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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里
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妖怪祭:本選3

 準決勝の試合前、ある者は夕暮れに差し掛かる外を見ていた。目を閉じればあの時の人間の顔を思い浮かべる。


 ”夜李(より)? おーい、よーりー? 夜李ってばどこ行ったんだよぉー?”


 うるさくもしつこく俺に話しかけてくる人間。ヒューマンのくせに俺に付きまとってきてはずっとおいかけてきた人間。どれだけ突き放してもくっついてくる人間。


 忘れたいのに、ずっと脳裏に焼き付いたように思い出させられる、鬱陶しい、いい加減消えてくれないかと思っても、どれだけ忘れられたらよかったかと……。



「…………忘れられないなら……いっそのこと……」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 《はいはいはぁーい!皆様、本日最後の種目、準決勝戦となります!》



 けたたましく鳴り響くアナウンス。司会者の声にわぁっと歓声が会場を包み込み大喝采となり響き渡る。



 《では準決勝ということでそれぞれの紹介をしていきましょう!》



 司会者が夜雀とリリィの間に降り立つ。バッとまずはリリィの方に片手を向ける。



 《まずは猫又!誰が予想していたのでしょう!弱小妖怪と言われていた猫又が準決勝まで上り詰めました!まさかまさかの猫又がここまで強いと我々も度肝を抜かれる気持ちですね!さぁ、猫又代表の方、自己紹介と意気込みをお願いします!》



 マイクをリリィ向ける。そのマイクを受け取らず。じっと仮面をつけたままの夜雀を見ながら口を開く。



「……リリィだ。予選では貴様に負けたが、私は私の(マスター)のために、貴様に勝つ」

 《いいですね!いいですねぇ!! 主君のため、忠犬ならぬ忠猫といったところでしょうか⁈ さてさて、お次は夜雀!》



 今度は夜雀にマイクを向ける。リリィの言葉に”フッ”と笑い腕を前に組む。



 《暗闇に紛れて颯爽と命を刈り取る闇の妖怪!! 容赦のない怒涛の攻撃をするその仮面の下は冷血かぁ⁈さぁ、夜雀代表の方、自己紹介と意気込みをお願いします!》

「……夜雀。負け猫に名乗る気はない。……にしても(あるじ)のため、ねぇ……。ハッ、実にくだらない。負け猫を従えてるお前の(あるじ)は所詮負け猫と同レベルなんだろうな。可哀想に」

「…………なんだと……?」

 《ちょちょちょっ⁈待って待って!!》



 夜雀の言葉はどう考えてもリリィの(あるじ)であるアリスを侮辱していた。

 慌てて司会者は間に入って治めるが彼女の怒りは止まらない。どうにか込み上げてくる怒りをかろうじてこらえるがふつふつと静かに熱は上がる。


 何も知らないくせに。アリスの事、何も知らないやつが、アリスを、私の、私の主(マイマスター)を……っ



「何も知らない貴様が私の大事なアリスを侮辱するのは絶対に許さない!!」



 リリィは怒りで青筋を立てる。ガンッと槍の石突きを地面に叩きつけ、叩いた影響で地面にひびが入るが夜雀はクスクス笑いながらさらに煽ってくる。



「カッカッカッ、なんだ負け猫でも飼い主を馬鹿にされると怒るか。……その飼い主の程度が知れてるな」



 プツンッ


 リリィの中で何かが切れた音がした。地面をえぐりながら、槍を夜雀に向けて振り下ろす。間にいた司会者を夜雀は突き飛ばし、自身は後ろへと軽く避ける。避けた場所にリリィの槍が振り下ろされると、けたたましい音と共に地面がえぐられてしまう。


 突き飛ばされた司会者は尻餅をつきながら、吠える。



 《あー!もう!! 勝手に始められては困ります!! ……って聞いていやしないですね……。えぇい!ワンテンポ遅れましたが試合開始です!!》



 開始のゴングが遅れて鳴り響く。


 すでに始めた試合は、リリィの猛攻が続く。槍を器用に操り、まるで手足のように使うが、夜雀にはまったく当たらない。頭に血が上ってるリリィの動きは単調的なため少しの動作で避けられてしまっていた。



「ふん、怒ってもこの程度か。やはりお前では話にならない」

「ーーがっ⁈」



 力任せに振るう槍を弾いて懐に入り込むと鳩尾に夜雀の刀の柄で殴る。ミシィッと軋む音がした。そのまま吹っ飛ばされてしまい、痛む腹を押さえ、咽ながらも起き上がる。



「ゲホゲホッ!! ーーちっ!!」

「なんだ、思ったより丈夫だな。先程の妖狐はそれで膝をついていたぞ」

「絶対に泣かす。私の(あるじ)を侮辱した罪は重いぞ!!」



 槍を構えながら鋭く睨むリリィに夜雀は呆れながら鞘から刀を抜く。



「…………ハッ 貴様を見ていると昔の自分を見てるようで……虫唾が走るな」



 夜雀の言葉にニヤリとリリィは不敵な笑みを浮かべる。



「……ふぅん、その口ぶりだと貴様も誰かに仕えていたようだが、アリスを侮辱していい理由にならない。それとも貴様の(あるじ)はまず相手を逆なでするように教えてるんだな。それはそれはいい性格を持ったご主人様だ」

「なんだと……」



 ピリリと空気が重くなっていく。ゆっくりと夜雀はリリィの方へと近づく。こちらに近づく度に空気が軋んでいる気がする。嫌な冷や汗がリリィの背中につたうが気にせずリリィは続けて言う。



「なんだ、他人の主は馬鹿に出来て自分の主は馬鹿にされたくなかったか?」

「猫又風情が……」



 ダンッとリリィとの距離を一気に詰める。持っていた刀を下から斬り上げようとしてるところを、リリィは刀の鍔に足で踏みつけて防ぎながら、バク転するように蹴り上げる。チリッと夜雀の顔を掠めながらも躱しながら夜雀は空いている手に細く鋭い黒い棒を生成してリリィに向けて振るう。


 バキンッと槍ではじきながら、もう一度、夜雀の顔にめがけて蹴りを入れる。


 今度は反応しきれなかったようで、仮面があたり、カランッと音を立てて落ちていった。


 仮面が外れた夜雀の顔は左側が額から目にかけて火傷でただれており、痛々しい傷が顔中にある。さすがのリリィも少し驚きながらも、離れて睨む。



「…………なんだその火傷は?」

「……なに、簡単な答えだ。俺の、(あるじ)を殺した時にできた火傷だ」

「なに?」



 こいつの反応からして(あるじ)は私と同じように慕っていたような様子だった。なのに、殺したというのはどういうことなのだろうか。



「なんだ、お前、自分の(あるじ)を慕っていたんじゃないんだな」



 ”慕う”という言葉に夜雀は目を見開く。先程まで冷静な言い方からかけはなれ、早口で声を荒らげる。



「慕う?ハッ 誰が?慕うわけがないだろ。俺は、人間に、ヒューマンに奴隷にされて、空を飛ぶための翼を奪われたんだ!! それでヒューマンの(あるじ)を慕う?カッカッカッ 馬鹿か?慕うわけがないだろ!!」



 感情的に言う夜雀はバサッと黒い、いびつな形の翼を広げ、羽が舞う。持っていた刀を構え直してリリィに切りかかる。リリィはいなしながら、後退していと隅まで追いやられてしまい、大きく刀を振りかぶって降ろす斬撃を槍で受け止める。



「慕ってないという割には、やたらと怒っていたようだがな!! 貴様みたいな従者がいるとその(あるじ)も大変なことだ!!」



 叫びながら刀を押し返しながら夜雀の胸ぐらを掴む。グイっと引き寄せて、ニヤリと笑いながらリリィは言い放つ。



「だが、私は違うぞ。例えそれが、ヒューマンだとうが、エルフだろうが最後まで、信じて最後まで慕う。それをしてもらうこともなかった貴様の(あるじ)の方が可哀想なやつだな」

「…………なんだ貴様。この臭いは、人だな。同じ人だから言えることだろ」

「貴様がどういう判断基準でしてるか知らないが、私の(あるじ)はとてもすごい人だ」

「あ?」



 バシンッと腕をはじきながら夜雀は後退する。


 睨みつけてくる夜雀とは真逆に先程まで怒りの顔ではなく、うっとりと笑顔でリリィはゆっくり歩く。



「私の(あるじ)、アリスはな、とても強くて優しい人だ。もちろん、わがままでたまに横暴な時もあるが、何よりも私たち守護者を大切にしてくれている。何度も何度も見送っているはずなのにまた会うことができると笑顔でくれる。それにあのアッシュ(アホ)を拾った時もそうだ。困ってるやつを見ると放っておけない。そんなアリスのために、私はーー」



 リリィの瞳と同じ琥珀色の粒子が彼女の周りを囲むように飛ぶ。それはリリィが夜雀に近づく度に光を増していく。


 そんな彼女の姿にモニター越しに見ていたアッシュが呟く。



「おっと、マジで……?」

「?何よ、どうしたの?」



 アッシュは今のリリィの姿に少し嬉しそうな顔をしている。それのせいなのか普段の翡翠の瞳から瑠璃色へと変わっていた。なんで嬉しそうなのかアリスが首を傾げていると、アッシュはリリィの姿を見ながらつぶやく。



「あれ、”覚醒”の前兆だよ」

「え⁈」



 アリスも驚きながらモニターを再度見る。


 リリィの姿に夜雀は少したじろぐ。



(なんだこいつ、急に雰囲気が……)



 なんとも言えぬ威圧感。こんなやつに、どこにそんな力があるんだ……?



「私は、アリスの絶対に折れない、矛になる」



 パァンッと光が弾く。リリィはピシピシッと音を立てながら琥珀色の岩のような宝石を纏う。髪の一部は白く染まっていた。


 バシッと槍を構えながら余裕な顔で笑う。


 その姿を見ても夜雀は苛立ちがおさまらないのか、強く憎悪を持ったような瞳で睨む。



「ハッ……。なんだよ……。弱い人間のくせに……」



 夜雀の持っている刀が軋む。



「貴様ら人間ごときが、図に乗るな!!!!」



 互いに地面を蹴り、バシンッと交差し痛々しい音が響く。



「……くっ……」



 動きが止まった二人だが、夜雀は肩を押さえて膝をつく。倒れるまではいかない。だが――


 バシュッ


 リリィから血飛沫が舞う。

 ドサッとリリィは倒れて、髪の色は元に戻ってしまう。


 倒れたことで司会者がリリィの元へ行き、確認をした後に手をあげる。



 《猫又、気絶により戦闘不能!よって決勝進出は夜雀だ!!》



 一瞬静まった観客席は勝負が決まって、わぁっと歓声が響き渡る。


 ゆっくりと夜雀は立ち上がり、そのまま1度リリィをチラッと視線だけ見てから、仮面を拾いその場を後にする。


 担架に運ばれて行ったリリィにアリスとアッシュが慌てて駆け寄ると、こちらに来たのに気付いたリリィがうっすらと目を開ける。



「り、リリィ!大丈夫?!」

「……あ、……アリ、ス……」



 じわりとリリィの目に涙が溜まる。ボロボロと泣き、嗚咽をし、顔を隠す。



「ご、ごめん……アリス……。あんな、あんなやつ、負けてっ……ごめん……」

「……っ! うぅん。リリィはよく頑張ったわ。ありがと」



 泣いているリリィを抱きしめて一緒に泣いてしまう。

 動ける状態ではなかったがリリィも命の危険はなさそうで安心した。それに動けないのは恐らく”覚醒”の反動だろう。


 モニターからはあの司会者が両手を広げ、最後のトーナメント表を出しながら言う。


 《ではでは皆様!準決勝までの試合お疲れ様です!明日はいよいよお待ちかねの決勝です!!鬼VS夜雀となっておりますので明日をお楽しみにしてくださいなぁ!!》


 そう言って天幕が降ろされていく。


 明日はいよいよ決勝だ。

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