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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里
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私も気に食わないことはある2

 小さな猫の妖怪は猫又なのだろう。その猫又は取り上げられた紙を自分より大きな2人の妖怪から取り返そうとしていたがどうもできずに泣いていた。



「お、おねがい!返してってば!!」

「猫又のくせに祭りに出ようとしてんだろ?今回も初戦負けになるんだから大人しくしておけよ」

「だ、だれが出てもいいって書いてるんだからいいだろ!か、かえしてってば!」



 それをリリィは後ろ姿から見てもわかるくらい怒ってる様子で行く。


 基本あまりアリスから離れないで一緒にいるリリィが他人に気にすることは今までなかった。だからアリスは少し驚いた様子で歩いていくリリィを見ている。



「リリィ?」

「あ、ちょっと、リリィ?」



 アッシュとアリスの声を無視して、歩きながら槍をリリィは生成してーー


 ブォンッ!!


 大きく槍を二人の妖怪に向けて大降りに横へ振るう。



「ぐおっ?!」

「ぎゃっ?!」



 バキィッと痛ましい音が響く。その衝撃で紙を手放したのでそれをリリィは掴み取り、黙って泣いていた猫又の子にそれを渡す。その間に叩かれた妖怪たちはリリィを睨むように吠えてきた。



「て、てめぇ!何するだ?! ……ってこいつ女の猫又じゃねぇかよ」

「…………なに? 人のもの取ってたから返しただけ」

「んだとこの!」



 リリィに向けて殴ろうとしてきたがそれをリリィはいなしながら槍を器用に操って二発目、三発目と打撃を与えていく。アッシュはスノーレインで治って以降、アリスたちと戦闘訓練をして鍛えるようにしてる。そのためリリィは飲み込みが早かったため、並大抵の敵に関してはある程度は負かせられるようになってきている。


 なので、この程度はリリィは問題なく対処できる。



「まだ、する?」



 リリィの言葉に二人の妖怪は舌打ちをしながらにどこかへ走り去っていく。走り去ったやつらにリリィはべーっとしたを出す。

 半べそになっていた猫又の子はリリィのところへおずおずと怯えながら近寄って頭を下げてきた。



「あ、あり、ありがとう、ございます……」

「うぅん、大丈夫。私が気に食わなかっただけ。……それ、参加って言ってたけどお祭りに参加するの?」

「は、はい……。ぼ、ぼく猫又は一人しかいなくて、いつも、い、いじめられてばかりで……。その、ありがとうございました」

「……大丈夫。次、気を付けて」



 そういってリリィはアリスのほうへ行く。そんなリリィに対して猫又の子は目を輝かせる。


 立ち去って行った妖怪はぼそりと怨み言をつぶやく。



「くそ、あの忌々しい鬼どもの仲間か……おぼえていろ……」



 その声は誰かの耳に届くことはなかった。


 リリィが戻ってきて勝手に動いたことをアリスに謝る。そもそも獣人の猫族というのもあって、見ていられなかったらしい。アッシュもリリィが帰ってきたこと確認してから先ほどの祭りの話に戻す。



「それで、お祭りはいつあるんだい?」

「はい、三日後ですね。そのためにこの三日間で本調子に戻して鍛えよかと! それに今回は参加が多いそうなので腕が鳴ります!」

「へぇー、気合十分だね。リン」

「アッシュさんとアリスさんも出ますか?同じ鬼同士ですから!」

「え、僕らも?」



 興味は少しあるけど、あまり危ないことはアリスたちにはさせたくはないからなぁ。本人が出るならいいけど。


 悩んでると後ろにいたアリスがニヤニヤしながら背中にしがみつきながら持っていたチラシを奪い取ってきた。



「あら、アッシュも出るの?」

「あはは、さすがに出る気はないかな。君は出たいの?」

「私、痛いのとかいやだし。大食い勝負なら参加はしたいかな~」

「さすがに今回は大食い勝負とかはないんじゃないかな」



 それもそうか。アリスは食べたりするのは好きだけど、こういう戦い向けのものはアリスはそんなに好んではすることはない。大食いの勝負はなかなかないだろうけど、実際にあるならアリスは負けなしな気がする。


 二人が出ないことでリンは少し残念そうにするが、一応アリスたちが外から来てることもあるからかあまり無理強いはする気はないようだ。

 リンには悪いけど彼女たちから見たら確かにアッシュたちもそれぞれ妖怪には見えるけど、実際そうではない。偽物となるし、妙な妖怪もいるからやめておくのが一番。



「では去年と同じように、頑張っていきますか!アッシュさん!リオンからお強いと聞いてますのでお手合わせ願いますね!」

「僕でいいなら帰ったら一緒にしようか」



 前回の祭りで優勝しているリリィと手合わせしてもらえるのはいい機会かもしれない。


 屋敷へ戻るとエドワードが先に屋敷に戻っていたようだ。夕食やエドワードがグレンにあったことも共有してもらい、リンとは約束通り、手合わせをすることになった。本堂とは別の道場があるようで、そこでやることになった。それぞれアッシュは木刀を借りて、リンも木製の薙刀をもって構えている。


 アリスたちも動きを学ぼうということで一緒に道場まで来ていた。


 眠そうにするノアとユキは準備体操をしながら二人の様子を見ている。



「アッシュとリンさんで手合わせっていうのもすごいですけど、魔法とかは使うんでしょうかね?」

「武力だけってなら使わねぇんじゃね?魔法なんて使ったらこの場所壊れそうだし」

「それもそうですね……」



 準備ができたアッシュはくるくると木刀を回しながらリンを見る。



「準備できたよ。いつでもどうぞ」

「はい。では……いきます!」



 正面からリンが走る。振り上げられる薙刀を躱しながらリンの攻撃の様子を観察していく。流れるような斬撃を繰り出していくリンの攻撃を紙一重で躱し、いなしながらその場からはあまり動かない。



「おや、躱してばかりでは勝負にはなりませんよ!」



 大振りに横へ振るうリンの薙刀を木刀で受け止める。滑らせながら薙刀を上にはじく。



「え、うわっ?!」

「長い獲物を持った相手にはーー」



 アッシュははじいた薙刀をの柄をもって自分のほうへ引く。バランスを崩したところで手首を掴みこけそうになってるところを首元を後ろから押さえつける。



「あいたたた!」

「こんな感じで相手の動きを利用して拘束もできる。逆にリリィはこれをされないように気を付けてね」

「ん、分かった」

「あう……やはり身体訛ってて思ったように動けないですね……」

「そんなことないよ。流れるように連続で薙刀を扱えるなんてすごいよ。初戦だし、もう少しやろうか」

「もちろんです!」



 2回、3回と回数を増やしながら手合わせを続けていくとだんだんリンの動きが鮮明になっていく。少しずつ動きが早くなっていくのでアッシュもそれに合わせて動きを変えながら攻防していく。終わるころには、見ていたアリスたちも目で追うようにしていたがだんだんわからなくなってきて、ほぼ観戦状態になってしまっていた。


 リンもだいぶ満足そうにしており、祭りの当日までは手合わせを手伝うことで約束をした。


 僕もアリスたちとの手合わせだけでは少々物足りなく、グレンに助けてもらっていた間、訛ってるとこもあったから僕にとってもいい運動だ。



 ーーーーーーーーーーーーー


 だが、滞在して2日目のこと明日が祭りというのに事件が起きてしまった。リンが怪我をしたという連絡がおばあさんから来たのだ。

 慌ててリンのいる甘味屋へ向かうと、店の奥で足に包帯を巻いている彼女の姿があった。



「あ、みなさん」

「ちょっと大丈夫?!」



 アリスが慌ててリンに近寄って確認する。どうやら足を痛めたようで、痛めたことで祭りへの参加はしないようにと言われたそうだ。



「……これじゃあ明日の祭りに参加できません。リオン、ごめんなさい……」

「い、いいよ!ほら母様、この足じゃお店できないから屋敷に帰ろう!」

「リオン、いいよ。僕がリンを運ぶからさ。リン、掴まって」

「ありがとうございます……」



 彼女を抱きかかえて店を出てすぐ、ニヤニヤと笑っている見覚えのある妖怪たちがいた。

 リリィはアリスの前に出るや否やその妖怪を睨む。



「おやおや、鬼姫様、どうされましたかな?」

「どうやら足を怪我されれてる様子で……。よそ者にでも足元を抄われたのでしょうかね。足だけに!ひひひっ!」

「これでは明日の祭りに参加はできませんなぁ。鬼一族はこれで終わりですよのぉ」



 その口ぶり。もしかしたら彼女が怪我をしたのはこいつらが原因かもしれない。アッシュはため息をしてその場を離れようとすると、かなりムスクれた顔をしたアリスがそいつらの前に歩いていき、フンッと言いながら言い放つ。



「何よ!リン以外にも鬼はいるじゃないの!ここに!!」



 アリスは親指を自身を指して言い放つ。


 アリスの言葉に驚きながらも厄介ごとに発展する前にアッシュが止めようとしたら、先に大きな目のある妖怪がアリスに触れようとした。アリスへ向かう方向から彼は身をグッと返しながら大きな目に向けて蹴り上げる。



「ぎゃあああああっ!!め、目があああああ!!」

「なにアリスに触ろうとしてんの」

「ま、ざっとこんな感じで私たちも強ーい鬼なんだから、あんたらなんてけっちょんけちょんにしてやるんだから覚悟しなさい!」



 意気揚々というアリスに気圧された妖怪たちはのたうち回る目玉の妖怪を抱え、舌打ちをして去っていった。リンは去っていった妖怪たちを見た後にアリスのほうを見ておろおろとしている。



「あ、あの! アリスさん、参加して大丈夫なんですか?」

「いいわよ!普段温厚な私でも気に食わないことはあるのよ!特にあんな陰湿なやつ……絶対に許さないわ!」



 珍しく怒っているアリスだが、さっき”私たち”と言っていたからこれは僕も参加する前提なんだろうなと思っていると案の定アリスはアッシュに指を指しながら言う。



「あんたも参加よ!」

「そういうとは思ってたよ……。いいよ。アリスだけじゃ心配だからね」

「さっすがアッシュ!ありがと!さーて、いったん屋敷に帰って作戦会議よ!アッシュ、あんたも早く来なさいよ!」



 アリスはリリィと一緒にリンをアッシュから引っ張って連れていく。バタバタと走っていく姿をアッシュとエドワード、ノアとユキも見ていたが、困った顔をしてるアッシュにエドワードがボソッと囁く。



「なぁ、普通にリンの怪我を回復魔法で治したら話は早い気がするんだが……」

「僕もそう思ったけど、珍しくアリスがやる気だし、変に水を差すよりはそっとしてていいんじゃないかな。気づいたら治してあげたらいいし」

「……本気で祭りに参加するのか?」

「アリスがするならね」

「はぁ、厄介な妖怪のほうはどうするんだ?」

「そこは僕が処理するから大丈夫さ」

「お前な……」



 呆れているエドワードだが、どちらにしろ我々はアリスの判断で動く。今は頭に血が上っているから多分話しても聞かないだろうから落ち着いた頃に言うしかない。


 走り去ったアリスたちを追って一同は屋敷に戻っていく。

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