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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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妖怪祭:最終決戦1

 夜雀は対面する笑顔のままのアッシュをずっと睨んでいた。


 非常に不愉快だ。あの猫又もどきの女の仲間なのだろうが、やつを見ていると、いやでも思い出す。自分の脳裏にずっといる。あいつと同じ、へらへらと笑っている、あのヒューマンと似ていて。


 睨まれているアッシュは変わらず笑顔のまま、周囲を見渡す。



(昨日よりも賑やかだな……。あとは目の前の夜雀をどう片付けるかだけど、まさか覚醒しかけとはいえリリィに勝った相手だもんなぁ。純粋に彼は強い。強いけど、めっちゃ睨んできてるし、何かこの祭りに出てるのも訳ありっぽいしな……、さて、どうしようか……)



 特にあの目眩しの攻撃はすごく厄介だ。発動条件もいまいち分からないし……。


 なんて悩んでいると、会場の中心にいつもの司会者が降り立つ。それと同時に開始のファンファーレと共にマイクを持って高らかに声をあげる。



 《それでは皆様!三日間による覇権を巡るこの今回の妖怪祭もいよいよ大詰め!ただいまより決勝戦を開始いたします!》



 わぁっ!!と一層賑やかになる。司会者がアッシュと夜雀の方へと手を向け、こちらに来るように手招きをしてきた。



 《決勝前にそれぞれのご紹介していきましょう!! まずは、準決勝まで相手を容赦なく叩きのめしてきた夜雀!! 突如として里に現れた超新星は前回での試合ではほぼ一撃!! 追撃がなかっただけよかったとしましょう!夜雀代表の方、改めて自己紹介と意気込みをお願い致します!! あ、前回のように開始の前にはじめないでくださいね》



 今にでも掴みかかりそうな夜雀にマイクを向ける。少し黙っていたが、仮面を外しながら口を開く。



「……夜雀の夜李。貴様が何者であれもうどうでもいい。殺す気でこい。さもないと俺が貴様を八つ裂きにして殺してやる」



 バキッと自身の仮面を踏みつけて刀をこちらに向けながら言い放つ。殺気がピリリと張りつめていた。



 《おお!これは殺伐とした!宣戦布告!これに対して、同じく里の外から来た鬼一族!! 鬼神のごときの強さで圧倒する姿は100年前の鬼姫様を彷彿させる!! さぁさぁ鬼代表の方、自己紹介と意気込みをお願い致します!!》



 今度はアッシュにマイクを向ける。にっこりと笑いながらアッシュも口を開く。



「僕は鬼のアッシュだよ。そうだねぇ、せっかくこういう機会をもらったからね。やるからには勝つよ。だから僕からも君は是非とも全力で来てほしい。殺す気で来てほしいなら、そうしてあげるよ」



 挑発する気はないけどさらに夜雀ーー夜李の目が鋭く光る。その光景に少し畏縮してる司会者だったが首を振って持ち直す。



 《いいですね!これはバッチバチな決戦になる予感ですね!! 両選手、ご準備はいいですね⁈ それでは妖怪祭最終決戦……開始!!》



 ゴーンと開始のゴングが鳴り響く。響いたと同時に司会者はその場を離れる。アッシュは構える様子はなく、夜李はつかつかと睨んだ表情のまま、こちらに近寄ってくる。それでもアッシュは構えない。


 そんな彼の態度も気に食わないのだろう、ギリッと歯ぎしりをして吠える。



「本当、貴様を見ていると……心底イライラする……」

「へぇ、僕を見てると?」

(あるじ)を、あいつを見ているようで、いっつもへらへらとしていて、執拗に俺の名前を呼びやがって……っ」



 目の前に来た夜李はアッシュの胸倉を掴む。



「人間のくせに、弱いくせに!! 貴様ら人間はなんだんだ⁈」



 なんだと言われてもとアッシュは思うが、変わらずへらっとした顔でアッシュは首を傾げながら言う。



「……ねぇ君はさ、その(あるじ)、本当は殺めたこと後悔してるのかい?」

「…………貴様に……」



 否定も肯定もしない夜李はアッシュを掴んでいる逆の手で持つ刀に力が入る。血走っている目はすでに冷静な判断は今はつかないだろう。


 刀を振り上げながら夜李はアッシュに叫ぶ。



「たかが人間の貴様に、何も知らないが知ったような口を利かれる筋合いはない!!」

「あはは、それもそうだよぇ」



 アッシュは振り上げられた腕を掴み、胸倉を掴む手を払ってそのまま夜李を投げ捨てる。ダンッ!と地面に背中をぶつけた夜李は呻くがアッシュの腕を払い、その場を一旦下がる。



「君の事情なんて僕らは知らないさ。けど相談くらいは乗るよ?」

「相談?貴様が?俺は貴様と話すことなんてーー」

「君は(あるじ)を殺したことを悔やんで、死にに来たんでしょ?」

「っ!」



 リリィと御狐神から夜李との聞いた会話的に恐らく強いものを探していた。だから弱いなら話にならないと言っていたこと。何故、探していたか。簡単なこと。強者に歯向かえば簡単に命なんて奪ってもらえるからだ。

 妖怪特有な考え方だとは思う。長寿だからか力の差は生まれた時から基本決まってるそうで、命に関しては無頓着。弱い妖怪は強い妖怪に逆らえない。逆らえば簡単に殺したりする。



「おおかた、君の(あるじ)から、死なないようにと命令されて自決できないから自分より強い人に殺してもらおう。その強者は誰でもいい。殺してもらえるならたとえ人間でもいい、なーんて思ってたんじゃない?」

「…………」



 図星なのか夜李は睨むだけで反論しない。でももしそうなら僕も少し彼の気持ちはわからないこともない。状況は違えど大切な人を失ってしまっている。心底生きた心地はしないからこそ、自暴自棄になって何もかもどうでもよくなってしまう。



「でも残念だけど、君がどれだけ殺してほしいと言われても僕は君を殺す気はないよ」

「…………そうか、なら貴様にも用はない」



 バサッと夜李は翼を広げる。アッシュの顔近くまで飛んでくる。その際に耳元でささやいてきた。



「死ね、人間」



 その言葉と共に目に痛みが走った。走ったと同時に視界が暗転、いや、徐々に何も見えなくなっていった。これはなんだとアッシュは目をこすってみるが異物感は取れない。視界も戻ることはなかったが恐らく夜李の能力なのだろう。


 見えないアッシュに刀を振るうがサッと避けて、魔法を行使する。



「”煉獄の炎刃イグニスインフェルノス”」



 躱した先でアッシュの炎の魔法が夜李へと飛ぶ。見えなくても魔力で大体の場所がわかる。見えないことはさして問題はない。

 炎を躱すが、見えないはずなのに的確にこちらに飛んできたことに少々驚く。



「貴様、見えているのか」

「あはは、いや、まったく」

「……そのくせに的確にこちらに魔法を飛ばしてきたな……。なるほど、勘が鋭いのか」



 そう言いつつ、夜李も動きながら魔法陣を展開させる。ボソッと聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。



「”悪夢のような幻覚が、無限の地獄を呼び覚ます。暗黒の底より湧き出でし者よ、この存在に潜む感覚を奪い去れーー”」


(詠唱……?)



 辛うじて聞こえた詠唱にアッシュは剣を振るうが躱される。場所がわかるとはいえ、距離感に関しては全くだ。間に合わないと判断して炎を飛ばす。


 夜李はそれを躱しながら、その間にも詠唱続く。



「”幻覚魔法・虚無の地獄(エイビスヴォイド)”」



 アッシュの動きが止まる。先程まで感じていた魔力の気配を感じ取れなくなくなり、不快感のある耳鳴りが、雑音が耳元に響く。それと同時に肩から腹にかけて切れた感覚に襲われる。突然の痛みにアッシュの顔が歪む。



「痛っ⁈」

「……殺す気で斬ったのに貴様の身体はどうなってるんだ?」



 ビュッと刀についた血を振るい落とす。じわじわと傷は塞がっていくアッシュの姿に夜李は”ハッ”と言いながら口元を押さえる。



「なんだ、簡単に殺せないなら丸焦げにしてしまった方が早いな」



 夜李は手元にあの黒い棒が生成され、それをアッシュに向けてニヤリと夜李は笑う。



「それで死なないなら、どこまで串刺しにしたら死ぬか試してやるよ、化け物」



 その声が聞こえた直後、ドスンッと鈍い音とともに胸に鋭い痛みが走る。触れると棒のようなものが刺さっていた。咄嗟にアッシュはそれを掴み、引き抜こうとするとビリリと電流がはしり、しかも上手く抜けないときた。


 返しがついた棒は深々と刺さっており、少し動かすだけでも激痛が身体を貫く。


 引き抜くのを諦めて、夜李に反撃しようとアッシュは剣を振るうが視覚も感覚も奪われてはあてずっぽうになってしまう。躱される度に突き刺されてしまう。3本目、4本目と増えていき、身動きが取れずらくなっていく。



「くそ……これ、邪魔!」



 引き抜こうとすると、後ろからトンッと音がすると思うと、夜李の声が耳元でまた囁くように聞こえる。



「無駄だ。それに、”虚無の地獄(エイビスヴォイド)”は感覚を奪うだけでじゃない。貴様には俺の痛み、存分に味わってもらうぞ」



 バッと声の方に腕を伸ばすが掠りもしない。



「貴様の最も恐れるものは、なんだ?」



 その声が聞こえたと同時に見えないはずなのに、今ここにいるはずのない、”アリス”の姿がそこにはあった。


 これは、幻覚だ。頭では理解してる。理解してるのに動悸がとまらない。



『あんた、いつになったら私のこと、ーー私たちの事をちゃんと見てくれるの?』



 この場にいないはずのアリスの声が聞こえて、息が上がる。夜李が言っていた言葉。それはつまり、僕の手でこの幻覚のアリスを殺させる気なのか?


 嫌な予感がしてしまう。嫌な汗が背筋をつたう。


 幻覚のアリスの周りを蒼い炎が舞う。舞った炎は徐々に火力をあげて、アリスを飲み込む。



「ちょ⁈ 待って!!」



 無意識に炎を抑えようとするが幻覚のアリスを炎は容赦なく飲み込んでいく。飲み込まれた彼女の断末魔が耳に纏わりつく。



『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ああ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!!!!!!アツいあつイあついあついあ”ついあつイあついあついアツイあついアついあついアツいあ”つイあついあついアツイあついあついあついあつイあ”ついあついアツイあついア”ついあ”ついアツいあつイあついあ”ついアツイあついィィィィ!!!!!!!』



 思わず耳を塞ぐが、塞いでもアリスの声が耳に響く。”アツイアツイ”とずっと嘆いている。


 違う、これは幻覚。幻覚だ。冷静になれ。冷静にーー



 バキッ



 何かが折れる音がした。

 音の方を向くと、燃え尽きたのか彼女は真っ黒になってまるで木炭のようになっていた。そんな彼女の隣で”僕”がいる。”僕”は彼女の腕を折っていた。そしてそのまま”僕”は彼女の頭に手を置く。


 ダメだ。やめろ。


 止めに行こうとすると強い衝撃を受ける。壁のようなものに当たり、ズルズルと落ちる。



「カッカッカッ!! 滑稽だな」



 夜李の楽し気な声が聞こえてくる。



「貴様のうざったい笑顔が消えてくれて嬉しいよ。どうだ?自分の手で大事な者が壊れる気分は⁈」



 夜李は起き上がろうとするアッシュを思いっきり蹴る。

 蹴ってくる夜李にアッシュはバンッと地面を叩き炎を行使した。だが、普段操っている炎が、おかしい。


 なんだこれ、うまく、操れない……⁈



「?なんだ、自決か?」



 アッシュの炎を躱した夜李だがその炎はアッシュ自身を飲み込む。



 その炎はまるで意思を持っているようにアッシュに纏わりつく。


 いつもの炎じゃない。なんだこれ。わからない。けど、やばい気がする。



「くっ……!! とま、れーーっ⁈」

『はじめまして、いや、二回目だな。今の僕』

「……は?」



 炎は人の形を模っている。こいつはなんだ?二回目?何のことだ?



『僕は●●●●●。ねぇ、そんな弱い心で僕を扱えると思った?あんな幻、消してしまえばいいのに。トラウマなんて面倒なものだよな。お前が、弱いから(マスター)を守れずにここにいるんだよ』

「なに、いって……?」



 ●●●●●は徐々に形が朧気からはっきりとした姿になる。歪な笑顔は僕を見下ろす。



『弱っちぃ僕。君の代わりに、僕が全て、壊しておいてあげる。殺しておいてあげる。だからさーー』



 ●●●●●は僕の首を掴み上げる。



『その身体、僕にちょうだい?』



 プツンと意識が途絶える。

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