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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里

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妖怪祭:予選2

 会場で別の場所にいたリリィたち。開始のゴングと共に一斉に開始されたと同時に乱闘が始まる。


 Bと書かれた紙を持った猫又の子は尻尾がくるんと縮こまっていて、その隣ではノアもプルプルとしている。リリィはフゥと息を吐いて近寄ってくる妖怪をなぎ倒していく。



「しないなら伸びてるやつから勾玉取れ。猫」

「ぼ、ぼくはキースです!」

「ならキース。動かないなら取ってこい。ノアもさっさ手を貸せ」

「だ、だからぁ!俺は戦闘無理っつってんだろ!」



 キースは言われた通りに怯えながらもリリィがなぎ倒した妖怪から勾玉を取っていくが、強制的とはいえ連れてきたノアがこのありさまでは使い物にならない。


 ……こういう時はアッシュならどうするだろうか?

 グレンに覚醒のことを聞いて、スノーレイン以降はそれぞれに合った訓練を教えてくれるようにしていた。かといってノアには戦闘面ではなくサポート面で何か教えていた気がする。ハーフフットでは力任せな戦いはできないことは知ってるからこそ、体格の特徴を活かした戦い方教えていた。

 アッシュは何を教えていたのだろうか……。



 少し考えながえていたらアナウンスが流れてくる。



 《ななな、なーんとぉ!Aグループ早々に鬼一族が一番乗りです!あれだけの数、よくぞ突破しました!》



 もうアリスたちは条件をクリアしたようだ。せっかくアリスにも参加すると意気揚々としたのに不甲斐ない結果は見せられない。


 ……そういえば、アッシュからは周りをよく落ち着いて観察して見るようによく言われていた。気がする。


 息を深く吸い込み、ゆっくり吐く。落ち着いて焦らず周りを観察していく。


 よく見れば全員が戦えるわけではない。恐らく放送でもあった交渉。それにどんな手でもいいと言っていた。なら、手先の器用で身軽なハーフフットや、自分でもできることは……。



「おい、ポンコツ」

「あ⁈ ポンコツは俺の事かよ! んだよリリィ!最前線は無理だかんな!!」

「やかましい。ポンコツ、この乱闘の中に紛れて隠密で勾玉を奪えるか?」

「あ、隠密? ……この騒ぎの中なら相手の意識もそれてっからいけないことはないとは思うけどよ……」



 そう言ってノアも周りを見る。単純な動きをしているやつらの方が多い。けど数も結構いるから上手くいくかはわからない。それにいくら隠密を使ってもバレることもある。バレた時を思うと身の毛がよだつ。



「私たちもアリスの守護者だ。これくらいの乱闘程度で怖気づいてしまうなんてダメだ」

「…………守護者ねぇ。それもそうだよな……。俺は隠密とか罠だったりとかシーフとしてなら動けるぜ」

「ん、なら私が注意を惹く。その間にとって来い」

「しっかりサポートしてくれよ……。マジで!」



 キースを抱えたリリィとノアが同時に駆ける。槍を構えたリリィが目標の前に出て注意を逸らす。その隙にノアが人ごみに紛れながらソッと音を立てず、相手の隙に忍び込む。勾玉の入った袋をバレないように盗る。サッピルスに教えてもらった影渡でその場を離れていく。

 ノアが離れたのを確認して、相手の攻撃に合わせて弾き飛ばされるふりをしてその場を離れていく。


 二人は途中で合流する。



「どうだ?」

「ばっちり。クッソ怖かったけど、この程度ならいけるわ」

「ん。なら次行くぞ」

「OK!」

「ふ、二人ともすごい……」



 四人目、五人目と次々にバレる前に盗っていく。相手はこちらを猫又と認識してるからこそ、油断する隙をつくことができた。手持ちの勾玉も徐々に増えていく。


 だが、盗まれていることに徐々に気づき始めたのか、まとまって固まるようになってきた。単体の妖怪なら問題ないかもしれないが3人固まって背後を守るようにし始められると逆に囮になるリリィが危険だ。


 それでもノアは今度はリリィのサポートなしで影渡で掻い潜っていく。



「っし! まとまってくれた方が死角ができやすくてやりやすい!」

「調子出て来たな。そのまま一気に集めるぞ」

「戦闘じゃねぇなら任せろ!」



 恐らく100個はギリギリ集まってきているはずだ。あと数回で完了というところで、明確な殺気を感じる。バサッと黒い羽根がまき散らしながらノアの前に出てくると持っていた刀を振り下ろそうとしてくる。

 咄嗟にリリィは自分の槍を使い、石突のところをノアの服に引っ掛けて逸らす。逸らしきれなかったのか、少し掠ったノアは驚きながらもリリィの槍を掴んで共に着地する。



「貴様らの勾玉を横せ」

「ハッ 誰だか知らないが大層なご挨拶だな」



 槍を構えて妖怪を睨む。そいつの顔は仮面で隠れており、表情がわからない。黒い翼を広げてながらその妖怪はじりじりと近寄る。


 なんの妖怪だろうか……、なぎ倒していた妖怪とも違う強い殺気だ。手に汗をにじませながらリリィは槍を強く握る。戦えないキースとノアに離れるように視線を送り、同時にリリィは槍を振るう。タンッと後ろに躱して避けていく妖怪に追撃するように振るった槍をそのまま一回転して投げ、飛んできた槍を躱した妖怪だが、躱した槍のところまで瞬時に移動したリリィは飛ばした槍を掴み、勢いを殺さないように叩きつける。


 刀で防がれたがへし折る勢いでリリィはさらに力を込めて地面に叩きつけ砂埃が舞う。



「……! いない?」



 砂埃がなくなったが叩きつけたはずの妖怪の姿がない。周りを警戒しながらリリィが構える。


 殺気は消えてない。どこかに紛れているはず……。


 油断しないよう、警戒をしていたが何処からか声が聞こえてくる。



「猫又風情が、調子に乗るな」



 後ろから聞こえてきたのでリリィ槍を後ろへ振るった。だが、手ごたえも何もない。



「いないーーっ⁈」



 さらに強い殺気を感じで紙一重で躱す。そのまま刀を休む間もなく振るってくる。速い斬撃で反撃する隙が無く、身体も徐々にかすり傷程度だが切られてしまいリリィは苦悶の表情に変わっていく。



「ほら、どうした。さっきまでの威勢はどこにいった?」

「くっ……!」



 段々躱しきれず、足元のバランスをリリィは崩してしまう。その隙を見逃さなかった妖怪の刀がリリィに当たりそうになる直前ーー



 《おおおおお!これは今回は珍しい!次に突破したのは猫又です!!》



 そんなアナウンスが流れてきたため、振り下ろされた刀は寸前で止まる。舌打ちをしながら先程の仮面の妖怪はどこかへと消えてしまった。


 殺気も完全に消えたため、リリィは息を切らせながら、その場に座り込む。



「ハッ……ハッ……。た、たすかった、のか?」



 ボソッと呟いていると、ノアたちが走ってこちらに向かってくる。キースに至っては泣きながらリリィに飛びついてきた。



「リ、リリィさん!大丈夫でしたか⁈」

「う、うん。大丈夫……」



 ノアも息を切らせながら申し訳なさそうにリリィに手を差し伸べす。



「遅くなってわりぃ。勾玉をさっさ集めて次進んだらいいかと思ってよ。俺はそんな感じしかサポートできなかった」

「ん、大丈夫。見直した。ポンコツからややポンコツに昇格だ」

「それって喜んでいいのか?絶対微々たる昇格だよな⁈」



 何がともあれ次に進めそうだ。けどあんな妖怪がいるとは思わなかった。

 クリアしたことでリリィたちも観覧席へ行くことができた。案内されていくと、そこにはアリスが両手を広げてリリィを強く抱きしめる。



「リリィ!無事でよかった!!」

「あ、アリス。見ていたのか?」

「うん、こっちはアッシュのおかげで早く終わったの。それでリリィたちを観ていたんだけど、本当にハラハラしたわ……」



 少し涙目なアリスにつられてリリィも涙ぐんでしまう。そんな二人にアッシュがリリィの方をトントンと叩く。



「さっきは本当に危なかったね。大丈夫?結構傷があるけど」

「大丈夫。全部掠り傷。それよりあれなんだ?あの妖怪は」

「リンが言うには夜雀という妖怪じゃないかって」

「……あれも突破しているのか?」

「君らが戻ってくるちょっと前に夜雀の名前が呼ばれていたからそうだと思うよ」

「……そうか」



 少し暗い顔になったリリィを慰めるようにアッシュは彼女の頭を撫でる。急に撫でられたリリィはキョトンとしてしまう。



「でも君、本当に強くなったね。ノアへのサポートになるように囮役がちゃんと出来ていたし、槍を使った追撃も前に教えていたけど段々と上手くなっていってる。自信持っていいよ」

「…………うるさい、頭を撫でるな」



 照れ臭そうにアッシュの手を払いのける。そのまま誤魔化すためなのかアリスの方に行き、しがみつきにいった。が、それもつかぬ間にエドワードは結構怒った様子でリリィとノアを掴み上げる。



「おい、貴様ら……」

「げ、エドワード……」

「なんだ、もやし」

「なんだじゃない!なんで勝手に出てんだ!アリスはアッシュといるからまだいいが、もし何かあった時どうするつもりだ⁈しかも一般人を巻き込んで……何考えてるんだ⁈」

「…………」



 エドワードの言葉にリリィは少しばつが悪そうな顔をする。エドワードが怒るのももっともだ。アリスは突発的にはしていたが、一応アッシュもいるから安全性はあるが、リリィたちはそうではない。自分の身を自分で守らないといけない。それも現地のものとはいえ子供も巻き込んでいるのだから。



「アリスが出るから出たいのはわかる。だが、せめて相談くらいはしろ。あとノア、アッシュからある程度聞いてるがな、お前巻き込まれたんじゃなくて止めれてないお前も悪いからな」

「わ、わりぃ……」

「お前たちの勝手な行動はユキにも迷惑かける。こいつが変にお前に関しての隠し事できるわけもないし、子供じゃないんだから勝手な行動は慎め」

「…………わかった……」

「俺も気をつける……」



 ため息を吐くと二人に一発ずつげんこつを食らわせる。思ったより痛かったのかエドワードは手をさすりながら続ける。



「今回はそのまま参加するしかないが、今後はないようにしろよ。ユキもわかって止めきれないなら先に言え」

「わ、わかりました……」



 ずっと終始正座をしていたユキもようやく足を崩しながらノアたちの元に行こうとしたが長時間正座していたからか痺れたようでヨタヨタとしながら動く。それを見ているアリスはニヤニヤしながら突きに行った。

 向こうでユキの悲鳴が聞こえた気がしたが、エドワードはキースの方へ行く。



「すまなかったな。身内が勝手なことで巻き込んで」

「い、いえ!リリィさんとノアさんのおかげで一回戦目突破できました!感謝したいくらいです!」

「そうか。ただ今回は巻き込んだ手前もあるから全力で二人がサポートしてくれるから安心しろ。中途半端なことをしたら言え。私がまた叱ってやる」

「……えへへ、鬼姫様のところの方々は優しい方が多くてうらやましいです。ありがとうございます!」



 へらっと笑うキースにエドワードもつられて笑う。話がひと段落したところで再度あのアナウンスが流れてきた。



 《はい!それでは先着の締め切りが終わりました!さすがは妖怪といったところでしょう!各々得意分野での戦略は素晴らしいです!続きまして最終予選を行いますので通過者は再度指定の場所へお越しくださいませ!》



 アナウンスが終わった後、ユキでさんざん遊んで満足したアリスはアッシュに飛びつく。

 勢いで少しこけそうになるが、どうにか踏ん張った。



「さっ!次行きましょ!アッシュ、リオン!」

「あはは、君なんだか楽しそうだね」

「もちろん!アッシュたちもいるから楽しい!」



 殺伐としたところもあるだろうけど、楽しんでいるならいいやとアッシュは思いながらリリィとノアのところに行く。ついでにキースも呼んで三人に保護魔法をかけた。



「これで一度は即死の攻撃に耐えられるよ。だからそれが誰か一人でも発動したら必ず棄権すること。いいね?」

「わかった。ありがと」

「そんな状況なら受ける前に棄権してぇ……」

「鬼神様、ありがとうございます!」

「え、鬼神様って……、あはは、僕はただのアッシュだよ。鬼神ってほど僕は強くないさ」

「そうなんですか?」

「嘘つけ、お前、絶対鬼神レベル以上じゃねぇかよ」



 首を傾げるキースに対して疑いの目でノアが言い捨てる。その解答にはアッシュも笑いながら誤魔化して指定の場所へ向かった。

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