雪の国の王様1
宿屋にて。
アリスの力を借りて、エドワードたちに渡していた炎を依代に猫の姿でグレンたちの方へアッシュは遠隔で操作していた。
魔力循環を応用して、自身の魔力ではなく、他者の魔力回路を中継して操作してる本人はアリスの手を握って座ったまま目隠ししている。これなら自分の魔力を使ってないので問題はない。
「あー、グレンにバレた」
「やっぱバレた?」
「めっちゃ怒られた」
アリスに困った顔で話す。猫を操作しながら目も耳もリンクさせてるようで、こちらの声は届けることは出来ないが細かな操作はできるとの事だ。今はグレンの前にいる黒猫とあと2匹の猫を捜査して探し物をしているところだ。
三視点は思ったよりも操作は楽なのでサポートしながらでもどうにかなっている。
「ユキが結構危ない状態だったけどグレンが間に合ったからよかっ……あ、はい。囮しまーす……」
「囮?」
「あはは……。グレンたちが上手く脱出できるように囮して来いって言われたよ……」
「まぁ、それくらいはいいんじゃないかしら」
「その猫の依代でも魔法使えるんだな」
アリスとアッシュの後ろで目を覚ましたエドワードも見ていた。後遺症も副作用も特になく、問題ない。
ここまでの経緯もエドワードにも共有済みだ。
「みんなは大丈夫そうか?」
「うん。どうにか脱出もできたみたい。それとーーっえ?」
「どうしたんだ?」
急にアッシュの様子が変わる。何を見ているかこちらからはわからない。何かトラブルなのだろうか……。
心配していると、アッシュは立ち上がり、明らかに動揺していた。
「なんでグレンがマリアを召喚できて……」
ぼそりとそう呟いていると、リリィたちが戻ってきた。ユキは意識があるようだが動けないようで、ノアはまだ意識が戻ってないみたいだ。……あと知らない子供もいる。
エドワードがリリィたちに駆け寄っていく。
「リリィ!無事か⁈」
「エドワードも無事だったんだな」
「アッシュの炎のおかげでな。何もされてないか?」
「未遂だ。問題ない」
「未遂って……」
何がともあれ無事でよかった。ノアとユキをベッドに寝かせようとしたら隣にいたマリアの方へアッシュが目隠しを外しながら近寄る。
「マリア!」
『おや、アッシュ様、お久しーー』
「なんでグレンが君を召喚出来てるの⁈」
『……アッシュ様、落ち着いてください』
マリアの両肩を掴みアッシュが言い寄る。焦りと戸惑いで困惑していた。
「だって君は……っ」
君は、レイチェルの……
「レイチェルの、召喚獣はじゃないか……っ」
『……アッシュ様……』
召喚獣は契約者が死ぬともちろん契約は解消される。だが召喚獣は別の人と再契約できるまで10年間は契約することができない。可能にするには継承もしくは契約の強奪。
グレンがレイチェルから強奪するなんてことはないはず。でも、どうしても嫌というほどちらつくあの時の光景。だから不安になって疑いそうになる。だから……っ
困惑しているアッシュにマリアはまっすぐ見つめて言う。
『このことに関しては私からはお伝え出来ません。ですが……』
「…………」
『グレン様は今も昔も変わりません。それだけはお伝えします』
「……そ、か……。」
マリアの回答でアッシュは肩から手をズルズルと崩れながら放す。
今も昔もわからないなら、大丈夫。大丈夫だ……。
そう自分に言い聞かせるようにブツブツとつぶやく。
マリアは少し微笑む様子ではあったが、再度立ち上がり、アッシュはマリアを見る。
「ねぇマリア、君の力で僕の魔力回路、修復は可能?」
『……いえ、前回、回復を施してますがそれ以上の回復は難しいです』
「前回って……。この前治してくれたの君なんだ」
『……ですが魔法の行使をどうしてもされたいのであれば、回数制限でも構わないのであれば可能です。ただし、絶対にその回数は守ってください。この回数制限でも本来は今のアッシュ様は危険な状態なのです』
「わかった。大丈夫だよ」
マリアはアッシュの手を握る。淡い光がアッシュを包み込みと溶け込むように消えていく。身体には特別な変化はない。アッシュは手のひらを見ていると、マリアはアッシュに手で3本指を立てて見せてくる。
『三回です。これは守ってください。使わないことが一番いいですが、今回に関してはこれが限度です。それ以上使うと魔法の行使ができなくなったりしてしまいますので絶対にしないでください』
「もちろん。……ありがとう、マリア。それと少しここを守ってくれるかい?僕、グレンのところに行ってくる」
『かしこまりました』
小さく頷くマリアを見て、今度はガーネットのところにアッシュは近寄って、同じ視線になるようにしゃがむ。
ガーネットからはある程度この国の事情をきいた。今のこの国の現状、この子の父親である王様の異変。そして今夜にでも決着をつけてやろうと、アリスとこの子も含めて話をした。
「君の力を貸してほしいんだ。一緒に来れるかい?」
「……先程の件のことですよね。もちろんです。あの美しかったあの時を取り戻すためなら」
「ありがと。その代わりちゃんと守るから」
「お願いします」
あんなめにあったのに、幼いながらこの子もとても強い意志を持っている。将来はいい王女様にきっとなれるだろう。
ガーネットを抱きかかえ、アリスの方を見る。
「それじゃあ行ってくるよ。猫たちの感覚共有はアリスに任せるね。探し物、見つけたらそこに猫を置いてくれたら僕がわかるから。だから、もう大丈夫だよ」
「……っ!わかったわ。猫の操作できるかしら?」
「慣れればいい手足になるからね。じゃあ行ってくる」
アッシュはガーネットを連れてどこかに行ってしまった。
残ったアリスたちはそれぞれ顔を見合わせる。
アリスは腰に手をあて、エドワードの方を見る。
「よし、エドワード。この視覚の共有してる猫一匹任せていい?3匹の操作は私無理っぽいから」
「わかった」
「それと、あんた!」
「お、おれか?」
アリスに指をさされたリオンは一瞬ビクッとする。近寄ってくるアリスにたじたじになりながらリオンは身構える。
ジーっと見て、アリスはニコリと笑う。
「今ちょっとごたごたしてるけど、安心して。終わったら今度はあんたの故郷に送ってあげるわ」
「え、おれ故郷の話はあんたにしてないはずだけど……」
「私はこう見えても神子だからね。心を読む程度動作もないわ!」
「お前、急に元気になったな」
この国に来てからずっと怯えていたし、怖がっていたのに急に勢いづいたので何事かと思う。
堂々と言い張るアリスに後ろからエドワードが言うと、彼女は満面の笑みで振り返る。
「だってアッシュがもう大丈夫だって言ってくれたもの。もう怖くないわ!」
「……それもそうだな。さて私たちはまずできることをしよう」
そう。あのアッシュが大丈夫だと言ってくれた。何かあったときいつも助けてくれていたからか、アリスはアッシュに言われただけでも元気をもらっている気がする。それに任せてくれるなんてなかなかないことだ。
そのことをエドワードもわかってるのかアリスの笑顔につられて少し笑ってしまう。自分たちもあんな危険な目にあったのにもうそんな不安はない。
ユキをベッドに寝かしつけ終えたリリィが小走りでアリスのところへ来る。
「アリス、私もできること、ない?」
「じゃあもう一匹の視覚お願い」
「わかった。探し物ってなんだ?」
アリスから魔法を受け取るとリリィの問いにアリスは指を立てながら言う
「王様探しよ!」