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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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妖怪祭:本選2

 開始のゴングが鳴り響くと同時に御狐神が先制を仕掛ける。


 御狐神がもつ刀が大降りに振り下ろされる。当然、その攻撃を夜雀は後ろへ躱すが、グンッと距離を詰めるように御狐神は踏み出す。二撃目、三撃目と刀を振るうも全て躱される。


 御狐神は舌打ちをしながらも斬撃を続ける。



「さすがにスピードは追いつけないか。なら、これならどうだ」



 御狐神は自身の前に(いん)を組むと、ドロロンッと複数人の御狐神が現れる。恐らく分身体だろう。それぞれ分身体も刀を構えて追撃を続行する。分身体で一斉に攻撃しようとしたが、夜雀はタンッと躱していきながら切り刻んでいく。刻まれた分身体はドロンと消えていった。


 彼の攻撃に対して夜雀は小さくため息を漏らしながらボソッと呟く。



「お前では、俺を殺せないな……。それに……」

「何ーーっ⁈」



 分身体の隙間を一気に掻い潜って御狐神の目の前まで距離を詰めてくる。胸ぐらを掴み顔を寄せて来た。



「お前、ヒューマン臭いな」

「は? ーーぐっ⁈」


 寄ってきた勢いのまま蹴りを入れる。蹴り飛ばされた御狐神はザザザッと地面を擦らせながら止まる。



「ゲホゲホッ!! ……くそ、俺が、ヒューマン臭いだと?」



 咽ながら御狐神は夜雀を睨みつけるように顔を上げるがいない。どこに行ったのか分身体と共にあたりを見渡すが見失ってしまう。



「しかもよりによってこの臭いはヒューマンか。チッ、鼻が曲がりそうだ。……九尾の妖狐も落ちたものだな。ヒューマン如きとつるんでいるとは」

「っ!」



 背後から聞こえたので後ろへ刀を振るったがいない。幻影?いや、そもそも声が、やつの声が四方から聞こえている気がする。



「貴様、何の話だ? そもそも俺はヒューマンなんぞにと会ったことはない」

「…………いいや、臭うな。……本当に、鬱陶しいなその臭いは。触れるのもおぞましい」



 そういう声が聞こえると同時に、バサッと音とともに御狐神の視界が黒く染まる。目を開いてるはずなのに何も見えない。だが、音だけは聞こえる。目をこすっても変わらない。分身体の視覚も同じようになってるようでまったく見えない。


 暗闇の中で夜雀の声だけが響く。



「今、降参すれば、痛い目にはあわないが……どうする?」

「……ハッ たった一撃入れた程度で勝ち誇ってるのか?クソ雀」

「…………そうか。なら、降参を言うまでどれくらい持つか楽しみだ」



 先程とは違い、鋭い殺気に変わる。


 何かが風を切る音がした。咄嗟に御狐神は刀で何かを弾いていくが、見えない恐怖からかじっとりと汗が滲む。音を聞き漏らさないようにするが徐々に向こうの攻撃のスピードが上がる。



「くっ!”我が前に燃え盛る炎の力を顕現せよ。炎魔法:ファイヤーボール”!!」



 詠唱と共に御狐神の周囲に炎の玉が現れる。四方に飛ばすように放つが手ごたえが無い。それどころかーー



「あぐッ⁈」



 左肩に何かが刺さり痛みが来る。よろけたところに右足の太ももにも同様に突き刺さったので手で触れてみると何か細長い棒のようなものを引き抜こうとするがビリリッと痺れと返しがついてるのか引き抜こうとすると激痛が走って抜けない。


 痛みのあまりに膝をついてしまうと再度、闇の中から声が響く。



「降参しろ」

「くっ……こんのぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」



 叫びながら足に刺さった棒を引き抜き声の方へ投げるも、カランと乾いた音がなるだけで当たりもしない。呆れたような声が聞こえた。



「面倒だな」

「ッ!!」



 声と同時に御狐神の後頭部に衝撃が来る。恐らく蹴られたのだろう。蹴られた衝撃で倒れてしまうが、朦朧とする意識の中でも起き上がろうとするとさらに衝撃が襲ってくる。何度も執拗に蹴られ続ける。身動きを取ろうとすると地面と縫い付けるように腕を動かせば肩に、足を動かせば太ももへ棒が突き刺されていく。


 身をよじることさえ許されない状態で何度も何度も蹴った後、ついにはぐったりとした御狐神の背中に足を乗せたまま、再度、夜雀は聞く。



「さっさと降参しろ」

「カハッ……ぁ……ぐ……ッ」

「……ハァ……。にしても、かの九尾の狐も力この程度か。こんなに弱くては話にならない」



 夜雀は鼻で笑うように言い放つ。夜雀の言葉が御狐神に深く刺さる。


 あぁ、そうだ。大昔、この里に鬼がまだいない時は九尾の我々が強いと祖父は言っていた。鬼が来てからは我々は衰退してしまった。力を保てず、一族はだんだんと数が減ってしまって過去の畏怖も何もなくなった。

 だからこそ、一族の誇りのためにも、俺が鬼一族に勝たないといけない。こんなところで負けてしまってはいけない。負けるわけには、いかない。


 震える手で落とした刀を握る。


 それを見た夜雀はため息を吐く。



「そうか。ならお前にはもう用はない、死ね」



 トドメを刺そうと刀が振り下ろされる。


 ガギンッ!!


 金属を弾く音が響く。夜雀が見ると結界か何かが御狐神に張られている。結界に弾かれてしまった刀は夜雀の手から離れて後ろに飛んでいってしまった。

 だが、空いた手にそのまま手に細く尖った黒い棒を生成し、心臓に向けて振り下ろす。


 当たる寸前で、それを防ぐように誰かに腕を掴まれる。



「何の真似だ……? 鬼」

「彼はもう戦えないでしょ。過剰にするなって言われなかったかい?」



 夜雀の腕を掴んだままアッシュは睨む。仮面をつけているからどんな顔かわからないけど心底、鬱陶しそうにしてるのはわかる。こちらをジッと睨んでいるかと思うと、夜雀はハッとして掴んでいたアッシュから手を払いのける。



「お前……、こいつからした同じヒューマン臭いがする。……貴様、ヒューマンか?」

「……僕は鬼だよ。外から来た、ただの鬼さ」

「…………」



 恐らく睨んできてるであろう夜雀だが、息を切らし、怖いのかかなり震えながら司会者が慌ててこちらに来るとアッシュと夜雀の間に入る。




 《ちょぉぉぉぉっと!! ストップストップ!! あなた、さっきのルール説明聞いてましたか⁈ 過剰な追撃はだめです!! 鬼も試合中に勝手な乱入はだめです!! 次したら両方とも失格にしますからね!!》



 ビシッと両方に指をさして言う。とはいえ、”夜雀が恐ろしくて身動きできなかったのによく言うな”と少しアッシュは呆れてしまう。

 そして倒れている御狐神を見てから再度、司会者は大きな声で叫ぶ。



 《妖狐、気絶により戦闘不能!! よって一回戦目は夜雀の勝利です!!》



 終了のゴングが鳴る。

 夜雀は御狐神に刺さってる棒を抜き取り、アッシュに対して睨みつけたがそのまま去っていく。アッシュは彼が去ったの確認してから、御狐神に応急程度に回復魔法を使う。これくらいなら恐らくバレないし、命に別状はない。


 担架で運ばれる御狐神を見送ってから控え室に行くとリオンがアッシュにしがみつくように抱きついてきた。驚きながらもリオンの頭を撫でる。



「大丈夫だよ。御狐神は命に別状はないからさ。安心して」

「……グスン……、う、うん……っ」

「あんた行くまでが早かったわね。結界発動する前に向かったでしょ」

「嫌な予感はしていたからね。間に合ってよかったよ」



 リオンにとっては相当怖かったと思う。御狐神が一方的にやられ始めてからずっとアッシュにしがみついて、泣いていた。


 次の試合はリリィたちだったが、相手が夜雀の試合を見て棄権のため不戦勝となった。恐らく勝ったとしても無理だと思ったのだろう。リリィはかなり不服そうにしている。


 それはもうムスッとしてて、アリスが頭を撫でたり慰めてようやく機嫌が直ってくれた。



「アリスにいいところ、見せたかった……」

「あらあら、まぁ仕方ないわよ。相手がどっか行ったんだし」



 なでなでとひたすらアリスはリリィの頭を撫で回していると、リオンが隣に座り込む。表が出てるモニターを見る。



「次の試合がないってことは、アッシュの番か」

「アッシュならもう行ったわよ」

「あ、ほんとだ。もういる」



 別のモニターには既にアッシュの姿と相手である覚という妖怪がいる。あれは確かアッシュに言われていた心を読んでくる妖怪で注意するようにと言われていたやつだ。


 会場の方にいるアッシュはクルクルと木刀を回しながら合図を待っていると、覚がニヤニヤしながら話しかけてきた。



「ケッケッケッ。悪いことは言わん。今のうちに降参するんだなぁ」



 ひしゃげたような声で言うがアッシュはまるっきり無視をする。その態度が気に食わないのか、覚は今度は吠えるように叫ぶ。



「おい!聞いてるのか?! 貴様の秘密をバレたくなければ早々に降参しろと言ってるんだぞ!!」

「…………」



 そう言っても無視をされて、徐々に覚は顔を真っ赤にして頭から煙が出てるのではないくらいの怒りの顔でアッシュを睨みつける。



「〜〜〜っ!!貴様あ!!腕っ節がいいからとこちらの話を無視して――」



 覚が叫びながら言っている最中にゴングが鳴る。

 カーンっという音とともにアッシュは一気に覚との距離を詰めていく。反応する間もなくそいつの頭の髪を掴み、地面に叩きつけた。



「ぶぎゃ?!」

「君、さっきからうるさいね。あんまりうるさいとその喉潰すけどいい?」



 冷たくそう言い放つも、地面にめり込んだ頭を押さえながら覚はゆっくりと起き上がる。左手をアッシュの方に向けながら、怒りを抑えずに血走った目でこちらに向けてくる。



「き、貴様あ……。そういう態度をこの私にしおって……!! いいのか?!貴様が、妖怪ではな――っ?!」



 覚の口を塞ぐように口の中へ手を突っ込む。その手は下顎を掴みながらも、アッシュはニヤリと笑いながら覚の顎をミシミシを音を立てさせる。



「ねぇ、君、僕が……なんだって?」

「よ、ようはいでは、な……もぼぉっ?!?!」

「妖怪じゃない?僕が? おかしいなぁ、君、失礼じゃないか。何処をどう見ても僕は鬼だよ?……ね?」

「も、もごもぉ……?!?!」



 覚は悟ってしまった。アッシュの言葉とは裏腹に考えていることを、心を読んでしまう。


 ”いいんだよ? 僕が人だと言うことを言いふらしても。でも、それは僕も困るから、降参を言えない君をうっかり殺しちゃうかもしれないけど、仕方ないよねぇ……”


 そんな言葉を読み取ってしまった。覚は涙を浮かべる。こいつは今までのやつらと同様の脅しではだめだ。脅しが聞かない無理なタイプ。そもそも手を出すこと自体いけない相手だったと心底後悔した。


 目元が笑ってないアッシュはそのまま顎を掴んだ状態で上へと持ち上げる。



「あ、でも、リンたちには怒られるから、仕方なぁくどうしても殺すのは困るからさ……」

「も、もごが……?!」

「ちょーっと君の記憶を弄って、忘れてもらわないとダメだよねぇ。僕、無属性の魔法苦手だからさぁ。うっかり痛かったり、全部の記憶抜け落ちたら、ごめんね」



 全く悪びれる様子もなく、足元に魔法陣が現れる。恐怖した覚は何か言いたげに暴れたりするがアッシュの力では振りほどくことも出来ず、魔法陣の光がおさまった頃に手を離す。


 ドサリと覚は落ちていき、ピクピクと身体を震わせていた。


 動かないことを確認して、司会者はこちらの方へと飛んでくる。覚の意識が飛んどることを確認して、バッと手をあげた。



 《覚、気絶のため戦闘不能! よって、3回戦目は鬼の勝利です!!》



 ワァッ!!と歓声が上がる。


 アッシュはふぅと息を吐いて、控え室へと帰っていく。少しリオンは引いたような顔をしていた。



「ねぇ、全然声聞こえなかったけど、あれ何したの?」

「あはは、なんてことないよ。軽ーく、お願いと記憶を弄っただけさ」

「…………」

「あ、でも僕、無属性の魔法そんな得意じゃないからアレがどうなるかは正直わかんないかなぁ」

「アッシュさ……、夜雀とは別で怖ぇよ」



 ”そうかなぁ”ととぼけるアッシュにこれ以上は言ったところで意味がなさそうと思ったリオンは覚に若干同情しつつも、次の発表に目をやる。


 モニターには次の準決勝の表が出ていた。



 《お次は準決勝となります!夜雀VS猫又との勝負!勝った方が最終鬼一族との対決となります!!》



 そう言われてアリスはリリィの方を見る。ゆっくりリリィは起き上がってお馴染みの槍を取り出した。



「予選では負けたけど、次は勝つ」

「あまり無理したらダメよ?危なくなったらすぐ降参してね」

「……わかった」



 小さくリリィは頷いて、会場へとリリィは歩いていく。


 今度こそ負けるものか。私はアリスの守護者だ。負けっぱなしは自分が許せない。


 そう意気込みをして、入場していった。


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