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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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妖怪祭:予選3

 再度会場へ足を運ぶと先ほどまでの殺伐とした雰囲気はなく、何やら美味しそうな匂いが会場を包む。甘い匂いや辛そうな匂い、他に香ばしい肉やいろいろな匂いが充満している。その匂いで隣にいたアリスはお腹をグ~ッと鳴らしていた。


 よだれを流しながらアッシュに抱き着く。



「何々⁈すっごい、いい匂いするんだけど⁈あれ食べていいやつなのかな?」

「どうだろうね。いい匂いは確かにするけど……結構多くない?」

「私ならいける」

「……君、底なしの胃袋だね……」



 ちょっとどう反応しようかアッシュが悩んでいると、アナウンスでずっと聞こえていた声の主が現れ、手にはマイクを持っており、相変わらずスピーカーから声が響いてくる。



 《はいはーい!皆様!この残った30組でお次の種目と参ります!お次は、妖怪ならどんな手を尽くしてでも頂点へ!そして何と言っても我々妖怪は気ままにどんちゃんとたらふく全てを喰らいつくしていけ!大食い勝負となります!ここでは12組のみが最終トーナメントに上がりますので、是非とも頑張ってください!》



 大食いと聞いてさらにアリスが目を輝かせている。ただ、リリィとノアはマジかという顔をしていた。武力以外でもやるなんて聞いてないと言わんばかりにノアは顔を手で覆っている。



 《ではルール説明と参ります。内容はいたってシンプルで、それぞれ甘味、肉、魚の3つを平らげて頂きます!料理は一つざっと50人前!最初はどれでも構いませんが全て食べきれないと失格となります。ただし、人数のことも考えて、一人の場合は1つ、二人の場合は2つ、三人の場合は3つ全て!もちろんチームで協力して食べれば問題はないので、それぞれを食べきれるように頑張ってください!》



 もしこれが1人なら甘味だけという選択も可能という事だろう。ただし今回アッシュたちは3人いるためそれぞれを食べきれないといけないようだ。



 《数のことも考えて突破の人数の上限はそれぞれ4組ずつまでとします!それでは皆様好きなものを平らげて勝利を掴みとっていきましょう!さあさあ!各々の種族名が記載された札がある場所へ席について準備をしてください!》



 そう言われ、鬼と書いた札のところへ行くとこれは一人でも無理なんじゃないかというくらいのテーブルに収まらない大量の料理が並んでいる。ご丁寧に人数分のテーブルだ。リオンは圧倒的な量にアッシュの方を見る。



「な、なぁ、おれこんなに食えないかも……」

「あはは、そうだね。結構な量だから君の分もきっとそこにいる底なしの胃袋持ったアリスが食べるさ」

「え、アリスが?」

「うん、たぶんこれ一つは余裕で一人でも食べきるよ、彼女」

「うっそだろ⁈」



 驚いたリオンとは裏腹にアリスはうっとりとした顔で料理の山を見ている。まだかとまだかとうずうずしてるようだ。

 そんな彼女はこちらを振り返ってにっこりと笑う。



「私、全部食べれるから二人は食べたいもの食べてって!残ることは多分ないわ!」

「あはは、だよねぇ。これは君の専門だから僕らは僕らのペースで食べるから君は思う存分食べなよ」

「もちろんよ!」

「これ、喰いきんの……?マジ?」



 若干引いてるリオンをよそに、力強く頷く。彼女は今までで1番頼もしく見えてしまう。前掛けのエプロンを付けて、髪はアッシュが結ってもらった。アリスは魚、アッシュは肉、リオンは甘味の席に着いた。


 それぞれ席に着いたことを確認したところで司会は再度マイクを持つ。



 《では皆様、ご準備はいいですか⁈ 腹が減っては戦ができぬ!さあ喰らい尽くせ!!》



 開始のゴングが鳴り響く。


 始まると同時にアリスはまず焼き魚に喰らいつく。表面はカリカリで中はジットリしており、カリカリの部分は滴り落ちた魚自身の脂で燻されてスモーキーな味がする。あまりの美味しさにアリスは声にならない歓喜な声が漏れ出す。



「~~~っ!! やっば!美味っ!!」

「幸せそうだね、アリス」

「こんなに美味しもの食べられるなんて……、女神様ぁ~ありがとうございます~♡」


(あ、これ多分もう聞いてないやつだ)



 アリスの反応見る限りかなり美味しいのだろう。


 アッシュも自分の前にある大量の料理の一つに手を伸ばして食べ始めた。肉の一切れが手のひらサイズほどの大きさで、かなり分厚いがそれでも箸の重さだけですっと切れる。肉の焼けた香りと香辛料のびりっとした辛味、それでいて噛んだときの甘みがなんとも言えない。これは確かに美味い。


 ただ、あまりの量でそんなに勢い良く食べきれない。三皿目のところで美味しいからちょっとしんどさが出てくる。



「美味しいけどこれ全部食べられるかな……」

「アッシュー。おれも肉一口ほしい~。甘いもんばっかしんどい」

「ん?あぁ、いいよ。ちょっとずつでもいいから食べていこうか。アリスもまだそんなーーって、え⁈」



 アッシュがアリスの方を見るとあの大量にあった料理がもうなくて、今、食べてるのが最後の丼なのだろうか、両手を大きく広げたら届くくらいの大きな丼をかけ流して、”ぷはーっ!”と言いながら置く。それはもうかなり幸せそうな顔で。


 も、もう平らげてる……。思ったよりも早い……。


 アリスは食べ終わったため今度は唖然としてるアッシュの方を向く。



「こっちは終わったわ!アッシュは?って二人とも全然食べてないじゃない」

「そ、そりゃあまだ食べ始めてそんな経ってないし……」

「あらそう?その食べてるものは食べきれそう?」

「あ、うん。これは大丈夫。他のはちょっと厳しいかな」

「私が食べてもいい⁈」

「あはは、もちろんだよ」



 食べかけの皿を持ってアリスと席を変わる。まだまだたくさんある肉料理に変わらず彼女は目を輝かせている。



「いっただきまーす!」



 両手を合わせてさらに食べ進めていく。ちゃんとよく噛んで食べて味わってるのにスピードが衰えない。さっきまで魚料理を50人前食べた後とは思えない勢いだ。食べたものはあの細い体のどこに入ってるのだろうか……。


 残りのお肉を食べながら他のチームを見ればまだ食べきってないチームが多い。ノアたちの方を見れば一つの料理を三人で頑張って食べている。本来はあんな感じで食べていくべきなんだろうけど、アリスにとってはなんてことない。

 なんて考えながらアリスの方をもう一度見ればもう食べ終わっていてリオンと席を変わってデザートに突入しているタイミングだった。


 待って、ほんと、どうやってあの大量の料理もう食べたの?目を放したのは、ほんの一瞬なんだけど。


 また唖然としているとリオンがこちらに来て隣に座った。



「……おれ、大きくなったらあんな食えるようになるのかな?」

「んん~……、ちょっとどうかな……。僕でも結構すでにしんどいから無理してならなくてもいいんじゃないかな」

「…………おれも頑張る」



 いや、本当に頑張らなくてもいいと思うけど。


 内心ツッコミたかったがこれに関してはもうちょっと疲れた気がするので黙って残りのお肉を食べることにした。

 ちょうどアッシュが食べ終えた頃に、アリスもデザートを食べきっていた。


 全体を見ていた司会の人がこちらまで走ってくる。



 《お!おぉ?! もう食べきったんですか?!》



 空っぽになった食器の山を見て、食べ残しがないか確認をしていく。



「えへへー、美味しかったわ!ご馳走様!」



 誇らしげに笑う彼女に司会者は大きな拍手をした。



 《素晴らしい!なんという暴食!またもや一番乗りは鬼一族です!》

「いえーい!あ、ところでリタイアした人のとか食べたらダメなのかしら?こんなに美味しいのに捨てるってなると勿体ないから!」

 《まだ食べるんですか?! ま、まぁいいでしょう!本当はスタッフが食べる予定ですが、量が量なのでリタイア組の完食お願いします!》

「やったー!」



 アリスは司会者に連れられて行こうとする。が、一旦立ち止って、アッシュの方へ戻っていく。



「アッシュとリオンも行きましょ!」

「え、僕たち食べないけどいいのかな?」

「大丈夫大丈夫!一緒にいてくれるだけでいいの!」



 アリスに連れられてリタイア組のところに向かう。ちょうどノアたちの隣だ。アリスがドカッと座るとリリィがアリスに気づいた。



「え、アリスもう食べたの?」

「そっ!リタイア組の食べることになったのよ!」

「まじかよ……。まだ食えんの?俺もう腹死にそうなんだけど……」



 そういうリリィたちの方は全体の60%ほどは食べきれてはいる。折り返し地点ではあるが、それでもかなりキツそうだ。


 またアリスは嬉しそうに”いっただきまぁす!”と言いながら食べ始めた。美味しそうな海鮮料理を綺麗に平らげながら進んでいく。食べてる姿を見てるだけでもこちらが満腹になりそうだ……。


 リリィたちもアリスに負けぬようにスピードを上げて食らいついていく。周りでまた1組、また1組と完食が出ている。もうギリギリな状態のため、箸が止まらないように食べながらアリスのペースに頑張ってついて行くと――



「た、食べきった……っうぷ……!」



 吐かないように口を押さえながらノアが震える手で手を上げる。司会者はアリスの時と同じでパタパタと寄ってきて完食状況を確認した上でニッカリと笑いながら手を同じようにあげる。



 《おっとぉ!なんとなんとギリギリ!猫又一族も完食だ!!》



 カンカンカーンッと音が鳴り響き、終了の鐘を鳴らす。司会者は1番前まで走っていき、大きな掲示板を指をさした。



 《さぁ!皆様!これにて予選全て終了となります!結果に関してはこちらです!!》



 大きくトーナメント表が出てきた。



 ―――――――――――――


 1回戦目

 鴉天狗VS夜雀


 2回戦目

 がしゃどくろVS妖狐


 3回戦目

 鵺VSダイダラボッチ


 4回戦目

 土蜘蛛VS猫又


 5回戦目

 イクチVS覚


 6回戦目

 酒呑童子VS鬼


 ―――――――――――――



 出された表の前に司会者は周りが確認した所を見て、さらに続ける。



 《そして、今回は公平性を出すため、二人組と三人組はそれぞれ代表1名を出して出場してください!もちろん2回戦目は別のものが出る!というのも全然ありです!人数が多いチームに関しては有利かもしれませんがこれもまた戦略を駆使するチャンスです!本選試合は明日となりますので皆様!それまではお祭りをお楽しみください!》



 手を大きく振って天幕が下がる。


 ひたすら説明中も食べていたアリスはニッカリと笑いながら拳を天に向けながら会場を出る。



「よーし!明日に向けて露店も行くわよー!」

「君、まだ食べるの?」

「え、あと腹8分目来たからデザート食べたいのよ。それにイカ焼きやたこ焼き、はぁ……りんご飴も捨て難い……!」



 あんだけ食べてもなおようやく腹八分目という衝撃な事実にアッシュもさすがに少し引きそうになっていると、いつの間にか走ってきたエドワードがアリスの頭にハリセンで叩いた。



「痛い!!」

「アリス……。貴様、今回は大目に見ようと思ったが、やはりダメだ。なんでリタイア組のものまで食べてるんだ?」

「え、い、いやぁほら、残しちゃうと悪いから……な、なんて……?」

「あ?」

「え、エドワードさん、すいませんでした。だから怒んないでぇ〜……」



 エドワードがここまで怒った理由はこの暴食にあるそうだ。元々そんなには食べる方ではなかったらしいが、神子としての体質なのか、食べたものを魔力として変換していく。そのため永遠と魔力が増えていくと後々体調を崩してしまうそうだ。そのため普段は普通の量で抑えるようにしている。


 本当は現段階で魔法か何かで早めに魔力を放出しないといけないそうだが明日が試合もあるということで、それで発散させようという話になった。


 話を聞いたアッシュは頬をかきながらエドワードの方を見る。



「エドワード、ごめんね。僕も知らなかったとはいえ食べさせるの止めなくて」

「いや、いい。元々話したなかったことだしな。まさかこういうのがあるとは思わなかったのもあるが」

「でもアリスのおかげで予選も問題なくいけて良かったよ。ね、アリス」

「ういっす……」



 その場で正座してるアリスは小さく返事をした。

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