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とある異世界の黙示録 -蒼い守護者の物語-  作者: 誠珠。
第五章 雪の国 スノーレイン
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脱出1

「う……っ …………? ここは?」



 目を覚ましたのはユキ。薄暗く、鉄臭さが鼻の奥で刺激となって突き抜ける。

 あたりを確認しようと周りをみるが、酷い倦怠感に眩暈がする。直前の記憶は……。



「……あ~、本当に最悪だ……」



 あの味が口に残る。甘ったるい味。身体に突き抜けた多好感が後を引いて、再度味わいたくなるこの感覚。ノアに会う前に何度も味合わされたものだった。

 薬の影響で動きずらい身体を無理矢理動かす。どうやら手足に鎖で拘束されている。そして、首にも……。



「隷属の鎖……」



 奴隷の印として使う魔法道具。命令に逆らえば高圧電流が流れる仕組みのタイプのようだ。身をよじりながら動くと足元に何かが当たった。何が当たったかと思うと誰かいる。誰かと思い目を凝らすとどうやら子供のようだ。

 少年は黙ったまま、こちらを見た後、すぐ目を逸らした。が、またこちらを見てくる。可細い声で少年はぼそりと言う。



「……あんた、動けんの?」

「え、あ、はい……。えっとあなたは?」

「……おれも捕まってんの。てか、あんたも災難だよな。こんなところで捕まってさ」

「…………そう、ですね。あ、あの僕以外に誰か一緒に連れてこられなかったですか?」

「え?んー……そういやなんか言ってたな。ハーフフットとヒューマンを新しく仕入れたって」

「っ! こうしてはいられませんね」



 ハーフフットはノアのことだ。ヒューマンはエドワードと、恐らくリリィは見た目がヒューマンだから間違えられているのだろう。急いで助けないとと思い、腕についていた鎖を引きちぎろうと力を入れる。

 力を入れたことで隷属の鎖が反応したのか首から凄まじい電流が流れる。急な痺れで思わず声が漏れる。



「あぐっ⁈」

「やめとけよ。無理にすると首のそれ反応しちまうし、魔法使おうとしても同じだから」

「く……っ なら、これならいけると思いますよ」



 鎖のついたまま手を後ろへ。髪を整えるのに使っていたヘアピンを取り、それを鍵穴へ入れる。少年がまじまじと見ながらカチカチとユキが解除する姿を眺める。

 少しすると、カチッと何か外れた音が鳴り、腕の鎖とその調子で足の鎖も解き、首以外の拘束がとれるとユキはふぅと息を吐く。



「ノアに教えてもらっててよかった……」

「そんなんでとれんの?すっご」

「あなたのもとってあげますので腕を出してください」

「え、おれのも?」

「はい」



 ニコリと笑うユキに渋々と腕を出す。再度カチカチと弄ると問題なく解くことができた。あとはこの牢屋だ。見た感じだと一般的な鍵で閉じられている。これもヘアピンでできそうだ。鍵穴は見えないが何となくの手探りと音で解除を試みる。


 カチッ


 これもどうにか解除できた。



「僕はここから出ます。あなたはどうします?」

「……おれも出る。故郷に帰りたいからな」

「わかりました。僕についてきてください。独りだと危険ですからね」

「わかった」



 さて行こうとしたところでユキが止まる。進むものだと思っていたのでユキの背中に少年はぶつかってしまう。



「ちょっ、なんだよ?」

「名乗り遅れてましたね。僕はユキです。あなたは?」

「え、あぁ。おれはリオンだ」

「リオン。いい名前ですね」

「当たり前だ。自慢の母様がつけてくれた名だからな」

「ふふ、とても良いお母さんなんですね」



 ユキの言葉に”へへっ”と照れ臭そうに笑う。こんな子供までこんなことをするなんてと心を痛める。いや、でも今回は自分のエゴだ。みんなの救出と脱出。それとこの子も何かの縁だ。守ってあげよう。



「では、行きましょう」

「お、おう!」



 身を潜ませながら、牢屋出る。出て周りを確認すると同じように牢はいくつもあってその中にいるのはヒューマンやエルフ、ドワーフなどいろんな種族がバラバラに入れられている。ノアたちがいないか見ているとノアを見つけることができた。


 呼びたい気持ちを抑えて牢の鍵を解除して中に入る。この部屋はノアだけのようだ。

 駆け寄ってみると虚ろな目をしており、意識がない。恐らく薬がまだ抜け切れてないのだろう。ギリッと歯を軋ませながらもノアの鎖も解除していく。



「ノア……。すいません。僕がすぐ反応できず、足を引っ張ってしまいました……」



 ぐったりとしてるノアを抱きかかえ、連れて出ようとすると足音が聞こえたので、再度、檻の奥に行き、ノアとリオンを隠すようにして、リオンにじっとするように伝えて、自分は倒れてるように誤魔化す。



「おい!ここの牢にいた奴隷がいねぇぞ!」

「あ⁈何やってんだよ、さっさ探せ!もう少しで客が来るんだからよ!!」



 バタバタと走って騒がしくなる。急いであとエドワードとリリィを探して逃げないと出られなくなる。外を気にしながら再度脱出をこころみる。人がいなくなったのを確認して別の部屋に入り、エドワードとリリィを探す。



(そこらじゅう変な臭いや血の臭い……。エドワードとリリィはどこなんだ?)



 身を隠しながらも部屋を次々調べるがいない。どこなのだろうかと苦戦しているとどこからか鈴の音と猫の鳴き声が聞こえる。



「にゃーん」

「ん?猫?」



 黒猫だ。黒猫の首には青い首輪がついており、飼い猫なのだろうか。猫はユキに近寄ってはすりすりと足に纏わりつく。なんでこんなところにと思っていると猫は離れたかと思うと、立ち止まり、また鳴く。まるでこっちだと言ってるようだった。


 ついていくと、部屋の前で止まって、再度にゃーんと鳴く。



「ここ、ですか?」



 ゆっくり開けると確かにリリィがいた。薄着姿でどうやらベッドで寝かされていたようだ。だが少し様子がおかしい。普段隠していた耳と尻尾が出ており、身をくるまるようにして震えてる。



「リ、リリィ?」

「……っ ユ、キ?」



 顔がかなり赤い。熱があるのだろうか。怪我をしてる様子はない。

 動ける様子ではないのでノアと同様に担いでいこうと触れようとするとーー



「触るな!!」

「え、で、でもここから逃げないといけませんし、動ける様子では……」

「い、いいか、ら、今は、触るな……っ」



 睨むようにするが声は震えている。どうしようかと戸惑ってると先程の黒猫がこちらに近寄ってきて、リリィの方へ。前足をリリィの頬にぷにっと乗せる。



「にゃーぅ、にゃ!」



 なんだろうかとユキは思っていたら、急にリリィがガバッと起き上がり、先程まできつそうにしていたのに何事もなかったかのように普通にしている。本人もどういうことかと身体に触れるが異常がなくなってる。



「身体、おかしかったのに何ともなくなってる……」

「動けますか?」

「ん、これなら大丈夫」



 いつも通りのリリィにホッとする。リリィはこちらをみていた黒猫の方を向いて頭を撫でながら礼を言うと、ゴロゴロと喉を鳴らす。



「お前可愛いな」



 リリィが撫で終わると、ユキの方を見る。



「あとはエドワードか?」

「えぇ、エドワードもどこかにいるはずです。急いで探して出ましょう」

「わかった」



 頷いて扉を開けようとしたときーー



「おい!!」



 扉の向こうから怒鳴り声が聞こえた。ハッとしてゆっくりと二人は扉から離れる。ユキの方にいたリオンは気づいてないようで驚いたように聞く。



「ど、どうしたんだ?」

「足音と、誰か来てます……っ」



 咄嗟に隠れようと思ったがどこにも隠れられるところはない。こうなったら……


 扉が開く。ユキとリリィは顔を見合わせて、互いに頷く。開ききったと同時に現れた男に目がけて二人は体当たりをする。二人の体当たりで男は倒れたのでそのまま二人は走り抜けようとする。

 押し倒された男は怒りに震え、怒鳴りながら叫ぶ。



「”命令だ!止まれ!!”」



 その声が聞こえると首元の魔道具が反応し、バチチッと電流が流れ、二人はそのまま突っ伏してしまう。

 倒れた拍子にノアとリオンも転げ落ちてしまい、痺れている身体を無理矢理動かそうとするが、先程の命令のせいでうまく身体に力が入らない。ズルズルと引きずるようにどうにか動かそうとしていたがズカズカとこちらに歩いてきた男がユキの背中を思いっきり踏みつける。



「ガハッ⁈」

「こんの、くそ野郎が!!ご主人様に向かって反抗とはいい度胸じゃねかよ!!」



 容赦なく足蹴にし、ユキからは苦痛の声が漏れる。すると、黒猫が走って男に飛びつく。爪を立てて引っ掻く。



「痛てぇ⁈ なんだこのくそ猫め!!」

「フーッ!!」



 振り落とされた黒猫は威嚇をする。威嚇をしていた猫は今度はどこかに走っていく。

 ケッと男は再度ユキの方へ行くと馬乗りになり髪を鷲掴みして、頭を持ち上げる。ブチブチと髪が千切れる音がなる。



「次の商品の出番はてめぇなんだよ。魔族なんてここらでは珍しんだ。売っぱらう前にイラつかせてくれるなよなぁ」

「う、ぁ……っンぐ⁈」



 ユキの口の中に大量のあの黒い薬を入れ込まれる。顎を抑えて口を開かないようにさせられる。振りほどこうともがいていると、振り上げた腕が男に当たったのか、一瞬、力が緩まれ口元の手をどかして吐き出す。


 何個か、飲み込んでしまった。



「ハッ……ハッ……ぁうあぁあ……」



 ユキはうずくまって呻く。


 あぁ、頭がふわふわして気持ちいい、身体中が痺れるような感覚が多好感がずっと続いていてで思考がまとまらない。ダメだ、しっかりしないと、ノアたちが……っ


 必死にユキが意識を保とうとしていると、振りほどかれた男がまたユキに手を伸ばしたところでーー



「にゃーぅ!!」



 遠くで猫の鳴き声が聞こえた。


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