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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里
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妖怪祭:本選1

 本選当日、お酒の影響なのか自分たちの番ギリギリまで寝てしまい、控え室で二日酔いに苛まれているアッシュの姿がそこにはあった。


 本当はノアたちの雄姿を見るのも楽しみだったし、他の妖怪をみて対策を考えようと思ったのに……。


 ぐったりとしてるアッシュにリオンは背中を撫でながら心配する。



「おい、大丈夫か?アッシュ」

「……死ぬほど頭痛い……」



 昨日の記憶があまりない。イカ焼き食べて、吐きそうになって、口直しにチョコを食べたところまでは覚えてはいる……。それ以外は全然記憶にない。朝気づけば客室で寝ていた。


 アリスは起きてから全然口聞いてくれない。何かしたのだろうか……?



「そんなんで試合出れんの?」

「私が出るからいいの」

「え、アリスが出んの?」



 リオンの言葉にアリスは頷く。アリスが出るという言葉にアッシュはバッと顔を上げる。



「ま、待って。僕、出るから君は――」

「うるさいわねぇ。私が出るからあんたはさっさと休んで治しなさいよ。薬をもらって飲んだんでしょ?」

「いや、でも……」

「それに二日酔いの守護者に私が戦わせると思う?」

「そ、それは……」

「次、言ったら一生口聞かない」

「……うぅ……」



 二日酔いで本当に頭が回らない。アリスの言うことも最もだけど、かと言って神子に危険な試合に出させる訳にはいかない。酒呑童子は特に好戦的で危ないから本当に出させたくはない。


 けど、アリスずっと怒ってるし、ダメって言うと口聞かないって言われるし、どうしよう……。


 同じ控え室にいた御狐神は少々申し訳なさそうに隣で困った顔をする。



「す、すまないな。お酒弱いの知らなくてチョコレート渡してしまって」

「いいわよ。チョコレートの中身を聞かなかった、アッシュも悪いわ。……じゃ、行ってくる」



 杖を取り出して会場へ向かうアリスにアッシュは追いかけて腕を掴む。

 不機嫌そうにアリスが振り向くと少しビクッとしてなんとも言えなさそうな顔をしながら口を開く。



「その、本当に僕、君に何かしたかな……?ずっと怒ったままだから……」



 やるせないような様子でアッシュが言うがこれは、私がただずっと怒ってるだけで別に昨日のことで……



(昨日のことで別に……怒ってる訳では……)



 そう思うが抱きついてしまっていたこと昨日のアッシュのことを思い出して顔に火がついたように赤くしてしまう。別にただのスキンシップだ。深い意味はない。


 意味なんてないんだから。


 顔がだんだん真っ赤になるアリスに心配そうにアッシュは顔を覗き込む。




「アリス?」

「――ッ!! もういいの!! とりあえず気にしないで!!」

「あっ!ちょっ――!!」



 アッシュの制止を無視してアリスは走っていく。シュン……と明らかに落ち込む彼にリオンはまた背中を撫でる。



「まぁ、あれだよ。おれも昨日ふにゃふにゃなアッシュを見たけど、あれは怒られるんじゃない?」

「ふにゃふにゃって何さ……。覚えてないから本当に何したか怖すぎる……」



 アッシュはため息を着き、貰ったきつけ草を生で齧りながらモニターを見ると相手は先に到着しており、その後アリスが入場してきた。


 会場に出たアリスは持っていた杖の石突きをカンッと鳴らす。人の丈の5倍はあるのだろう大きな身体を持つ酒呑童子と呼ばれる妖怪は既に立って待っていた。


 酒呑童子はアリスを見ると鼻でハンッと笑う。



「なんだ、女鬼が相手か?男鬼の方が来るかと思ったのによ」

「あんたの相手は私で十分よ。それに今、私ーー」



 開始のゴングと同時にアリスの足元に巨大な魔法陣が現れる。



「クッソ機嫌悪いの」



 唐突の魔法に酒呑童子は驚く間もなくアリスは睨みながら杖を通して魔法陣にありったけの魔力を注いで詠唱する。



「”全てを焼き尽くす炎を放て。我が魔力を解き放ち、絶望の闇を打ち破る光を放つーー”」



 詠唱が開始された段階で酒呑童子はハッとする。魔法陣と詠唱が入る魔法はかなり強力だ。詠唱が終わる前に仕留めないとまずいと予感をしたのだろう。急ぎアリスに向けて刀を振り下ろすが、バキンッと防御魔法に弾かれる。唸りながら刀を振るう酒呑童子だが、少しずつ結界にひびが入るもその間にも詠唱が続く。



「”我が名は闇を裂く者、輝かしい光の使者。我が使命を果たすべく、光輝く炎を放て。光魔法:月を喰(エクリプス)らう炎(インフェルノ)!”」



 魔法陣がカッと光ると、酒呑童子の足元に先程のアリスのところにあった倍の大きさの魔法陣が現れる。ドォンッと地響きを鳴らしながら大きな白い火柱が現れる。火柱は酒呑童子を呑み込み、おさまると黒焦げになった酒呑童子はゴホッと咳き込みーー



「ま、まい……った……」



 そう言って倒れる。アリスは”フンッ”と言いながら、杖の石突きを地面にカンッと鳴らす。


 戦闘不能を確認してから司会者の声が響き渡る。



 《おぉ!! あの酒呑童子がまさかの一撃ィィィィッ⁈ 素晴らしい!勝者、鬼一族です!!》



 終了のゴングが鳴り響く。歓声を背にアリスは控え室に戻る途中でアッシュが心配そうな顔で待っていた。彼は勝ったことに褒めたい気持ちと話しかけていいか迷っているので先にアリスが口を開いた。



「……ねぇアッシュ」

「え、あ、なんだい?」

「あんた、いつになったら私のこと、ーー私たちの事をちゃんと見てくれるの?」



 いまだに過去にアッシュは縛られてる気がしてならない。私たちを守るのも奥さんや子供のことで罪の意識から私たちを守っているんじゃないかと思ってしまう事はある。私のもやもやはまた少し違うだろうけど、それでも今は、今、一緒にいるのは、あなたの傍にいるのは私たちだから。


 私たちを、私をちゃんと見てほしい。


 アリスの問いにアッシュは目を丸くした。けどすぐににっこりと笑いながらいつもの笑顔を見せてくる。



「……君がどう思ってそれを聞いてるかわからないけど、安心して。僕は君たちの事、ちゃんと見ているよ」

「……そう……」



 心を読んでもアッシュが嘘をついてないのはわかる。別に読まなくてもわかってはいるけど……。こう思う自分にも少々嫌気がさす。


 アリスはため息をつきながらアッシュの方まで歩く。持っていた杖でアッシュの肩を軽く押すとチラッと彼を見る。



「もう怒ってないから気にしないで。それよりも私に言う事あるんじゃないの?」

「え?……あ、そうだね。勝利おめでとう、アリス。すごい綺麗な魔法だったよ」

「ふふーん、まあね。詠唱ありなら私も多少は強い魔法を行使できるのよ」

「あはは、ちょっとやりすぎ感はあるけどね」



 いつも通りのアリスにアッシュも安堵を浮かべる。



「そういえば二日酔いはどう?」

「まだ痛いけど起きた時ほどではないよ。次の試合は問題ないかな」

「おっけー。さっきの魔法で、私、魔力がすっからかんだからあとは任せるわ~」

「うん、任せてよ」



 そんな話を控え室に戻りながらしていると、モニターにでかでかと司会者が映る。

 どうやら次の試合のまとめを出してくれているようだ。



 《選手皆様、お疲れ様です!初戦はなんとも白熱な試合圧巻される試合でございました!それではお次の準々決勝の発表です!》



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 1回戦目

 夜雀VS妖狐


 二回戦目

 鵺VS猫又


 三回戦目

 覚VS鬼



 ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 映し出された表を見る限り、前回の試合ではリリィの勝利で問題なく行けたそうだ。次の相手も見た感じそんなに強くはないとは思う。苦戦はするだろうけど、リリィが勝てない相手じゃない。そして御狐神の相手である夜雀に至っては、相手の選手を殺してる。試合を実際に見たわけではないけど、かなり異様だったそうだ。


 聞いた限りでは鴉天狗と夜雀のの試合は、接近戦中に夜雀の羽根がバサッ舞ったかと思うと、相手は様子がおかしくなった。急に攻撃は当たらなくなり、まるで何も見えなくなっているのか刀を無作為に振っていた。そんな鴉天狗へ無慈悲に串刺しにし、”参った”と言わなかったという理由で息の根が止まるまで、刺した。


 少しアッシュは考えて、御狐神の方へアッシュは向かうと彼の腕を掴む。



「? どうした?」

「御狐神、危なくなったらちゃんと退くんだよ」

「……妖狐は数が少ないから無理に鴉天狗みたいに無理をするつもりはない。当主にもきつくそこはいわれてる。安心してくれ」

「そっか。それはよかった。君の性格上無理しそうだからさ」

「……それ当主にも言われたんだよな……。ハァ……そんなに俺は血の気多い気はないんだがな」


(いや、十分多いと思うけど、ここでいうと面倒だろうなぁ……)



 そう思いながらもアッシュはこっそりリリィたちにも付与した保護魔法を御狐神にもかける。念のための保険だ。彼にここまでする気はないけどもリンの件もあったし、何よりリオンが懐いている。もし死んでしまうようなことがあればきっと悲しませてしまうから。


 続けてアナウンスが流れてくる。



 《このまま次の準々決勝戦を始めます!出場選手の夜雀、妖狐は会場へとお願いします!!》



 呼ばれた御狐神はこちらに軽く一礼して”では行ってくる”と言い残して向かった。

 リオンは不安そうな顔をしてアッシュの手を握る。リオンは鴉天狗の惨状を見ていたようだから、なお怖いのだろう。不安を拭うようにリオンの頭を撫でる。



「大丈夫だよ、リオン。彼は強いでしょ?」

「そう、だけど。鴉天狗のおっちゃん、昔よく遊んでくれてた人で、おれ強いの知ってるけど、そんなおっちゃんがあぁなって……っ。御狐神さんは、だ、大丈夫、だよな……っ?」

「そうだね……」



 嗚咽交じりにリオンがこちらを見てくる。こればかりは彼のことをそんなに知ってるわけではない。だからもし、そうなった時はーー



「大丈夫だよ、リオン。何かあったら僕がなんとかするからさ」

「…………二日酔い気味のアッシュが?」

「う……ッ それは言わないでほしいなぁ」

「……冗談だよ。なんかあったら、たのむな……?」

「うん、任せて」



 モニターを見て二人の様子を見る。


 すでに向かい合っており、今にでも始まりそうな勢いだ。


 司会者が二人の頭上に降り立つ。



 《それでは準々決勝一回戦目始めますが、改めてルールをご説明いたします!会場内で決められた範囲で戦闘になります!だだし場外はないので落ちたとしても失格にはなりません!勝敗に関しては降参を相手に言わせるか、もしくは気絶した場合は戦闘不能として負けとなりますので、くれぐれも、ぐ・れ・ぐ・れ・も!!過剰に追撃はしないでくだいね!!》



 司会者は夜雀に念入りに吠えるように言う。いくら殺しに関して今回は不問でも、さすがに過剰過ぎたようだ。

 言われている夜雀はため息をしながらそっぽを向く。



 《それでは準々決勝、一回戦目開始です!!》



 開始のゴングが鳴り響く。

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