表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/270

出会いは砂漠の中の宝石と同じ

 しとしとと雨が降る中で、アッシュは早歩きのままその場を逃げるように去っていった。グレンのフードのおかげで妖怪たちもアッシュだとは気づいていないようだ。


 けど、ずっとずきずきとした心臓の痛みは増すばかりで呪いのせいなのか、それともあの言葉で痛いのかわからない。眠れないからって、あの時に追いかけなければ、よかったのかもしれない。

 そうだよ。僕がいくら思っていても彼らに対する、僕のエゴだ。



「…………まぁそうだよね……。普通……」



 ぼそっと呟いているとバタバタと誰かが走ってくる音がした。ドシンッとぶつかってそのまましがみつかれると、掴んできた相手はニヒヒーッと笑いながらこちらを覗き込む白い綺麗な髪、毛先の赤い……。これは……。



「アリス……?」

「あら? なんだグレンかと思ったのにアッシュじゃない。屋敷に帰ったんじゃなかった?」

「あはは、戻ってたけど、ちょっと散歩かな」

「こんな雨の中?」

「まぁね、頭冷やしたかったから」

「ふーん、じゃあ私も一緒に散歩付き合ってあげる!」

「え、ちょっ⁈」



 しがみつていた彼女は放したかと思えば、マントをバサッと下から捲り、中に入り込むとまたしがみつく。子ザルみたいだなぁと思いながら、マントの金具を外して大きく広げられるようにする。中腰になっていたが、アリスは楽な体勢を変えて、相変わらずくっついたままだ。



「えへへ~、アッシュはあったかいわね~」

「人並の体温くらいあるよ」

「うぅん、もっとあったかい。落ち着くもん」

「あはは、そっかぁ」



 こんな僕でもあったかいか……。こんなこと言うのはある意味ではアリスくらいだと思う。



「ところで」

「ん?」

「どうして泣いてたの? 屋敷でなんかあった?」



 アリスにそう言われてピクッとする。


 あれ、僕、泣いてたのかな? 別に泣いていたとは思わないけど……。

 自分の頬に触れても雨で濡れてしまってるくらいで、涙が出てるようには思えない。顔には出さないようにしようって思ってたし。



「……やだなぁ、泣いてないよ。どうしてそう思ったの?」

「あんた、わかりやすいわよ。相変わらず泣き虫ねぇ」

「だから、泣いてないってば」

「……そういうならいいけど、あんた、ため込んで爆発するタイプだし、言いそびれて、タイミングを外すしてから後々後悔してもいいならいいわよ~。今ならアリスちゃん無料相談所空いてるんだから~」

「なんだいそれは……」



 タイミングか……。そういえばグレンにもさっき言われていたな。


 ”何も言わないで事が起こった後での後悔と、早めに言って互いにどう対策できるかで考えたうえでの後悔の度合いは違う。だから早めに言うかどうかははっきりさせた方がいい”


 まさにさっきのがそうかもしれない。エドワードにあんなこと言わせてしまってたから。呪いのこと黙っておこうと思った矢先でこんな思いしてるから。



「…………アリスは、さ。僕に会ってよかったと思う?」

「え? 私?」

「うん」

「私は会ってよかったって思ってるわよ。あんただけじゃない。今まであった人たちは会ってよかったって思うもの。だって、出会うなんて本当は砂漠の中にある砂から宝石を一粒を見つけ出すのと同じくらいすごいことって聞いてるもの!」



 目を輝かせながら言う彼女は実にアリスらしい答えだなと思う。だからこそ、いまだに旅商人のルスやガーネットたちともやりとりも続いていて、大事にしているんだと思う。


 けど、全部が全部そうだとは思わない。



「……じゃあアリス、その宝石は偽物で危ないものだったらどうする?」

「偽物で危ないもの? んーそうね。見つけた宝石の魅力かもしれないから、私はないがしろになんてしないわ」

「へー、他の人がいらないって言っても?」

「もちろんよ!」



 そう言ってアリスはマントの中から飛び出して水飛沫を上げながらくるっと回る。


 雨粒はアリスの髪に当たるとまるで水晶のように髪に着飾る。その姿は綺麗の一言が最もあうだろう。そんな彼女は大きく両手を広げて、満面の笑みを浮かべる。



「その宝石は誰が綺麗だと決めつけたの? その宝石は誰が偽物だと決めつけたの? その宝石は誰が危険だと決めつけたの? その宝石は誰がいらないと決めつけたの? 答えは否!!」



 ビシッとアリスはアッシュに指を向ける。



「その答えは会った私たち自身の価値観で決まるわ。誰が何と言おうと、私にとっては大事な宝石たちよ」

「……そっか」

「もちろん、あんたもふくめてね。忘れたかしら?」

「え?」

「私はあんたを独りにはしないわ。あんたが私たちと一緒じゃなくても大丈夫だってならない限り。絶対」



 まっすぐ見てくる彼女のルビーの瞳は本当に綺麗で見惚れてしまいそうになる。


 あぁ、僕は彼女のこのまっすぐさから彼女のことは信じようと思ってついてきている。今も昔も変わらないアリス。



「でもね、アッシュ」

「ん? なんだい?」

「私、あんたの瑠璃色の眼が好きよ。翡翠の時もいいけど、元の瑠璃色の瞳が好き。あと炎を操ってるときも好き。すごい綺麗だもん。泣き虫なところも好き。普段、強いあんたの弱いところ見てるみたいでちょっと頼られてるんじゃないかって思うわ」



 急なことにアッシュは一瞬固まってボッと顔が赤くなる。


 え、なに、急になんで褒められて、褒めなのかな? いや、それでも……。


 恐らく耳まで真っ赤になってるであろうアッシュにアリスはニヤニヤする。



「きゅ、急に何さ⁈」

「まだまだあるけど聞く?」

「い、いいよ。なんか恥ずかしいし……」



 フードを深く被って顔を背けるが、アリスにフードごと引っ張られる。目と鼻の先にアリスの顔がある。さっきのこともあるから彼女の眼を見れない……。


 いたずらな顔をしながらアリスは笑う。



「だから、もしかするとあんたが嫌っても私は簡単に手放さないから覚悟しなさいね」

「……っ そ、それは、その……」

「フフフ~!……あら、雨やんだわね。…………あ!ほら、アッシュ、虹もあるわよ!」

「うわっ⁈ ちょ、ちょっと!」



 アリスに腕を引っ張られながら顔を上げると空には大きな虹がかかっている。それにアリスは嬉しそうにはしゃぐ。ズルッとフードが落ちるともっとよく見えるようになった。


 彼女と虹はよく似合う。キラキラと光ってて、すごいーー



「……綺麗だね」

「ね! 虹すんごい綺麗!」



 気付けば心臓の痛みはなくなっていた。苦しくない。


 彼女はどうしてここまでしてくれるんだろうと思ってしまう。僕は君の守護者じゃないのに。ここまで君がする必要はないのに、君はいつも僕が望むような言葉をくれる。



「アリス、いつもありがとうね」

「いいのよ。あ! 雨やんだから今日、花火大会ができるわよ!」

「花火大会?」

「リンたちが言ってたのよ、雨が止めば今日の夜花火大会できるかもって! せっかくだからみんなでいきましょ!」

「うん、そうだね。一緒に行こうか」



 先程まであんなに嫌だった視線も気にならなくなった。痛く刺さる視線よりも彼女の視線がすごく心地がいい。


 アリスはアッシュの手を引いて屋敷に戻る。



「ところで、なんであんな質問してきたの?」

「え? あー、うん。いろいろあってさ。君のおかげで、もう大丈夫だよ」



 エドワードのことは今は彼女に言わない方がいい。一度ちゃんとエドワードと話さないと。グレンにも悪いことしてしまったし。


 …………そう考えると僕は今人に恵まれてる。


 屋敷に戻るとグレンが玄関先で待っていた。怒ってるかと思ったが心配そうな顔をしていた。僕とアリスが一緒に帰ってきて僕の様子を見てから何故かホッと安堵していた。



「どうしたの? あんた」

「……いや、アッシュのことでちょっと。大丈夫そうなら何よりだ」

「ふふーん、数多の相談のりの神子様なめんじゃないわよ!」

「君、そんなに数多ってほどのってることあった?」

「大ありよー、失礼ねぇ」

「あはは、ごめんごめん」



 自信満々なアリスはキラキラしている。グレンはアリスに呆れながらも頭をワシワシと撫でる。



「よく分からないが、アッシュが大丈夫になって何よりだ。ありがとう、アリス」

「えへへ、もっと褒めてくれてもいいのよ」

「む、調子に乗るな」

「痛い!」



 グレンからデコピンを食らうアリスは余程痛かったのか、蹲りながら吠える。



「んもー!手加減くらいしなさいよ!レディーの顔に傷出来たらどうすんの?!」

「ん?回復魔法があるだろ」

「そういうことじゃなぁーい!!」



 二人が楽しそうで何よりだと思わずアッシュは微笑む。


 花火大会へみんなで行くということで、アリスは全員を呼び出したが、エドワードだけは行かないと言って断られたそうだ。玄関で見送られて本人は屋敷へと戻って行った。


 もしかして言ったことまだ気にしてるのかもしれない。聞こえないふりをしていたんだけどな……。


 それにグレンもなんだかエドワードの話をすると少しムッとしていた。



「エドワードと喧嘩したの?」

「何がだ?」

「君、玄関でなんか目に見えてエドワードに対して睨んでたから」

「別に」

「僕も最近わかりやすいって言われるけど君もわかりやすいよね」

「……うるさい」

「…………僕はもう気にしてないよ。だからエドワードにそんな怒らないであげてよ」

「………………」



 何か言いたげな顔をグレンはしたが、ため息をつくと小さく頷く。


 そして、リオンに連れられて花火大会へとみんなで足を運んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ