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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン
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魔力を喰らう怪物2

 どこか分からない部屋。自分自身がどこにいて、今どうなっているのか、全く分からない。


 意識を取り戻してから最悪だった。



「ハッ…ぁ……、くっぁッ?!…ぁ……んグ……ぅ……――ッ!」



 部屋中にグレンの苦痛な声が響き渡る。身体中を切り刻まれているような痛み。四肢を拘束され、目隠しをされていた。魔法を行使出来ないよう、首には隷属の首輪。服は裂かれ、腹に、何かが、いる。そこから体内に入り込み、内蔵を傷つけながら血を、魔力をもうどれくらい時間が経ったかも分からないほど、吸われ続けている。


 そして、身体にまとわりつく、生暖かい何かや甲殻類の這う感覚。


 とても、気持ち悪い……。


 その中、あの怪物の声が聞こえてくる。



「甘美な魔力かと思えば、こいつ自身が魔力そのものとはなぁ……。あぁ、いい!とっても、いい!!」



 時折、耐え難い激痛にいっその事、気を失ってしまえば、おかしく狂ってしまえばどれだけ楽なのかと言えるほどの苦しみに声が漏れていく。


 それを楽しむよう怪物の声がグレンの苦痛の声に混じりながら響く。



「あぁぁぁ……。やはりいい!! 想像していた以上だぁ。とてもいい声を聞かせてくれる……。そしてこの味……たまらない……!!」

「――ッ!! あぁあ”ッ!!」



 ゴギュリッと心臓の辺りで嫌な音がした。身悶え、息も止まるような声が響いていく中で心底そいつは楽しいのだろう。同じ箇所を何度も何度もぐちゃぐちゃと弄る。



「辛かろう、痛かろう?! いいんだぞ?!あの小娘のように助けを乞うてみろ!!誰も来やしない、絶望の中永遠に私と遊ぼうぞ!!」



 高笑いが響かせながらグレンの顔をやつは掴みながら言い放つ。


 やつに傷をつけられていった箇所から徐々に傷口は治っていく。治りかけの傷口をさらに拡げ、抉る。

 息も絶え絶えになり、途絶えることすら出来ない意識の中、どうにか出来ないかと思考する間もやつは蹂躙していく。



「女の体であれば……もっと良かったんだがなぁ」



 グレンの身体に触れながらそれは口を大きく広げる。口の中からはキリキリと音を立てながら細長い虫が姿を現す。

 顔を掴まれたグレンは見えない中でも何か嫌な予感がしたのかどうにか振りほどこうとするが力が入らないため、無駄な抵抗に終わる。


 虫は音を立てながらグレンに近寄ってくる。グレンの、耳元から先程のキリキリとした音が鮮明に、近くに聞こえてくる。耳から侵入しようとした瞬間――


 ガシャン!!


 ガラスの割れる音がした。



「グレン!!」



 その声は聞き覚えのある声だった。掴まれていた顔は離され、先程のキリキリした音は離れていく。


 怪物は音がする方へとゆっくりと振り向いて、酷く鬱陶しそうに表情を歪ませる。



「なんだ、貴様。ここは王の部屋だぞ。それを土足で入り込むとは何の用だ?」

「ハッ 偽物が何をほざいているんだか」



 アッシュは剣を構えながらも周囲を見渡し、グレンを探す。あの怪物の後ろにいた。目隠しをされ、痛々しい傷、そして、大量の血痕が彼の足元に広がっている。


 どれだけのことをされたのだろうか。


 一緒に来ていたアリスが背中の服を少し引っ張る。



「一瞬あれの気を引ける?私はグレン助けてくるわ」

「もちろん、任せるよ。僕もなるべく持たせる」



 数歩、彼女を下がらせながら逆にアッシュは間合いを詰まるようにゆっくりと近寄る。


 持っている剣をビュッと空を切らせて怪物へ突きつける。



「そんなに魔力が欲しいなら僕からも魔力を奪ってみなよ。魔力喰い(マジックイーター)

「ほぉ、我が名前を知っていたか。なら話は早いが……そうだなぁ。貴様らもなかなか美味な魔力の匂いがする。ねじ伏せて喰ってやる!!」



 無数のやつの尾がこちらを捉えて、一斉に襲いかかる。素早く剣で切り刻みながら、間合いを一気に詰めていく。


 怪物とアッシュが対峙している間に、こっそりとアリスがグレンの元まで行く。目につけられていた目隠しを外し、容態を確認するが、彼についていた傷は少しずつだが治ってはいる。それでも酷く苦しそうにしていた。



「グレン?グレン!しっかり!意識はある?!」

「ア、リス……、ハッ…はら、の、それを……とって、……っ」

「お、お腹?」



 絞り出すような声でグレンがそう訴えかけてきた。

 恐る恐る彼の腹部を見ると、ヌメった大きな昆虫とも生物なのかもよく分からない脈打つグロテスクなものがついていた。

 それにアリスが震える手で掴み、引っ張ろうとするとグレンの目が見開きながら苦痛の声を上げる。


 何かがブチッとちぎれた音もしたためアリスは慌てて手を離す。



「うぐっ!! ――っ!!」

「っ! ご、ごめん!痛かった?!」

「ハッ……ハァッ……。はら、から…こいつ、なに、か、のばしてる……。どち、らにしろ……、ぬいて、もらわな、い、と…うごけ、な……ッ」

「……ッ」



 相当キツイのだろう。まともに言葉を発することもままなってない。それでも聞き取れるように息を切らしながらゆっくりと伝えてくれる。


 だったら、私は私のやり方で、なるべく痛みを与えないようにしないと、ずっと苦しませてしまう。



(確か、魔力喰い(マジックイーター)は魔力が好物だから魔力を上手く動かせば引っ込められないかしら)



 そう思い、グレンに魔力循環を始める。グレンの腹についているそれは確かに何か細い針金のようなものが全身の神経に当たるように張り付いていた。


 なのでまず神経から外そうとしていく。慎重に痛みを与えないようにしていくが、それでも痛いのかグレンは唇を噛み、痛みに耐える。


 アリス自身の魔力にグレンの魔力を少しだけのせながら針金のようなものを元の腹についてる何かへと戻していく。



「………!取れたかも!」



 ベシャリと音を立てて、塊が落ちる。あとは、首と手足に着いた拘束だけだ。

 そう思いながらグレンの腹に目が行くと、先程までついていたそいつのところは、肉が爛れ、内臓らしきものが見えていた。

 それを見てしまったアリスは吐き気が込み上げてくるが、どうにか飲み込んでまず手の拘束から外していく。


 魔法での拘束なら私でも解除は可能だ。



「グレン、右手から外すよ」



 返事がないが、外そうとすると、横から何かが飛んできた。ハッと見るとアッシュだった。



「痛っ……!」

「アッシュ!」

「つぅ……ッ、大丈夫。そっちに集中してていいよ」

「わ、わかったわ」



 起き上がったアッシュはすぐにあの怪物へ挑みに行く。こちらを認識した怪物がグレンの拘束をとこうとしてる姿を見られた。すぐにこちらへ尾が飛んできたがそれをアッシュが切り刻む。



「それは私のものだ!!触れるなぁ!!」

「グレンは君のものじゃないよ。アリスもグレンにもこれ以上は触らせない」

「どけぇぇぇえええええ!!!!」



 叫びながら尾が暴れ狂う。

 無差別にのたうち回ってくる尾を受け流しながら、アリスたちを守る。


 急いで拘束を外していく。両腕の拘束を外せたがグレンは力なく、前に倒れそうになってしまうがアリスが支える。ズルズルとそのまま座るような形になるがグレンの身体に触れて気づいたことがあった。


 グレンの身体が少し透けている。



「な、なんで透けてるの?」

「……ッ」



 その問いには応える余裕が無いのだろう。グレンは浅く速い呼吸をアリスの肩のを支えで呼吸をどうにかしている状態だ。


 本当に酷く悪い顔色が悪い。急いでグレンを支えながらも足の拘束も外す。


 一旦、横に寝かせるようにしてから最後に隷属の首輪に手をかける。今まで見た隷属の首輪と違いかなり高度な術式を使われているようだ。


 けど、そんなの関係ない。


 大きく息を吸ってアリスはグレンを見る。



「大丈夫よ、グレン。絶対助けてやるんだから」



 そういったアリスの姿が変わっていく。女神化だ。白い翼がグレンを覆うように隠す。周りの空気が淀んだものから澄み渡っていき、薄暗い部屋は白い羽根を反射させたように白くなっていった。


 アリスの姿が変わったことで怪物は目を輝かせながら両手を広げる。



「おぉ……?!おおぉぉぉ!!神子か?!貴様は神子だったのか!!ならいい!!デザートにしては良いものが来たなぁ!!」



 アリスたちの方へ向かおうとする怪物の前にアッシュは1歩も引かず妨げる。

 アッシュのことが心底鬱陶しいのだろう、悦に浸っていた顔から険しい顔になっていく。



「雑草は引っ込んでいろ!!」

「やーだね!っと!!」



 グッと地面を蹴り怪物の懐へ入り込む。


 こいつの動きは慣れてきた。だから、スピードでこいつに負ける気がしない。

 弧を描くようにアッシュの剣が振り上げられる。

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