魔力を喰らう怪物3
弧を描くように放たれた剣は、怪物の腕、そして足を切り裂く。バランスを崩したところで、透かさず追撃に尾を切り落としていった。
怪物は焦り出す。
(おかしい。この雑草、どんどん加速していくだと……?!)
初めは捉えられていたアッシュの動きに段々と差をつけられ始めていた。そのため、アリスやグレンのところまで行くための隙も何も無い。
アッシュが追撃をしているおかげでアリスはグレンに集中出来ている。女神化はそう長くは出来ない。だからこそ、こういう複雑で普段では出来ないものに対抗が出来る強い力を行使することが出来る。
杖を構えて首輪にトンと軽く叩く。
『”解除”』
ピシッと何かにヒビが入る音がしたと思うと、パキンッと音を響かせて首輪が外れた。そのおかげかグレンの顔色が少し戻る。
苦しそうな表情は変わらないが無理矢理、グレンは身体を起こそうとするのでアリスが慌てて支える。
『ちょっ!無理しないで!』
「……アリス……、たの、みがある……ッ」
掠れた声でアリスの名を呼ぶ。倒れないように支えていたアリスはなんだろうと思いながらグレンを見る。
「まりょ、く……少し、分けて、ほしい……ッ」
『魔力を?どうしたらいいの?!』
「そのまま、ジッと……して、いろ……」
アリスの手を取り、自身の頬に触れさせる。魔力循環をした時と同じ感覚があったので、アリスもそれに合わせて、渡すようなイメージをすると力が少しだけ抜けるような感じはあったが、嫌な感じでは無い。
ある程度渡すと、アリスは女神化は解けてしまったが、グレンの呼吸が安定し、透けていたところは無くなっていた。
そのままグレンは腕を怪物の方へ伸ばして、指をパチンッと鳴らす。
ボフンッと音と共に、怪物の腹が弾けた。吐血をする怪物は何が起きたか理解出来ずにいた。
「ッ?!」
怪物はグレンの方を見る。
アリスに支えられているグレンの口元がニヤリと笑い、声に出さず、口元だけ動いていた。
”私がただ、貴様に好き勝手にされてたと思うか?”
そう言われた怪物はわなわなと怒りを込み上げさせながらグレンに襲いかかろうと身体を再生させようとしたが、アッシュがそれをさせない。
弾けたことにより大きな隙が出来た怪物にアッシュは剣に己の炎を纏わせる。蒼い炎は斬撃と共に怪物の身体を燃やしながら引き裂いていく。
なるべく、細かく、二度と再生されないように……!!
「燃え尽きろ!!」
切り刻んだ怪物の胸に最後の一撃でドスンッと深く剣を差し込む。グリッと抉りながら纏った炎は怪物を包み込んで燃やしていく。
燃やされながらも怪物が何かを叫んでいたが声にならない叫び。完全に燃え尽きるのを確認してから、アッシュは急いでグレンの元に向かう。
「アリス!グレンは?!」
「損傷は酷いけど、少しづつ治ってる。ただ……」
怪物を破裂させて、アッシュが怪物を燃やしたことを確認すると、グレンは糸が切れたように気を失ってしまった。
アリスの足の上で弱々しく息をしてるが、傷は徐々に癒えてはいってるようだし、大丈夫なのだろうけど……。
「とにかく一旦戻ろう。王様もどうにかしないといけないしね。グレンは僕が運ぶよ」
「うん、よろしく」
グレンの肩に触れて彼を持ち上げると思ったよりもかなり軽い。自身の腕の中で青白い顔をして眠っている彼の顔を見ていると、何とも言えない気持ちになってしまう。僕の中では彼は本当に強い人だからだ。
こんな弱ってしまっていた姿は、あまり見たくなかったもしれない。
グレンを運ぼうとするとアリスがハッとする。
「アッシュ!ちょっと待って!」
「え、ど、どうしたの?何かあった?」
「今ならグレンが女の人か男の人か確認できるんじゃない?」
両手をわきわきとさせながらこちらを見るアリスに、少し大丈夫かな、この人……と言わんばかりの目でアッシュが見てると、手をパタパタさせてアリスは”いやねぇ、冗談よ。冗談”と笑いながらいう。
本気なのかそうじゃないのかどっちなのだろうか……。
忘れかけていたことを思い出してしまい、服が裂けているグレンに目を落として、頭を悩ませた挙句、借りていたグレンのマントで巻いてから持ち上げることにした。
グレンを連れて、その場を後にする。
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宿屋へと戻るとマリアはまだ残っていてくれていた。抱えられていたグレンを見て慌ててマリアが近寄ってくる。
『グ、グレン様⁈』
「マリア、グレンを診てくれるかな?傷は治ってるようだけど、まだ顔色が悪いみたいだからさ」
『……も、もしかして魔力喰いに魔力を相当食べられてしまったのでは……?』
「え、あ、うん。僕とアリスが駆けつけてる間に結構食べられてたと思う」
魔法で探してはいたが、阻害魔法がかかっていたため、見つけるのには時間かかってしまっていた。それに見失ってからは時間的には2時間は超えている。2時間もあれば、壊すのには十分すぎる時間。
発見したときにはすでに出血量も多く、むしろ生きていたのが不思議な状態だったがある意味では守護者だったから生きていたようなものだと思う。以前グレンが話していた拷問されたとしても治ってしまう。その時の話が脳裏によぎったた。
アッシュの回答にマリアは悲痛な表情に変わる。
『……ッ。わかり、ました。アッシュ様、魔法の使用回数に、余りはありますか?』
「あと一回、残ってるよ」
『その最後の、一回をグレン様のために、使わせていただけないでしょうか……?』
懇願するようにマリアは声を震わせ、祈るようにマリアは頭下げながら言う姿は本当に今のグレンは危険な状態だと物語っている。恐らく傷の問題ではないのだろう。
『私は、二度も、自分の主様を、主様を失いたく、ないのです……ッ』
「マリア……」
助けられる、今間に合えば、救うことができる状態から主を守ることができなかった。それは召喚獣、いやレイチェルの場合は彼女の守護獣として契約したにも関わらず、守ることもできず終わってしまったことがマリアには耐え難いほど罪悪感になってしまっているんだと思う。
グレンをベッドの上に寝かせて、マリアをみながら微笑む。
「構わないよ。僕はどうしたいい?」
『ッ! ありがとうございます!あ、えーと、もしよろしければエドワード様の魔力もいただいてもいいでしょうか?魔力量が多いので不足分をお願いしたいです』
「私も構わん。今回、特に何もしてないからな。魔力は十分にある」
『ありがとうございます。では一度アッシュ様、アリス様、エドワード様以外は退出をお願い致します。終わりましたらお呼びします』
指名されたアリスは”え、私も?”とアリス自身を指をさしながら首を傾げる。ほかのメンバーを部屋から出して扉を閉めながらマリアはアリスの方を見る。
『魔力痕にアリス様の魔力が残ってましたので。詳しく傷の容態等を教えていただきたいのです。あと私の補助をお願い致します』
「わかったわ」
頷きながら魔力循環したときの状態とその時の傷の具合、なるべく覚えている範囲を事細かにマリアに説明をした。
アリスから聞かされた内容に、アッシュもエドワードも思ったよりも重傷なことで絶句する。
マリアは黙って内容を聞いて一言、”わかりました”と返事をして、グレンに触れ、魔力を少し流す。しばらくして、腕を捲るとグレンの腕を頭の上で組ませて、アッシュの方を見る。
『アッシュ様、グレン様を押えていただけますか?恐らく力は強いので馬乗りで上から押さえたほうがいいです』
「? わかった」
言われた通りにグレンの上に跨って、頭の上に組まれたグレンの腕を押さえつける。
『今から心臓近くにある魔力回路、そこに触れないといけないので痛みで絶対に暴れます。体内に侵入された棘が数本まだ残ってるのでこれは取り除かないといけません。アリス様は補助をお願い致します。エドワード様もアッシュ様が押さえてくださるとは思いますが一緒に押えてください』
「わかった」
アッシュと同じようにエドワードは横からグレンの頭側から押さえる。左右のアリスとマリアが位置について、ボロボロの上着をそのまま破る。マリアの手がグレンの胸元に手を置く。
『では、棘の除去をします。しっかりと押さえてください』
そう言って、マリアの腕がズプンと沈む。