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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン

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雪の国:出国1

 グレンと別れて街に戻ると、ノアとユキ、リオンたちが先に帰ってきていた。ベランダから部屋に入ると驚かせてしまったのか三人はアッシュに気づくとビクっとした。



「あ、ノアたち帰ってたんだ。おかえり」

「びっくりした……。普通にドアから帰ってこいよ」

「あはは、ごめんよ、ノア。こっちの方が手っ取り早かったてのもあるけどね」

「ん?そいやー、グレンは?」

「帰ったよ。僕の体調も、もう大丈夫だからね」



 力こぶを作りながらニカッと笑うアッシュだが、ノアの隣にいたユキはあまり元気があるように見えない。猫の視覚でみていた時にかなりきついことをグレンから言われていたのを聞いていたからその事もあるんだろうけど……。


 正直、ユキはグレンのこと苦手だろう。



「……部外者の僕が言えたタチでは無いですが、正直いなくてホッとします」

「ユキは部外者じゃないでしょ?アリスも認めてくれてる、君も十分僕らの仲間だよ」

「…………そう、ですね……」



 落ち込むユキにどう声をかけようかと悩んでいると、ベッドに座るリオンがアッシュの背中に飛びつく。急に飛びつかれて驚く。



「おっとと、どうしたの?」

「なぁ、いつ行くんだよ?」

「んー、アリスが行く時に出る予定だからねぇ」



 基本僕らが出立するのはアリスの満足が行くと次の国へ向かうことが多い。まぁ気まぐれな旅と言えばそんな感じだ。ちょっとムスくれながらリオンは今度はアッシュの肩までよじ登る。


 この子はユキが連れてきて、アリスが故郷まで連れていってあげるとは言っていたが、どれだけの距離があるかあまりわからない。彼女たちが来るまでの間におおよそでいいからわかるようにしておこう。


 肩車をしたまま、アッシュはアイテムボックスから世界地図を取り出す。目の前に広げて、地図を指さす。



「ねぇリオン。君の故郷はどのあたりなんだい?今僕らがいるスノーレインはここだけど」

「えっとなぁ、確かこのあたり」



 リオンが指を指したのはそこそこ距離があった。スノーレインから恐らく馬車を遣えば2日くらいで着く町からさらに奥にある森の中。そこをリオンは示している。



「この森は確か霧の森だよね。一年中ずっと霧に覆われていて結構行方不明者も出てるところだけど、そんなところに町があるなんて知らなかったなぁ」

「まぁそうだろうよ。だってここ、妖怪の里があるだけで人が近寄れるなんて滅多ないし」

「よ、妖怪?マジかよ」

「おん」



 ノアが驚きを見せる。

 それはそうだろう。妖怪族がいるのは知ってはいるがそもそも数が少なくて絶滅してるのではないかと言われていた。だからこそ、ノアは心底驚いている。


 リオンが前髪を捲ると、そこには小さな角が2本生えていた。



「おれの場合は鬼って呼ばれる妖怪の種族なんだぜ。ほかにもいろんな妖怪もいるし、里もめっちゃ広いんだぞ」

「……なるほどね。確かに数少ない同胞をかばうならこういう場所は都合がいい。霧と森のカモフラージュ。君のご先祖かな?よく考えて里を作ったもんだね」

「まぁな」



 へへん!とドヤ顔でまるで自分事のように胸を張ってくるリオン。

 にしてもそんなところにいたならなんで人攫いに捕まったのだろうか。


 その疑問をノアが口を開いて聞いてくれた。



「つーか、そんなところにいたのに何でお前は捕まってんだよ?」

「…………友達と里の外に出て遊んでたら、捕まった」

「あ?外出て遊んでたんかよ。バカじゃん」

「だってあいつらが出たいって言ってたし……」



 ノアの問いにリオンは目を逸らしながら答えてくれた。

 なんでも、本当は駄目なのに子供だけで里の外に出て遊んでいたところ、たまたま出くわした賊に捕まって今に至るらしい。


 どう言おうか言葉に悩んでいると、子供の言い訳を並べるようにリオンは必死にアッシュにいう。



「でも、お、おれはもともと外行こうって言ってなかったんだぞ!それをあいつが大丈夫っていってみんなで出ちゃって……」

「君も一緒に外、出ちゃったんでしょ?」

「そ、そうだけど……」



 もごもご言い始めたリオンを肩から降ろして、ベッドに座らせて、同じ目線になるようにアッシュは屈んで諭すように話す。


 まるで親が子供に言い聞かせるように手を握りながら……。



「リオン、理由はどうあれ、君も一緒に外出ることを選んで遊びに行っちゃったんだよ。それともお友達に無理矢理連れていかれたの?」

「……むりやりじゃない……。おれも、外見たいって、なっちゃって」

「そうだよね。でもそれはいいこと?悪いこと?」

「悪いこと……。ほんとはおとなが一緒じゃないと、だめって母様にもいわれてた……」

「そうだよね。でもね、何も知らないお母さんたちは心配なんじゃないかな?ちゃんと言ってから出たってわけじゃないんでしょ?」

「う、うん……」

「じゃあ、帰ったら君のお母さんになんて言わないといけないかもちゃんとわかってるかな?」

「か、母様に、かってに外出てごめんなさいしないと、いけない。おれ、さとおさのむすこなのに……っ」



 ボロボロと泣き始めたリオンの頭を撫でながら”そうだね、そうだね”と落ち着いた口調で励ましていく。そのやり取りを見ていたノアたちは感心していた。



「アッシュなんか父親みてぇだな」

「こう見えても娘いるからねぇ」

「……え、アッシュいくつだっけ?」



 ノアとユキはアッシュの言葉に固まる。予想外の二人の反応にアッシュは首を傾げる。


 あれ、この二人に子供がいる話してなかったけ?



「えっーと、確か僕は今年で、25だったかな」

「んんん?!?! ちょ、ん? えーと、娘、何歳⁈」

「今年で7歳だよ」

「……え、おま、子供は今どこにいんの?もしかして奥さんおいて、今、旅してんの⁈」

「……んー……」



 ノアが驚きながら聞いてくる。そういえば、ノアとユキはレイチェルが死んでること知らないんだっけ。今知ってるのはアリスとエドワード、リリィだけだったな……。けど、そうだと正直、答えにくい。グレンのおかげでそこまで声は詰まるような感じはないけど。そっか……。もうあの子は7歳になるのか……。


 答えに悩んでいると、ノアが変な解釈をしたのかアッシュの両肩を掴み、揺らしてくる。



「マジ、置いてきてんなら連絡とか、そういうの頻繁にした方がいいぞ。マジで!! 俺、連絡しなさ過ぎてついにこっから連絡しても返事来なくなったからな⁈」



 若干ノアの目に涙が浮かべて必死に叫ぶあたり、奥さんに愛想尽かれたのだろうか。

 ノアの揺らしを止めながら、アッシュは困った顔をして言う。



「あ、あはは。そんなんじゃないよ。僕の奥さんは3年前に死んじゃってるし、子供も今は行方不明だから探してるところなんだよ」

「え、亡くなっ……。探してる⁈ わ、わりぃ……。知らなかったとはいえ言いにくいこと聞いちまったな」

「いいよ、ノア」

「娘探しなら俺も手伝うからよ!探し物なら得意だからさ!」

「さすがだねぇ。ただまだこれといった手掛かりはまだないからさ。もしわかってきたらお願いするよ」

「おう!任せろ!」



 自信満々なノアにちょっと笑いそうになりながら半べそかいているリオンの頭を撫でる。撫でていると、リオンはベッドから降りて、アッシュを背中からしがみついて顔をうずくめる。後ろから”う~……”と言って泣き始めたのでそっとしておくことに。


 そのままだと動けないのは困るのでおんぶをしていると、勢いよく部屋の扉が開いて、アリスが満面な笑顔で出てきた。その後ろからエドワードとリリィも入ってくる。



「たっだいまー!!」

「お帰り、アリス。楽しかったかい?」

「すっっごいの!! 雪祭りスイーツがね!!もう楽しさがいっぱいだったわ!!」

「それはよかったよ」



 貴族街のところは不穏な動きが多かったけど、こうして万全に動けるようになったおかげで何か彼女たちにの身の危険が来る前に察知ができるようになっている。それに猫の目も借りながら見守れている。ただ、前みたいに魔法では操ってはいない。目の共有だけなのでたまにそこか行ってしまうのは困ったものだ。


 アリスの後ろから黒猫が入ってきて、アッシュの足もとにすり寄った後、ベッドの上でくるまって寝てしまう。


 まぁ、気ままな猫って感じだ。


 仁王立ちしていたアリスが”あ、そうだ”と言ってアッシュの方へ寄る。



「あんたの知り合いっていう人がいたから連れて来たわよ」

「え、僕の?」



 グレン以外に自分の親しい人はいたっけと傾げる。



「ねぇー!入ってきていいわよ!」



 開けっ放しの扉に向けて呼ぶと、そこから現れたのは巨漢の男、なのだろうかかなり濃いめの化粧をしたぴっちりしたピンクで胸元が大きく開いた服装で現れる。ノアとユキはギョッとして、アッシュに至っては少し青ざめている、というか少し引いた顔で男を見ていた。


 アッシュを認識した巨漢の男は目を輝かせながらアッシュに飛びつく。



「アッちゃ~~~~ん♡」

「”闇の拘束(ダークバインド)”」

「ぶべっ⁈」



 飛びつこうとした巨漢の男をアッシュは問答無用で魔法で床に張り付けにする。結構な勢いで床にたたきつけられたからか鼻血を流している。

 せっかくさっきまで寝ていた黒猫は威嚇するようにイカ耳になってるのでアッシュは撫でながら落ち着かせ、その隣に泣きつかれたリオンを寝かせる。そしてチラッと男を見てため息を吐く。



「アッちゃんて呼ぶなって前から言ってたでしょ。……で、こんなところで何やってるのさ、マカオ」

「あらやだぁ!おぼえてくれてたのねん♡」

「君みたいにインパクト強すぎの人を早々忘れないよ」

「あらまぁ~~~!嬉しいこというじゃないのよん!」



 マカオと呼ばれる巨漢の男はオネェ口調で話始める。ドインパクト強すぎてノアとユキもちょっと怖がってる様子。ノアは顔を引きつらせながらアッシュの方を見る。



「だ、誰なんだよ?こいつ」

「僕の知り合いのマカオだよ。昔、ちょっとお世話になってたんだ」

「こいつに?」

「うん。グレンも知ってる人だよ」



 パチンと指を鳴らして魔法を解く。魔法を解くとゆっくりとマカオが起き上がり、拘束を解いたアッシュは腕を前に組みながらマカオの方を見る。



「で、僕に何か用?」

「あら冷たいわねぇ、裸の付き合いをした仲なのにぃ~♡」

「した覚えないよ」



 話が進まないことにアッシュは頭を抱える。ちょっと面白いのかニヤニヤしながらアリスがアッシュの隣に来て引っ付く。



「なになに~?面白そうだから連れてきちゃったけど、一応知り合いだったんだ」

「君も前に一度危険な目にあってるだから安易に連れてこないの」



 以前も知り合いと言って連れてきたのは全く関係のない人で危うく攫われかけたこともあった。そういった怖い目にもあったことあるのにこの神子ときたら……。余計に頭を悩ませていると、見かねたエドワードが間に入ってくれた。



「マカオ、だったか?元々、私たちにアッシュの知り合いだ、と話かけてきていたが、こいつに何か用があったわけじゃないのか?」

「そうねん。昔いた国にアッちゃんの姿なかったから、あなたたちからアッちゃんの名前が聞こえてもしかしたらって思って声をかけたのよん~。元気そうでよかったわん」



 ウィンクしながらこちらへの投げキッスはご遠慮願いたいが、心配させてしまっていたのは申し訳ないと思った。そう考えると僕は結構いろんな人に心配されすぎじゃないかと思ってしまう。グレンに関してもそうだし、マカオに関してもそうだけど……。


 そう思っているとマカオが気が付けば間隣まで来ていて顔を近づけていたので襟首を掴み、そのまま足をかけて床に叩きつける。ドスンッ!!と大きな音がして地面が揺れる。



「顔、近いよ。でも心配してくれてありがとう」

「どういたしましてぇ~ん♡」


(投げられてもあの態度できるのも相当タフだな……。この人……)



 アッシュ以外はマカオに対してそう思った。


 床に倒れていたマカオは大きな身体に勢いをつけて起き上がり、アッシュの肩を持ってこっそりと耳打ちをする。一瞬アッシュは嫌そうな顔をしたが、何を言われたのか”はいはい、分かったよ”と彼の返事を聞いてマカオはベランダに出る。



「そんじゃあ~まったねぇ~~~~ん♡」



 そう言ってベランダから出ていった。

 嵐のように来て嵐のように去っていったマカオにアリス以外の一同はドッと疲れが見える。


 そんなことを全く気にしないでアリスは両手を叩きながらベッドに腰かけて足を組む。



「さて、じゃあ明日の出立の準備とリオンの故郷まで、どう行くか決めて寝ましょうかね!」

「え、明日、出立するんですか?」

「そ! ガーネットともお話いっぱいできたし、あんま居すぎてもって思ってね」

「アリスが決めたなら僕はそれでいいよ」

「さすがアッシュ~。あ!アッシュじゃなくてアッちゃんがいいかしら?」

「あはは、してもいいけど、僕、しばらく口聞かなくなるけどいい?」

「それはやだ!」



 アッちゃん呼びはどうも癪に障るようだ。


 各々必要なものや明日の支度をすませて、全員就寝した。

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