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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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僕と●●●●●

 真っ暗な空間。そこを照らすように蒼い炎がふよふよと舞っている。アッシュはそこにポツンと残されていた。あたりを見渡してもどこにも出口らしきものはない。時折僕の名前を呼ぶ声が聞こえるが、そっちに歩いても何もない。


 呼ばれてる気はするんだけどな……。



「にしても、ここ、何処だろ……」



 歩いても歩いてもずっと続く。


 なんでこんなところにいるのかもわからない。直前までは、一応記憶はあると思う。●●●●●と名乗る誰か。その姿は、僕に少し似ていたと思う。そいつは最後に身体を寄こせと言っていた。あれと僕の関係はあれかな、炎からなんだろうか。


 なんて、悩んでいるとバシャンと何かが落ちる音がして振り向くと、●●●●●がいた。


 酷く何か落ち込んでいる様子だ。

 …………別に彼に対して思うところがないわけではないが、ゆっくりと近寄る。



「大丈夫?」

『あぁ、●●●●●はなんで、僕を、僕の事、忘れて……。いや、そもそも僕と同じようになってる可能性もあるわけで……』



 ぶつぶつと呟く●●●●●はこちらに気づいていないのかわからないがずっと何か言っている。倒れている彼にアッシュは屈んで彼に触れると、ピクッと反応して虚ろな瑠璃色瞳をこちらに向ける。



「おーい、大丈夫かな?」

『大丈夫? 大丈夫、大丈夫⁈ アハッ 君が、僕の心配をしてるの? クハハハッ なんだいそれは、僕は!! 君に心配されてるのかい?』

「っ!」



 バシャンッと水飛沫を上げながらアッシュの首を掴む。アッシュは特に動揺も見せないが少し驚いたように目を丸くしていた。


 グッと押さえつけられて息苦しい。



「放して」

『アハッ ねぇ君さ、よく人殺したら苦しいことない?』

「……だったら何かな?」

『そうだよね、そうだよねぇ~。ねぇ、なんでだと思う?』

「……僕が知ってるのは、何かの呪いってだけだよ。僕が人を殺した時に死ぬほど心臓痛くなるやつ」

『そっか、そこまでしか知らないかぁ~』



 嬉しそうに嗤う●●●●●は顔をグイっと近づけニッタリとしながら続ける。



『君をずぅ~~~っと苦しめてる呪い、君に"破滅の殺人(マーダルイン)の呪い"をかけてるのは僕だよ』

「君が?」



 その呪いは昔からあった。僕は家系で神子の守護者と分かっていたから、当主が僕を鍛える際に、僕が5歳の時に罪人相手ではあったが殺したことがある。それが初めての人を殺した時だった。けど他とは違かったのは罪悪感が来る前に、心臓がえぐられるような感覚に襲われていた。当時はそれが当たり前とは思っていたけどそうでもない。呪いだっていうのもしばらくたってレイチェルが気づいてくれた。


 ●●●●●はアッシュを首を絞めたまま、狂ったように嗤う。



『そうさ!! この世界では無殺生なんて無理だ。守護者であるかぎり、尚更避けられない!! だから君に、魂に"破滅の殺人(マーダルイン)"を施したんだ!! だって僕は"君たち"が心底嫌いだからね。邪魔だし』

「悪趣味だね。ただ痛いだけなら別にーー」

『"破滅の殺人(マーダルイン)"は痛みを与えるだけの呪いじゃないよ。破滅の呪いなんだから、ね?』

「…………回りくどいな、何が言いたいのさ」

『さぁ?なんだろうね?アハッ アハハハハハハハハハッ!』



 睨みながらアッシュは言うが、まったく聞いていやしない。こいつ一方通行すぎる。



『嗚呼、早くその呪いで君がさっさと壊れてくれたらいいのにな……。そしたら僕はーー』



 今度は悲しそうな顔で嗤う。



『もう一度、僕の主(マイマスター)も、彼女も、迎えに行けるのにさ……』



 目の前の●●●●●はアッシュに顔を近づける。段々とその姿は最初に見た時と同じように炎に変わっていく。



『だから、早く消えてくれよ。君がいる限り、主導権は君なんだ。呪いでくたばるか。さっさと身体を僕に譲ってくれないかい?』

「……じゃあしばらくは来ないかな。君がここに落ちてきたのはきっとアリスたちが頑張ってくれたんだろうね。さっきは動揺しちゃったけど、君の言う通り僕は心が弱いさ。さっきも幻覚なのに焦ってしまったから。けど、譲る気は全くないよ」

『…………』

「それに、君に負けっぱなしも少々癪だからねっ!」



 アッシュは●●●●●の顔に拳を振るう。ボフッという音と共に飛散していく。アッシュは立ち上がりながら飛散していく●●●●●の方を睨む。



『クハハハッ!! いいねぇ、せいぜい今のうちに楽しめよ。"破滅の殺人(マーダルイン)"で君が壊れていくさまを僕は特等席で見ててやる』

「それはどうも」



 やつは不気味な笑いを残して、完全に飛散していき、僕の意識は暗転していく。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 目を覚ますと、酷く身体が重い。そしてすごい、物理的にも重い。


 視線を動かすと、アリスとリオン、あとは……クロがいる。アリスは添い寝のような状態で、彼女の腕はアッシュの胸の上において彼の服を掴んでいた。リオンとクロは完全に人の上で寝ている。息苦しさを感じながらもゆっくりとアッシュは彼女たちを起こさないように起き上がる。



「起きたか、アッシュ」



 声の方を向くと、部屋の隅でグレンがいた。腕を組んでいたが、降ろすと左手には銃を持っている。


 え、撃たれるのだろうか、これは。


 こちらに近寄り、目の前で屈む。



「お前は今どっちだ?」

「……えーっと、どっちって何かな?」



 グレンの質問の意図が読み取れずに首を傾げる。しばらくグレンはアッシュの顔を見た後、ふぅ……と息をつく。



「アッシュのようだな。……覚えてる範囲でいい。何があった?今まで見たことがない状態だったんだぞ」

「え、えーっと……」



 どう説明したらいいんだろうか。あれは、どう言ったらいいんだろう。迷いながらもグレンには包み隠さず話をした。彼には伝えたほうがいいと思ったからだ。


 夜李の幻覚で見たもの、炎の中で起こったこと、暗い空間で起こったこと、呪いのことも話をした。


 グレンは特に否定もせず、黙って聞いてくれていた。



「ーーという感じかな。僕が覚えてる範囲だけど」

「そうか……。まさかのあの呪いかけたやつでもあったとはな。"破滅の殺人(マーダルイン)"に関しては私も調べてみよう。話を聞く限りでは解呪できるならした方がいいだろう」

「…………君たちは大丈夫だった?僕、乗っ取られた後の記憶なくてさ」

「そう、だな……」



 グレンは一瞬考えてから、アリスの首を絞めたこと以外は起こっていたことをアッシュに伝えた。



「そっか……。君たちに怪我がなくてよかったよ。そこが心配だったし……」

「…………」



 安心しながら笑うアッシュにグレンは少し申し訳なさを感じていた。ただ、アリスは言わない方がいいとアリス本人も含めてそういう話になっている。



「あ、そうだ。グレン、夜李は?」

「夜李?あぁ、夜雀の事か。リンだったか?そいつが招き入れて今は部屋に籠ってる。あとお前の方が重傷だったし結構、寝ていたぞ」

「え、どのくらい?」

「三日くらい」

「三日も⁈」



 驚いているとグレンは静かに頷く。


 自分の感覚ではそんなに経ってないと思っていたけどまさか三日も経っていたなんて……。



「んん……っ」



 アッシュの声で起きてしまったのかアリスが呻きながら目を覚ます。目をこすって眠そうな顔でアッシュの方を見る。



「あ、ごめんね、アリス。起こしちゃったかな?」

「……! あ、アッシュ?」

「うん、僕だよ。心配かけてーー」

「うぅ、あっしゅぅ……っ アッシュぅぅぅ~っ!! うわぁ~~~ん!! よかったぁ!!アッシュぅ!!」



 アリスはアッシュにしがみつく。鼻水をたらし、大粒の涙をボロボロと流しながら嗚咽交じりにわんわんと泣く。


 余程心配させてしまったのだろう。彼女の頭を撫でながら、”心配させてごめんね”と呟くと頭をスリスリとねじ込むようにしてくる。ちょっとだけ痛い気もするけど……。



「ほら、泣き止みなよ。せっかくのかわいい顔がもったいないよ」

「うぅ……、あとで、あとでパフェおごれぇ~~……、あ、アッシュ、のケーキたべだいぃ~……っ」

「っ! あはは、いいよ。パフェでもなんでも準備してあげるさ」

「もぉ、ほんと心配したんだからね……」

「ごめんごめん。ちゃんと後で作ってあげるから機嫌治してよ」

「……ガトーショコラの生クリームましましで」

「はいはい」



 いつものアリスに思わず笑ってしまう。そのやり取りを見ていたグレンも思わず笑みが零れてる。


 アリスが落ち着くまで少し待っているとようやく泣き止んだ彼女は鼻をかみながら、座った状態でアッシュの肩をポコポコと殴る。



「ところであれなんだったのよ? すんごい怖かったんだからね」

「んーなんといえばいいかなぁ」

「……あれは”覚醒”時の暴走だろ。恐らく夜雀の魔法の影響で制御しきれないで暴走した、という感じだと思う」



 悩んでいるとグレンが横から口を出す。

 グレンは”一旦はこの回答でいいだろう”と言わんばかりの視線でアッシュに向ける。それに彼も頷く。


 アッシュはリオンが起きないようにそっと布団から出て、よろけながら立ち上がる。



「あら、お手洗い?」

「うぅん、夜李のところだよ」

「夜雀のとこ?なんで?」

「んー中途半端に首突っ込んだままだからね。相談乗るっていっちゃってるからさ」



 ふらふらとアッシュは部屋を出ようとしているとアリスに肩からしがみつかれる。普段なら問題ないのだろうが、そのままガクッと足に力が入ってないのか膝から落ちてこけた。


 グレンが驚いた顔でアッシュの安否を確認しに見ると、頭を強打したようだが、特別怪我はないようだ。



「おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫。アリス、何するのさ?」

「足がプルプルしてたからこけるかと」

「ちょっと、僕がおじいちゃんみたいな言い方しないでよ」

「あながち見た感じはそんな風だったぞ」

「グレンまで!」



 ぶつけた頭を押さえながらもう一度立ち上がろうとするが、アリスは離れる気配がない。引きはがそうと思ったが後ろでがっちり手で掴んでるのでうまく立ち上がれない。困ったように笑いながらアリスを見ると何故かムスッとしている。



「えーと、アリス?」

「私も行くわ」

「君も?」

「おじいちゃん化してるアッシュじゃ心配だもの。あと行くなら食べてからにしなさいよ。ふらふらなのはそれもあると思うわ」

「んー……」



 正直お腹は空いていない。胃が受け付けてないのか、そこまで食べたいとは思わない。困っていると今度はグレンに持ち上げられる。



「ならまずは台所行くか。アリスも引っ付かないでそっちに連れて行けばいいだろ」

「それもそっか」



 ようやくアリスは手を放して、クロが起きて来たのかアリスはクロを抱っこしてアッシュとグレンの後ろをついていく。


 台所にいくと、鬼のおばあさんがコトコトと何かを作っているところだった。ここにいる間、お味噌汁というものに少しハマっている。


 それのいい香りがする……。


 おばあさんがこちらに気づいて、手を拭いてこちらに近づく。



「おや、アッシュ様、おはようございます。お目覚めになられてよかったです」

「え、あ、うん。ありがと」

「なぁ、こいつに何か食わせたい。少し台所を使ってもいいだろうか?」



 グレンはアッシュを座らせながらおばあさんの方を見ると、優しい顔でにっこりと笑いながら頷いてくれる。



「えぇ、構いませんよ。それかわたしめが何か作りましょうか?」

「え、いいの?」

「はい、アッシュ様は目覚めたばかりですので、ねこまんま、というものでよろしければすぐできますよ」

「ねこまんま?」



 アリスが首を傾げながら台所へと入る。おばあさんはアリスを手招きして作っているところを見せてくれる。

 その間にグレンとアッシュは大人しく並んで座って待つ。



「アリス様、ねこまんまはお味噌汁と鰹節、ご飯、おねぎを入れたものになります。こうして……」

「おぉ……!」



 おばあさんがお椀に小盛のご飯をついで、味噌汁を注ぐ。その上に鰹節とねぎを少々入れる。本当に簡単にできたものをアッシュとグレンの、アリスの分も含めて作ってくれた。

 三人ともおばあさんからねこまんまを受け取り、アリスもアッシュの隣に座って目をキラキラさせている。



「おばあちゃんありがと!いっただきまーす!」

「私の分まですまないな」

「いいんですよ。ちょっとしたものですし、気になさらず」

「僕の分もありがと。いただきます」

「はい、どうぞ」



 にっこりと笑うおばあさんに礼をして、受け取ったねこまんまを匂いを確かめる。鰹節のいい香りがする……。お腹はすいていなかったはずなのに食欲は沸いた気がして一口食べると優しい味がしてとても美味しい。


 となりに座ってるアリスとグレンも美味しそうに食べていた。



「よーし、食べたらみんなで夜雀とこ行くわよぉ!」

「そうだね」



 アッシュは3人で行くのもあれだけどなと思いながら頂いたねこまんまをゆっくりと噛みしめていく。

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