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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里
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妖怪祭:本選4

 その日の夜、屋敷で覚醒の影響で全身筋肉痛で動けないリリィを含めてアリスたちは会議をしていた。部屋の窓際でお茶を飲んでいたエドワードがリリィの方を見ながら言う。



「にしてもリリィのあの姿が覚醒の前兆とはな」

「本当だよな……。確かにアッシュとちょっと似た感じしたしよ」



 ユキの足元で寛いでいるノア。あぐらをかいた足の間で寝っ転がりながら足を組んでいる。


 だらしない体勢だなと思いつつも、エドワードは頷く。



「リリィ、覚醒の感じはどんな感じがするんだ?」

「ん?んー……わからん。なんかこう、力がこみ上がる感じはあった」



 手でワキワキしながらも表現してくれるがいまいち分からない。これは実際にならないと分からないかもしれない。というか、アッシュもリリィも感覚肌なので二人の表現は分かりにくい……。



「リリィはまた覚醒状態はできそう?まだ完全じゃないようだけど」

「まだお前みたいにはできないと思う。無意識だったし、何より、覚醒は思ったより疲れる……」

「まぁ初めてだからね。何回かやってると自然にできるよ。できそうになっただけでもすごいよ」



 アッシュの言葉に小さく頷く。

 悩んでいるとアッシュが”あ、そうだ”と手を軽くあげる。



「モニター越しだと分からなかったけど夜雀となんか色々口論してたよね。内容覚えてる範囲でいいから教えてくれるかい?」

「いいぞ、はらわた煮えくり返るくらい腹立つことだけど」

「……君がそう言うってことはアリス関係なんだろうなぁ」

「当たり前だ。アリスを馬鹿にしたんだぞ。あの雀……」



 思い出すだけでも怒りがふつふつと湧き上がりそうだ。


 内容を話すとアッシュは”なるほどね”と呟く。



 ――――――――――――



 アッシュたちが屋敷で話をしている頃。行くあてのない夜雀は里の入口で座っていた。

 あの猫又……いや、あの人間の言葉が何度も繰り返される。


 ”なんだ、お前、自分の(あるじ)を慕っていたんじゃないんだな”


 ……慕っていた? あぁ、そうだよ。俺は……



「あら、寒くないんですか?」

「っ?!」



 突然と声をかけられ、振り向くとそこにはこの里の現(おさ)の鬼姫、リンがいた。足を怪我したはずの彼女は松葉杖も使わずに歩いて夜雀の近くに行くと籠を取り出す。


 ビクッと夜雀はリンを警戒するが、取り出されたものは食べ物だった。



「お腹すいてませんか?私のお店の残りですが、サンドイッチどうです?」

「……いらない。なんのつもりだ?」

「おすそ分けです。それに明日は決勝ですよ。食べないとちゃんと戦えませんよ」

「いらないと言ってるだろ」



 無視しようとしたが、全く聞く耳を持たないで、籠からサンドイッチの材料を取り出してせっせと作る。手際よく出来たサンドイッチをお皿に乗せて、夜雀へ渡した。



「……? あら、もしかして嫌いな食べ物でも入っておりましたか?」

「え、あ、いや……」



 ずっと顔の前に置かれたサンドイッチをおずおずを受け取る。


 なんなんだ、この女。やりずらい。


 というか、この女。確か祭りの前夜に足を怪我して今回出れなかったはずなのに何故こうも元気よく歩き回ってるんだ?



「お前、足を怪我して出られなかったんじゃないのか?」

「もう治りましたよ。こう見えて治りは早い方です」



 クルッと一回転して、ピースをしてくる。

 むしろ怪我してなかったんじゃないかと思うほど元気さを見せてくるのでこれ以上追求しても無駄な気がしてきた。


 再度リンは夜雀の隣に座る。



「まぁ今回は祭りに本当は参加出来たかどうか聞かれますと無理してたら問題なく出られてました。ただ、もしもの事でみっともない姿は見せたくはなかったのです。代わりにアッシュさんたちが出てくれましたしね」

「……ふん。俺には関係ないからどうでもいい」



 渡されたサンドイッチのパンの部分だけ齧りながらそっぽを向く。そんな彼にリンは軽く笑う。



「さて、私はこれで失礼しますね。明日はよろしくお願いします」



 軽く一礼をしてからその場から去ろうとしたリンを夜雀は刀を取り出して音もなく斬りかかろうとしたが、バキンッと金属音が鳴る。


 夜雀の手から刀弾かれる。リンを見るといつの間にか薙刀が握られていた。



「ふふ、選手の間は外での私闘は厳禁ですよ。それとも少しお遊び程度でお相手しましょうか?」



 ニッコリと笑う彼女はなんとも言えない威圧を感じる。これが(おさ)である鬼姫様と呼ばれる者の覇気なのだろうか。刀をおさめて舌打ちをするとまたリンは軽く笑う。



「まぁ私と遊ばなくても、貴方も十分お強いですよ。ですが、過去と向き合わないとせっかくの生なのですから楽しまないと損です。ズルズル引き摺っていると”人の子”である彼らには勝てませんよ」

「……お前、あいつらが人間って知ってるのか?」

「さぁ、なんのことでしょうかね」



 相変わらずニコニコしているリンは”では、今度こそまた”と言って去っていく。


 取り残された夜雀はなんとも言えない。鬼姫も好き勝手言って帰っていきやがった。



「向き合って戻ってくるようなものでもないのに、どうしろと言うんだ……」



 蹲るように夜雀は目を瞑った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝の決勝戦当日。予選や準決勝とはまた違いかなり盛り上がっていた。そんな決勝に出場するアッシュ以外はみんな観客席で見ることにした。


 観客席からアリスは”おぉ!”と言いながら周りを眺める。



「ここから見れるのはいいわねぇ」

「ずっとアリスは控室で見てましたからね。ここからなら全体見れますし、何より普通の観客席よりは広いですからね」

「そうよねぇ。さすがは鬼姫様ぁ~、いいところの席もらっちゃえるわね~」



 ユキの言う通り、観客席は少し手狭だその中でも正面でしかも広々とここなら応援もしやすいし、周りを気にしなくていい。

 まだ完治のしてないリリィも大胆にどこから持って来たのか布団を台に敷いてあり、横に寝そべっている。ふてぶてしいにも程があるとエドワードはため息を吐くが、”動けないからいいのではないか”とリンに言われてはなんとも言えない。隣で座るリンはニコニコしながら、エドワードの膝のにいる黒猫と猫じゃらしで戯れる。



「猫はいいですねぇ」

「……ハァ、なぁ、まだ時間はありそうか?手洗いに行ってくる。リンは少しクロを見ててくれ」

「はい、猫ちゃん預かってますね!」



 嬉しそうにしてるリンに猫を預けて、観客席から廊下方面へ出る。手洗いを済ませて、戻る途中でーー



「あ、おい、グレン!」

「ん?」



 たまたま一般の観客席に紛れて向かう途中のグレンがいた。呼び止めて駆け寄ると、以前見た怪我はもう治っているようだった。



「怪我は治ったんだな」

「まぁな。ある程度は。まだ目の方はぼやけるが問題はない」

「そうか。用事の方は終わったのか?」

「一応な。……というかお前らに注意しろって言ったのに結果的に参加したんだな」

「半分はアリスが、な」

「あのアホ神子……」



 グレンが左手で眉間を押さえる。気持ちはわかる。ある意味では頭痛がするような件だ。呆れてるグレンだがここにきているということは見に行く途中なのだろう。せっかくだ、一緒に連れて行こう。



「グレン、観るならこっちよりもいい場所がある。そこで一緒に観るか?」

「いいのか?」

「あぁ、こっちだ」



 グレンを連れてアリスたちのいる観客席まで行く。扉を開くと、アリスがこちらに気づき、後ろにいたグレンの存在にも気づく。”あー!”と言いながらアリスはグレンに飛びついた。



「グッレンー!」

「おい、ひっつくな。鬱陶しい」

「ちょっとグレン、なんでスノーレインの時に黙って行っちゃったのよ。挨拶もちゃんとできてないのに」



 抱き着いたままムスッとした顔でいるアリスにグレンは少し戸惑いながらも小さなため息を吐く。抱きついてるアリスの頭をポンポンと撫でながら”それは悪かった”というとアリスは満足そうに笑顔になりながらスリスリとする。



「ところでアリス、お前、守護者巻き込んで参加したそうだな?」

「え、あーいや~そのぉ~……」



 にっこり笑うグレンはアリスの頬をつねりながら言う姿はちょっと、だと思うが怒っているようだ。それを察したアリスはされるままだが、”ご、ごべんなさいぃ~”というので仕方ない手を放す。放したところで、リオンも手をあげてグレンを歓迎する。



「よ!」

「あの時、ユキと捕まってた子供だな。よかったな。母親と再会できて」

「おうよ!」



 ニカッと笑いながらリオンはリンに抱き着く。

 こいつが母親かとグレンがリンに目をやると、リンもグレンの方を向いて小さく一礼をする。



「初めまして、私はリオンの母親で、鬼神の鬼月リンと申します。リオンがお世話になりました。ありがとうございます」

「グレンだ。私はそいつにはあまり関与はしてない。してるのはそこで仏頂面のユキだ」



 ユキはグレンが入ってからずっとあんな感じだ。やはりグレンが苦手なのか目を合わせる気はないようだ。別にそこに関してはあまり気にしてない。何なら一番気になるのは優雅にふてぶてしく布団を敷いてる台上で寝そべってるリリィに一番、目が行く。何してんだこいつは。


 ふと、グレンは何か感じたのか少し驚いた顔でリリィに近寄る。



「…………お前、覚醒の前兆まではいったようだな」

「? 覚醒の事、なんでわかった?」

「お前の帯びてる魔力が少し変わっていたから、もしかしたらと思ってな。にしても惜しいものだ。次はちゃんとできるようになればいつでもできるようになる。ある意味では覚醒は切り札にもなるから感覚忘れる前に練習するといい」

「ん、分かった」



 リリィは小さく頷く。やはり一番こいつが素直だなと思いつつ、今度は会場を見る。すでにアッシュと夜雀がt待機していた。


 あいつがアッシュの相手か……。


 グレンは”ふむ”と言って、エドワードの席の隣に腰を掛ける。まだくっついたままのアリスはエドワードとは逆の席に座って一緒に観戦をする準備を整える。


 開始のファンファーレと共に司会者が会場の中心に降り立つ。



 《それでは皆様!三日間による覇権を巡るこの今回の妖怪祭もいよいよ大詰め!ただいまより決勝戦を開始いたします!》

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