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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン
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魔力を喰らう怪物1

 アッシュから事前に貰っている王妃の部屋。その為、場所の特定は容易だった。


 城の3階。その奥の部屋だ。


 そっと部屋を開けて中の様子を覗く。



「あぁ……せっかくここまで来たのに、あの王……っ 今までと違ってこちらの話を半分も聞かない……!! このままでは国を私のものに出来ないじゃないの!!」



 ティーカップを叩き割り、かなり荒れている様子だ。もう少し様子を見てみよう。

 ノックをし、メイドのフリをしながら声をかける。



「王妃様、何か割れる音がしましたが、お怪我はございませんでしょうか?」

「……っ!! い、いえ、大丈夫ですわ。ティーカップを落としてしまっただけよ。片付けてくださる?」

「かしこまりました」



 軽く頭を下げ、割れたティーカップを片付ける。片付けながらも王妃を見ると親指の爪を齧り切羽詰まったような顔をしていた。


 呟いていた内容からおそらく王もどきとこいつは関係は無さそうだが、さて、どうするか。一応こいつはこの国で陰謀を企ててるようだが、正直、私が始末しようが捕らえてしまおうがあまり関係は無い。陰謀はどの国でも起こるからだ。



「……そこのあなた、少しいいかしら」

「はい、いかが致しましたでしょうか?」



 王妃に話しかけられたので割れたティーカップを持ちながら顔を上げると切羽詰まった顔のままこちらへ近づいてくる。



「王がグレンという男を捕まえたかどうか言ってましたか?」

「……いえ、私の方ではまだお伺いしておりません。オパール部隊が戻ってこられたのは、城では話が流れております」

「そうですか……」



 グレンの回答に王妃はため息を吐きながら扇子で口元を隠す。


 ……一応、捕まえて来るとは言ったし、こいつには悪いが黙ってついてきてもらうしかないな。


 グレンは王妃の死角で銃を生成しながら王妃に向けようとすると――



「いい、匂いがする……!!」



 その声にハッとする。気配を感じなかった。声の方を向こうとしたが、先に王妃の方へ何かが飛んで行った。

 咄嗟に王妃を抱えて躱す。



「な、なんですの?!」



 驚いていた王妃を降ろして、構える。こいつ、明らかに王妃を殺そうとしていた。偽りの王はニヤニヤとしながらこちらにゆっくりと歩み寄る。



「とてもいい匂いだぁ、あの男と同じ匂い。おかしいなぁ、地下牢へ連れていかれたはずだが、グレン殿ではあるまいな?」

「さぁ?どっちだろうな」

「ハッハッハッ!まぁなんでもいい。美味そうなものがふたつもあるなら片方を壊しても問題ない」

「お、王様?! 一体どういうことですの?!」



 グレンへの問いに対して割り込むように、王妃がそう叫ぶと、先程まで上機嫌な王の顔がいびつに歪みながら王の後ろからグチャリッと音を立てながら、昆虫のような足、いや百足に近い尻尾のようなものが複数出てくる。


 恐ろしいものを見た王妃は完全に腰を抜かしてしまった。



「……おい、お前生き残りたかったらすぐ扉から出ろ」

「なっ!お、王妃に向かってなんの口の聞き――」

「黙って出ろ。本当に死にたいのか?」



 睨むにように言うと、慌てて出て行ことする。だが逃がすつもりがない怪物は今度は素早くなにか飛ばした。想像以上に早く、グレンでも反応が出来なかった。


 放たれた何かが王妃を貫いて、絶命してしまう。


 同時に、自分の腕も痛みがあった。飛ばされたものがひとつこちらにも飛んでいたようだ。刺さっていたのは針のようなもの。それを抜こうとしようとしたが、視界がぐにゃりと曲がり、同時に吐き気が波のように押し寄せ、膝をついてしまう。



「うっ?! っ……ぇッ!?」



 ゴポッと音を立てながら吐いた。吐瀉物が足元に広がる。咳き込みながら目の前の怪物から逃げようとするよりも早く、百足のような尻尾が振り下ろされようとしていた。


 避ける余裕もなく、叩きつけられてしまう。


 叩きつけられた衝撃で、一瞬意識が飛びかけたが、どうにか保つ。尾に絡め取られて拘束される。持ち上げられ宙ずり状態になり、今度はやつの顔が腹の辺りにスーッと匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす。



「ハァ……、本当にいい香りだァ。魔力の塊、それも極上に高濃度な魔力の香りだ……」

「さ、わる、なっ?! ぁああっ!!」



 背後から首元を突然、ガリっと齧られる。絡めとってきているあの百足のようなあの尻尾。それが齧り付いてきていた。


 血が流れていく。それを啜るようにジュルジュルと血を飲みながら噛みつきをやめない。


 血を吸われる度に力が、抜けていく感覚。魔力を、血を通して呑まれている。

 怪物は悦に浸り、惚けた顔をしながら両手をグレンの体中を触れながら息を荒くしていく。



「あぁぁぁ……!!美味い!!想像よりも、何倍も甘美だ!!もっともっともっと、もっと呑ませてくれぇ!!」



 やつの尾が何本も何本もゆらゆらとこちらに近寄る。


 このままだと、魔力を全て喰らい尽くされる……!!


 パチンと指を鳴らす。



「”転移、魔法!!短距離転移(ショート・ワープ)!!”」



 魔法の発動で街まで移動した。


 移動したはいいが、足に力が入らず、そのまま倒れる。


 首から肩にかけて齧られていた。そこからまさか魔力を持っていかれるとは……。



「り、”再生(リジェネレイト)”」



 自然治癒は問題ない。念の為、魔法で再生させるが、それでも治している箇所がズギズギと痛む。



「くそ……。やはり、やつは、面倒な怪物だな……っ」



 魔力を喰い、元々いる人に化ける狡猾な魔物。そして、残虐性が非常に強く、それが嫌がることを徹底的にして、魔力を貪る。


 痛む首を押えながらゆっくりと起き上がる。


 思ったよりも魔力を持っていかれて、身体が重い。肩で息をしながらもどうにか呼吸を整えようとしたところで、ドスンと何かが胸を貫く。



 ―――――――――――



 手分けして探している中で、アッシュたち。本物の王様が居ないか地下を見て回っていた。思ったよりも広く、何より、腐った臭いで鼻がイカれそうだ。


 鼻を摘んだままのガーネットは牢を一つ一つ確認していく。



「お父様……っ お父様ぁ!!」

「……反応無いね……。気配的には誰がいそうなんだけどなぁ……。如何せん、魔法の数が限られてるから探知魔法も使えないしねぇ」

「探知魔法があれば早く見つかりますかね?」

「んー、ただ僕、無属性魔法がホント苦手で魔力使えても探す魔法はちょっとね……」

「私も魔法の勉強しておけば良かったです……。こう見えて魔力量は多い方なんですよ!」



 キラキラさせた目でガーネットは笑顔で言う。


 魔力量が多いかぁ。だからあの怪物はガーネットを1年も幽閉して魔力を食っていたのだろう。この子を、壊しながら。


 思わずガーネットの頭を撫でながらアッシュは悲しそうな顔をする。

 多分、”あの子”よりも小さな子だけどあんな目にあってもこうして笑えてるのはグレンが綺麗にしてくれたおかげもあるだろうけど。


 なぜ撫でられているか分からないガーネットは首を傾げてこちらを見上げる。



「えっと、アッシュ様?」

「あ、ごめんね。君より小さいけど、僕の娘のように可愛らしいから、ついさ」

「娘様がいらっしゃるのですか?」

「まぁね。今、探しているところなんだ」

「……見つかるといいですね」

「そうだね。ありがとう……ん?」



 ガーネットの向こうで1番奥に誰かがいる。その檻に近寄ると……。

 誰かはいるのは確かだが、どうも人の形を留めていなかった。だが、何かを言葉を発している



「ぁ……お、あ……が、…え………。と…、」

「……ガーネット、君はここにいて」



 牢に手をかけてグッと力を入れる。ぐにゃりと曲がる鉄の檻の中に入り、かつては人だったものに触れる。


 暖かいということはまだ生きている。

 手足をもがれ、目を抉られ、歯がなかった。目から虫がニュルりと頭を出してくる。苗床にされているのか、それとも……。



「あなたは、スノーレインの王、ですよね?」

「……がぁ…え……と……」



 どうも話ができるような状態では無いようだ……。

 それでもアッシュは安心させるために言葉をかける。



「ガーネット姫は、無事です。それと、ごめんなさい。今の僕ではあなたを元に戻せない。もう少しだけ、待っててください」



 懐から小さなカプセルのようなものをアッシュは取り出す。カチリと鳴らすと人が1人入れるBOXが出てくる。この魔法具は負傷した人や意識がない人をこの中に入れて持ち運べるもの。サッピルスから預かっていて、これで王様をここから連れ出すことが出来る。


 その中に入れ込み、それをアイテムボックスへ。


 檻から出るとガーネットが三毛猫を抱えて待っていた。あの猫は確か目に使わせてもらっていた猫の1匹だ。



「にゃーぅ!」

「アッシュ様!どうでしたか?」

「見つけたよ。ただ意識が混濁してるから、君のお父さんに会うのはちょっとだけ待ってて」

「わ、分かりました……」



 抱えている三毛猫をぎゅっとしながらも察したのだろう。とても良い状態じゃないことを。


 またガーネットの頭を撫でていると、ガーネットに抱きかかえられていた猫は彼女の腕の中から抜け出して、アッシュの方へ駆け寄る。


 猫の手でパシパシと地面を叩いていた。



「えっと、アリスかな?どうしたんだい? 王様は見つけたよ」

「にゃうにゃ!」



 首を横に振りながら何かを訴えかけている。

 バシバシと床を叩くが、グレンのようになんと言っているか正直分からない。考えて、アッシュは地面をトントンと指をさす。



「ごめん、ちょっと何言いたいか分からないから文字とかで書けるかな?」

「にゃ!」



 頷いて爪を出しながら言いたいことを書く。


 書かれた内容にアッシュは小さく声で”えっ”と言葉を漏らす。


 床に書かれていたのは、”外、グレンが危ない”という文字だった。


 すぐに猫とガーネットを抱える。



「ガーネット!すぐ外行くよ!!」

「え!えっと?!」

「姫様!!」



 すぐにでも走ろうとしたらサッピルスがこちらに走って声を荒らげながらガーネットを呼ぶ。



「目標が何処かへ!!そちらにいますか?!」

「こ、ここには居ないです……けど……」

「サッピルス、ガーネットをお願い。僕、グレンのところへ行ってくる!!」

「あっ!おい!」



 ガーネットをサッピルスに渡して、自身は地下の階段を駆け上がる。ここは地下5階。魔法を使ってテレポートしたいが、それは苦手だから焦って使えば逆に遅くなる。


 あのグレンが危ないというのは想像つかない。けど、猫を通して言われてるということは間違いない。


 けど、あの怪物は僕一人でも無理だ。だからこそ、万全の策で挑みたかったが、おそらく今グレンがピンチということは対峙している可能性が高い。


 息を切らせながら、地上へと向かう。


 地上に出てすぐ街の方へ飛ぶ。高く飛び上がり、視線でわかる範囲で確認しようとすると南西の方にグレンが居た。

 だが、目に映ったのは後ろから胸元を貫かれて力なく宙ずりにされていたグレンだった。

 貫いているやつは先程の王と呼ばれていた男。その尾はまるで虫のようにうねりながら複数の尾。明らかに人の姿から逸脱している。


 滴る血をやつは本来の口の許容範囲を超えるような笑みを浮かべながらグレンの血を啜っていた。


 近くの建物に着地して、すぐにグレンに手を伸ばしながら彼の元へ急ぐ。



「グレン!!」



 グレンの腕を掴めそうになったがその瞬間、グレンごと転移したのか掴むことも出来ず姿が消えてしまい、アッシュの手は空を切る。


 受身を取れず、地面に叩きつけるようにぶつかってしまう。軋む身体を無視して、痛みよりもどうしようと不安が溢れる。


 あんな状態で連れ去られてしまった。僕の判断ミスだ。

 いや、後悔は今はあとだ。すぐに探さないと……


 焦っているとバタバタとアリスが走ってきた。



「あ、アリス?!」

「グレンは?!」

「連れてかれた。やっぱり”魔力喰い(マジックイーター)”だったよ。君はなんでここに?」

「マリアが急に苦しそうにして……。マリア曰く召喚を継続できるための魔力供給が途絶えたらしいの。まだ居てくれてるけどどれだけ持つかは……」



 召喚者が魔力が尽きたり気を失うと強制的に還されてしまう。ただし、召喚獣が自分の意思で残る場合は召喚獣自身の魔力を消費して召喚は継続できる。……魔力の消費は激しいけど。


 いや、それより今はグレンの事だ。


 アリスは目に見えて焦っている僕の顔を見て不安そうな顔をしたがすぐキリッとして手を握る。



「探すんでしょ?」

「……アリス、手伝ってくれるかい?」

「もちろんよ。そのために来たんだから。グレンには私たちも助けられてばかりだったし!」

「ありがとう」



 アリスの手を握り返し魔力を集中させる。


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