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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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妖怪の里:出立

 翌朝、屋敷の庭で大きく手を広げて深呼吸する。その様子をグレンが縁側から眺めていた。



「ん〜〜〜〜〜っ!! いい天気! いい出立日和ね!」

「お前、朝から元気だな」

「昨日楽しかったからねぇ」

「それでもお前が早起きなのも珍しいな」

「まぁ朝5時くらいだもんね~」



 普段からアリスはよく寝ることが多い。が、何故か出立の時は早起きする。遠足前の子供のようだ。


 それに合わせてアッシュたちも早めに起きて出立の準備を進めていた。



「足りないものとかないかな?」

「一応あるはずだ。ここの里だと必要物資が割と手に入りにくいから困りものだな」

「まぁないなら次の街とか村とか見かけたら聞いてみるしかないかもね」

「そうだな」



 アッシュとエドワードで必要なものを確かめているようだ。薬や食料、その他の必需品の最終チェックをしながら準備を進めていた。かく言う、グレンもマントの金具をカチリとつけて、アッシュのところに行く。



「じゃあ私は先に出る」

「あ、もう行くのかい? 今回もありがとうね。助かったよ」

「ん、娘の方の件は何かわかったら伝える」

「わかった。よろしく頼むよ」



 にっこりと笑うアッシュにグレンは肩を軽く、ポンッと叩いてから、指をパチンと鳴らす。その瞬間テレポートでグレンは先に行ってしまった。

 一緒に旅をしてるわけではないがこうしてたまに会えるのも嬉しいものだ。


 昨日のうちにリンたちには出ることも伝えていたのでこっそりと音をたてないように、身支度の終えた一同は里の入り口まで行くと後ろから、”おーい”と声が聞こえる。

 振り向くとリオンたちが見送りに来てくれていた。



「あら、リンたちじゃない。見送りはいいって昨日言ったのに」

「いえいえ、皆様にはお世話になりましたから、見送りくらいさせてくださいな」



 ”それに……”と言いながらアッシュとアリスの方を改めて向くと頭を下げる。



「今回お二人には大変感謝してます。私の代わりに参加して下さって、頂いてなんとお礼をもうしあげたらいいのか……」

「いいのよ、私がただムカついて参加を勝手にしちゃっただけなんだから。それに美味しいものも、たっくさん食べられたし、すんごい満足!」

「まぁ僕の場合、むしろこの里であんなことしでかしちゃったからさ。よそ者っていうことで今は僕に向いてるけど、しばらくたって君たちに迷惑にならないかが心配かな」

「ふふふ、大丈夫です。私も100年経つたびにあそこまでとは言いませんが恨みを買ったりしてますからね。気にしないでください」



 クスクスと笑うが、実際そうなのかそれとも気を遣ってもらってしまってるのか……。ただ本当に申し訳ないというのは変わらない。それだけのことをしてしまっている、ということもあるからだ。


 不安そうにしていると彼女の後ろにいた夜李がリンの頭に手を置く。


 二人はこの短期間で結構仲良くなっているようだ。



「ま、俺もいるし、何かあれば一応今の主人はこいつだからどうにかなる」

「あはは、確かに。夜李がいるなら心配ないかもね」

「夜李は強いですから、頼りにしてます」

「……おう……」



 照れ臭そうに夜李は顔を背ける。彼もしがらみが多少は落ちたようで本当に良かった。


 リンはアリスは近づき、バスケットと何かもう一つ紙を渡す。なんだろうとアリスが見ると中にはリンが働いている甘味屋の団子がたくさん入っていて、もう一つは手紙のようだ。



「この手紙は?」

「はい、もし寄ることがあれば、というものですが、ここの里と唯一交流のある”侍の国”へもしいかれることがあれば弟を訪ねてください。きっと力になってくれます」

「侍の国ね。わかったわ! お弟さんはどんな人?」

「中に写真を入れてます。会えればでいいので」

「うん! わかった! ありがとうね!」



 笑顔でお礼を言うアリスに一礼して、次にリンはアッシュに近づくと軽く耳打ちされる。


 他に聞かれたくないことなのかな?



「アッシさん、アメノミナカヌシ様からお告げを頂いてるかと思いますが、注意だけはするようにお願いします」

「あー、花火大会であった神様かぁ」



 会った時に言われた、”災厄に気をつけられよ”。あれが何を意味するか正直分からなかった。けど、せっかく神様から聞いたお告げだ。注意しておくに越したことはない。



「そうだね。僕も注意するよ」

「それがいいです」



 小さくアッシュも頷くとリンは少し笑う。


 そんなリンの隣にいたリオンはユキの元に行くとユキはわざわざリオンと同じ視線になるようにしゃがむ。



「どうしました?」

「あのさ、ユキがあのとき、いっしょの牢でほんとうによかった。じゃなかったら、おれは売りとばされて帰ってこれなかったと思うし」

「あの時は大変でしたからね。でも、僕もリオンと一緒の牢でいたからこそ助けられただけです」

「それでもありがとな。ユキ」



 そう笑うリオンにユキは本当に助けられてよかったと思った。あのまま置いていかなくて本当に……。


 そんな二人の後ろではリリィとノア、キースが話をしていた。あの三人も一緒に祭りを出ていたからキースは二人との別れにボロボロと泣いている。泣いている彼の頭をリリィは撫でまわしていた。



「お、お二人にはたくさん、助けてもらって、あ、ありがと、ございました……っ」

「大丈夫。キースも頑張ったじゃないか」

「で、でも、ぼく、リリィさんみたいに、つよくなくて、の、ノアさんみたいに、器用じゃ……っ」

「んなもん練習あるのみだぜ。俺だって初めから器用にできてるってわけじゃねぇしよ」

「そうだ、鍛錬あるのみだ」



 もっともらしい回答と脳筋な回答が来てるけど、キースに関しては真面目に聞いてるようで”うんうん”と頷く。ツッコんだ方がいいかなとアッシュが思っているとキースの肩にガシっとリオンが掴みかかる。



「んじゃあおれとうちこみだな!キース!」

「ぼ、ぼく、がんばる! リリィさんみたいにつよくなって、ノアさんみたいにすばやくできるようになります!」

「おう! その勢いいいな! 頑張れよ!」

「ならついでにノアもキースに習って接近戦の鍛錬だな」

「いや、俺はしない。マジで」



 リリィの提案に全力で拒否したノアはユキの後ろに隠れていく。それを追いかけるように三人も群がって追いかけていき鬼ごっこが始まる。それにアリスまで混ざろうとしてエドワードが彼女の首根っこを掴む。



「お前まで参加したらややこしくなるから行くな、馬鹿。そこも遊んでないで、そろそろ行くぞ」

「はーい」



 軽い返事をして、ようやく出立。


 アッシュたちは振り返りながら布作面(ふさくめん)を取る。リオンと夜李以外は驚いた顔をしていた。なんとなく妖怪ではないとは思っていたが、アリスの髪を見て神子だというのは言っていなかったからリンが一番驚いていた。



「んじゃ! まったねー!」



 アリスが駆けていく。その後ろをアッシュたちも続いていく。この霧を抜ければ里の外だ。


 徐々にアッシュたちの姿が小さくなっていく。リオンがギュウッと拳を作りながら後ろから追いかけようとしたが夜李に腕を掴まれて止められた。


 それでも、言いたいことがあったから、霧に飲まれる直前に、リオンが大きな声を出す。



「アーッシュ!!」



 その声が聞こえていたのか最後尾にいたアッシュが足を止めて振り返る。

 リオンの目にはボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちていく。声を震わせながら、アッシュたちに伝わるように大きな声を絞り出す。



「お、おれ!! お前みたいに強くなるよ!! 絶対に強くなるから!! だから!! そ、その時はまた一緒に勝負しよう!! 母様も、守れるくらい!! 強くなるから!!」



 喉は痛むくらい叫ぶとアッシュがこっちを向いて彼はにっこりと笑いながら手を振る。



「いいよぉー!! ま、僕は負けないけどねぇー!!」



 大きな声で返して霧の中へと、アッシュも消えていった。


 姿が見えなくなって、嗚咽混じりにリオンは泣く。リオンの横にリンがしゃがみこみ、泣く息子の頭を撫でながら諭す。



「泣いたらダメですよ。アッシュさんのように強くなるなら、どんなに辛くても寂しくても彼は泣かずに前を向いていたでしょ?」

「うん……っ」



 そうだ、あいつはどんなに辛くても苦しくても傷ついても、怒ってはくれるけど俺たちの前で泣いたりはしてない。


 リオンは自身の袖で涙を拭いて顔を上げる。



「よっしゃ! おれは、絶対にアッシュより強くなってやる!!」


「無理だな」「無理と思います……」「無理ですね」


「んなそろえて言うなよ!!」



 夜李とキースとリンにそろって否定されてしまう。吠えるリオンは意地でも強くなってやると燃えていると、吠えたリオンに三人は笑う。


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