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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第六章 妖怪の里
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霧の森と再会

 スノーレインを出立して、早二週間経った。寒い地帯を抜けて、徐々に湿気が強くなってきた。

 本来の目的である霧の森はなんとも言えない異様な雰囲気がある。到着したのはいいが、リオンがいう里まで全くたどり着かない。なんなら同じ場所をぐるぐると回っているだけで全く着く気配もないため、リオンも頭を悩ませていた。



「おっかしいなぁ、このあたりのはずなのに……」

「アリス」

「あ、お帰り、アッシュ。どうだった?」

「全然ダメ。霧が濃過ぎてまったく見えないんだよね」



 アッシュは空高くまで飛んでみるがまるで霧が意志があるようにどれだけ高く飛んでも森全体を見まわすことができなかった。試しに炎を飛ばしても反応がない。その為見つけるためにはどうしてもリオンに思い出してもらうしかないのだが、まだ思い出せずにいる。

 それに、かなり森の中を永遠と歩きまわってるため、歩き疲れてしまっていて正直、休みたいくらいだ。


 まだリオンが悩んでいるとユキが何か思ったのか声を上げる。



「あの、たぶんの話になるかもですが……」

「何かあるの?ユキ」



 アリスが反応してユキの元まで歩く。それにアッシュとリオンも一緒にくっついていった。



「リオンの話を聞く限り、意図的に辿り着かないようカモフラージュしてるのであれば、もしかしたら”人”がいると入れないのではないでしょうか?」

「あーそれはありえそう」



 元々見つからないようにしている里だ。であれば霧が意図的になるのもわかる気がする。

 アッシュが”それなら”と言いながら、アイテムボックスから布作面(ふさくめん)を取り出す。前にアッシュとユキが使っていたものだ。


 魔法でそれを複製していく。



「これを使って誤魔化してみようかね」



 ニコッと笑うアッシュはペンを取り出す。


 人数分の布作面(ふさくめん)を準備してそれぞれに魔法を付与して文字を書く。それぞれを渡して行き、アッシュ自身もそれを付ける。彼のつけている布作面(ふさくめん)には”鬼”という文字が書かれていた。



「……よし、これなら行けそうかな。リオン、ちょっと来てくれるかな」

「ん?おれ?」

「うん。これどう見えるかな?」



 そう言ってリオンの前で屈むとリオンは”おぉ!”と驚く。アッシュたちから見れば頭に布作面(ふさくめん)を巻いてるように見えているのだが、リオンにはアッシュの頭にリオンと同じツノがあるように見えるようになっている。



「すっげぇ!おれと同じツノだ!」

「うん、君にそう見えてるなら大丈夫かな」

「これどうなってんの?!」

「ただのだまし絵みたいなものさ。君たち妖怪族にとってはこれは布ではなく、これに書かれてる妖怪の姿になれるようにしたんだよ。これで行けるならいいかもね」

「行けんじゃないかな?たぶん」



 アッシュに渡された布作面(ふさくめん)をみんなつけるとリオンからは妖怪の姿でちゃんと見えるようになった。

 アリスは鬼、エドワードとユキは鴉天狗、ノアとリリィは猫又。これで多分大丈夫なはず。アリスに関しては神子ということをバレないように髪の色も念の為、変えてある。



「なぁ、アッシュとアリス」

「ん?なんだい?」

「なによ?」

「婆やたちに捕まらないようにな。女鬼も男鬼も貴重っていって囲おうとしてくるしよ」

「あはは、さすがに大丈夫じゃないかな」



 準備が出来たということで再度進むことにした。これで反応無いならまた考えよう。


 少し進んでいくと、ガサガサと草陰から誰かの近付いてくる音がする。アッシュが前に出て剣を抜くと、出てきたのはリオンと同じくらいの少年がひょっこりと出てきた。


 少年はリオンを見ると驚いた顔をしながらゆっくりと草陰から出てくる。



「り、リオン……?」

「お!久しぶり!げんきにしてたか?」

「り、リオォーン!!」

「河童ぁ!」



 2人は抱きしめ合うと、リオンはカッパと呼ばれる子の頭をペシペシと叩く。よくれば小さなお皿のようなものが少年の頭に着いている。

 少年はそれを叩かれるのは少し苦手なようで2回目は手を弾くように逃げていく。



「か、かっぱって言うな!河藤(かとう)だよ!あとあたまの皿を叩くなよォ!」

「あっはっはっ!河童はあいかわらずじゃんー!」

「か・と・う!おまえ、ほんと相変わらずだよなぁ……。て、そいつらは?里では見たことない人たちだけど……」



 河藤は布作面(ふさくめん)をつけたアッシュたちを警戒しながらをこちらを見てきた。そりゃあ妖怪に化けてるとはいえ、彼からする知らない人だからそうなるだろう。


 人だけではなく、思ったよりも警戒心が強いようだ。



「大丈夫大丈夫、おなじ妖怪仲間で、人攫いから助けてくれた人たちなんだ。外の方で生まれた妖怪だからさ入口わかんねぇみたいだし、おれもわかんないから案内してくれよ。河童」

「おまえ、マジぶっ飛ばすぞ!河藤っていってんじゃんか!」



 2人がギャーギャーと騒いでる間にアッシュが2人の頭を撫でながら仲裁に入る。



「まぁまぁ、リオンもからかい過ぎると、河童くんが可哀想だよ」

「だから違うってば!!なんだよ!!鬼の連中は人の名前覚えれないのかよォ!!」

「あ、ご、ごめんよ。わざとじゃないんだ」



 リオンに釣られて河童と呼んでしまった。種族は河童なのは間違いないようだけども、本人は呼び間違えられるのが相当嫌のようだ。


 しぶしぶと河藤は里の入口まで案内はしてくれるそうだ。



 ―――――――――――――――



 河藤の後について行きながら霧の中を歩いていると、ぼんやりと明かりが見えてくる。炎のような青白い火の玉が何処かへの道標のように徐々に灯されながらそれについて行く。


 リオンから聞くとあれは鬼火と呼ばれるものらしい。


 無事に霧を抜けると、大きな門と巨大な提灯がお出迎えしてくれる。人の背の丈以上ある提灯を潜りながら、里の中へと入っていく。

 そこには見た目は人のような者もいれば人の姿をした見た目の者もいる。

 そしてみんな着物が初めて見る服装ばかりだ。前にグレンから聞いていた遠い東方の着物というものらしく、こういうのを和と呼ぶ。


 里に入るやアリスの目はキラキラと好奇心で輝いていた。



「すっっごい!和だよ!和!」

「あはは、本当だね。凄い思ったよりも妖怪もいるし、すごいところだね」

「だろ!」



 リオンが得意気な顔をしている。パッと里全体を見渡すように見ると、この里を囲むように大きな結界が張られている。恐らくこれが人が寄せつけないようにするための防御結界なのだろう。


 布作面(ふさくめん)のようにこれは人の方では認識阻害されるように結界が作られているようだ。


 感心していると遠くからツノの生えたおばあさんがヨタヨタとしながらこちらにゆっくりと近づいてくる。それにリオンが気づいた。



「あ、婆やだ!」

「り、リオン様……?!」

「婆や、お久しぶ――うわっ?!」



 ヨタヨタと来ていたはずのおばあさんはリオンを認識した途端に、ものすごい勢いで走ってきてリオンを抱きしめてきた。当のリオンは少々苦しそうに見える。



「お帰りなさいませ!! リオン様!! 一体どちらに……ハッ!! 今すぐに鬼姫様に知らせてきます!!」

「お、おう……」



 元気に走り去っていったおばあさんを見送っていくとダッシュできてダッシュで去っていく、マカオとはまた違う嵐の去り方だとアッシュは思っていた。

 それとは別にユキはおばあさんの”鬼姫様”という言葉に反応して、リオンのほうを見る。



「鬼姫様って、リオンは本当は偉い人の息子さんになるんですかね?」

「え、おれ、この里の里長のむすこってだけだぜ?母様めっちゃ強くて里一偉い人なんだ!!」



 嬉しそうに自慢するように言うリオンだが、あのおばあさんがリオンの名前を出した瞬間、周りの視線がかなりこちらに集中してくる。視線が多いと少々身動きしずらいので移動しようとしたら、先ほどのおばあさんが去っていったほうから黒髪の綺麗な女性が走ってくる。



「リオン!!」

「母様!!」

「お帰りなさい!!本当に、無事で本当に、良かった……」



 泣きながらリオンを抱きしめているリオンの母親を見て、アリスとアッシュたちは”よかったよかった”とみんなで顔を見合わせる。ユキも助けてよかったとホッとしてるようだ。


 ただ、僕は少し羨ましく思ってしまう。


 そんなアッシュにエドワードは察してくれたのか背中をポンポンと叩く。



「大丈夫だ、アッシュ」

「? 何がだい?」

「お前の子だ。そう簡単にくたばらないだろうし、きっとすぐ見つけられるさ」

「……あはは、それって慰めてくれてるの?」

「もちろん」



 エドワードの言葉に”それはまた違う気はするんだけどねぇ”と笑う。だけどちょっと元気は出たかも。


 とりあえずリオンには一言声をかけてからどこか泊まれる場所を探そうとアッシュは大きな声で呼ぶ。



「リオーン! 僕ら宿屋探してくるから、先に行ってーーうわっ?!」



 リオンに声をかけようとすると、兵士の格好をした妖怪に武器、槍を突き付けられる。危うく顔に刺さりそうになったが、間一髪で躱す。だが、アリスたちにまで向けようとしてきたのでアッシュは兵士の槍を掴んですぐ隣の兵士にぶつけて矛先をすべて自身に向けさせる。


 騒ぎになりかけてるところで、リオンが気付き、慌ててアッシュの前まで走っていく。



「ま、待って待って!! こいつらはおれの恩人たちだから!! 怪しい奴らじゃないから!!」

「で、ですが坊ちゃん!! この男反撃をーー」

「なんもしなかったらアッシュも手を出さないから!! アッシュもちょっと待ってくれよ!!」



 リオンが慌てていると彼の母親も一緒にアッシュの前まできて兵士に制止を求める。



「武器を納めなさい。リオンの言っている通り、彼らはリオンをここまで連れてきてくれた恩人様になります。そうですよね?リオン」

「うん。人に捕まってたとこを助けてくれたんだ」



 リオンはユキの手を掴みながら母親のほうを真剣に見る。そのリオンの態度ににっこりと微笑み、アリスたちに頭を深く下げる。



「どうかご無礼をお許しください。外部と交流がないため、同族でも疑ってかかるものが多いのです」

「いいわよ。こういうの慣れてるから。あとしばらくの間だけ滞在したいんだけどいいかしら?」



 アリスの言葉に彼女は頭をあげ手招きをしてくる。



「でしたら私のお屋敷にどうぞ。あ、申し遅れました。私はリオンの母親で、鬼神の鬼月(きづき)リンと申します」

「よろしくね、リン。私はアリスよ」



 アリスが手を差し出すと、リンは首を傾げる。隣にいたリオンが”外じゃあいさつで握手するらしいぜ”というと、リンは”なるほど”といった顔で嬉しそうにアリスの手を握る。



「本当にリオンを助けていただきありがとうございました。私はここの長でもあったため、安易に里の外へは行くこともできず、途方に暮れておりましたので……」

「私っていうか、ユキがたまたま同じ牢に入れられたときに一緒に助けたって感じだからね」



 そう言いながらアリスはユキのほうを見る。アリスと目が合ったユキは小さく頭を下げるとリンはユキに向けて再度頭を深く下げてお礼を言う。


 ユキは少し照れ臭そうにしながら頬を掻く。



「では、さっそく屋敷へとご案内いたします。私についてきてください」

「うっし!まずは風呂だな!」

「あ!おれも風呂はいる!」



 ノアとリオンは嬉しそうにリンの後ろをくっついていく。


 ずっと外ばかりだったから僕もお風呂に早く入りたいという気持ちはかなりある。湿気もあって汗も結構掻いたというのもあるけども。


 先に行ったノアたちに続いてアッシュたちもリオンとリンの屋敷へと向かった。



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