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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン
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雪の国の王様2

 王と呼ばれる男は王座で待っていた。


 この男は非常に使い勝手がいい。思った通りのこと、望むこと、全て叶えることができるこの地位。いや、全てではないが、ほぼ叶う。そして、今の望みは、あの男だ。あれはいい。あの黒マントの男。非常に美味そうな匂いがしていた。


 王妃への提案はあくまでも利用することでしているが、本来はそうでは無い。もちろん利用価値としてもあるだろうが、そろそろあの小娘をいたぶって遊ぶのも飽きていた。だから、いいおもちゃも欲しいところだった。きっと、いい声で鳴いてくれるだろう。


 悦に浸る王の元にノック音が響き渡る。



「王よ。今戻りました」

「入れ」



 派遣していた暗殺部隊オパール。数十人ほどぞろぞろと入ってくる。その後ろには何かを担いでいた。

 こいつらのリーダーである男は跪いて、一礼する。


 こいつらが戻ったということはーー



「おぉ、ついに捕らえたか⁈」

「ハッ こちらに」



 一番最後尾にいた者がドスンと降ろす。鎖でぐるぐる巻きにされた、黒いマントにフード。顔は見えないがこの匂いは間違いない。あの男だ。


 王は立ち上がり、両手を天に仰ぎながら王座を立つ。



「おおぉ!!よくやった!!まさか本当に捕えられようとはな!!」

「ありがたきお言葉。……ところで王よ。一つお伺いしたい」

「よい。今は気分がいい。発言を許そう」



 頭を下げていたリーダーはゆっくりと顔を上げる。



「姫様の行方はご存知でしょうか?この男に拉致され、暴行受けたと我々はお伺いしております。なので捕らえた際に拷問をし、口を割り出そうと致しましたが聞くことは叶いませんでした」

「ほう」

「我々は暗殺部隊として暗躍しております。ですが、忠誠は姫様にございます。王がご存じでないのであれば、(しゅ)である姫様の行方をさらに割り出すため、地下牢の最下層をお貸頂きたいのです」

「そうか、そうだな……」



 面倒だが、こいつは愛娘を可愛がるタイプだった。それなりのフリも必要だろう。それに地下の最下層なら後で行けばいい。味見をしたい。



「よかろう。許可する。早々に口を割らせろ」

「ハッ!では失礼致します」



 そう言ってリーダーはそれを持ち上げ、出ていく。


 バタリと扉を閉めて、しばらく歩いて、地下牢へ到着したとき、オパールのリーダーが肩に担いでいる男に声をかける。



「……これでいいんですよね?」

「いいけど、さっきの容赦なく落としたよね。くっそ痛いんだけど」



 ぐるぐる巻きにされた黒フードの中からちらりとアッシュが顔を出す。鎖を解いて、フードを外す。

 話をしかけてきたリーダーは少し不機嫌そうな顔をしながら舌打ちをする。



「……姫様がいなければ貴様らこのまま投獄しても良かったんですけどね」

「サッピルスさん、ありがとうございます」

「いえ、姫様。あなた様のご意志のままに」



 アッシュの後ろから出てきたガーネットに膝まづいてサッピルスは頭を下げる。


 なぜこうなってるかと言うと、1時間前のことだ。



 ――――――――――――



 オパール、基サッピルスとグレンが対峙していた時のこと。多勢に無勢のはずが攻防戦が続き、グレンが押し始め、魔法で一網打尽にしようとしたところを――



「双方、ストーーーップ!!!!」



 アッシュが炎を纏いながらグレンとオパールの間に入る。

 双方ともビクッと止まり、何事かと驚いた顔をしたが、炎を纏っていたアッシュにグレンが不機嫌そうな顔をして近寄ってくる。何かを言う前に、アッシュの背中に引っ付いていたガーネットが顔を出して、オパール達の元へ駆け寄っていく。



「サッピルスさん!!オパールの皆さん!!やめてください!!」

「ひ、姫、様……?!」

「私はここにいます!!だから、この方々への攻撃はやめてください!!」



 グレンとアッシュの前に両手を広げてそう叫ぶ。ガーネットを認識したオパールはザワザワしながらも、彼女の前まで行き、膝まづいて泣きながらサッピルスはガーネットの手を握る。



「ひ、姫様……っ ご無事で、ご無事で何よりです……っ」

「……1年ぶりだけど相変わらずサッピルスさんは大袈裟だなぁ。心配をかけてすいません」

「いえ!!我々がお守り出来ず、姫様の足取りすら見つけられなかった……。あまつさえ、この者たちから暴行を受けているとお聞きしました!!脅されていらっしゃのではないですか?!」

「えっ?! ち、違いますよ!!この方々は違います!!」



 切羽詰まった様子でサッピルスはガーネットの手を強く握る。握りながらもアッシュやグレンに対しては憎しみを込めていると言っても過言でないほど睨みつけて、ガーネットを守るように彼女を隠しながらこちらに背を向けてきた。


 だが、ガーネットからするとそうでは無いため、慌てて振りほどきながらアッシュとグレンの手を握る。



「私はこの方に助けてもらいました。私自身、どこにいたのかは分かりませんが、ずっと痛くて苦しい思いをして、殺して欲しいと思っていたのに、この方がそこから救って、穢れてしまった私を綺麗にしていただいたんです!それにアッシュ様は私を守っていただいもらいました。この方々は私の命の恩人です」

「さようで、ございますか……っ」



 サッピルスは返事をしながらも悲痛な表情を浮かべていた。


 それはそうだろう。己の主が穢され、酷い目にあっていたなんて、後悔や無念で押し潰されそうになるだろう。僕もその気持ちは分かる。


 オパールたちのやり取りの最中だが、グレンの方を見るとかなり怒っている顔で睨みつけてきた。おそらく炎を使っていたからだろうけど。



「貴様……約束を破ったな?」

「ま、待ってよ。とりあえず3回までは大丈夫なようにマリアに力を貸してもらったんだよ!」

「あ? マリアに?」



 こちらを睨みながら、ガーネットが握っている手とは客の手で、アッシュの腕を掴む。確認するように魔力回路を調べて、少しに力を入れたあと、ため息をつく。



「……確かに、魔力回路に補助魔法でカバーされているが、3回までというのはなんだ?」

「マリアから本当はダメだけどとは言われていたんだけど、どうしてもということならって、3回までは耐えられるようにしてもらったんだよ。あと2回しか使えないけど」

「……はぁ……マリアから言われたなら……いや、まぁいい。後で詳しくどうせ話さないといけないからな。とりあえずガーネットを連れてきたのは和解のためか?」

「うぅん。違うよ」



 アッシュはガーネットを持ち上げてにっこりと笑う。



「ガーネットと一緒に、国盗りをするつもりさ」

「国盗り?」

「姫様と国盗りというのはどういうことだ……?」

「そうだねぇ、まずは王様に会いに行こう!」



 グレンとサッピルスは”はい?”と疑問と呆れ混じりの返事した。



 ―――――――――――――



「まさか、捕まったフリをして城へ行くとはな」



 隊の後ろから黒装束の格好をしたグレンが出てくる。


 そう、僕らは一旦捕まるふりをして城の深部に入る必要があった。そのため、捕まえる目的であったグレンの正体をバレてしまうとまずいので僕がフリをするためグレンのマントを借り、鎖に繋がれていた。


 そしてこの最深部に――



「おそらく本物の王様が居る」

「そう。お父様がここにいるかもしれないんです」



 猫の目を借りてあらゆる所を確認してみたが、見つからなかった。唯一あり得るとしたら、この層だけ。


 ガーネットのためにも父親を助けてあげたい。


 それに、この子の話を聞く限りでは幽閉される1年前に()()人が変わったようになってしまったらしい。そして、乱暴したのも、そいつだ。


 ”これはいい、なんでもこいつの姿なら思いどおりになる”


 行為中にそう言っていたそうだ。


 グレンはパチンと鳴らして、着ていた黒装束からメイド服へ変化させながら言う。



「今、王の間にいるのはおそらく人では無い。怪物だ。再度、会って確信した。やつに会った時の違和感は思い過ごしではなかったようだからな」

「そうだね。あれはちょっとやばいね。昔、(マスター)と君と一緒に退治した時は結構めんどくさかった記憶があるよ」

「そうだな。それにあれは私でも1人では無理だ」

「え、君も?まぁ、僕でも無理かなぁ。あれ魔力食べるし……。あ、グレン、予定通り王妃任せていい?」

「あぁ、構わん。じゃあ王妃を捜して捕らえてくる。この格好ならメイドに扮装して動き回れるからな」

「頼むよ」



 2つ目の目的は王妃の討伐。王妃は2年半前から王の傍をウロウロし始めて来たらしい。王政に異変が起こったのもその時からだそうだ。ガーネット以外の王子や姫が次々と亡くなっていってしまったそうだ。


 王妃は人だろうが、あれも国を壊そうとしてる1人だ。


 まぁ一応人だろうからこいつに関しては生け捕りにしようという話だ。



「お母様が亡くなって突然王妃に抜擢されてました。父の様子は特に変わりはなかったですが……。日に日に疲弊されてました。だから1年前にお父様が変わってしまったのもそのせいかと思ったのですが……」

「まぁもしかしたら王妃が契約しているやつかもしれんがな。どちらにしろ、話を聞く限りでは害にしかならんだろう」



 メイドに扮したグレンは伊達メガネをつけながら、上の層に行くための階段へ向かう。


 階段に上がろうとして、グレンはアッシュの方を見る。



「お前、無茶だけはするな。いいな?」

「もちろん。君も気をつけて」

「あぁ」



 片手を上げながらグレンは上がっていく。

 取り残された僕とガーネット、サッピルスは顔を見合わせる。



「さて、王様を探そう。やつは化ける際対象を必ず生かしている。出ないと化けられないからね」

「お父様……。絶対に見つけます」

「姫様、我々は王……いえ、偽物が妙な動きをしないように見張っておきます。何かあればすぐお知らせ致します」

「ありがとうございます。よろしくお願いします。サッピルスさん、オパールの皆さん」



 こうしてそれぞれ目的のために動き出す。



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