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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン

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昔の僕とグレン1

 入国からバタバタしていた一行はようやく落ち着いて滞在することができるようになった。


 滞在して5日ほど経って、再度マリアにアッシュの魔力回路の状態を確認してもらっているところだ。その間、アリスとエドワード、リリィはガーネットと一緒に甘いものを食べに行き、ノアとユキ、リオンは街に買い出しに行っている。


 部屋にいるのはアッシュとグレン、マリアの三人だ。



『……はい、この調子なら問題なさそうですね。もう少しかかると思いましたが、さすがの回復力です』

「やったー!治ったー!長かったぁ~……」



 両手を天に仰ぎながら喜ぶアッシュにマリアはクスクスと笑う。マリアの(あるじ)であるグレンは鼻でハンッと笑いながら、読んでいた本を閉じてこちらを向く。



「どうせ、またやらかすぞ。こいつ」

「し、しないよ!」

「どうだろうな」

「あ、あの時はほら、あの森だったからで……」

『まぁまぁお二人とも』



 もごもごというアッシュに対してグレンは少し笑いながら近くによる。座っていたマリアは立ち上がり、”では、私は還りますね”と言って、戻っていった。

 残ったアッシュとグレンは、互いに向かい合うように座る。



「さて、これでお前たちのお()りは終わりだ」

「あはは、ありがとうね。みんなを守ってくれて」

「……少し付き合え、アッシュ」

「? うん、いいよ。どこに行くの?」



 グレンは立ち上がりながらアッシュの問いに答える。



「マナ溜まりがある場所だ」



 ーーーーーーーーーーーー



 スノーレインを出て少し歩いたところ、この寒いところで雪が降っているのに一本だけ大きな桜の木がある場所にたどり着く。


 ここがマナ溜まり……。何とも幻想的な場所だ。桜が舞っていて、周りにはマナの粒子が雪に混じってキラキラと輝いていた。

 だが、このマナ溜まりがあった場所は以前王様に聞いていたけどグレンは僕が治るまでは行こうとはしなかった。理由を聞いても無視されていたから聞けずじまいだ。


 さらに進もうとしたらグレンからこちらに手を出して、ストップと止められ立ち止まる。



「……マナ溜まりって初めて来たけどすごいね、ここ」

「そうだな……。普通の人は来ることない場所だがな」

「あ、そうなの?あ、魔力酔いとかしちゃうもんねぇ」



 へらっと笑うがグレンの顔は宿を出てから暗く、ここまで来るまでは話しかけても一言二言しか返ってこなかった。今もこちらを向かずに後ろ姿のみ。正直ここに呼ばれたのは、何となく意味は分かっている。


 なかなかグレンが口を開かないので、アッシュから問う。



「レイチェルの話だよね? 誰も来ない所にわざわざ連れて来たってことは」

「……そうだ」



 ようやくグレンが振り向くが、その顔はいつもの余裕がある顔ではなく、話すことに関してすごく辛そうな顔だった。話すことが、恐らく怖いのか……。


 グレンの方へ歩みを進めると、また手を前に出して、来るなとしてくる。



「……以前お前に話したこと覚えているか?」

「? 何を?」

「”お前がつっかみかかれるようになったら教えてやる”といっただろ」

「言ってたねぇ。でも僕、あの時ほど君に対して恨んでないよ?」

「……それでも、私がした行動は、お前に、とっては恨まれても仕方ないことだ。だから……」



 言うことを躊躇うような、でも言わないといけない。そんな葛藤が今の彼にはあるのかもしれない。だから、僕はまっすぐ彼を見てにっこりと笑う。



「大丈夫。ちゃんと聞く。だから、あの時何があったか教えてほしい」

「……そう、だな」



 困ったようにグレンは笑いながら、あの時のことと昔話も含めてをぽつぽつと話てくれた。



 ーーーーーーーーーーーーー



 それは3年前のことーー。


 アッシュは当時、妻であるレイチェルの実家のある国で過ごしていた。彼は守護者ということは家族には隠していたこともあり、私も守護者のことは言わないで、時折、様子を見るためにアッシュ達の元へと訪れていた。



「あ、グレンさん。お久しぶりです!」



 雪のように白い髪に翡翠の瞳。傍からいたら神子と勘違いしそうな彼女はこちらを見つけると笑って手を振ってくる。その隣には薄い黄色の髪、プラチナブロンド色の少女、アッシュとレイチェルの娘も一緒にいた。娘の方を見ているレイチェルはその子の頭を撫でながらお願いをする。



「アティ、部屋いるお父さんを呼んできてもらいますか?」

「はぁい。グレンおじさまぁ、まっててぇー」



 手を振りながら家の中に入っていく。庭に入り、レイチェルのところまで歩くと、彼女は持っていた帽子を被り直す。



「今から家族でピクニックに行こうと思ってまして、ご一緒にどうです?」

「……家族の中に入れられて行くのは嫌がらせか?」

「な、なんでですか!グレンさんも私たちと家族ですよ!」



 ブーブーっと怒りながらも持ってきたバケットの中にあるサンドイッチや紅茶など説明してくる。賑やかな女性だと、印象が強く残っている。



「グレンさん、せっかく綺麗なんですから、こう!ドレスを着ましょう!」

「着ない。邪魔だ」

「せめて、せめてメイド服とか!!」

「お前、私がそんなもの着たところでどうしたいんだ?」

「え、グレンさん女性ですよね?」

「……。私はお前に性別の話をしたか?」

「??」



 というか、レイチェルは少し苦手だった気がする。


 首を傾げたレイチェルはこちらの気も考えないで永遠とズカズカと容赦なくこいつは話しかけてきていた。

 談笑している、まぁ一方的な談笑だか、話し込んでいるとアティがアッシュを連れて出てきた。



「つれてきましたぁー!」

「ア、アティ、ストップ……。寝起きで走んのきつい……」

「おとうさん、ひんじゃく」

「徹夜明けの寝起きにグーパンされたお父さんの気持ち考えて……」



 どうやらようやく起きてきたらしい。

 引っ付くレイチェルを引きはがそうとしながらアッシュたちのピクニックについて行く。


 あの暗がりから、アッシュはようやく見つけられた暖かな居場所。たとえどんな事があっても守ってやりたかった。主様(マスター)が死んで抜け殻になってしまったアッシュ。また笑ってくれるようになってくれただけで、それで良かった。


 あんな続く暗がりにいるのは、私だけで、十分だ。


 いつもと変わらない。このままこいつらが笑って暮らせる。


 そんなこんな日々が続くと思っていた。


 ある時にとある貴族が、アッシュのことを、守護者のことを知り、人攫いに情報を売った話を聞いてしまった。動機は完全な逆恨みな話。素性の知らないアッシュがこの時いた国の皇帝に気に入られていたのがよっぽど妬ましかったそうだ。


 だからこそ、タイミングも最悪でその時はアッシュが皇帝に呼ばれていた日に起こってしまった。アッシュの不在の時、家にはレイチェルの両親とレイチェル、アティだけだった。


 人攫いの話を聞いて私は急いでレイチェルたちのもとに向かった。


 異様に静かで、暗くなっていた建物の中をひたすらレイチェルたちを探しながら、部屋の中をひたすら開けていく。レイチェルの父親、母親も、使用人すら酷い状態で全く手の施しようもない。

 呼吸もままならないほど息が上がったが、それでもせめて、レイチェルやアティが生きていてくれと、無事でいてくれと、そう願いながらひたすら部屋中を調べていった。


 そしてアッシュの寝室にーー


 レイチェルがいた。



「レイチェル!!」



 血だまりの中、息が絶え絶えなレイチェルに駆け寄る。全身傷だらけで、1番は腹の傷だ。抉られるように腹に穴があいていた。綺麗だった白銀の髪は血に染まっている。その時の私は、回復魔法何一つを覚えていなかった。


 覚える、必要が、今までなかったから。


 この時に覚えていなかったことを心底後悔したのをよく覚えている。



「おい、生きてるのか⁈ アティは⁈」

「……あ、グレン、さん……、ごめ、なさい、こんなおすがたで……」

「す、少し待て、今、神官のところに、いや、薬のほうが早いか、すぐ持ってくる!!」



 気が動転してしまっていたのだろう。その場にレイチェルを一度、置いて行ってしまった。最悪なのは、他人と自分がどれだけ違うのか、自分の回復力のことしか理解していなかったのがいけなかったと思う。だからこそ、ポーションは回復できる限界があったことを忘れていた。


 戻った時には、もうポーションも効かないほどの重症化していて……。


 持ってきたポーションはすべて、無意味だった。



「何故……?! ポーションが何で効かない?! なんで!!」

「……フフ……。いい、んですよ……。助けにきて、くださった……。それだけでも、うれしいです……」

「私は、間に合ってない……」



 何故、もっと他の魔法を覚えていなかったのだろうか。人を殺す魔法なんていくらでも覚えているのに……。なのに、大切に守ってやりたいと思ってた人たちを守るための魔法は、殺す魔法だけでは、ダメなのだと痛感した。


 何も出来ない無力な自分を責めながらもどうにか助けられないか、どうにか他に手立てが無いかと思っていると、レイチェルは微笑みながら私の手に触れてくる。



「…………おねがいが、あるん、ですが……」

「な、なんだ……?」

「預かってほしい子が、いるんです……」



 そう言って、レイチェルは私の手を握って、マリアの継承をしてきた。淡く光る粒子がレイチェルの手から私の手へ移る。暖かい光。



「ま、待て!!それはーー」

「きっと、あなたの役にも、アッシュにも……」

「そ、そうじゃない!! 今、譲渡したら、お前は、死んで……」

「どうせ、死んでしまうのです……。だから、受け取ってください……」



 召喚獣の譲渡は魔力を膨大に消費してしまう。今のこの状態で魔力なんて使えば、魔力も尽きてしまう。それでも彼女はマリアを譲渡しすることをやめなかった。

 終わったと同時に彼女は吐血して、息がだんだん弱くなっていく。呼吸はヒューッヒューッと音がする。間に合わないことも、手遅れのことも分かっている。


 だけど、どうにかポーションで引き留めようとした。一分一秒でも、せめて、あいつが、戻ってくるまでは。


 必死になってる私を見ながら震える声でレイチェルがヘラッとわらう。



「さいご、なんですが……、アッシュ、と、アティにありがとうっ……て、ごめんな、さいって……つたえて……」

「っ! ダメだ、ダメだダメだ!! そんなの、私に伝えてやれること、なんて……っ」

「……グレン、さ……ふた、り、を……おねがい……し…ま………」

「レイチェル? おい、レイチェル!!」



 泣きながらレイチェルの身体にしがみつく。


 どうか生きて欲しい。そんな願いも虚しく、程なくして、もう、彼女からは息がなくなっていた。冷たくなっていく身体。息がないままの彼女にそれでもポーションを使った。


 使って、使って。無駄な行為だと、理解してても。


 気が付いたときには何処からか火の手が上がっていてた。焦げた臭いで我に返ってようやく動くようになった頃、アッシュが戻ってきたが私はどうしても今のあいつの顔を見ることに酷く恐怖してしまった。


 その場でアッシュから逃げるようにその場を去っていってしまった。

 逃げるように去った私はそれ以降アッシュの元へ行く勇気がなくて、譲渡されたマリアを呼ぶことも怖くて、何も、できなかった。本当に何をしていたんだとその時の自分に嫌悪する。


 一年も経ってようやく決心してアッシュがいた国へ行くが、そこは既に国ではなくなっていて、ただの乾いた血だまりと焼け野原だけが残っていて、アッシュの姿は、どこを探しても何処にもいなかった。

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