありがと」



 イカ以前の問題な気がするが、アリスの笑顔を見るに本気なんだろう。早く食べてみてと言わんばかりにアリスが見てくるので匙を持って彼女の料理に手をつける。


 ザリリッ


 匙からはおよそスープから聞こえることのないはずのザラザラとした感触とまるで半分溶けたゼリー……いや、スライムと表現した方が正しいかも。そして、若干固形みたいなものもあるけどこれはなんだろうか……。


 覚悟と決めながら匙で掬う。


 ……小さじ程度なのに若干重い。



「じゃあ、いただきます」



 それを口に運ぶ。口に入れた瞬間、生臭さと吐しゃ物を混ぜた臭いとアンモニアに似た刺激臭が広がった。さらに舌に触れたところはビリリッと何故か痛い。これは辛味なのかわからないけどその後に苦みと酸っぱい、甘いが波のように襲い掛かってくる。吐きそうになるところをグッと堪える。


 その隣で見ていたグレンは僕の顔で察したのだろう。心配そうな表情をしていた。



「どう⁈ どう⁈ 美味しい?」

「うん、美味しいよ。ありがとう、アリス」



 アッシュは笑顔のままアリスにそう言うと嬉しそうにしておかわりのパンケーキを頬張る。


 エドワードが、何故、僕と会う前から彼だけ食事当番をして作っていたのか、前にご飯の当番制を決めたときにアリスを入れなかったのが今ならわかる。アリスは恐らく料理を作るのが壊滅的に苦手なのだろ。


 知らなかったとはいえ、お願いしているから食べないわけにはいかない。



(これは、今日この後、僕動けなくなりそうだな……)



 笑顔のまま目の前にあるアリスの料理を一口、二口とどうにか口に運ぶ。そのたびに広がる味に吐きそうになりながら耐えているとグレンが指でトントンッとテーブルを叩く。


 なんだろうとアッシュはグレンの方を見る。



「アリス、これ味見してるのか?」

「え、スープ? うぅんしてないよ。しないとダメかしら?」

「…………そうか。ところでアッシュ美味しいなら私も食べよう」

「え⁈」



 さっきのグレンの反応的にヤバそうなのはわかってるはず。まさか気を遣ってくれてるのはうれしいけどこれを彼に食べさせるわけにはいかない。



「いやぁ、僕、結構ね、お腹減ってるからさ、分けるのはちょっとなぁ。君はパンケーキがあるじゃないか。それ食べなよ」

(訳:君、今、美味しそうに食べてる分があるからそっち食べなよ。頑張って食べ切るから)


「甘いもの食べてるとまた違う味が食べたくなるだろ。美味しそうな顔してるから味が気になる。半分、寄こせ」

(訳:死にそうな顔してまで食うのきついなら半分食ってやるから寄こせ)



 なんてアリスに気付かれないように遠回しに互いに言いあっていると、横からマカオがスっと現れる。



「あらぁ、アッちゃんそれなぁに? あたしも一口ちょうだいなぁ♡」

「あ!ちょ――」



 アッシュの制止を気にせず、マカオは皿と匙をアッシュからとって一口食べる。


 しばらく動かず、大丈夫かと心配していると、そのまま彼は匙を口に入れたまま後ろへ倒れた。



「ま、マカオ?!」

「おい!大丈夫か?!」

「え、えぇ?!」



 アッシュとグレン、アリスは驚きながら倒れたマカオを見ていると、完全に気を失っていた。皿ごと持っていたので倒れた衝撃で全て床にぶちまけられてしまっている。


 マカオが一口で倒れたことにアリスもかなり驚いていたが、それよりもアッシュは食べて普通にしていたから気を失うほど不味いのかとその時に彼女は初めて気付いた。



「そ、そんなに不味かったのかしら……。アッシュ普通に食べてたからいいかと思ったんだけど……」

「え、えーと……」



 どう返事しよかと戸惑うアッシュだったがこればかりはなんともどうフォローした方がいいかと悩んでしまう。

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