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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第七章 神竜の住みし谷へ
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誘拐事件簿4

 少し時を戻して、アッシュ。

 彼の両手には手錠をかけられており、その手錠から紐が伸びていた。


 その紐を持っている男に連れられてボスと呼ばれる男のいる部屋の前で立っていた。隣でまだビクビクとしてる。



「ほ、本当にいいんっすよね……?」

「いいから、開けて」



 睨むように言うと、おずおずとしながら男は扉を開ける。中から強烈な煙草の臭いと血の匂いがしており、恐らく目的のそいつであろう足元に誰かわからないが白い髪に毛先が緑色の女性が血を流して倒れている。


 恐らく神子なのだろうが、後ろ姿なので生きてるかはわからない。それに周りを目視だけで見るだけでもそこそこの強さがあるのが15人ほど。


 倒れている神子は気配的にはアリスではないからどうでもいいけど、もしこいつのところにアリスが連れていかれていたらこうなっていたかもしれないと思うと、はらわたが煮えくり返る。


 殺意を抑えながら笑顔のまま目の前の男を見ていると、手錠の紐を引いていた男が頭を下げる。



「ボ、ボス! 連れてきやした!」

「あぁん? もう一人はどうした?」

「い、いや……もう一人、女がいたもんで、そ、そいつと……」

「けっ、なんだ、お楽しみにいったんかよ」



 聞かれると思っていたので適当な嘘をこいつに伝えていた。

 それを真に受けてるのかそいつの隣にいた別の男は立ち上がり、アッシュの方に近寄ってくると彼の顔を鷲掴みしてまじまじと見てくる。



「へぇ、いい顔してるじゃねぇか。聞いてるぜ? 一晩泊めてほしいそうじゃねぇの。泊めてほしいなら可愛らしく、おねだりして俺たちを喜ばせることができたなら泊めてやってもいいぜ? お嬢ちゃんは寝られるかは、わからねぇけどな!! ギャハハハハハハハハハッ!!」

「…………」



 今、殺してやろうかと思ったけど、呪いのこともあるし、エドワードからは殺すなよとも言われてる。


 臭い息を吐く目の前の男に、ふぅー、とアッシュはため息をつく。



「……僕に触れるな」

「あん? ーーっ⁈⁈」



 アッシュが足を思いっきり蹴り上げると、グシャリと痛々しいしく潰れたような音が響き、蹴られた男は声にならない悲鳴を上げてそのまま倒れ込む。

 突然の出来事に周りがどよめく中、アッシュは自身についた手錠の鎖を引きちぎる。


 中央で偉そうに座っている男が煙草を吹かしながら、アッシュを睨みつけ、立ち上がる。



「おいおい、お嬢ちゃん。なぁ~にしてくれてんだよ? せっかくこっちは優しく、招き入れた側だぞ?」

「優しく? 下心丸出しの盛りの猿が偉いことをいうじゃないか」



 ハッと鼻でアッシュは笑い、指をパチンと鳴らして唯一の出口に鍵をかける。そして懐からギルドの印が入っている依頼書を取り出す。



「……僕は冒険者ギルドの依頼で君たちを捕まえに来た。大人しくしてくれるなら痛い思いしなくて済むけど、どうする?」

「冒険者ギルドぉ⁈ ハーッハッハッ!! お嬢ちゃん偉い強気だけどな、ここにいるのは凄腕の用心棒だぜ? 痛い目に見るのはてめぇだよ!! バァカ女ぁ!!」

「あはは、いくらバカ丸出しの猿がいっぱいいても僕は負けることはないよ」

「いうじゃねぇかよ……。てめえら!! このクソ生意気な(あま)をぶっ殺せ!!」



 一斉に襲い掛かってくる連中にアッシュは片足を後ろに軽く上げてトンッと床を鳴らす。アッシュを中心に蒼い炎の渦が発生する。突然の炎に立ち止まってしまう男たちだがそれの範囲を徐々に広げていく。



「触れてみなよ。きっと、いい感じにこんがりと燃えるよ」

「炎なら水で消えるだろ!! ”大海原に漂う無数の波紋よりも深き魔力を我に授けよ! 水魔法:アクアジェット”!!」



 水魔法を使ってくるが、そんな魔法では無意味と言わんばかりに当たると同時に蒸発する。魔法をいくらやっても勢いは止まらない。次第に全員部屋の隅に追いやられる。



「僕としては穏便に終わらせたいんだよねぇ。本当は君たちを燃やしてやりたいけど、これでも我慢してるんだよ」



 ゆっくりボスに近づいていく。僕が触れても燃えないことに驚いているそいつの胸ぐらを掴みーー



「けど君が無傷なのはそこで倒れてる子が可哀想だよね」



 そう言いながら、ボスを背負い投げをしながら床に叩きつける。


 ダアァァァンッ!


 ボスと呼ばれた男は勢いよく床に叩きつけられ、炎に燃やされ、痛みでのたうち回る。


 その姿に周りはさらに逃げるように壁にへばりつく。



「さて、君たちのボスはこんがりとなりつつあるけど、凄腕な用心棒の君らはどうする? まだ抵抗するなら動けない程度まで燃やしてあげるけど」



 そう言うと全員首を横に振る。


 どうやら降参してくれるようなので、炎の輪っかで囲うようにそれぞれ捕まえておく。そして血を流して倒れていた神子に近づいて回復魔法を施す。



「”再生(リジェネレイト)”」



 どうやら生きていたようで問題なく回復した。神子を抱えて、地下の方へ。伸びているボスはアッシュを連れてきていた男に担がせた。


 地下に行くとみんな無事のようだ。



「おかえり。終わったのか?」

「うん。捕まえた後ろの連中は牢に入れて後でギルドの人に回収させるよ」

「それがいいな。その神子は?」

「上に行ったら怪我して倒れてたから治療したの。捕まってた一人だと思うよ」



 アッシュが神子を降ろそうとしていると、エドワードの後ろからアリスが飛びついてくる。落とさないように再度、神子を抱え直しているとアリスからほっぺに手を置かれる。



「アッシュめっちゃ可愛い!! 女の子じゃん!!」

「あはは、マカオに化粧してもらったからね。アリスも無事でよかったよ。大丈夫だった?」

「もっちろん! アリスさんちょー元気!」



 元気よくピースをしたが、抱えてる神子にアリスは目が行く。



「あら、その人は?」

「さっきエドにも伝えたけど、ここで捕まって暴行受けてしまってたみたいでさ。怪我は治したんだけど、目を覚まさないんだ」

「へ~そう」



 ジーっとアリスは神子を見てムスッとする。


 何かかなり言いたげだろうけどなんだろうかとアッシュが思っているとそんなアリスの横でエドワードは少々冷ややかな視線を彼女に向ける。



「おい、アッシュ、こいつがついて行った理由が、ふわふわパンケーキ食べられるから、だそうだ」

「ふわふわパンケーキ?」

「ちょ、ちょっとエドワード! い、言わなくてもいいじゃん!」

「…………」



 エドワードの答えにアッシュは目を見開いて驚く。焦るアリスだったが、彼はクスリと笑う。



「あははッ! なんだい、君、パンケーキにつられちゃったの? ははッ、相変わらず甘いもの大好きだね。アリス」

「え、お、怒んないの?」

「怒らないよ。君が無事ならそれでいい。けど、もう変な人から甘いもので釣られたらダメだよ。食べたいものがあれば僕に言ってくれたら、僕が作ってあげるからさ」

「えぇ⁈ い、いいの⁈ 作ってくれるの⁈」



 ズイッとアリスがアッシュに迫る。また一瞬驚くがアッシュはにっこりと笑顔になる。



「あはは、もちろん、君が望むなら何でも作るよ。任せて」

「おい、アッシュ! 甘やかさずに怒ってくれ!」

「いいじゃないか。今回無事なんだし、依頼も無事に終えたんだしーーって痛い痛い」



 エドワードはアッシュの頬を思いっきり抓って怒るが、彼は変わらず笑っていた。


 そんなやり取りをしているとアッシュが抱えていた神子がうっすらと目を開ける。抱えてくれている人であるアッシュを見てぼそりと呟く。



「おうじ……さま……?」



 そう呟いてまた気を失ってしまった。それには誰も気が付くことはない。


 こうして誘拐事件は幕を閉じた。

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