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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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生きるということ2

 日に日に旦那は弱っていっていた。季節の変わり目での体調不良とはまた別にやせ細っていく旦那を見ているのは正直きつかった。


 目に見えて弱っていく。


 それが半月になるとほぼ寝たきりになってしまっていた。明らかにおかしすぎたため、旦那の手足として動いていた部下のローレンスと一緒に詳しく調べた結果、衝撃な内容を聞かされた。



(のろ)い?」

「えぇ。旦那様には呪詛術師による”衰弱の(のろ)い”がかけられている可能性があるのです」

「何故旦那に……。旦那は別に恨まれるようなことをすることはなかっただろ」

「世の中にはいるんですよ。理不尽、嫉妬、妬み、逆恨み。そういったもので呪詛術師に頼んですることもあるのです」

「…………旦那はこのままだと死んでしまうだろ。どうしたらいい?」

「簡単です。呪詛術師を特定して殺すのです」

「そうか」



 殺して片がつくなら早くどうにかしてやりたいという気持ちでいっぱいだった。誰が何であれ、負ける気も失敗するということもないと思っていた。旦那が護衛として俺をずっと傍に置いてはいるが、弱い暗殺者だったり、しょうもない奇襲だったり……。だから呪詛術師も殺すのも簡単だと判断していた。



「夜李、呪詛術師のめぼしはついてます。旦那様の為にもお願いします」

「もちろんだ。どこにいる?」

「一週間後に今場所にそいつがいる首都の屋敷に行ってほしいのです」

「一週間後……」



 旦那がちょうど首都に行くタイミングだ。ちょうどいい。


 それに皇帝と呼ばれる男にも会う必要があるらしく、動けない身体に無理をしながら向かうそうだ。ただ、まだ奴隷の俺は首都には迎えてもずっと傍にはいれない。争いごとを好まない旦那に自分のために誰かを殺すなんてしてほしくはない、そう言われるに決まっている。けど、俺は永遠に終わらないと思っていた地獄から救い出してくれたお前に少しでも恩を返したかった。だから旦那がいないうちにことを済ませるつもりだ。


 ローレンスと別れ、俺は旦那の部屋に行き、横たわる恩人を見下ろす。



「…………あぁ、夜李か……」

「悪い、起こしたか?」

「カッカッカッ……全然、起こしてくれた方が、おれは、嬉しいよ……」

「…………」

「そんな顔、すんなよ……。ただ風邪が、伸びてるだけだ……。そうだ、夜李、ちょっと来てくれ……」



 そう言って旦那は俺に何かを渡してくる。それは淡い水色と乳白色の層のある綺麗な石だった。なんだろうと思いながら眺めていると、旦那は俺にへらっと笑う。



「それはな、空色縞瑪瑙(そらいろしまめのう)っていう石だ。俺にとってはさ、お前は親友みたいなもんでさ、俺もだいぶ歳くっちまったけど、変わらず一緒にいてくれてるから、その礼だ」

「旦那……」

「夜李、これからもよろしくな……」

「あぁ、もちろんだ」



 受け取った色縞瑪瑙を首から下げる。いろんなものを旦那から俺は頂きすぎている。俺はなんもやれてない。旦那に何も返せてない。



「旦那、今度は俺が何か贈れるものがあったら持ってくる」

「カッカッカッ おれへの贈り物は、おれが、死んでも、お前がずっと長生きしてくれることよ……」

「俺、お前以外に仕える気はないんだけどな」

「え、俺、死んだら、どうすんだ?」

「……正直、未練もないし同じ墓に入ってやる」

「いや、ほんと、自決とか、しないでくれよ。お前、強いのにもったいねぇよ……」

「言っただろ、命令なら聞いてやる」



 命令する気がないのも知っている。けど、本当にこいつが死んだら俺は生きていける自信がない。そういう、生き方しか、俺はしたことがないから。


 2日後に旦那は首都に運ばれていった。


 その際は俺も首都には入れたが、まったく会うこともできず、そこからさらに5日後、予定の日に俺もローレンスが調べてくれた屋敷に赴く準備をし、真夜中に宿を抜け出す。


 屋敷への侵入は思ったよりも簡単だった。誰もいない。余程、腕に自信があるのかそれとも……。

 何か引っかかりながらも侵入していく。例の呪詛術師らしきやつがいるであろう部屋へ到着した。中はかなり空気が悪く重い。部屋の中は視界が異様に悪く鼻が曲がりそうなくらい、異臭が鼻腔を麻痺させる。



(こんなところに本当にいるのか?)



 そう思いながら、部屋の中へと侵入する。小さな呼吸音が一つ。こいつだろう。


 刀を生成して、そいつの横に立つ。顔を拝んでやろうかと思ったが視界が悪く見えない。まるで霧に覆われてるように。認識の妨害のつもりだと思い、そいつに向けて刀を、突きさす。



「ぐぉあ⁈」

「っ⁈」



 聞き覚えのある声だった。震える手でそいつの顔を見ようとしたが靄が邪魔で見れない。まさか、こいつは……。



「ゴホッ!! が、あ……?」

「な、なんで……っ⁈」



 突然と窓が窓ガラスを割りながら、開く。部屋に充満していたものが風にさらわれていく。そして、入ってきた扉から、誰かが入ってきた。



「アッハッハッハ!! 夜李、よくやった!!」

「っ!! ろ、ローレンス?」

「”ファイヤーボール”!!」

「あぐっ⁈」



 嗤いながら入ってくるローレンス。意味が分からず戸惑っていると、ローレンスから放たれた魔法が左目に当たる。ジュウッと肉が焼ける臭いがする。


 アツイ!……いや、それより、これは、いったい、どういう、⁈



「”動くな”。夜李」

「っ!」



 痛む顔を押さえながらも、やつを睨む。身体が、動かない。動かせない。この首輪さえ、なければ……っ



「ゴホッ!」



 咳き込む声が聞こえて、刺していた刀に目を移し、刺し殺している呪詛術師ーーいや、旦那の姿があった。



「だ、だんな……⁈」

「悪いな、夜李。呪いは嘘だ。それに、これでお前に全部罪を擦り付けられる……。おい!!大変だ!! 奴隷が!! 奴隷が旦那様を殺したぞ!! 誰か!! 誰か来てくれ!!」

「っ!!」



 この時にようやく理解した。俺は、騙された。こいつに、この、人間に……。このヒューマンに!!


 だが、俺は隷属の首輪のせいで意識的に命令外で、人間を傷つけられない。それをこいつは理解したうえで、認識させないように、隷属の首輪の穴をついて、旦那を……!!


 怒りがふつふつと湧き上がると小さな声で、呼ばれる。



「よ、り……、より……。こ、い」

「だ、旦那……⁈」

「お、おまえ、は、にげろ」

「け、けど!! 旦那を置いては!!ーーっ!」



 血まみれの震える手で、何かを握っていたものを俺の首元に触れる。パキンと音と共に首輪は、壊れた。



「こ、こうてい、にて…、…もらって、……っ ようやく、わか、った。おま、じゆう、だからーー」



 自由に生きてくれ、と声が聞こえなくなったが口の動きでそう言われた。事切れたかのように、目が開いたままそれ以上の声は聴けなかった。


 旦那が、死んだ。俺が、殺して、しまった。誰よりも、生きてほしいと願っていた、旦那が、死んだ。俺が、終わらせてしまった。


 呆然としてると後ろでバタバタと音がしてローレンスが叫ぶ。この屋敷に待機させていた兵士を盾にするように後ろ下がっていく。



「さぁ、あそこにいる、主殺しの奴隷を殺せ!!」



 叫ぶローレンスの方を見る。


 こいつが、こいつを俺が、信じてしまったせいで、旦那の為と思っていたのに、こいつのせいで、俺が旦那を終わらせてしまった。親友と言ってくれた旦那を、親友の証をくれた旦那を、俺の手で殺させた。


 溢れんばかりの殺意に俺の前にいるこいつらを殺してしまわないと俺は俺でなくなってしまうんじゃないかと思うほどの憎悪があふれる。


 ダンッとやつらの方へと飛んで行き、切り捨てる。たかが人間(ゴミ)が束でこようが俺には関係なかった。



「っ! な、なんでお前動けて⁈」



 次々と切り裂いていく兵士を見て焦るローレンス。そうこいつは今、俺がもう隷属の首輪ないことは知らない。知らないからこそ、わけのわからないという顔をしていた。


 こいつを殺さないと、このくそヒューマンを殺してやる。一生終わらない地獄を見せて、絶望の中で殺してやる。



「”悪夢のような幻覚が、無限の地獄を呼び覚ます。暗黒の底より湧き出でし者よ、この存在に潜む感覚を奪い去れーー”」

「っ! お、おい!早く殺せ!! こいつは妖怪だ!妙な術も使う!は、早くしろ!!」

「”幻覚魔法・虚無の地獄(エイビスヴォイド)”」



 その場にいた兵士もローレンスも含めて動きが止まる。邪魔な兵士を押しのけて一直線にローレンスの方へ歩く。



「あ、あぁあ⁈ こ、これは、これはなんだ……⁈」

「……貴様の最も恐れるものは、なんだ?」

「へ? ……ひ、ひぃ⁈ な、なんだこれ!! なんだんだこれは⁈」



 やつには何かが恐ろしいものが見えているのだろう。逃げようとしているところを服を掴み、逃げられないようにする。


 まずは、足。


 ベキョッと骨がしゃげる音が響く。ローレンスの足からは骨がはみ出ていた。



「ひぎゃ⁈」

「ローレンス、旦那を俺に殺させておいて、楽に死ねると思うか?」

「ま、まて!待て夜李!」

「…………」



 涙でぐしゃぐしゃになっているローレンスは掴んでいた腕を撫でるように必死な顔をする。



「わ、私はただ、命令されただけなんだ! だ、旦那様を殺さないと、私の家族がーー」

「貴様の命も家族も俺の中ではゴミ以下だ。旦那の命にどう釣り合うんだ?」

「よ、妖怪のくせに、奴隷のくせに我々の命の重さの比較か⁈」

「…………ヒューマンはよく口が回るな」



 空いてる手に刀を再度生成させる。そのままローレンスの腕を切り落とす。



「ああああ⁈⁈ わ、私の腕がああああああああ⁈」

「…………なぁローレンス、俺も貴様に少なからず世話になったんだ。少しは温情で家族には会わせてやるよ。けどーー」



 もう片方の腕も切り落とす。どくどくと血が流れる。こんなくそ野郎でも血は赤いんだな。



「はぎゃ⁈」

「貴様の家族も一族も貴様の前で根絶やしにしてやるからあの世でも再会できること願うことだな」

「ま、まって、待ってくれ、娘たちは、娘と息子は関係がーー」

「あ?」



 残った足を踏みつける。メギィッと軋ませる。徐々に力を入れながらゆっくりと折るようにする。



「はぎゃあ⁈ ああ!! い、痛い!いたいいいいいいいい!!」

「なんで貴様の大事な者は無事で、俺の尊敬する旦那は死んでいいって思うんだ?」



 のたうち回るローレンスを一旦そのまま放置する。涙やよだれで醜くなっているがこいつを連れていく前に俺は再度、息のない旦那の前に行く。突き刺してしまった刀を抜き、抱き上げる。



「旦那、すまない。俺は旦那以外信用するべきではなかった。だから、帰ろう。ここは旦那の墓にするには相応しくない」



 そう言って冷たくなった旦那とほぼだるまになってるローレンスを連れて屋敷に戻った。

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