花火と神様
この花火大会は神降ろしのも兼ねてるらしく、神々しい神様やちょっとやばそうな神様も横を通っていく。この里で改めて長になった鬼一族のお祝いや言葉を贈る為に来ているそうだ。それにリンは引っ張りだこで夜李もその付き添いで一緒にいる。
そして暇を持て余してるリオンがバタバタとアッシュを連れて走る。子供の体力は恐ろしいもので屋敷を出て少し経ってからリオンとキースに手を引かれながら走って花火大会の会場へと着いた。
ただ手を引かれてる間ずっと中腰だったため、体力よりも腰に来る……。
「君らよくずっと走ってられるね」
「へへーんだ。おれはまだまだ走れるぜ。な!キース」
「は、はい! 若様! 僕もまだ行けます!」
妖怪祭以降このふたりはよく遊ぶようになったそうだ。友達が増えてリオンも喜んでいたし、リリィのおかげで猫又は上位に出たため、キースに意地悪をする妖怪も少なくなったそうだ。
各々到着したところで各自自由行動をすることになった。僕に関しては二人のお守り。いやでは無いけど二人は何に連れていったら喜ぶのか少々悩む。
が、その悩みは不要のようだった。
「な! アッシュ! ヨーヨーつりしようぜ! 糸が切れたやつが負けで次のところでそいつのおごりだ!」
「僕もやるのかい?」
「ったりめぇだよ! キースもおれも負けねぇからな!」
「あはは、いいよ。やろうか」
細いネジネジとされた糸の先には釣り針がついていた。キースとリオンは慎重に慎重に取ろうとしているところで、アッシュは器用にひょいひょいと次々にヨーヨーを釣りあげていく。
焦った二人はどうにか釣ろうとしたが、途中で糸が切れてしまった。
「なんだい、二人とも〜。不器用だねぇ」
「あ、アッシュ大人げねぇ! ふつうここはわざと負けるだろ!」
「いやいやぁ何言ってるのさ。若様ともあろうものが手加減なんてもの期待しちゃってた?」
「むむむっ〜!!」
ムスくれるリオンの頭をわしゃわしゃとする。リオンは顔を真っ赤にしながら”次だ!次!”と言って射的を見つけるとそっちに向かうと、見慣れた二人がいた。
珍しい組み合わせで、ユキとリリィだ。どうやら射的を二人でしており、どうにか狙い落そうとしてるようだった。
「……チッ、当たらない」
「リリィ、焦ったらダメですよ」
そう言ってユキが構える。狙っているのは……そこそこ大きなぬいぐるみだ。
「撃つ時は脇を締めて、重心を整えます。そしてあぁいう大きい獲物には――」
パンっと撃つと綺麗に当たり、グラッと傾くぬいぐるみは落ちた。あんなので一応、落ちるんだと感心してしまう。
「こんな感じで簡単ですよ」
「それはお前だけだと思うぞ」
「え、そ、そうですかね?」
おっかしいなぁという顔をしていると、ユキとリリィの元へリオンたちが駆け寄っていく。
「ユキ! あれ取れる?!」
「ぼ、ぼくも! リリィさん! とってほしいです!」
そう迫られる二人は顔を見合わせてクスリと笑いながら二人の希望のものに狙いを一緒に定める。
「お安い御用ですよ」
「あれなら私も取れる」
そう言った二人は同時に撃つ。見事に景品を二つとも落として、それぞれに渡す。それを見た他の子供たちまでも二人に群がっていき、各々欲しいものを二人にお願いしていた。
あ、それは多分怒られる予感がする。
二人は子供たちの希望のものを次々と取っていく。
「あ、あぁ……ちょっ、ちょっと……」
一ッ目の妖怪が震えながら次々と取られていく景品に震える。さすがに止めた方が良さそうだ。
二人が調子に乗って次を取ろうと構えた時にアッシュは二人の頭にチョップする。
「いたっ?!」
「つっ?!」
「二人とも、取りすぎたらお店の人困るでしょ? リオンたちのはいいけど他の子供は関係ない子たちなんだから代わりに取ってあげたらいけません」
「す、すいません……。つい……」
「いいだろ。ちゃんと払ってる」
「いやいや、そうじゃないからね。君らほぼ一発で取ってるんだから。1プレイ銅貨5枚、十発の玉をやられてみなよ。破産するよ。露店が」
そういうと露店の店主は泣きながら頷く。本来は一発で取れるようなものは少ないはず。少しずつ当てて取らないといけないのに、二人は無意識に玉に魔力を詰めてるから威力も増している。
そりゃあ落ちるよね……。
後は、ノアの方を見ると、酒をがぶ飲みしている。見た目は子どもの姿だけどあれでも立派な大人だ。冷酒というものを飲んでいるらしい。僕は飲めないからちょっと羨ましいかも。
アリスとグレンが二人が一緒にいるのもちょっと珍しい。アリスに付き合わされてるという感じだろう。両手に一杯露店の料理を持ってる。あれだけの量はアリスなら食べるだろうけど、グレンも同じスピードで合わせて食べている。あのスピードのあわせて食べられるのは驚きだ。
周りを見ていたらリオンがアッシュの元へ走っていき、足にしがみつく。
「アッシュ! 何見てんだ?」
「ん? いや、みんな楽しんでるなって思ってね」
「……なぁ、アッシュたちはもう旅出ちまうんだよな?」
「そうだね。スノーレインでも言ったけど。アリスが満足したら行くから結構彼女も満喫してるし、もう少ししたら出立かな」
今回リオンたちのことも問題はいろいろではしたけど、アリスも満喫してるし、次の街を目指すつもりだ。
そういうとリオンは俯いて泣きそうな顔をする。
「な、なぁ! よかったらここに住めよ! ここは不自由なく暮らせるし、楽しいし……自然とか綺麗だしさ!」
「ん~、アリスが決めることだから僕はなんとも言えないかな。それに……」
「それに……?」
「アリスたちがいることになっても僕はここにはいれないかな」
「え?」
「僕は覚えてないけど、いろいろと壊し過ぎてしまったからね。僕がここにいると本当の鬼である君たちにも迷惑をかけてしまう。それはよくないからね」
「…………っ!」
そういうとリオンはようやく周りの視線に気づいた。アッシュに向けている視線は自分たちのものと全く違う。ゾッとするような強い殺気も混じっていて、今にも襲われてしまうんではないかと錯覚するほどに。
それでもアッシュはいつも通りに、していられるなんて……。
「ホント、僕がよそ者でよかった」
「…………おれ、気付かなくて、ごめん……」
「大丈夫さ。その視線に気づいただけでもすごいよ。なかなか君の歳で……って妖怪の君は普通の人とまた年齢差がすごいよね」
「おれ、これでもまだ100歳ちょっとだぞ」
(歳のあたりは長寿種族特融の考え方だな……)
エルフやリオンたちのような妖怪などの長寿な種族はなかなか歳と見た目が合わないことは多い。
ヒュ~……ドォォォォーンッ
大きな音と光が散る。それに視線をやるととても綺麗な景色が広がっていた。花火が上がると、周りにいた妖怪もそれに釘付けになっている。
「とっても綺麗だね。花火ってこんなに綺麗なんだ」
昔はそんなに余裕はなかったが今は落ち着いてみていられる。見ていると、隣にいたリオンがアッシュの腕を引っ張っていた。
「ん? どうしたの? リオーーっ⁈」
思わず驚いてしまった。それは神様と呼ばれている者、背丈は3倍ほどあるのだろうか、何とも言えない威圧感と神々しさ。姿は、何故か認識できない。不確かな存在というのだろうか。思わずアッシュも息を呑み、震えるリオンは思わずアッシュの後ろへと隠れてしまう。確かリンからは神様に話しかけられる可能性あるから失礼がないようにって言っていたな……。
『我はアメノミナカヌシ。人の子よ、名はなんと申す?』
目の前の神、アメノミナカヌシがそういうと周りの音が急に無くなる。バッと周りを見るとまるで時が止まったかのように誰も動いていておらず、打ちあがっている花火もそのまま、リオンも固まっていて動かない。この場所だけがまるで切り抜かれたようになっているようだった。
改めてアッシュはアメノミナカヌシを見て目の前の神様に一礼する。
「初めましてアメノミナカヌシ様、僕はアッシュ・アウロラフラムと申します」
『…………』
え、なんだろ。この神様、どうしたらいいか、わからない。内心、戸惑いながら頭をさげたままでいると、アメノミナカヌシはアッシュの方へと手を伸ばすが触れるか触れない所で止まる。
『災厄に気をつけられよ』
「え?」
顔を上げるとそこにはもうアメノミナカヌシはいなかった。花火の音と周りの声が鮮明に聞こえてくる。今のは気のせいだったかと思ったがリオンが、わっと泣き始める。余程怖かったのだろうか、慌ててアッシュが宥めていると、鳴き声を聞きつけたリンが走ってきた。
「ど、どうしましたか⁈」
「えーと、実はさっき神様かな? アメノミナカヌシ様って神様に在ってさーー」
「ア、アメノミナカヌシ様⁈」
リンが驚いたように言うと周りがざわつく。
そんなにざわつくことなのだろうかと思ってると今まで見たことのないくらいの顔でリンはアッシュの肩を掴みながら揺らす。
「アメノミナカヌシ様が本当にここにいらしたのですか⁈」
「い、いたよ。そんなにすごい神様なの?」
「すっごいってものじゃないですよ! そもそもここに在られることが、ひじょ~~~~うに珍しいお方なのです! 基本、干渉とかないので」
周りの妖怪も”まさかこちらに在られることが生きているうちにあるとはな……”とか”お姿を一目見られれば”とか、相当珍しい神様なのはよくわかった。よくわかったが今度はアッシュは質問攻めに遭い、抜け出すのに一苦労する羽目になってしまった。
ただ、そんな神様が言っていた言葉。
”災厄に気をつけよ”
あれはいったいどういうことなのだろうか。そんな疑問はもみくちゃにされてしばらく自分の中にしまうことにした。




